第11話 魔法使い

「ハンバーグ弁当は私のです。あと探索者の中に魔法使いが居ます」


「魔法使いが居る?」


 コンビニから帰ってきたばかりのラズルは、ライナから予想外の報告を受け驚いた。


「はい、アイテムの魔法の杖を使わずに魔法を発動する所を確認しました」


「この世界にも魔法使いが居たのか」


(というか、報告よりも弁当を優先したよな今)


 何気に報告よりも弁当を優先された事にショックを感じるラズル。


「けどこんな魔力の少ない世界でも魔法使いって居るんだな」


 ラズルの言うとおり、この世界は極端に魔力が少ない世界だった。

 ソレこそ他の魔王達が不毛の地と断ずるほどに。

 その為、ダンジョンでドロップする魔法の杖は、通常の魔法の杖とは違う魔力結晶を燃料として使うタイプの魔法の杖を用意していた。

 いうなれば電池だ。

 魔法の杖と言う電化製品に対し、魔力結晶という電池が魔法を発動させる。

 最初のドロップでは魔力結晶はセットになっているが、結晶内の魔力が切れたら新たに魔力結晶を手に入れる必要がある。

 もっとも、通常の魔力結晶はアンコモンアイテムで手には居るのでそれほど補充は苦ではない。

 そして魔法の杖はそれぞれが炎、水といった属性に分かれており一種類の魔法しか使えない。

 また魔力結晶も汎用と属性の二種類があり、汎用はどんな杖にも使用できるが、属性の付与された結晶は同じ属性の杖にしか使えない。

 ただし、その分魔法の威力が上昇する効果がある。

 既に探索者達は魔力結晶と杖の属性相性について気付いており、必要に応じて使い分けていた。

 

「実力は下級魔法使い程度です。現状放置しておいて問題ないレベルですが、課金をしないので不確定要素を排除する為にも処分したほうが宜しいかと」


 ライナにとって、ラズルのダンジョンの要であるガチャを回さない探索者はゴミと同義であった。


「いや、この魔法使いがこの世界でどのくらいの実力が知っておきたい。それに得意な属性なんかもな」


 ラズルが気になったのは、この世界の魔法使いの平均的な実力だ。

 この魔力の少ない世界でどれだけの力を発揮できるのか、その為にどれだけ技術を研鑽させてきたのかを確認しておこうと思ったのだ。

 

(力が弱くても、工夫で自分以上の実力者を倒す者は多い。改めてこの世界の魔法について研究しないとな)


 ◆


 迷宮内を一組の男女が進む。

 一人は黒髪を背中で結んだ小学生くらいの少年、もう一人は狐色の髪を腰まで伸ばした20代前半の美しい女性である。


「なんだ、ダンジョンと言っても大したことないな」


「青明様、油断は禁物です。ここはまだ浅い階層、出てくるのは魑魅と同じ雑魚ばかりです」


 女が青明と呼んだ少年をたしなめる。


「樟葉は煩いな。僕の術なら下層の妖魅でも楽勝だよ!」


 そう、青明は陰陽師。現代の魔法使いの家系である。

 彼は代々続く陰陽師の業を受け継いできた。

 だが現代において陰陽術の出番など滅多にない。

 精々が外法の使い手が金で呪いを引き受けるくらいだ。

 かつての様に都を陰陽の業で守ったりといった華やかな活躍は夢のまた夢でった。

 青明もまたそうだった。

 折角学んだ力の使い場所が無い事は彼に鬱屈した思いを抱かせた。

 勉強も運動もそれなりである彼にとって陰陽術は唯一他人と違う、自慢できる特技だったのだ。

 だがその特技を使う場所が彼には無かった。

 けれど、そんな鬱屈したある日、突然世界が変わる出来事が起きた。

 言うまでも無い、ダンジョンだ。 

 神秘と闇が駆逐されて久しい現代に、科学では説明の出来ない存在が現れたのだ。

 興奮しない訳が無い。

 TVでは繰り返し加地屋が涙と鼻水を垂らしながらランナーリザードと闘う姿が映し出される。

 自分ならあんな無様を晒さないのに、自分ならもっと上手く闘えるのに。

 あの場所に自分が居れば、そう思わずには居られなかった。

 だがダンジョンは機動隊によって封鎖された。

 学生である青明ではバリケードが破壊されるタイミングに秋葉原に来るのは難しかった。

 それが悔しくてたまらなかった。

 だが、転機が訪れた。

 ダンジョンの入口が増えたのだ。

 コレによって警察の手が回らなくなり、多くの人間がダンジョンに入れるようになった。

 そう、青明もである。

 彼が望むのは陰陽術の力を発揮する場所。

 己の業を思う様披露できる戦場であった。


 しかしそんな青明を心配そうに見る樟葉。


(ですが青明様の実力はそれなり。とても歴代の御当主には及びません。唯一勝っているとすれば……)


 思索に耽りながらも、樟葉は青明に気付かれないようにモンスターを始末していく。


(お母君譲りの愛らしさだけです!!)


 青明は愛らしかった。

 男でありながら少女と見紛うほどの愛らしさで亞部家では溺愛されていた。

 次期党首としての実力など二の次で。


(亞部家の血は分家から嫁入りする優秀な陰陽師の娘で維持される。青明様に求められているのは愛らしさのみ)


 そして代々亞部家に仕えている式神樟葉、彼女はかの有名な陰陽師安部清明の母、葛ノ葉の尻尾の毛を寄り代にして生み出された式神であった。

 彼女は葛ノ葉の母性を受け継いでおり、代々の当主に仕えてきた。

 母性を受け継いで生まれた彼女がこよなく愛するのは愛すべき存在である子供。

 つまり彼女はショタコンであったのだ。狐だけに。


「お、また妖魅を発見したぞ!」


 青明が嬉々として人型の陰陽符を取り出し術を発動させる。


「行け童子!」


 青明が取り出した人型の札が膨れ上がり、両刃の直刀を持った人間の子供の姿となってモンスターに襲い掛かる。

 これこそが式神と呼ばれる人工的な精霊を作り闘わせる古代日本の魔法、陰陽術である。


「ふっ」


 それと童子に樟葉が手のひらを口の前にかざしふっと息を吹く。

 それは樟葉の術であった。

 彼女の術は見えない風の刃であり、青明の放った童子の刃が目の前のモンスターに届くのと童子に敵を切り裂く。


「やったぞ!また倒した!!」


 モンスターを一撃で倒して喜ぶ青明。

 だがそれは彼自身気付かぬ樟葉のサポートのお陰であった。


「よし! この勢いで今日は地下三階まで突破するぞ!」


「青明様、帰りもありますので地下二階にしておきましょう」


 意気揚々と宣言する青明を樟葉がたしなめる。


「えー!」


「まだ今日の宿題をやっていません。ちゃんと宿題を終わらせないと、先生に怒られますよ」


 そう、学校帰りの青明はランドセルを背負ったままでダンジョンに潜った。

 その姿はYシャツと半ズボン姿である。

 亞部青明、彼はまだ小学生であった。

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