第2話 ダンジョンポリスメン
それは異様な集団だった。
見た目はTVで見るような機動隊の姿なのだが、その手には剣や槍、杖に盾といった明らかに不釣合いな武装をしていたからだ。
「ダンジョンに入る為には、ガチャで手に入れたアイテムを最低1つ装備していないと入れないとは」
機動隊指揮官、村田光作がため息を吐きながら、ガチャで出した杖を見る。
「本当にアイテムを持っていない隊員が入れないのには驚きましたね」
部下で指揮官補佐の佐藤一太郎が笑顔で自分がガチャで引いた弓を見る。
その視線は心なしか嬉しそうだ。
なにしろ、彼の出した弓は、SRスーパーレアアイテムの【明星の弓】だからだ。
アイテムにはコモン、アンコモン、レア、スーパーレア、ウルトラレアそしてウルトラスーパーレアが存在しているらしい。
彼が引いたのは上から三つめの非常に希少なアイテムだったのだ。
他の隊員達の目も、自分のアイテムのアイテムを嬉しそうに眺めたり、他の隊員を羨ましそうに見たりと様々だ。
「まるでゲームだな」
◆
あの後、なし崩しに機動隊隊員全員がガチャをやらされ、ダンジョンの心得というものをワウから教わることとなった。
「このフロアはフリーエリアと言う安全地帯ですワン。ここではガチャを購入したり装備を整えたり、仲間と待ち合わせをする為に使ってくださいだワン。そして奥のドアの向こうにある階段の下、地下二階からが本当のダンジョンとなりますワン」
「君、このダ、ダンジョン……とやらの奥にはここを作った人物がいるのかね?」
村田官はコレ以上流されないよう、ワンに質問を行う。
アイテムが突然表れた事には驚いたが、職務を放棄する訳には行かない。
「はい。魔王ラズル様はこのダンジョンの最下層にいらっしゃいます」
「面会は可能かね?」
これで会話が可能ならば、わざわざダンジョンとかいう怪しげな場所に入る必要は無くなる。村田官はそう考えて面会を希望してみたのだ。
「申し訳ありませんが、最下層へ至る事の出来ない方とはお会いする事はありません。魔王様とお会いできるのは、相応の実力を持った勇者でないと」
「勇者……」
村田はゲンナリした顔になる。
(ますますもってゲームみたいだな。任務とはいえ、面倒な事になりそうな予感がしてきたぞ)
「このダンジョンには、モンスターが徘徊しており、探索者の皆さんを見ると襲ってくるワン。ダンジョンにはモンスターだけでなく、恐ろしい罠も張り巡らされているワン。でもそれだけでは無いワン。ダンジョンにはお宝の入った宝箱があり、とってもレアなアイテムが手に入る可能性があるんだワン」
「具体的にはどんなのがあるんですが?」
隊員の一人が勝手に質問をするが、頭の痛くなってきた村田はソレを叱る事を諦める。
(今は説明を聞く事にしよう。相手はわけの分からない技術を持っている。ここが何なのか、彼女達が何者かは多数の情報を得てから精査するべきだ。……まぁ現状では体感アトラクション気分だがな)
「はい、宝箱を開けると、その中に先ほどのカードガチャと同じカードが入っているウサ」
とそこでラウが説明に割り込んでくる。
「そして、そのカードはランダムウサ! ガチャと同じで何が出るか不明ウサ!しかも!」
「宝箱ガチャでは、最高ランクのレアアイテム、ウルトラスーパーレアアイテム、通称USRが出るニャ」
更に横からニャウがセリフを奪う。
「それはラウのセリフウサァー!!」
「早い者勝ちニャ。このフリーフロアで出るのはウルトラレアまでニャ。……今の所はニャ」
何やら意味深な事を言われた。
「しかもフロアガチャと宝箱ガチャではそれぞれでしか出ない固定レアアイテムもありますワン。ガチャは一回500円、4000円で10連ガチャになるから纏めて回すのが賢いガチャだワン」
さりげなく宣伝を混ぜてくる。
スーパーの纏め買いの様だと村田は嘆息した。
「いい加減にしろ! 何がガチャだ!」
突然隊員の一人が声を上げる。
(アレは、大田か)
能力は優秀だが、少々独善的で傲慢なところがある為、なかなか出世のチャンスに恵まれなかった。
(もう少し本心を隠せれば出世出来るんだがなぁ)
だが村田はあえてソレを口にする事はなかった。
他人が問題点を指摘しても、人間ソレを受け入れる事が出来るとは限らないからだ。
大田は特にソレが出来ないタイプの男だった。
(優秀なんだがなぁ)
「下らん! こんな原始的な物より銃の方が優れているに決まっているだろうが!」
そういって、手にしていた剣を捨てた大田は暴徒鎮圧用の高圧放水器を構えてダンジョンの奥の門に向かっていく。
(それは分かるが、ここで勝手に行動するからお前は出世出来ないんだよ。あとその武器よりも、武器を出現させたテクノロジーが重要なんだがな)
村田がワウ達の説明を大人しく聞いていた理由はまさにソレだった。
カードから道具が出てくる未知の技術。
複数の隊員がソレを実践し、何のトリックも無い事を複数の手段を講じて確認した。
相手の出方を見る事、そして相手から情報を得る事。それが村田にとって最も優先順位の高い事だった。
「大田、勝手な行動をとるな」
だが一応は指揮官として警告をしておく。
それを言ったか言ってないかで後々問題が起きた時に責任の所在が変わるからだ。
「気にしすぎです! どうせダンジョンとか言っても地下鉄の通路か下水にでも繋がっているんでしょう!」
大田の言っている事は確かに利に適っていた。
常識的に考えて、東京の、しかも駅の入り口脇に作られた地下空間だ。
このフリーフロアでも十分驚きだが、それ以上の広さを確保するのはどう考えても不可能だった。
(ダンジョンと言うからにはこの下のフロアはこのフリーフロアはよりも広くなるだろう。しかしソレでは周囲の住宅の地下まで広がってしまう。建物を建てるには地下に基礎を打ち込む必要がある。ダンジョンを本当に作るつもりなら、その基礎を破壊するかむき出しにしてしまわなければならない。それは常識的に考えて不可能だ。……あくまでも常識で考えればの話だがな)
そう考えている間にも大田はドアを開ける。
(だからと言って、そんな事を口にしてしまえば、指揮官がオカルトじみた事を本気で信じていると侮られるしなぁ)
「あ、その先はガチャでゲットしたアイテムを持っていないと入れないニャよ」
と、ニャウが大田を止める。
「何が入れないだ。この中には階段があるだけじゃないか。どうやって入れなくすブベッ!」
門の奥に進もうとした大田が、突然何かにぶつかる様なジェスチャーをして倒れる。
「大田さん!?」
隊員の一人、伸子幹也が突然倒れた大田を心配して駆け寄っていく。
「な、何だ? 何かガラスの様なモノがあって通れないぞ!?」
そういって大田がドアのあった空間をコンコンと叩くジェスチャーをする。
「ガラスですか?」
しかし伸子が手をかざすと、あっさりと手はドアの向こうにすり抜ける。
「通りますが?」
伸子の言葉に驚いた大田は両手でドアのあった空間を押す。
一見すればパフォーマンスの一種に見える光景だが、大田という男はこういう時ににふざけたりはしない。
(なにより、支えも無しであんな姿勢になれる人間はいないか)
大田はつま先だけで体を支え、必死でドアのある空間を押していた。
それはどう考えても重心がおかしい姿勢だった。
「この先はガチャアイテムを持っていないと入れないニャ」
ニャウの言葉に村田は一考する。
「伸子、アイテムを置いてからドアの向こうに手を入れてみろ」
「は、はい」
村田の言葉に伸子が自分のアイテムを地面に置いてからドアの向こうに手を伸ばす。
「あれ? 通りません」
今度は伸子がぐぐぐっとドアのあった空間に手を押し付けるジェスチャーを始めた。
「大田、捨てた剣を持って入ってみろ」
「……分かりました」
釈然としないながらも、大田は捨てた剣を拾ってドアをくぐろうと試みる。
「……っ! ……は、入れました」
剣を持ったまま門の向こうに進んだ大田は、こちらを振り返って報告する。
(やはり何かしらの特別な技術を持っているか。となると、この地下には本当にダンジョンがあるのかもしれんな)
「村田隊長! 上の指示が降りました!」
と、そこで先ほど報告に行かせた連絡役が戻ってくる。
「おう、それで上はなんて?」
「はい、まずは確実に安全を確信できる所まで調べる様にとの事です。単独行動は絶対に取らせるなと」
「全く、上も気楽に言ってくれるよな」
ため息を吐く村田。だがそれでもやらなければならない事を、宮仕えの彼は骨の髄まで理解していた。
こうして、機動隊は表向き人類初のダンジョン探索を行う事となるのだった。
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