魔王さまのスマホダンジョン~課金する?~

十一屋翠

第1話 課金ダンジョン稼動!

「ご覧下さい。あれこそが突如秋葉原駅電気街口前に出来た謎の門です!」


 テレビ局のリポーターであろう女性が、カメラの前でマイクを片手に奥にある謎のオブジェを指差す。

 それは門だった。


 秋葉原駅電気街口の改札を出て右側に出ると、飲食店とビルの間に小さな広場がある。

 そこは大量の人が通る為のただのスペースであった。

 だが、何もないはずのそこに、石造りの門と言う現代と逆行する構造物が鎮座していた。

 門の前全長は約3m。そして門の後ろには台形の2mほどの奥行きの構造物が繋がっていた。

 中に何かがあるのかもしれない。


「あの門、始発前には既に出来上がっており、目撃者は今のところありません。秋葉原駅の駅員の方が出勤時に発見したそうです」


 と、そこで道路の向こうからサイレンの音が近づいてくる。


「あれは……警官隊です! 武装した警官隊がやって来ました!」


 カメラがレポーターからレンズを逸らすと、その先には警察車両から降りてきたフル装備の警官隊が門の前に整列する。


「ネットでは、事前にこの門の中にある階段を調べた警察官が血だらけで逃げてきたという情報があり、その時の画像らしい警察官の写真がアップされています」


 レポーターの言葉に反応するように、右側にワイプでネットの画像が表示されう。

 そこには血まみれになった警官が仲間の警官を担いで必死の形相で階段から逃げ出していた。

 だが、何より奇妙だったのは、彼等がその手に持っていたのは、警棒でも拳銃でもなく、奇妙な装飾がされた剣や杖だった事だ。


「警官隊が突入しました! 一体あの門の奥にはどのような恐ろしい犯罪者がいるのでしょうか!?」


 ◆


 ライトで照らしながら、警官隊が慎重に階段を下りていく。

 全員がマスクをしており、薄暗い階段の中でその異様さを浮き彫りにしていた。

 最前列が透明なポリカーボネート製の盾を構えて進む。

 そして後ろに並ぶ警官達は暴徒鎮圧用の個人携行型高圧放水機器や、ガス筒発射器を斜め上に構えて階段を降りる。


「階段が終わりました。報告どおり内部には広い空間がみられます」


 階段を下りた所で止まった現場指揮官の警官が、通信機のスイッチを押して輸送車両にいる上司に報告をする。

 だが、イヤホンから聞こえるのは、砂嵐のようなノイズだけであった。


「ダメだ、通信機が通じない」


「一旦戻りますか?」


「いや、連絡役が上に報告に戻れ。報告が済み次第上からの指示を伝えに戻れ。その間に我々はこの空間を調査する」


「了解であります!」


 緊急時の伝令役である警官が走って階段を駆け上がっていく。


「では我々はこの空間を調査する。此処には先行して調査に入った警察官達に重傷を負わせた犯人がまだ隠れている筈だ。必ず3人1組でチームを組んで2人が周囲の警戒、一人が調査を行え」


「「「了解!」」」


 現場指揮官の命令に従って、あらかじめ定められた三人がチームを組んで階段を下り、フロアの中に足を踏み入れた。


 その時だった。


「「「ようこそ! 魔王ラズル様のダンジョンへ!」」」


 突然フロアに灯りが付き、これまでの薄暗さに慣れてきていた警察官達が目を細める。

 そこに表れたのは、3人の少女達と、場違いな屋台だった。


「私はナビゲーターのラウです」


「ニャウです」


「ワウです!」


「何だコレは?」


 彼等は困惑した。

 ここには同胞である警察官達を負傷させた犯罪者が居るのではないのか?

 だがどう見ても目の前の少女は犯罪者の仲間には見えない。

 何より、少女達には耳が生えていた。

 人間の耳ではない。獣の耳だ。

 犬の耳、猫の耳。兎の耳、様々な耳だ。しっぽまで付いている。

 衣装はバニーガールの様な衣装にノースリーブのシャツを着ている。

 兎の女の子は短いネクタイが胸の上に乗っているくらい豊満だ。


「き、君達……ここで一体何をしてるんだ!?」


 現場指揮官の警官はいち早く使命を思い出し、目の前の少女達に問いかける。

 もしこの少女達が危険な犯罪者に無理やりこのような茶番を強制されているのなら、急ぎ彼女達の身の安全を確保しなければならない。

 そして関係者ならば、事情聴取が必要だ。


「はい、私達は魔王ラズル様のダンジョンにいらっしゃった探索者の皆様のナビゲートが仕事ですワン」


 自らをワウと名乗った犬耳の少女が胸を張って答える。

 残念ながら張るほどの胸は無かった。


「魔王? ダンジョン?」


 突然ゲームの様な事を言われて困惑する警察官達。


「突然言われてもご理解いただけないウサから、まずはこちらのカードガチャをお引き下さいウサ」


 そういって自分の事をラウと呼んでいた兎耳の少女が、最前列にいた警察官にオモチャ屋の前にあるカード販売機に似た機械を差し出す。


「え?」


 突然機械を差し出されて困惑する警察官。


「まぁまぁ。とにかく回してみてくださいウサ」


「は、はぁ」


 困惑したまま、警察官はカードガチャを回して中から出てきたカードを取り出す。


「なんだこれ? 槍?」


 それは槍の描かれたカードだった。

 それだけではなく、カードはプリズム柄をしており、いかにも子供の好きそうなレアカードらしさを見せている。


「おめでとうございまーすウサ! レアカード【疾風の槍】ですウサ!!」


「え? レア?」


 状況についていけずに目を白黒させる警官達。

 だがその一部はおめでとうといいながらピョンピョン跳ねるラウの豊満な胸のダンスに釘付けになっていた」


「それではカードをかざして【疾風の槍】よ! と叫んでみてくださいニャ」


「ええ? 叫ぶの?」


 幾らなんでもそれは恥ずかしいと拒否する警察官にラウとニャウが絡み付き、警察官の腕を伸ばしてカードをかざすポーズを取らせる。


「さ、叫んでくださいウサ」


 腕に当たる4つの胸の感触に思わず頬を緩める警察官。

 彼は間違いなく幸福を感じていた。


「し、【疾風の槍】よ!」


 次の瞬間、カードから強い風は吹き荒れる。


「うぉ!?」


 そしてカードが輝き、次の瞬間、彼の手にはカードに描かれていた槍が握られていた。


「え? え?」


 まさかの超常現象に、警察官達の目が点になる。


「ご理解いただけたでしょうかワン? この通り、このダンジョンはこの世界の常識の外に存在している構造物だワン」


 ワウの言葉に、放心していた指揮官がハッと正気を取り戻す。

 先ほどまではちょっと変わった恰好をしただけのちょっと可愛らしい少女達だったが、突然カードから槍が飛びだした後に見ると、何やら不気味なものを感じてしまう。

 一体この少女達は何者なのだろうか。

 

「改めまして、魔王ラズル様のダンジョンに……ようこそだワン」

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