第十四夜【病人】

 

 こんな夢を見た。


 熱が出た黄色い服の男は、隣の家の居間で寝込んでいるらしい。


 隣の家に出向いていくと、話に聞いた通り、男は居間にある大きな炬燵に仰向けになり、すっぽり首元近くまではまっていた。ただし、服はそれが寝間着なのか、白いTシャツ姿になっている。


 氷枕を触ってみると、それはすっかり解けて水枕になっていた。

 新しいものと変えてやろうと手を伸ばしたところで、男がぱっちりと目を開く。 起きたのなら頭を上げてくれと頼むが、男は首を捻って不思議そうな顔をしている。


 途端に、自分と男が初対面であることを思い出した。

 

 自分は出来るだけ丁寧に自己紹介をすると、けして泥棒ではないことと、そして看病に来たことを伝えた。男は納得したように笑い、しかし続けて困った顔をする。話を聞くと、この家にはもう氷枕が無いと言う。

 それもその筈だ、と自分は改めて男の姿を見直して思う。

 男は、左腕と腰にも氷枕を使っていたのである。

 

 そこが痛むのかと訊ねると、そういう訳ではないと言われる。しかし、それを取り上げることはなんとなく気が引けた。ならば自分の家から持って来てやろうと腰を上げる。


 自分の家に戻ると、それを知っていたかのように机の上に保冷材や氷枕が準備されていた。それらを持って、再度隣の家を訪れる。


 男はもう居なくなっていた。

 また、部屋の大半を占めていた炬燵も無くなっていた。


 隣の家の者に訊ねると、


「じきに季節も変わるから炬燵は片付けたのだよ」


 とだけ返された。男のことは何も言われなかった。


 冷たいものをずっと抱えたままのため、両腕が冷えてツキツキと痛む。

 走るようにして家に引き返し、冷凍庫にそれらを戻している時に、目の前をモンシロチョウがはたはたと横切っていった。


 その姿が完全に消えてから、あれが男の本当の姿だったのかもしれない、と想像を膨らませる。

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