第十九夜【仰向け】


 こんな夢を見た。

 

 上から、そして周りから囁く声が聞こえてきて意識が覚醒した。

 しかし、どれだけ力を入れても目は開かない。

 

 仕方なく、両目はそのままに、状況を把握しようとする。

 どうやら自分は、仰向けに寝転がっており、大勢の人に囲まれているようである。囁き声は少なくとも四、五人分聞こえたが、気配はそれ以上にある。


「あのビルから飛び降りた」

「自分も見ていた」

「これではもう助からないだろう」

「迷惑な話だ」

「血がどばどばと出ている」


 目が開かない代わりに耳を澄ましていると、どうにか自分に届く程の声での、そのような会話が聞こえてくる。

 

 そのうちに、ピンと閃いた。

 これは、自分のことを話しているのだ。

 

 ということは、自分は、聞こえてきたとおりビルから飛び降りたのだろうか。まったく覚えていない。最近の自分は、それ程までに生き詰まっていただろうか。

 

 しかしこうして覚醒しているということは、少なくとも生きてはいるようだ。だから早く、目を開けて生きていることを伝えなくてはならない。

 そう思うほどに身体は強張り、目は重く重くなってゆく。


「邪魔になって仕方ない」

「誰か早くどうにかしてくれ」

「あぁ、汚れが広がってゆく」


 自分は死んでも迷惑をかけるのか、と申し訳なさが広がる。

 その一方で囁き声の中に「死体」という単語が出る度に否定したくなる。だが、手の指も足も動かなければ、声を上げることも出来ない。


 もしかすると、自分は本当に死んだのではないか?

 今の自分は、いわゆる霊体というやつなのではないか?


 思えば思う程、自分の身体はどんどん硬くなってゆく。頭の中ではぐるぐると「死後硬直」という言葉が巡っていた。

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