第19話 男達の下心
正月イベントも終わり、学生は学業に、大人は仕事に戻っていく。
冬の寒さを耐えながら皆が春へ向けて歩き出す。
そんな中、ダンジョンではいつもと違う動きが起きていた。
具体的には男達に。
「遂に地下26階までいけたぜ! フレアタートルはきつかったけど水装備をそろえて何度も挑戦した甲斐があったな!!! ……」
「やるな! だが俺達も地下15階のロックダイナソーをレア装備に頼らずに倒せるようになったんだぜ! ……」
男達が自分達の戦果を誇らしげに語りながらチラチラとある方向を見る。
そこに居たのは女性探索者達のグループだった。
探索者のグループには一定の法則がある。
まずひとつは楽しくリアルダンジョンを楽しみたいグループ。
次に課金でアイテムをコンプリートする事に地道を上げるグループ。
その次は無課金で無料ガチャと宝箱ガチャで何処までいけるかを追求するグループ。
少し変わってアイテムに現代の装備で戦うグループ。
己の修行の為に戦う格闘家や武術家。
ここまでは方針で分けられるグループだ。
問題は男女比である。
グループの男女比はその男女の関係性によって変わる。
友人同士、恋人同士、ネットの同行の士、兄弟家族。
そして姫である。
姫とはネトゲやサークルにおける唯一の女性参加者の事であり、恋人の居ない男達は女性参加者を文字通り姫としてもてはやす。
ダンジョンにもそれは適応された。
だがそうでない者達は?
ソロで集まりたまたまチームを組んだ男達、たまたま都合があったのが男しか居ないチーム。
女性と話すのが苦手で男同士でしかつるめないチーム。
つまり、女が居ないチームである。
重課金兵加地屋のチームもまた、ガチャにのめりこむあまり恋愛とは縁遠い生活をする男であった。
普段女なんて必要ないぜ! などと言っている彼等でも女性が気になる時がある。時期がある。
そう、今は一月も終わりを迎え二月に入ろうとしていた。
そして二月といえば言わずもがな。
バレンタインデーであった。
顔も体も知性もないモテない男達は、ダンジョンにおいて無双する事で女性の気を引こうとしていたのだ。
なんと言う野生動物的思考なのか!
彼等は孔雀のオスの様に煌びやかなレア装備で身を固め、己の戦果を誇っている。
正に恋愛アピール。
「じゃーさー、今度の14日はホテルのバイキングにいかね? カップル限定のヤツ」
「いくいくー!」
しかし周囲の女は大抵が男連ればかり。
シングルの女は誘う気がおきないボンレスハムしか残っていなかった。
そう、バレンタインが近づき、見目麗しい女性達は同じくバレンタインを狙うハイエナのチャラ男達によってお持ち帰りされていたのだ。
人間は獣とは違う。人間の女は羽や毛皮のリッパさではなく顔と社交性を見ているのだ。あと財布。
彼等は戦う前から敗北していた。
「くそ! 残ってる女は自前のバイオアーマーの持ち主しかいねぇ!!」
「オークもびっくりのリアルオークしか居ねえじゃねぇか!」
嘆く男達だったが、女子側も同じ様な事を言っている事に彼等はまだ気付いていなかった。
「嘆くな同士諸君」
号泣する男達の中で、加地屋だけは冷静さを保っていた。
「この状況で嘆かずに居られるかよ!」
「よく見ろ、我等にはまだ希望が残されている事に!」
「希望だって!?」
加地屋はフリーフロアの一点を指差す。
その先に居たのは複数の女性探索者達。
「あ、アレはまさか、女パーティ!?」
女パーティ、文字通り女だけのパーティである。
「莫迦な! 童貞ブサ男集団の俺達が女パーティに声をかけられる訳がない! よしんば声をかけれたとしても我々など歯牙にもかけられんぞ!」
「否、俺はこの数日間フリーフロアの女パーティを観察してきた。そして彼女達に重大な欠点を発見したのだ」
「け、欠点だって!?」
重課金兵の星加地屋の言葉で男達の胸に希望が灯る。
「そうだ。彼女達はダンジョン女子としては中の上、けっこうイケてる部類に入る。だが何故か彼女達に群がる男は少ない。何故か!? それは彼女達の理想が高すぎるからなのだ!」
「「「な、なんだってー!!!」」」
「いわゆる婚活女子と言うヤツなのだろう。彼女達にとって自分に声をかけてくる男は恋人候補、果ては結婚相手の候補なのだ。考えてもみろ、ここで女に声かけるようなヤツは楽しく遊んでハイさよならの軽いナンパ気分。何が悲しゅうてダンジョンで結婚まで考えて女をナンパせにゃならんのだ」
「つまりアレか、彼女達は重いと?」
加地屋は頷く。
「イエスだ。バレンタイン前にギラギラした、お局一歩手前の女に声をかけるチャラ男が居るか? そんな地獄に堕ちるイケメンがいるか? 居る訳が無い」
「だからこその売れ残りか。しかしそんな女達が俺達の様な存在偏差値の低い男になびくと思うか?」
何処までも自分に自信の無い男達が陰鬱な気持ちになる。
「だからこそだ、彼女達は自分の女としての価値に疑問を持っている。そして夕方も近づいた今、正に彼女達は自分が男に声をかけられる価値の無い女なのではないかと絶望しかかっている。この状況で声をかければ、彼女達は妥協する筈だ!」
「「「さすが加地屋! なんと言う冷静な観察眼!」」」
「ふふ、ウルトラスーパーレアの排出されるタイミングに比べればよっぽどイージーなミッションさ」
加地屋はハンドサインで仲間達に出撃の合図を送り、男達は起死回生の第一歩を踏み出した。
その時だった。
「すみません。ダンジョンに入るにはどうすれば良いんですか?」
トンビは突然に現れた。
まだ学生であろうか? 少々華奢で幼くはあるものの、容姿としては見目麗しい部類に入る少年だ。
「……え? え、あ私?」
突然少年に話しかけられて驚きの声をあげる女パーティの一人。
「はい。ダンジョンに潜りに着たんですけど、人が多くてよくわからなくて」
「あ、ああ、そういう事ね。だったらこの先の扉を入ればだんじょんよ」
「ありがとうございます!」
少年は朗らかに礼を言うとダンジョンの奥に向けて走り出す」
「ちょ、ちょっと待って!」
パーティの一人が少年を呼び止める。
「何ですか?」
「貴方ダンジョンは初めてよね。素人がダンジョンに一人で入るのは死にに行くようなものよ。よかったら私達のパーティに混ざらない?」
「え? 良いんですか? でもご迷惑じゃ……」
少年は辞退するべきか迷ったが、その時には既に女冒険者達に囲まれていた。
「気にしないで。ほら、装備も整えないといけないわ」
「で、でも僕持ち合わせが」
「いいのよ、そのくらい奢ってあげるから。さ。行きましょ!」
「「「「おー!!!!!」」」」
あっという間に少年は女冒険者達に連行されてダンジョンの奥へと連れて行かれてしまった。
「……あれ、空き部屋で喰われるな」
ぼそりと加地屋が呟く。
「「「怖ぇ~~~~~!!!」」」
男達はただ心静かに少年の無事を祈るのだった。
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