第八夜【赤ずきん】


 こんな夢を見た。

 

 童話の赤ずきんの世界である。


 自分は赤ずきんの敵にならなければならないらしい。

 指令者からは狼と連携を組むように言われている。だが、その狼の姿が見当たらない。


 狼を探し回って歩いているうちに、家を見つけた。

 可愛らしい家である。しかし赤い屋根を見て、煙突が無いことを残念に思う。煙突があれば童話に似つかわしい完璧な姿であったのに、とケチをつける。

 

 窓から覗くと誰もいない。ただ、コンロでぐつぐつと鍋が煮え立っていた。

 火事になることを恐れて、注意をしようと窓をノックした。

 誰も出てこない。玄関をノックしても返事すらない。

 仕方なしに勝手に裏口から入り込む。裏口には鍵がかかっていたが、その簡単な外し方を自分は知っていた。そうしてコンロの火を消した。鍋の中身は落し蓋がされているために分からなかった。

 

 家を出て再び歩いているうちに探していた狼の姿を見つけたが、狼は自分のことを知らないようである。何故かそのことに対し無性に苛立って、手に持っていたファイルを見せながら説明をした。

 狼はそれでもよく分かっていないようだった。

 話をよく聞くと、この狼は赤ずきんとは旧知の仲だという。驚き、ファイルをめくると、確かにそのように書かれている。

 

 であれば、赤ずきんの敵役は一人でこなさなくてはいけないのか。

 

 更に続きを読み、うんざりとした気持ちになる。ファイルのその先には、狼と赤ずきんはもう一度仲違いをしなくてはならず、その仲違いを引き起こすのが自分であると書いてあった。


 そんなことはしたくなかった。

 狼と赤ずきんの仲は今、非常に良好らしい。

 だったらそれで良いじゃあないか、それを崩さなければいけない理由が分からない。少なくとも、その役を自分が引き受けなければならない理由が。

 

 ファイルをばんばんと叩き、ぶんぶんと上下に振った。

 こうすることで、中の文字がぐちゃぐちゃと混ぜ合わされることを自分は知っていた。


 再度開いたファイルの中身は誰も読めないだろう状態である。思惑が成功したことににんまりと笑う。


「だからお前はいつも悪役なのだ」


 そう誰かに怒られたが、それは自分にとって賛辞でしかなかった。

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