第十一夜【肉体】
こんな夢を見た。
そこは未来なのかもしれない。
少なくとも、肉体を必要としない世界だった。
そこではそれぞれ各家庭にある装置に宿る精神が「その人」であり、各人同士がやりとりをするのには思念波のようなものを使っている。そうした人間が現在の社会では圧倒的に多数で、彼らは一般的には××と呼ばれている。
反対に未だ肉体を所持している者は少数派である。その少数派の方は××××と呼ばれており、かく言う自分もその××××の一人なのであった。
肉体を持っていても、思念波はキャッチすることが出来る。
テレビを点けていないにも関わらず頭の中で音声だけの商品コマーシャルが流れるのも日常である。そもそも、この家にテレビは無い。ついでに言えばラジオも無い。
その日もコマーシャルを意識して聞くでもなく流していると、頭を横切るようにしていった商品の情報を詳しく知りたくなった。
先ほどの商品の名前を打ち込み、インターネットサイトを開く。
そのページの中では多数派――××が、既に思念波を沢山送ってきており、イラストや文字で自分の「形」をとっていた。
それぞれ違う色やフォントで個性を出そうとする上に、サイト上をぴょんぴょんと動き回る。きっちりとした明朝体で対応するスタッフも、忙しそうにその文字を追いかけまわしている。
おかげで目がちかちかと痛くなり、自分はすぐにそのサイトを閉じた。
××の者たちは、こうした時にすぐに痛む肉体など要らないと思い、精神だけになったのかもしれない。
そんなことを考えながら、コンピュータを離れ、珈琲を淹れるためにお湯を沸かす。
ごりごり挽いた豆をセットし忘れたことに気付くのは、大きなカップになみなみとお湯を注いでからだった。自分の使っている豆は、挽き終えたらすぐにお湯を注がなければものの数秒で塵芥になってしまうものである。お湯の入ったカップと使い物にならなくなった豆を見て溜息を吐いた。
仕方なくもう一度ごりごりと豆を挽き直しながら、自分はこの動作が大変落ち着くものであることを再確認する。
そして、それをするためには肉体が必要であることも再認識する。
××××の自分がこの肉体を捨てるのは、まだまだ先になるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます