第11話 初めてのイベント
「そろそろイベントを行うべきだと思います」
ダンジョンの運営作業を行っていたら、唐突にライナが口を開いた。
「イベント?」
「はい。この世界では季節の行事に応じたイベントをゲーム内で行う事で、ユーザーの課金欲を煽るそうです。ですので我々もこの世界のイベントに合わせたイベントとアイテムを用意しましょう」
そういってライナはディスプレイ上にインターネットで検索したスマホゲームまとめ板を表示する。
そこにはクリスマスイベント開催。期間限定キャラをゲットせよ! という季節イベントについて書かれていた。
「ふむ。クリスマスか」
「クリスマスとは、この世界の神官が行う行事が起源とされ、善行を行った者の家に無断で侵入し靴下に詰め込んだプレゼントを枕元に置くという子供の競争心を煽る儀式です」
「何故子供の競争心を煽るんだ?」
ラズルにはとても理解できない意味不明な儀式だ。
そもそも他人の善行を調べ、深夜家に無断侵入するあたりに狂気を感じる。
「善行を積んだという所が重要ですね。朝起きた時にプレゼントが無いと言う事は、その子供は正しくないと言う事です。つまり劣った者を明確にわかる様にして集団の中で上下の関係を決める儀式であったと推測されます。
「っ!? この世界の人間は随分と残酷な選別をするんだな」
子供の頃から優劣を決める儀式を毎年行う事にラズルは驚愕した。
勝者にはプレゼントを、敗者には烙印を。そしてその烙印を払拭する方法は一年間訪れない。
「元は神官が行っていた儀式です。恐らく幼いうちから信者に試練を与え、将来の司祭候補を選別していたのでしょう」
「一見暖かいイベントの様に思わせて、その裏では苛烈な競争を子供に強いらせるとは、やはり人間の神官は碌なヤツが居ないな」
何か思う事があるのか、ラズルは苦みばしった顔を見せる。
「ですので、我々は探索者の成果に応じたプレゼントを与えるのはどうでしょうか? 頑張った者は貴賎無く報われる事を示すのです」
「それは良いな。で、具体的には?」
「特定のモンスターを倒し、定められた部位を回収する事でアイテムと交換できる事にしましょう。またガチャにも期間限定アイテムを用意しましょう。アイテム職人に連絡を取ってクリスマスらしい装備を特注で作ってもらいます」
ライナがキーボードを操作して表示したのは、赤い服を来た恰幅の良い男性だった。
「コレは?」
「この老人がサンタクロースです。世界中の良い子に一晩でプレゼントを配る事のできる脅威の速度と体力と鋼の精神力を持った神官です」
「世界中だって!?」
どう見ても普通の老人にしか見えない男がソレほどまでに恐ろしい能力の持ち主であると知り驚愕するラズル。
「この老人はソリに乗り、トナカイと呼ばれる空を飛ぶモンスターに引かせて子供にプレゼントを配るそうです。ですが常識的に考えて空を飛ぶモンスター程度では世界中の子供にプレゼントを配るなど不可能です。おそらくは転移能力か時間操作能力を持ったモンスターでしょう」
(どちらにせよ最上位クラスのモンスターか。サンタクロース、コレはトンでもない相手だぞ)
「プレゼントの対象を良い子に限定しているのは、プレゼントを配る数を減らす意味もあるのでしょう」
なるほどとラズルは納得する。さすがに最上位クラスのモンスターを使役する神官といえど、その能力を酷使すれば魔力を激しく消耗する。とても世界中の子供にプレゼントするには力が足りなさ過ぎるというものだ。
最も、2人の想像するサンタクロース像とクリスマス像はまったくの的外れなのではあるが、異世界人である2人には広大なネットの情報のどこまでが真実でどこまでが虚構なのかを判別するには至らなかった。
「よし、イベントモンスターにはソレとわかる様に目印をつけておこう。それとワウ達にはこのミニスカサンタとかいう衣装を着せてイベント感を出そう! もちろんライナも着るんだぞ」
「わ、私もですか!? ですが私は裏方ですので見せる相手が居ませんが……」
ドジッ子でうっかりこけてパンツを見せてしまうライナであったが、流石に自分から太ももを見せ付ける格好をするのは羞恥心が勝った。
「俺が見たいんだ! 可愛いライナのミニスカサンタ姿を見たいんだ!」
「ラ、ラズル様……」
呆れた風にため息を吐くライナであったが、内心では主に求められて喜んでいた。
「わ、わかりました。私の分のミニスカサンタ衣装も用意しておきます」
「ああ、楽しみにしているぞ!」
後日、クリスマス限定イベントの開催が宣言され、ダンジョン内にはクリスマス飾りを施された奇怪なモンスターで溢れかえる事になるのだった。
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