第十七夜【権利】
こんな夢を見た。
市役所の人がやってきて、おめでとうございますと言った。
目出度いものか、と、何かに悲しんでいる自分が強い口調でそう返すと、
「貴方は猿になる権利を獲得されました!」
市役所の人は拍手をしながら喜ばし気に言った。
権利の使い方は至極簡単なもので、市役所に電話をかけ、
「猿になる権利を使用します」
と宣言するだけで良いのだと言う。
市役所の人はその説明と電話番号だけ告げると、さっさと帰っていってしまった。
置いていかれたチラシを眺めながら、自分は眉を寄せて考える。
猿になる権利。
自分は猿になりたいか。――否、そうは思わない。
いくら考えても、その、一般的にはなかなか獲得することが出来ず、それに当選したのは目出度いことらしい権利を使いたくなるような時は、訪れないような気がした。
であれば、そのまま自分が持っておくのも勿体ないようにも思われる。
自分は市役所に電話をして、この権利を誰かに譲渡する訳にはいかないのかと訊ねた。
市役所からの返答は、
「譲渡する相手を自分で見つけ出すならば構いませんよ」
というものだった。
そうしてまた、自分は考える。一体、誰であれば猿になる権利を欲しがるだろう。
真っ先に思いついたのは人間のまま生き続けるのが後ろ暗いような人だったが、生憎というべきか有難いことにというべきか、自分にそういった伝手は無い。
ならば、と思いついた。
ならば、これから会ったすべての人とジャンケンをしよう。
そうして勝った人にだけ、猿になる権利の話をしよう。その中にその権利を欲しがる人が居たら、その時に権利を譲渡することにしよう。
それまでに忘れないようにと、聞いた電話番号をチラシの裏紙にひかえた。
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