第21話 ホムンクルス

「新しいカードを導入しようと思う」


「何を導入されるおつもりですか?」


 ライナの質問に俺はとあるマジックアイテムを机に置く。


「これは!?」


 その箱には日本語でこう書かれていた。


【ホムンクルス育成キット】


「ホムンクルスですか」


「ああ、この世界のゲームではプレイヤーのお助けキャラとしてマスコットが多く登場する。だからこのホムンクルス育成キットを新しい目玉として提供しようと思うんだ」


 しかしライナは乗り気でないらしく、あまり良い顔をしていない」


「ですがホムンクルスは所詮奉仕用の魔法生物です。戦闘のお供には心もとないかと」


「確かに、ホムンクルス自体は戦闘用ではない。ライナの言いたい事は良く分かる。だが俺が押したいのは戦力としてのホムンクルスではないのさ」


 俺は日本語訳されたホムンクルスの説明書のある部分を指差した。


「ホムンクルスはマスターの調整次第で外見を自由に調整できる!」


 そう、奉仕用に作られた人工生物であるホムンクルスは動物型、人型など様々な形状が存在する。

 そして人工の存在であるが故にある程度の調整が可能なのだ。フルカスタムの使い魔ほど細かく調整は出来ないが、それでも自分の意思で形を調整できるのは非常に大きい。


「この世界にはホムンクルスも使い魔も存在しない。そんな世界で主に対して絶対の忠誠心を持つ存在が現れたらどうなる?」


「同然、手元におきたくなりますね。裏切る心配がなく、あらゆる雑用を文句1つ言わずにこなすのですから。他人が信用できず、お金も無いこの世界の住人にとっては画期的な財産となるでしょう」


 そのとおりだ。そしてホムンクルスは生物ではあるがマジックアイテムの一種でもあるのでカードに収納する事も出来る。

 つまりスペースを食わない。

 栄養は人間と同じ食事で構わないし、カード化している間は食費も掛からない。

 俺達の世界においても重要な労働力であった。

 まぁ性能の問題で難しい仕事を任せられないのと、初期費用が厳しいのでそこまで流行ってはいないんだけどね。

 けどこの世界で運用するホムンクルスに性能を求めてはいない。

 俺がホムンクルスに求めるのは、愛玩存在としての需要だ。

 特に独り身なら尚更だ。愛玩に家事と従順な存在の有用性は計り知れない。


「教育する手間を考えると家政婦を雇ったほうが早いとは思いますけどね」


 ポツリとライナが突っ込みを入れる。

 

「まず最初は人型のみでの配布とする。動物型も一緒に入れると、人型ホムンクルスを侍らせるのに抵抗が生じる危険性が生まれるからな」


 世間体的にな。


「では男型、女型を分けてのランダム配布ですね」


「ああ、ウルトラスーパーレアだからこの型しか手には入らなかったっていう言い訳が通りやすいからな」


 世間体的な意味で。


 ◆


「じゅ、10連ガチャっていうの1回」


 新しく配布されたホムンクルスは非常に効果的に人々をガチャに呼び込んだ。

 意外だったのが、老人もガチャを回しに来た事だ。


 彼等は家族と離れて暮らす夫婦であったり、独り身の独居老人などであった。

 家族のいない寂しさ、年老いた体で家事をする大変さに苦しむ老人達である。

 そんな彼等が風の噂でホムンクルスについて聞きつけてやって来たのだ。

 

「おお、キラキラしたのが出てきたぞぉ!」


 老人の一人がレアアイテムを入手すると、近くにいた探索者達の目が光る。


「【風神の靴】ホモンクロスじゃないんかの?」


「お爺さんホムンクレスですよ」


 どちらも間違っているが、お目当てのホムンクルスでは無いのは間違いなかった。


「ガチャで出てくるのは不定期だから、お目当てのカードが必ずでるわけでは無いワン。次回の参加をお待ちしておりますワン」


 ガチャのシステムを理解していない老人達は落胆する。


「やっぱりそんな美味しい話はないんだねぇ」


 ガチャを回すのを諦めて老人達が帰ろうとしたその時だった。


「あの、宜しければ僕のホムンクルスと交換しませんか?」


 やって来たのは一人の探索者だった。


「いいんですかい?」


「ええ、僕はホムンクルス目当てでは無いので、もし良かったらそちらの【風神の靴】と交換してもらえないでしょうか?」


 勿論嘘である。自分のお目当ての性別のホムンクルスではなかったので、他のレアカードとトレードしたいだけだ。

 この様に、ホムンクルス目当ての人間が出した高レアカードを狙ってトレードをする人間も増えた。

 老人達からすればどれだけ強力なアイテムでも自身がダンジョン探索を行うわけではないのだから、無用の長物でしかない。

 ものの価値が分からないから転売という考えも浮かばないのだ。


「ああ、それはありがたい。こんなものでよければどうぞ」


「それでは交換成立ですね。こちらこそありがとうございます」


 二人はお互いのカードを交換する。


「これで私達にも息子が出来ますねぇ」


「そうだなぁ。元気な子だといいなぁ」


 ホムンクルスと交換した老夫婦は聞いているだけで切なくなるようなか会話をしつつも嬉しそうに去っていく。 


こうして、欲望渦巻くトレードが行われ手行くのだった。


 ◆


 ホムンクルスガチャが稼動を始めて数週間が経過した。


「それじゃあ行こうかミウちゃん!」


「はいお姉様!」


 フル装備をした探索者の後ろを小柄なホムンクルスがついてゆく。

 ホムンクルスは可愛らしいフリルの付いた人形の様な衣装で杖を持って歩いていた。これがイベント会場なら魔法少女のコスプレと勘違いしていたことだろう。


 そう、コスプレである。

 爆発的に増加したホムンクルス事情はダンジョン以外の需要を刺激した。

 特に影響を受けたのが服飾業界と靴メーカーである。

 ホムンクルスを手に入れた探索者や老夫婦達がホムンクルス用に子供服を買いあさる様になったのだ。

 ホムンクルスは奉仕用人工生命である為、意図的に小柄な形状になっている。

 その為、似合う服が子供服に限定されてしまう問題が発生していた。

 予想外であったのは、本来子供服を買わない独身者までもがホムンクルスの為に子供服を求めるようになった事だ。

 コレにより子供服の需要が増加。ホムンクルス用の服専門のブランドが生まれるまでになる。

 そしてこれは靴メーカーも同様であった。


 町中ではホムンクルスを引き連れた人間が増え、ダンジョンに興味のない者ですら、ホムンクルスを求めてダンジョンにガチャを回しにくる様になっていた。

 愛らしく、従順で、カードに戻せばスペースも食わない良いとこだらけの人工生物。

 ネットではホムンクルスを連れているのが一流探索者のステータスという噂まで流れるくらいだ。


 ◆


「いやー、予想以上に売れるわホムンクルス。ノーマルレアでも良かったんじゃねぇの?」


「ネットオークションでもホムンクルスの転売が横行していますね。ダンジョンの買取屋ではスーパーレアの買取も出ているみたいです」


予想以上にホムンクルスの需要が高かった事に内心驚く二人。


「ホムンクルスの人気が下がる前に爆弾を追加するか?」


「動物型ホムンクルスですか?」


「ああ。勢いのあるうちに投入したい」


「そうですね。ここまで利益が出ているのですから、失敗しても大した損害にはならないでしょう」


 そこでふと思い出したようにライナがラズルを見る。


「そういえば人権保護団体という集団がホムンクルスは人身売買だと訴えてきたそうです」


「で、どうしたんだ?」


「詳しい説明をすると言ってダンジョンの奥へとご案内しました」


「ご苦労」


 どうなったを聞くのも無意味だとラズルは記憶から消去する。


「動物型はスーパーレアにしておくか。会話の出来るペット的な扱いにしよう」


「次はペットショップからクレームが来そうですね」


「その時はダンジョンに案内してくれ」


 その後、本当にソレ関係の団体が来たのは言うまでも無いことである。

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