第7話 魔王の誤算 重課金兵の恐怖

「ヤバイな」


 魔王ラズルは焦っていた。

 欲望ポイントが溜まり、魔貨に余裕が出来た事でダンジョンの増築とモンスターの購入で戦力も増強した。

 だからダンジョンの入口を増やして探索者を本格的に招き入れた。

 ダンジョンへの侵入が容易になった事で、警察の対応が追いつかなくなり、この世界の人間達がガチャを引き装備を整えモンスターとの戦いを求めた。


 彼等はTVに出た加地屋の様に、手に入れたレアアイテムで魔物と戦い一時の無双気分を味わっていた。

 リアルな無双気分を。

 強力なアイテムを手に入れれば使ってみたくなるのが人情と言うもの。

 そして戦いの先で見つけた宝箱ガチャで新たなアイテムを手に入れる興奮に酔いしれた。

 宝箱ガチャはフリーフロアのガチャに無いアイテムが出るからだ。

 そこまでは良かった。


 寧ろそこからが問題だった。

 ラズルはこの世界の人間の、具体的に言うと重課金兵の本気を甘く見ていたのだ。

 彼等はシングルでの活動が難しい階層まで来ると、チームを組み始めた。

 それはラズルの想定内である。彼の故郷の人間達もそうしてきたからだ。

 彼等がダンジョンで戦闘を始めた事でサービス期間を終えたラズルは、甘めに設定していたガチャの出現率を渋くした。

 彼は異世界の魔王なのでこの世界の法律に従う義理など無いからだ。

 これで探索者達の侵攻速度を抑えつつ、ガチャに嵌まらせれるとラズルは考えた。

 事実そうなった。

 そうなり過ぎた。

 加地屋達探索者はガチャを回した。


「出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろぉぉぉぉぉ!!!」


 回す事こそわが命といわんばかりに回した。

 バイトをし、物を売り、手に入れたアイテムを闇ルートで売りさばいた。

 ラズルの誤算は自分の売り出したアイテムにもあった。

 このラズルの用意したアイテムはこの世界には存在しない特別な力を持ったアイテム。好事家が大金を支払ってでも手に入れたくなるのは当然だ。

 更に毒消しやポーションといった薬も規格外だった。

 魔法の存在するラズルの世界では当たり前なアイテムが、この世界ではトンデモナイ価値を持っている事にラズル自身が気付いていなかったのだ。

 否、気付いてはいたが、その価値がラズルの予想以上だったのだ。

 その為、重課金兵達は潤沢な予算を手にする事に成功した。

 まさにアイテムのゴールドラッシュである。

 ダンジョンは現代の金鉱といえた。

 そうして手に入れた予算で重課金兵達はアイテムを徹底的に強化し始めた。


「よっしゃぁぁぁぁ炎王の剣Lv20!!」


 それはもう異常な情熱を込めて。


「うわ、またコイツ等ログインしてるぞ。一体何時休んでるんだ?」


 侵入者の魔力波長を記録する事の出来るダンジョンコアが今日もやって来た探索者の名前を発光させる。

 名前と言っても加地屋の様に名前が判明している人間は少ない為にラズルのつけたあだ名であった訳だが。

 そもそもこの機能を使う魔王は少ない。

 精々が有力な冒険者をチェックするくらいだ。

 しかしラズルはこの機能を活用した。

 どの侵入者がどれだけ課金してくれるのか、どのくらいの頻度でログインしてくれるのかを知る為だ。

 だがその頻度は明らかにラズルの世界の冒険者と比べて高かった。


『よし、今日は地下7階の左下のフロアを徹底的に調べるぞ!』


『了解!』


 今日も探索者達は人海戦術でフロアを漁る。

 具体的には宝箱を開ける為に。


 ラズルのダンジョンの宝箱はガチャマシンと同じだ。

 宝箱は1日の探索で1回だけガチャが出来る。

 1度開けるとその宝箱は24時間空箱となる。

 その為、表層の宝箱には補充時間目当てのハイエナ無課金者がたむろし始めた。

 これは加地屋がスーパーレアの水王の盾を手に入れた事で表層でもレアアイテムが出ると判明したからだ。

 もちろんこのレアの当たりはラズルの仕込である。

 なお、今は渋めの確立設定にしてある為、滅多にスーパーレアが出る事は無い。


 そうした理由から、探索者の多くは素人が手を出せない下層の宝箱を狙う様になった。

 宝箱を開ける順番を決め、そのフロアに出現するモンスターの属性に合わせて階段の途中で装備交換。回復はこまめに行い、確実に一体ずつ倒していく。


『ダメージ受けた奴は交代して回復しろ。敵が見えたら杖使いは魔法攻撃!』


『モンスター来た!火属性だ!』


『水属性武器に換装しろ!!」


「……俺の世界の冒険者よりも規律正しいなコイツ等」


 唯一の救いは、彼等がこの世界においての一般人である事だ。

 彼等はアイテムの補助がなければ魔法が使えないし、体力や反射神経もたいした事は無い。

 なにより持久力が無い為、何日もダンジョンに潜る事が出来ない。

 それは一定より下の階層に行く事が時間的体力的に困難にであると言う事だった。

 この世界の一般人はラズルの世界における下位ランクの戦士以下の身体能力だった。否、ラズルの世界の一般人以下の身体能力だろう。

 ラズルが焦る原因はひとつ。


「コイツ等ガチャ回し過ぎだっつーの」


 そう、彼等は足りない力をアイテムの力で補っていた。

 ラズルの世界では鍛える事で実力を上げる所を、金の力で補っていたのだ。

 課金ダンジョンを造ったラズルですらドン引きするレベルで彼等はガチャを回した。

 その速度はラズルの想定を遥かに上回っている。

 

「幾らハズレアイテムが多くても、補充が追いつかないっつーの」


 それこそがラズルの悩みの種だった。

 アイテムの供給が追いつかなくなり始めていたのだ。

 アイテムだけではない。罠の再設置、モンスターの世話、新しいモンスターの配置など、ダンジョン管理に関する仕事は多い。

 明らかにラズルだけでは手が回らなくなってきていた。


「ニャウ達はバイトで雇った魔族だからダンジョンコアは操作できないし、モンスターはそもそもそこまで賢くない」


 ダンジョン管理は魔王の仕事。

 安全面から考えてもソレを他人に任せる事などできる筈が無い。

 ラズルはダンジョンコアに蓄えられた欲望エネルギーと魔貨の数字を確認する。


「この額なら、造れるな……」


 ラズルはダンジョンコアを操作して、新たな機能を起動させる。


「使い魔を創造する」

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