エピローグ 7月10日 午前11時
それから一週間が過ぎた。
ファラは回復し、普通に動けるようになった。美咲と茜もすっかり元気になり、彼女達はファラを見送るため、成田空港に来ていた。
「元気でね、ファラ」
空港のロビーで葵が言った。
「はい。皆さんもお元気で」
ファラはニッコリして答えた。篠原が、
「あと五年経ったら、遊びに来なよ、姫様。俺がいろいろと案内してあげるよ、日本の名所を」
葵が、
「あと五年経ったら、あんたもうおっさんじゃないの。ファラに相手にしてもらえないわよ」
「じゃお前もおばちゃんだな」
篠原が言い返した。葵はキッとして、
「何ですって!?」
「こんなところでもめないでください、所長!」
美咲が葵をたしなめた。葵はフンと篠原から顔を背けた。
「イスバハンまで私が同行するわ。もうファラは普通の女の子ですからね」
シャーロットが言った。すると茜が、
「姫様、気をつけて下さいね。この女、欲得ずくですから。何か儲かることでもないと、動きませんよ」
「あーら、発育不良娘さん、随分ね? 長生きしたくないの?」
シャーロットが茜を睨む。茜も負けずに睨み返し、
「ええ、長生きしたいから、胸はあまり大きくならないようにしたいと思いますわ」
「ほォ」
二人の間には、火花が飛び散るようだった。美咲は呆れてこの二人を見ていた。
「皆さん、本当にありがとうございました。またお会いできることを楽しみにしています」
ファラは一同を見渡して言った。
「姫様、元気でね」
「日本に来たら、連絡くださいね」
「待ってるよ」
ファラはニッコリ笑ってからシャーロットを見て、
「シャーロットさん、少しだけ待っていただけますか?」
シャーロットは腕時計を見て、
「ええ、いいですよ。出発時刻まで、まだ時間がありますから」
ファラはそれに頷いてから、葵に駆け寄った。葵は、
「えっ?」
そう思ったが、何もできなかった。ファラがいきなり葵に抱きつき、口づけをして来たのだ。
「ああっ!」
びっくりして赤くなる美咲、興味津々の目で見入る茜、嫉妬混じりの目を向ける篠原。シャーロットもすっかり驚いて、何も言えないでいた。ファラは十秒ほど葵に口づけして、離れた。
「私、葵さんのこと、大好き。また日本に来たら、是非会ってください」
「え、ええ……」
葵は半ば放心状態で答えていた。ファラは一同に手を振って、搭乗ゲートに歩いて行った。シャーロットが慌ててファラを追いかけた。
「あの子、もしかして、女が好きなのか?」
篠原が呟いた。葵もやっと我に返って、
「そ、そうなのかな……。どうしよう、またファラが来たら……」
「取り敢えず、デートしてあげれば? モテモテの葵さん」
篠原がからかい半分で言うと、葵はムッとして彼を見上げ、
「無責任なこと言うわね! 少しは対策考えなさいよ!」
「わかったよ。じゃあさ……」
「何?」
葵が尋ねると、篠原はニンマリして、
「今葵とキスすると、姫様と間接キスになるよね? ちょっとキスさせてよ」
「バカ!」
葵の平手打ちが篠原の頬に炸裂した。
風の葵 アサシンズコンテスト 神村律子 @rittannbakkonn
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