第十二夜【ベッド売り場】


 こんな夢を見た。

 

 古めかしい造りが売りの物件の中に、ベッド売り場が出来たらしい。

 

 早速訪れたその店の中はとても暗い。

 こうすることで眠気を誘い、ベッドの試し寝をさせやすくしているのだと店員に尤もらしく説明をされ、成程と納得する。ふわりと漂う芳香も、その効果があるのかもしれない。

 

 自由に寝転んでも良いとのことだったので、沢山あるベッドの中から、東南アジア系の木彫りがされた大きなベッドを選ぶ。ここぞとばかりに、飛び込むようにして行儀悪く寝転んだ。


 近くにあったボタンに気付き、その一つを押すと、しゃきんと生えてきた四方の柱と共にぐるりと周りをカーテンで囲まれた。


「テイストと機能がいまいち合ってないのが残念でしてね」


 すぐ傍に、そう言いながら店員が体育座りをする。

 商品のマイナス点を分かっていながらも、店員は裏紙を剥がした「おすすめ品」のシールを先ほどのボタンの近くに貼った。そのシールが貼られたからには良いことを言わなければならないような気持ちになり、でも寝心地はとても良いですよ、とフォローのような言葉をかける。店員は笑うだけだった。


 それを見て、もしやこの人は店員ではないのではないか、という疑惑が湧く。


 ここはひとつ試してみよう、と思い立ち、


「このカーテンの素材は」

「他のボタンの機能は」

「値段を下げてもらうとしたらどのくらいまで」


 と色々な質問を繰り出すと、その人はいくつかの質問には答え、いくつかの質問には分かりませんと答えた。そうされると判定のしようがなくなってしまう。

 諦めた自分はベッドにごろりと寝転がったまま、あなたは店員さんですか、と率直に訊ねた。


 それに返されたのは、


「店員ですが、売り物なのです」


 という、なんとも不可解なものだった。


 しかしそれがきっかけで、値段が厳しくないならこの店員さんを買って帰りたいなぁ、などと、自分は思ったのである。

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