第17話 大晦日そして正月へ……
「大晦日ガチャを回しに来る連中が少ないな」
ラズルはダンジョンコアルームでパソコンを眺めながらフリーフロアを見ていた。
「29日から31日ではコミックバザーと呼ばれる一大漫画漫画イベントがありますので、そちらに人が取られているようですね。コミックバザーは通称コミバと呼ばれ、東京周辺の金銭の動きが平時とは比較にならない程上がるそうです」
「そんなになのか」
「イベントには1日平均20万人の人間が集うそうです。ですので移動手段、食料、宿泊施設、薬局、アキバの一部店舗はフル回転で商品補充も凄まじい発注数になるとネットでは書かれていますね」
「凄いな。王都の祭りなんか比じゃないぞ」
「王都のお祭りは行った事がありませんので分かりませんが、世界的に見ても異常な盛り上がりなのは間違いないそうです。その為、コミバに行かない人達だけが探索に来るか、イベント帰りにガチャだけ回しに来るみたいですね」
ドーナツをモグモグ食べながらライナが売り上げを会計ソフトに記入する。
「今年度の純益は約5000魔貨ですね。来年は年初めから計算するのでもっと多くなると思います」
「すごいな、儲かるとは思っていたが予想よりかなり利益が上がってるじゃないか」
予想外に高い利益に思わず目を丸くするラズル。
「こちらの世界の貨幣での利益もありますから、単純な利益はもっと上ですね。いずれ貿易をすればダンジョンとは別の安定した売り上げが期待できるでしょう」
「そりゃあいいや」
「はい、ですのでダンジョンに閑古鳥が鳴いても私がラズル様を養う事ができます」
「ん? いまなんか言った?」
「いえ何も」
トーンを落として喋ったライナの言葉はラズルの耳には届かなかった。
それは意図して落としたのか、無意識に聞こえなくしたのか、それはラズルから顔を逸らしつつも、真っ赤になったライナの耳が全てを物語っていた。
◆
「あけましておめでとうございます(ワン)(ウサ)(ニャ)!!」
振袖を着た三人娘が新年ガチャを回しに着た探索者達を出迎える。
それはクリスマスでミニスカサンタ衣装を着ていた3人娘のコスプレに期待する彼等に対するサービスでもあった。
早い話が間近で着物姿を見る為にガチャを回せという遠まわしな催促であった。
「あの、写真撮らせていただいても宜しいですか?」
「どうぞウサ!」
カメコがワウ達にカメラを向けると、彼女達は思い思いのポーズを取ってカメコ達を促す。ちなみにガチャを回していないカメコは良いアングルをもらえないで居た。
それがカメコ達の暗黙の了解なのである。
「お正月サービスのガチャ無料券とポーションセットですニャ」
お年玉サービスとしてワウ達が手渡しでアイテムを渡していく。
その様はアイドルの握手会にも近いモノがあった。
「よっしゃぁぁ!! サンライトアックスゲットォォォォ!!!」
おなじみの男加地屋がガチャをブン回して正月限定アイテムをゲットする。
「おめでとうございますワン!」
そして正月だからか、3人娘が限定レア装備を出した加地屋に侍るように群がる。
当然その光景を見た男達がガチャへと群がっていくのは自明の理であった。
◆
「正月の売り上げは普通って感じだな」
正月ガチャの様子を見ながらラズルはお雑煮を食べる。
「元旦は実家に帰ったり友達と初詣に言ったりと遠くに出る事が多いそうですので、帰りになる夕方かお年玉を貰った二日以降が勝負ですね」
5つ目のモチを投入しながらライナが大晦日の売り上げを会計ソフトに記入していく。
「……ラズル様、ダンジョンの動きありです」
「ん? どうかしたか?」
「はい、コレまでにない速度と強さを持った集団がトップ集団の到達した最深階層に到達しようとしています。……これは以前スライムで追い返した集団ですね」
スライムで追い返したと聞いたラズルは、以前現れたガチャを回さず自前の装備だけで闘う集団の事を思い出した。
「あの連中か。スライムは?」
「出ていますが、今回はこの世界の魔法使いをメンバーに加えているらしく、スライムを始めとした耐物理モンスターにも対応しているようです」
ラズルがディスプレイを見ると、白い古風な衣装を着た小柄な少年と美しい女性が黒いボディーアーマーの集団に紛れていた。
「なるほど自前の武器だけじゃ対応できないから専門家を呼んだか。よほど俺達の用意した武器が信用できないらしい」
「もうそろそろ地下25階、中ボスの階層ですね」
◆
「往け童子よ!」
古風な服を着た少年青明が人型の符を放つと、正面に居たスライム達がゼリーの様に切り裂かれる。
「いやー魔法って実在してたんですねぇ。俺感動したわ」
スライム以外のモンスターと戦闘している志野原が嬉しそうにはしゃぐ。
「戦闘中にはしゃぐな、子供か貴様は。……まぁ魔法の驚く気持ちは分からんでもないがな」
志野原を叱る大田だったが、むしろ彼の注目は別のところに向けられていた。
「魔法ではありません。陰陽術です」
「こ、これは申し訳ありません樟葉さん!」
戦闘中でありながら敬礼をして謝罪する大田。
彼は妙齢の美女に弱かった。
(はぁ、こんなオジさん達のお守とは付いていません。本当ならコタツでダラダラする青明様を暖める為に獣形態で毛布になる予定でしたのに)
クールな顔で大変駄目な事を考える式神樟葉、彼女は重度のショタコンであった。
「はいはい、雑談はそこまで。コレまでもデータによるとそろそろ敵のボスが待ってるから。安全地帯を発見したらそこで傷の治療と弾薬の補充をするよ」
「「了解」」
「はい!」
「かしこまりました」
返事をする部下と助っ人である青明達を見ながら村田は嘆息する。
(強力な武装を申請したら魔法使いの坊ちゃんが協力者として呼ばれるとは。上は徹底してこのダンジョン由来のアイテムを使いたくない訳か。それも上の思惑に関係しているのかねぇ)
迫り来るボスとの戦いの前に、村田は暗い思惑を感じるのであった。
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