第37話 過去編2 ダンジョン製作
「ここが日本か」
魔王となったラズルは、次元転移門と呼ばれる転移装置を使って異世界へとやって来た。
なお次元転移門の月額使用量は魔貨20枚である。
そしてこの場所こそが、ラズルが手にしたスマホの生み出された国、日本であった。
ラズルが居る場所には多くの人がごった返しており、左を見れば大勢の人間が同じ建物の中へと吸い込まれていく。
その建物には【秋葉原駅電気街口】と日本語で掛かれていた。
そう、ここは日本の首都東京の中にあって、世界でもっとも特殊な欲望に満ちた街【秋葉原】だった。
ラズルにとってもっとも都合の良い町でもあった。
ラズルは、彼ら日本人の中に紛れて町へと歩いてゆく。
魔族である彼は、人間と違いその頭部に魔角と呼ばれる特殊な器官を有している。
その為彼の姿を見れば即座に彼が普通の人間では無いと理解できた。
だが、今のラズルの頭には魔角は無く、その見た目も周囲の若者と同じくTシャツとジーパン姿であった。
ラズルは日本の服を所有していた? 否、コレは魔法である。
彼は幻覚魔法を行使して、この世界の住人の衣装に見せかけていたのだ。
実際の彼の衣装は魔王に相応しい赤いマント姿である。
ラズルはあえて己の正体を隠して異世界の町を散策していたのだ。
そして、何かを発見したのか、ラズルはとある建物の中へと入っていく。
「……合計6点で1188円です」
そこは大量の商品が所狭しと並べられた雑貨屋、いわゆるコンビニエンスストアであった。
ラズルは商品を物色する振りをしながらレジの様子を伺う。
(この世界のパンの相場は108円か。いや、肉や果物が付いているから少し良い食事なんだろう)
彼が見ていたのは、この世界の相場だった。
どの商品がどれだけの値段で買われているのか。
それは彼がこれから行うダンジョン経営にとって、非常に重要なファクターだったからだ。
ラズルは不自然な時間にならない程度で店を出て、また別の店へと相場を研究しに行く。
「この国の相場は大体分かった。そして貨幣に紙幣という2種類の金銭を扱うのも理解した。何よりこの世界は物が多い。質も良いし珍しい物が多い。ただダンジョン運営するだけでなく、こちらで手に入れた品を向こうで売れば金になる。やはりこの世界は当たりだ!」
高まる興奮を抑えきれないまま、ラズルは雑踏の中へと消えていった。
◆
夜、人通りが殆ど無くなった深夜にラズルは行動を開始した。
「入り口はここで良いか」
昼間のうちに下調べを済ませたラズルは、良い感じで人々の注目を集めれる場所をリサーチしていた。
「『開門』!」
ラズルが力ある言葉を発すると、彼の目の前に2mを越える大きな石造りの門が出現する。
「『隠蔽』」
更にラズルが力ある言葉を発すると、彼の前に現れた石造りの門が突然姿を消す。
勿論消えた訳ではない。
認識できなくなったのだ。
確かに存在するのにそれを認識できなくなる。
それは魔法の力だった。
異世界の住人であるラズルにのみ使える力、魔法。
「さて、術が保っている間にダンジョンを作るか」
魔族であるラズルにとって、本来なら魔法の効力が切れる心配など無い。
魔族にとっては魔力を操るなど、手を動かすに等しい容易な作業なのだから。
だが魔力の少ないこの世界では技術的な理由ではなく、燃料の問題で魔法が長続きしなかった。
ラズルは自分にだけは見える門を開き、中へと入っていく。
門の中は階段となっており、彼はその階段を下りていく。
そうして、50段ほど階段を下りたところで、何もない広い空間にでる。
その空間は薄ぼんやりとしており、かろうじて其処が大きなフロアなのだと理解できる。
「ダンジョンコアはっと……あったあった」
キョロキョロと周囲を見回していたラズルだったが、お目当てのものを見つめて小走りに駆け寄っていく。
彼が探していたもの、それは直径2mはあろうかと言う巨大な8角形の宝石だった。
ダンジョンコア、それは魔王となった者が大魔王より授かるダンジョンの核。
ダンジョンコアはダンジョンに満ちる魔力と欲望エネルギーを集め、形とする装置。
コアこそがダンジョンの全てであり、コアを失えばいかに恐るべきダンジョンであろうともただの穴倉に成り果てる。
魔王の最大の武器であり、そして弱点でもあった。
その為、ダンジョン経営を始める魔王が最初にする事はダンジョンコアを守る迷宮を作り出す事だ。
「よし、まずはフロアを10層購入するか」
ラズルはダンジョンコアに触れ、命じる。
「フロア10層購入!」
ラズルの声に反応して、フロアが振動する。
コレはラズルが現在居るフロアが更に地下へと下がっている振動だった。
暫くすると音が止む。
ダンジョンコア、ラズルが手を触れた場所には魔族の文字で900と表示されていた。
「お次はっと、キューブダンジョンを購入するか」
ダンジョン経営は、ダンジョンを創るところから始まる。
だがダンジョンを穴掘りから始めるのは非常に手間だ。
穴掘りの得意な魔物を雇うにしても、ダンジョンの壁を強化しなければ落盤してしまう。それでは探索どころではない。最悪、戦闘の衝撃で落盤してしまう。
そんな危険のあるダンジョンには、命知らずの冒険者でも入ってはこない。
そこで大魔王が考案したのが、キューブダンジョンシステムである。
まず魔王はダンジョンコアを大魔王からレンタルで購入する。
その際、空の1フロアが無料で至急される。
だが1フロアでは迷宮に潜る冒険者を撃退するのは非常に困難。
そこで魔王は有料で新たなフロアを購入する。
料金は1フロアにつき魔貨10枚である。
つまりラズルはこの時点で魔貨100枚を使用していた。
だがダンジョン創りはここからが本番である。
「まず目玉となる宝箱部屋だな。これを各フロアに3個ずつと。そして罠部屋を各フロアに4つ。空部屋を6つ。間には通路を繋げてっと、下り階段はセオリーどおり登りの階段から一番遠くなるように再設置っと」
ラズルは簡単に言うが、それだけの部屋を作るのは並みの労力ではない。
金銭だけでなく時間もかかる。
罠にいたっては設置の手間もあるが、何よりメンテナンスの手間が大きい。
だが、そんな手間隙を一足飛びに解決してくれるのがキューブダンジョンだった。
キューブダンジョンとは、特定の用途の部屋を購入してダンジョンのフロアに自由に配置する事のできるシステムである。
部屋は用途によって値段も様々。
空部屋は安く、罠部屋は高い。罠のグレードや部屋の外装が豪華だと更に高くなる。
他にも壁の強度など様々な価格設定があった。
ラズルは限られた予算から各部屋の質を調整していく。
「始めは安い部屋で、最下層だけは固い部屋と危険な罠を購入っと。中層はそれなりで。予算がキツイから今はこんなモンかな。後は魔物を纏め買いっと。えーと上層は素材が薬になる安い魔物で空部屋に配置。ちょっと強いのは宝箱のある部屋に配置っと。中層は危険で実入りの少ないヤツにして、でも宝箱はすこし大目で。下層にも金をかけたいけど、今は死ににくいアンデッド系にして罠で固めるか」
魔物は購入した後に飼育する必要がある。
生きた魔物は生物なので食事をする必要があるからだ。
ケチな魔王が餌は冒険者を食わせればよいと思って餌をケチり、最下層の強力な魔物達が餌不足で共食いをはじめたという話もあった。
そしてその魔王は泣く泣く新しい魔物を買いなおしたのだという。
だからラズルは食事の必要の無いアンデッドを選んだ。
「けど匂いが篭るといやだからスケルトンとゴースト系にしておこ」
ゾンビは臭い。なぜなら腐っているからだ。
ソレゆえゾンビは値段の割りに人気が無かった。
「よし、これでダンジョンの形は出来た。後は宝箱の中身だ!」
こうして、魔王ラズルのダンジョンが稼動を始めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます