第二十夜【虹】
こんな夢を見た。
玄関から捻じくれた虹が伸びていた。
それはここらの気圧や天気、偶然の重なりによる自然現象らしい。
とはいえ、今年に入ってからは既に五つほど確認されており、それ程珍しいものでもない。それは、泊まりに来ていた友人から教えられた話である。
「オーバー・ザ・レインボゥ」
「オーバー・ザ・レインボゥ」
何度も何度も呟きながら、自分と友人はその虹の先を目指し、ぐねぐねとカーブするそれを追った。
やがて辿り着いたのは、近所の家の裏庭にある池の中だった。
「此処の池の水分も虹が発生する理由になったのだろう」
理系に強かった友人の言うことのため、自分はそれをそのまま飲み込む。それらしい顔で言う友人に向け、ははぁ成程、と理系に疎いこちらも一端の者のフリをして頷いてみせる。
虹は池の中でも七色に輝いており、時にその中で飼われている金魚が泳ぎ近づいては、驚いたように逃げていくのだった。
そのうち、池を眺めていた友人が、
「この池は酸素が足りていないのではないか」
と心配そうに呟いた。
言われてみれば、確かに、何匹もの金魚が水面に向け、はくはくと必死に口を動かしている。
自分は友人と一緒になって表に周り、その家の家主に事情を話した。
それを聞いた家主は靴箱の中から水中に酸素を取り入れる装置を取り出し、取り付けるのを忘れていた、と笑いながら頭を掻いた。
裏庭に戻ると、既に装置は設置され、ごっぷんごっぷんと音を立てて作動していた。先ほどまで必死だった金魚は深く沈み込み、悠々と泳ぎまわっている。
ふと、捻じれ虹が消えていることに気付く。もしかすると、池の中の酸素の度合いもあの虹の発生に関連していたのかもしれない。
それでも残念には思わなかったのは、友人が満足そうだったからだろう。
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