第7話 侵蝕

 今日は十月半ばの日曜日。

「明日の午後は修学旅行の服を買いに行くぞー。」

 ヒカル様が昨日宣言したとおり、今日は前にペンダントを買った三山みつやま駅近くのショッピングセンターにお買い物。突撃隊長は私、後方支援がヒカル様、修学旅行に着ていく服を調達するミッションであります。


 私が通う青蘭せいらん高校の修学旅行は高三の十一月に一泊という、すごく珍しい時期と長さだけど、それにはわけがある。

 もともと高3では泊まりの旅行がなかったんだけど、五代前の生徒会長が「最後の思い出作りの場」という名目で実現させたそうだ。それまでは高二の秋の三泊の旅行が最後の旅行で、それは今でも公式には修学旅行と呼ばれているんだけど、実質的には高三のこの一泊旅行が修学旅行だ。

 高三の旅行の名前は公式には「勉強合宿」で、大義名分は「普段と違った環境で勉強することで脳に刺激を与えて学力の向上を図る」ことになっている。違う場所で勉強すると、それが思い出になってその時に覚えたことが記憶に残りやすい、という生徒会長の主張が認められて学校の許可が下りたそうだ。このようなイベントを学校行事として勝ち取った当時の生徒会長は本当に凄い。

 実際に、宿には「勉強部屋」があって、深夜まで学校の先生が勉強を見てくれるらしい。まじめに勉強する人もいるみたいだけど、実際はそこまで多くないみたい。先生がかわいそうだけど、それが仕事だからしょうがない。ちゃんと残業代でるのかな。


 学生は参加自体が自由、先生を捕まえて深夜まで勉強部屋で勉強するのも自由、友達と思い出作りをするも自由。学校から特急使って一時間半くらいの観光地に宿が用意されていて、夜ご飯までに宿に着き、朝ご飯を食べてから宿を出ることがルール。

 宿についたら翌朝まで外出は禁止だけど、禁止されているからこそ、わざわざ抜けだしてコンビニに行く変人が毎年出るそうだ。特に男子。宿に入る前に行けよと思うけど、ルール違反して抜けだして戻ることに意味があるそうだ。

 あと、夜食に持ち込んだカップラーメン食べる人。臭いで周囲の人に迷惑をかけるのが楽しみだそうで。


 修学旅行は私服OKだから、お約束のようにヒカル様が本気を出す。

 今日の軍資金は、先日の校内模試で勝ち取ったボーナスお小遣い。私が成績上位者ランキングについに入れたので、親が大はしゃぎして臨時にお小遣いを渡してくれた。

 模試は試験範囲が実質無制限だから、定期テストと違って直前の勉強はあまり効果的ではない。むしろ、昔覚えた知識をいかに引っ張りだせたか、いかに知っている知識を組み合わせて応用問題を片付けていくか、といった、普段のテストでは問われないスキルが重要になる。前回の模試で、問題を解くのに必要な知識が随分すんなりとでてきたのは、気のせいじゃないよね。


彩佳あやかがいままで、しっかり努力してきたからだよ。

 頭のなかに入っていないことは思い出せないんだから。」

 ヒカル様のコメントは嘘ではないだろうけど、ヒカル様がガッツリ介入したことは間違いない。

 カンニング? 証拠はないから問題なし。答え自体は教えてもらってないし。


 もちろん、ヒカル様はちゃんと「対価」を要求する。

 そして、私が対価を払わなかったら、不快なお仕置きをされるんだろうな。

「新しい服を着た彩佳を見たいから、俺は頑張ったんだぜ?

 ちょうど修学旅行があるんだし、服買いに行くぞ。」

 親から服代を巻き上げるため、私の模試に協力したのね。

 ほんと、才能の無駄遣い。別に嫌じゃないけど。

 もちろん、私は快諾する。


 ◇ ◇ ◇


「秋冬服って、俺的にはあまり美味しくないんだよなー。」

 ヒカル様が愚痴る。

「特に冬服。みんな黒とか灰色とか暗い色ばかりだし、基本的に生地が厚いので、ふんわりした服がない。その中でなんとか勝負しないといけない。完全アウェーだよ。」

 言われてみたらそうだ。着膨れは女子として美しくない。

「冬の楽しみとしては、下着かな。

 下着を覆う服というか布の量が多いから、透けたり、盗撮される心配もない。

 派手な下着を楽しむなら冬が穴場だ。上着は、まあ、諦めるしか無いのかな。」

 ヒカル様にしては、珍しく弱気だ。言ってることは相変わらず変態紳士だけど。

「それから、彩佳はフォックスファーは厳禁だぞ。

 俺の同胞を殺して作った服なんて彩佳には着せられない!」

 狐アピールでオチをつけることは忘れないのね。

「冬服はさておき、秋服を仕入れに行くぞ。」


 ◇ ◇ ◇


 服を選ぶ時、

「これを着たらヒカル様がどうかわいがってくれるのかな。」

 そう考えながら決める自分がいる。


 ヒカル様の服装の好みは非常にわかりやすい。改めてまとめてみるか。

 まず、かわいらしさが最も重要。女の子らしさを強調した私が大好きみたい。

 全体的なデザインはふわっとして、体をやさしく覆うようなものが特にお気に入り。

 ヒカル様は露出しすぎは下品で嫌だとか言ってるけど、本当の理由は違うと思う。

 服の面積が大きいと、服の中で触ることができる、私の肌の面積も大きいじゃない?

 服を着せたまま犯すというプレイが気に入っているヒカル様には、こっちのほうが好都合なんだろうな。


 袖も裾も、広がっているほうがいいらしい。

 末広がりで縁起がいい、とか言い訳してたけど、これまた本当は手を入れた時の私の恥じらいを楽しんでるに決まってる。

 えりぐりは広めが好みだけど、広すぎると下品に見えるからバランスが難しい。襟ぐりにゴムが使ってあって、脱がそうとしたら肩や胸を大きく露出できるような服が特に大好きで、ヒカル様は私によく着せようとする。

「二人きりになったら、好きなだけ胸を可愛がれるでしょ?

 胸の弾力を楽しむ。下から持ち上げたり、乳首をこすって声をあげさせたり。

 それに、肩だって直接なでなでしたいよね。なでなでだけでなく、頬ずりして、ペロペロして、しっかりキスもする。」

 だって。変態。


 飾りとしてのレースやフリルは、愛らしさ、女の子らしさがアップするなら加点要素。でも、とりあえずレースつけておきました! といったものは興ざめらしい。


 色は基本的に白やオフホワイト、暖色系やパステルカラーといった、清純で落ち着いたものを喜ぶ。柄は意外と判断がむずかしいけど、清楚さとかわいらしさを重視するみたい。ロゴは無条件でアウト。


 生地は綿が好きそうだけど、麻とかポリエステルでもいいみたい。肌にあたったときの感触が心地よいのが好み。もちろん、すべすべな生地も大好き。シルクとか、よくあるサラサラした裏地とか。でもシルクは、まず着る機会ないな。安くないし。


 単体では透ける服を来ていたとしても、最終的に下品な露出狂に見えなければ問題ないようで。むしろ、薄い布から透ける私の肌も趣深いそうだ。


 外に出かけるときは、アウターはたいてい長袖の服(もちろん中にキャミソールとか着ることもあるけど)、下は長めのスカート。清楚でやさしいお嬢様に見えるのがいいそうだ。その場で服を脱がしてガンガン犯したくなるような女ではなく、思わず抱きしめて頭をなでてかわいがりたくなるような、愛らしい女の子のほうが好みなようで。


 ただ、家にいる時はたまに違うものを要求する。

 いつもと同じじゃつまらない! って。

 そういうときは、ちゃんと部屋に鍵をかけて、下着が見えるような透けるチュニックを着てみる。もちろん、つける下着は女子らしさを強調したもの。本当は下に一枚着ないと着て歩けないようなチュニックをそのまま着ることで、倒錯的でいやらしい、変態的な感じがする。もちろん、一気にヒカル様の頬がゆるんでハァハァが止まらなくなる。

 あと、リクエストに応じてミニスカートもはくことがある。もちろん、ただのミニスカートで満足するヒカル様ではない。ミニスカートは見た目、裾が広がっていないとだめ。でも、ただのフレアミニスカートだとつまらないのでアウト。ミニスカートの中が実はショートパンツになっていたり、すべすべの裏地がついていたり、生地がかなり柔らかくて手に吸い付く感じがしたりとか、何らかのギミックがないと気に入らないそうで。

「たとえばスカートをめくったら、中がすべすべ裏地のショートパンツで、太ももとか尻とか股間とかすべすべ攻めにできるのがいいんだ! スカートを抑えて、『やめて!』と無駄な抵抗するところを攻めるのがいいんだ!」

 と熱弁するヒカル様。


 ◇ ◇ ◇


 ヒカル様の服の好みを考えると、見るべきショップは2つだけ。受験勉強の時間もあまり削れないし、ヒカル様に人払いをお願いする時間も最小限にしないと。やることは明確だし、ほしい服のイメージもそれなりにはっきりしている。

 よし、作戦開始!


 一つ目のお店に足を踏み入れたら、自分の中の感覚が一瞬で変わったような気がする。

 冴えてる。明らかに、いつもより冴えてる。

 友達とウインドウショッピングするときのような、ゆったり見ていく感覚ではなく、アンテナの感度が最大限になっているような感じ。

 何となくだけど、周りの人の動きもちょっとゆっくりに、そして自分の前の道を開けてくれているような気がする。

 必要なものがどこに有るのか、ブロック分けされて浮かんで見えるみたい。

 トップス、ボトムス、色、デザイン、素材。

 見るべきところに足が向く。それも、最短距離で。

 これがヒカル様の言ってた「ゾーンに入る」感覚なんだろうか。


 まずは、だんだん肌寒くなってきたわけだし、まずは長袖のブラウスを見てみよう。

 マネキンはどうでもいい。服のセンスはヒカル様のほうが絶対にいい。

 ハンガーに掛かってるのを、色やデザインをチェックしながらハイペースで吟味する。時間をかけすぎず、なおかつ見落としは避けたい。迅速で的確な判断を心がけるため、脳の処理速度が普段より上がっているクロックアップのを実感する。

 もちろん、セールコーナーも忘れずに。ヒカル様はセールコーナーの掘り出し物をめざとく教えてくれる。


 ふと目に付いた、前をボタンでとめる、淡いコーラルピンクのブラウス。

 所々にレースがあしらわれてて、かわいい。

 試着してみたら、顔も明るく見える。かわいく見えるのは大事だよね。

 よし、これに決定!


 このブラウスに合わせるのは、一目惚れした、ふんわりした雰囲気のフードつきのカーディガン。

 前はジッパーで、赤みのかかった濃い茶色の、綺麗な秋色。

 レースやフリルはついていないけど、色とデザインが気に入った。

 シルエットもカンペキ!

 どう? 私、かわいいでしょ? ヒカル様?


 他にも、前にボタンがついてない、かぶって着るデザインのブラウスもあったけど、

「そういうのは夏の方がいい。上がブラウス一着だと、上からも下からも手を入れて彩佳を楽しめる。だけど、秋だともう一枚上に羽織るから、前から楽しむのが基本になるんだよね」

 と変態が言ったのでやめておいた。


 ◇ ◇ ◇


 もう一つのお店でオフホワイトの膝丈キュロットを買う。

 キュロットなんだけど、ちょっと布が多めでふんわりしてて、裾のレースが重ね着風。スカートでなくても、ヒカル様、実はこんなのも好きなんだよね。

 修学旅行だと、エロ男子がスカートの中を見ようと企むのは確実だから、スカートは履いていけない。そういう意味でも、ちょうどいい。


 他にも、裾が大きく広がるオレンジ色のスカートも購入。こっちは、ウエストがゴムなのが、ヒカル様的にツボにはまったらしい。

 ヒカル様の上にまたがっても、スカートでおしりと太ももが隠れる。そして、ウェストから手を入れることで私のお尻や太もも、大切な所を触れるのがいいようで。

「裸の彩佳はバリエーションがない。

 だが! 着衣の彩佳は服の数だけバリエーションが有る。」

 着衣エロへの執念がすごい、ヒカル様。


 ねえ。そんなに女の子の服が好きなら、今度はショタ化したヒカル様に私の服を着せて、男の娘としてかわいがってあげようかな?

 彩佳お姉さま、って呼ばせてあげてもいいんだよ?

「俺は彩佳を襲うのが好きなんだ。」

 ヒカル様、絶対に強がってるね。あのエロ狐、本当は私の服を着たいんだ。

 口では嫌がってるみたいだけど、今度、口実作ってやってみよう。意外と女体化にょたいかも悪くないかもね。


 それにしても、私服のシルエットがどんどんヒカル様好みになってきて、ワードローブの中も変わってきた。

 やっぱり、好きな相手の好みに合わせたい、かわいく見られたいっていうのは女心だ。最近やっとわかってきた気がする。


「もう少ししたら胸のサイズを1つあげてやるから、そうしたら一緒に下着買いに行こうな。」

 胸が大きくなるのはうれしいけど、ヒカル様、私の体もいじれるの?

「ついでに体の老化もできるだけ遅らせてみるよ。不老不死は無理でも、ほんの少しはあらがうことができる。」

 どこまで本当で、どこまでがハッタリか、全然わからないや。


 ◇ ◇ ◇


 ショッピングセンターを出る通り道にメンズのショップを発見。ヒカル様のためにウインドウショッピングだ。

 え? 俺は女子の服装にしか興味ないって?

 この変態が!

 いい? たまには私がヒカル様にどんな服を着せたいか考えてみたいの!

 私ばっかり着せ替え人形というのも嫌……じゃなくて、ちょっとうれしいけど、ヒカル様も他の服を着たらどんな感じなのかな、って……。

 ああ、もう! とにかく見させて!


 さて、ヒカル様はどんなの着るとカッコイイかな。いつも制服姿だもんね。制服も似合ってるけど、もっと他の服も着てほしいかも。とりあえず、店のマネキンを見渡す。

 例えば……黒パンツに白いシャツにジャケットとか? ありきたりかな。


 あ、これいいかも。チャコールグレーの、ケーブルニットの衿つきカーディガン。ジャケットっぽくも着れるし、きっと似合うだろうな。

 これに、白いシャツ、もちろん胸元にはお揃いのダガーのペンダント。

 ボトムスはカラーデニムか。マネキンが着てる白だと爽やか系、でも、ちょっと冒険しちゃう?秋っぽいキャメルとか。うん、いい感じ。


 ふと思ったけど、ヒカル様が全身黒ずくめだったらすごい迫力かも。ボタンのない黒シャツに黒のジャケットを羽織って、黒パンツに黒の革靴。銀髪に、胸元に銀のダガーペンダント。


 やばい。マジでかっこよすぎる。写真にとって飾りたい。


 ……でも、隣りにいる私は、どんな服装だと釣り合うだろ?

「宿題だ、彩佳。」

 帰りの電車で頑張って考えないと。


 ◇ ◇ ◇


 宿題の答えはなかなか思いつかなかった。

 受験勉強もなかなか手につかなかったので、禁断の技を使ってみた。

 BPMが160前後の元気な音楽を低い音量で、メドレー的に連続で流しながら勉強する。気付いたら歌詞が耳に入らず、体が集中して手と頭が動いている。軽く運動した時の脈拍が160くらいだから、自分の脈拍が音楽のBPMとシンクロして、運動している時みたいに脳が興奮しているんだよね。

 私の好きなアイドルグループの曲の多くは条件を満たしているので、それを延々を流していれば問題ない。この方法は暗記系の科目でなく、数学のように一つの問題をじっくり考える的な科目と相性が良い。


 気付いたら、音楽を流し始めてから一時間半近く経っていた。どっと疲れが出たけど、心が少しすっきりしている。

 でも、勉強しすぎちゃったのかな、少しふらついてきた。どうも血糖値が下がりすぎたみたい。手元のチョコバーを食べて回復しよう


 ◇ ◇ ◇


 お風呂に入りながら、延々と宿題の服装について考えてた。

 黒ずくめのヒカル様のとなりに、私が漆黒のドレスで隣に並んでいても、何か変だ。黒に黒だとお葬式っぽいし。

 普段着でも制服でも似合わない。

 おしゃれなヒカル様の隣の私がカジュアルすぎるのは変。

 巫女装束も論外。ネタに走りすぎている。

 まさかウェディングドレス? 意外といけるかも。そして、お姫様抱っこしてもらって

 ……って、だめだめ、何考えてるのよ、私。でも、ドレスというか、ワンピースなら悪くないかも。

 銀色というか、明るめのグレーのショールは欠かせない。

 銀髪のヒカル様の女であることをアピール。肩を包むショールをヒカル様の腕に見立てる。きゃっ。


 ワンピースの色を考えるのにパレットを頭に思い浮かべてみる。美術部入賞の常連をなめるなよ。

 ……黄色、緑は外れる。赤もちょっと。

 薄めの赤、いや違う、ピンク系の色だといけるかも。優しい、淡い、でも白じゃないピンクなんて女の子らしさを表現できそう。

 あと、青。紺や藍でもなく、水色でもない、青。濃すぎず、淡すぎず。大人なヒカル様に似合う大人な女性に見える。


 素材は、すべすべした肌触りの良さそうなもの。

 生地が多めでゆったりした、シンプルなデザイン。

 歩くたびに布が体にこすれることで、一歩足を踏み出そうとするだけでもヒカル様に優しくなでなでされてる気分に浸れる。

 歩いてなくても、布の心地よさを味わうために体をくねらせ……たらキモい。さりげなくやらないと。

 下着の上にはワンピースを着てるだけの私がヒカル様に寄りかかる。

 もう、想像するだけで、期待と恥ずかしさで頭がパンクしそうになる。


 そうだ、下着は履き心地のよい、シンプルなものがよさそう。あ、今度そんな下着買おうかな。肌触り重視で、レースとかリボンとかフリルとか、装飾がない下着があってもいいかも。下着のラインがわからないような、外からだと下着をつけていることが全くわからないような下着というのも、意外とえっちかも。


 そして、最後はワンピースの裾のほうから、ヒカル様が私の体を求める。長めのワンピースが、実はいやらしい服だということに最近気づいた。下からスカート部分に潜り込まれると、それを止めることができない。普通のスカートならウェストのところから手を入れて抵抗できるけど、ワンピースはそれができない。服の中からヒカル様を追い出せない。だから、ワンピースを着た私は、ヒカル様に陵辱される一方で、快楽を暴力的に与えられるのを止められない。


 はしたない考えが止まらない。ヒカル様にかわいがられて、抱かれたくて体がうずうずしてる。


 大人デートから高級ホテルでお泊りえっちを夜伽でやりたいなーと思ったけど、残念ながら私は健全な女子高生。

 お金もそんなに持ってないし、夜遅くまで夜遊びなんてことも縁がない。それに、大人なデートなんてしたことないんだよね。

 ちょっと高めのおしゃれなレストランで大人な彼と大人なディナーがどんなものかなんて、想像できないよ。

 リアリティが感じられない場面は夜伽に使えないので、これはしばらく後のお楽しみかな?


 そうだ! でも、私の可愛らしいワンピース姿を見て、ヒカル様が我慢できなくなって襲ってくる夜伽はいけるよね。

 よし、今度、受験勉強の合間に、ネット通販でワンピースのデザインをいろいろ見てみよう。夜伽用だから、値段は気にならない。デザインを頭で構築できればいいんだから。


 それにしても、私がいろいろな服を着てヒカル様の隣に立っている場面を想像し、そして私がヒカル様に愛されている想像をしている間、ヒカル様はずっと私の脳を覗いて喜んでいたんだろうな。このエロ狐が。

「こんな美味しいシーンを見逃すわけないじゃないか!」

 まったく、一言余計なのよ。私のドキドキをぶちこわさないで、もう。

 でも、つい喋ってしまうのがヒカル様らしくて、何か微笑ましい。

 そして、そんないたずら好きな、えっちなヒカル様が好き。きゃっ。


 ◇ ◇ ◇


「おやすみなさーい!」


 気づいたら、ショッピングモールのある三山駅のホームで電車を待っていた。

 隣にはもちろんヒカル様。

 白シャツ、チャコールグレーの衿つきケーブルニットカーディガン、そしてキャメル色のデニム……でなくて、ちょっとゆったりしたパンツ?

「ゆったりしたほうが動きやすいでしょ。彩佳もゆったりした服を来てるし、こっちのほうがカップルっぽい感じするだろ?

 それに、彩佳といちゃつくときに、服で体の動きが制限されるの嫌なんだよね。彩佳もそう思うでしょ?」

 いちゃつくことが脳内の全てなのが、エロ狐らしい。

 それはともかく、服はヒカル様のイメージ通りよく似合ってる。


 私は今日買ったばかりの服を着てる。

 コーラルピンクの前ボタン留めブラウスに、前をジッパーで閉じるフードつきの濃い茶色のカーディガンに、オレンジ色のよく裾が広がる膝丈スカート。


 秋の日暮れは早く、今は黄昏たそがれ時。ホームの灯りもついていないので、少し離れた人の顔をはっきり見ることができないくらいの中途半端な暗さ。

 もちろん、ヒカル様はわざとこのタイミングを選んでいる。駅のホームの人目につかないところで、いちゃつくためだ。

 まずは、恋人繋ぎで手を繋いで、ヒカル様の端正な顔を上目遣いで楽しむ。ヒカル様が顔を私の方に少し近づける。当然、私は少し背伸びして、ヒカル様の方に顔を寄せる。


「目を閉じて。」

 優しく言うヒカル様。当たり前みたいに唇の間にヒカル様の舌が入り込んでくる。そして、ヒカル様の空いている方の腕が、私の肩と頭を引き寄せる。

 やはりキスはいい。一日の疲れが取れるというか、心が落ち着いて、リラックスできる。

 私の空いている方の手で、ついヒカル様のシャツを握ってしまう。それでもまだキスは続く。


「まもなく――」

「危険ですので――」

 何か遠くで音がしている気がする。頭のなかにはヒカル様のぬくもりしかない。


「ほら、ホームに落ちると危ないぞ。」

 ヒカル様がキスをやめ、つないでいた手を離し、両腕で私を抱きしめる。

 そういえば、ここって、ホームの端からだいぶ離れていたよね?

 全然危なくないよね?

「まあいいじゃない、別に。気分の問題だ。さあ、乗るぞ?」


 この時間帯の電車はガラガラだ。電車に乗ると、もちろん車両の端のボックス席へ向かう。後ろに仕切りがあるから、私たちは車両に乗っている他の乗客からは見えない。

 特に示し合わせたわけでないのに、ボックス席にすぐ向かうあたり、私たちはお互いをよく理解している。

「彩佳の席はここ。」

 ヒカル様が私を膝の上に座らせようとする。

「無理だよ、人前で恥ずかしいよぉ。」

 と言いながら、私はヒカル様を少しどけて、ヒカル様の左隣、窓際に座る。


 電車が発車すると、ヒカル様は私を抱き寄せ、キスを始める。

 しまった! 私の右腕はヒカル様と私の体、そして座席の背もたれの間に挟まって、動かせない!

 ここまで考えて、ヒカル様はこの席を選んだのね。抗議の意味を込めて、左腕をぶんぶんと振り回す。

 ヒカル様の左腕が私の右肩の後ろにまわってくる。ヒカル様は両腕使えるのね。


「こっち向いて、彩佳。」

 電車が動きはじめてちょっとしたとき、ヒカル様が促した。

 やっぱり、キスだよね。目を閉じて、ヒカル様とキスを始める。

 今日はキスしてばっかりな気がする。


 しばらくすると、体に感じる力が変わる。あ、隣の駅に着くみたい。

「彩佳、体勢辛くない?」

 ヒカル様が聞いてくる。

 ヒカル様がこう優しいことを言う時は、絶対に裏がある。

「別に?」

 そう答えたら、ヒカル様が

「いいから俺が辛いんだよ」

 と私を抱き上げて、あ、やっぱり! 膝の上に私を置いた!

 ヒカル様の左腕が私の背中、ヒカル様の右腕が私の膝の下。お姫様抱っこの格好で私を動かす。ヒカル様の膝の上に広がる私のスカート。

 ヒカル様はお姫様抱っこが大好き。

 私? そりゃ、私も好きだけど。

「だめだよ! これだと通路の人から見えるじゃない!」

「通路の人から彩佳が見えなければいいんだろ? じゃ、自分で向き変えてよ。」

 うーっ、と少し悩む私。

 結局、自らヒカル様の膝の上に、横に座ることになっちゃった。はしたない。

「彩佳が今日買ったブラウス、肩のところにあるレースが女の子っぽくてかわいいね。彩佳の肌が、レースのすきまから見えるし。」

 ヒカル様が私の服を褒めるときは、これまた裏が有ることが多い。そして、その予感はほぼ確実に当たる。

「そして、前のボタンを外すと、彩佳のブラとおなかが見えるもんねー。」


 よくみたら既にカーディガンの前は開けられていた。

 キスで目を閉じていた隙にジッパーを開けてたのね。

 ほんと、いやらしい。

 そして、左手で器用にボタンを外すヒカル様。

 白いブラに、日焼けしていないお腹が顕になる。

 ちょっとレース多めの白いブラは、清楚で愛らしい感じがする。

「ちょっと、やめてよ!」

 私が止めても、

「喉渇いただろ?」

 有無をいわさず、ヒカル様が横に用意しておいたペットボトルのお茶を口移しで流し込む。私がコクリと飲み込んでも、そのまま唇を離してくれることはなかった。

 ヒカル様は空いている手で胸やお腹を直接撫で回す。胸よりも、今日はお腹をほにほにと攻めるほうが多めだったヒカル様。指と手のひらを駆使して、ひたすら撫でる。

 恥ずかしいと気持ちいいと大好きが混ざった感情を、このまま残り二駅弱分、ヒカル様にプレゼントしてしまいました。


「もうすぐ南大玉みなみおおたま駅に着くぞ!」

 ヒカル様の一言で私は我に返った。

「カーディガンの前閉じて! 早く!」

 言われたとおりにして、

「荷物は全部持ったから!」

 ヒカル様の一言を信じて、電車が発車する寸前にホームに脱出。


 冷静になったら気づく。

 ねえちょっと? 私のブラウス、ボタン一個も閉じていませんよ?

 それにヒカル様、どさくさに紛れて、ブラのホックを外したでしょ。えっち。

「胸をはだけられてるのは他の乗客には見えないはずだし。きっと、カップルがいちゃついてるようにしか見られないと思うよ。

 まさか彩佳が、電車の中であられもない姿にされたなんて、誰も思ってないって。」


 ……そういうことじゃないでしょ! このエロ狐! 責任取りなさい!

「じゃ、あの多目的トイレに行って、服直してあげようか?」


 ……もっと酷いことになりそうな気がする。

 それに、今日は何か疲れたからもう寝たいな。

 寝る前にエロ妄想もいっぱいしたし。


 おやすみ、ヒカル様。

 怒ってないよ。また明日もよろしくね。


 ◇ ◇ ◇


 翌日の月曜日。

「彩佳、ちょっとウチ寄っていかないか?」

 ヒカル様が樫払かしはら神社の前で言った。

 ヒカル様の「ウチ」って樫払神社なんだよね、と改めて気づいた。


 樫払神社の中には、菊の鉢植えがいっぱい置いてあった。

 色も白、黄色、ピンク、紫といろいろあって、花の大きさも数センチくらいの花束みたいにスプレー咲きになってるのから、人の顔くらい大きい一本仕立ての見事な物まで多種多様。

 そういえば、ここって小規模だけど菊まつりやるんだっけ。


「こうやって並べると、迫力あるね。」

 正直、何がよくて、何がすごいか、いまいち評価の仕方がわからない。

「彩佳が、これがいいな、と思ったら、それでいいんだよ。

 これらの菊を育てた人は、この菊まつりのために全力で頑張った。植物相手なので、実際にどうなるかわからないし、天気や気候にも影響される。

 それでもなんとかしていいものを仕上げたい、その気持ちは、彩佳でもわかるだろ?」

 確かにそうだ。私も、できるだけいい絵を書きたくて、かなり努力する。

「菊と朝顔はマニアが大量にいるけど、年に一回だけ、人の子の寿命だとせいぜい数十回くらいしかチャレンジできない。一期一会とまでは言わないが、不注意でその年を棒に振る悔しさは、味わいたくないよな。」

 それを伝えたくて呼んだのね。

 改めて見ると、「きれい」の一言だけで片付けられない、言葉にならない感情が沸き起こる。育てた人の強い思いが伝わってくる。

「さて、しみったれた話はこれで終わりにするか。もう少し楽しんだら帰るぞ。」


 ◇ ◇ ◇


「おやすみなさーい!」


 今日の夜伽は、学校帰りに菊を見た樫払神社。

 なぜか提灯とお座敷が用意されている。

 座布団が二枚。重ねられた杯が三つと酒瓶。

 ヒカル様と私は夏祭りの時の浴衣姿。この時期に浴衣は季節外れな気がするけど。


「ちゃんと見てみろ、柄が違ってるだろう?」

 ん?あ、ほんとだ。よろけ縞の間に、草花がいろいろ。縞の柄にそって流れてるみたい。

「これは、女郎花おみなえしだな。これは撫子なでしこ大和やまと撫子なでしこの撫子だ。それから、こっちは桔梗ききょう。」

 この、しだれてるのは?

はぎ。秋の七草、知らないか?」

 そうだ、萩って花札の赤いつぶつぶの花だ。

 春の七草は知ってるよ。お粥に入れるやつだよね?

「春の七草は食べるものだが、秋の七草は目で楽しむものだ。」

 菊は? 今日は菊まつりだったでしょ?

「残念だが、菊は入ってないな。秋の七草は庶民が野の花を愛でたものだから。月見の時にススキを飾るだろう、あれも秋の七草のひとつだ。

 というわけで、今日は風流に一杯やろうぜ」


 ……お酒? ちょっとヒカル様? 私、未成年だよ?

「まあいいじゃないか。彩佳、五節句って知ってるか?」

 七夕とか? どこかで聞いたことがある気もするけど、五つ全部は知らない。

「昔の人は奇数を『陽』とし、縁起のいい数とした。『陽』と対になる『陰』、どちらがよくてどちらが悪いというわけではなく、実は対等のものなんだが。

 そんなわけで、『陽』の数字が重なる日を縁起のいい五節句とした。」

 つまり?

「三月三日、五月五日、七月七日、そして九月九日。一月だけ一月七日と例外的だが、これも入る。

 そして九月九日は、最も大きい陽の数が重なる、特に縁起のよい日として『重陽ちょうようの節句』と重んじられた。今では最もマイナーな節句だけどね。」

 で、続きをどうぞ。

「九月九日には、菊酒きくざけを飲む習慣があった。もちろん今の暦の九月九日は菊のシーズンではない。ただ、旧暦だと、ちょうどいい時期だ。」

 だから酒瓶が用意してあるのね。

「まず、彩佳が一番上の杯に注いでくれた酒を、俺が三口で飲む。

 次に、一つ下の杯に俺が注いだ酒を、彩佳が三口で飲む。

 最後に、一番下の杯に彩佳が注いでくれた酒を、俺が三口で飲む。」

 重陽の節句の菊酒ってそういうしきたりなの?


 ……ってちょっと。ヒカル様? これ、どこかで聞いたことある話だけど? まさかこれ、神前結婚式でやる三三九度さんさんくどのやりかただよね?

「ちっ、ばれたか。まあ、彩佳が気づかなかったとしてもネタばらしするつもりだったが。

 それに、このネタのためだけに俺は杯を三つ用意したんだよね。本当は同じ杯で仲良く飲めばいいから、一つでいいのに。」

 いずれにせよ、からかわれたことには変わりがない。

 でも、ちゃんと用意したネタを理解してもらえて、少し嬉しそうなヒカル様。

 三三九度やるって話、半分くらい本気だったのかな?

 夜伽だと結婚式ごっこを何回でもできるからすごい。ドレスもいっぱい着ることができる。お色直しもやり放題。高いドレス代の心配もいらない!

 それに、初夜も……えへ。

「さて、俺が杯についだ酒を飲む? それとも、口移しで飲む?」

 私が飲まないという選択肢はないようだ。

 こうやって飲酒を強要する大人がアルハラオヤジと呼ばれてるのね。怖い怖い。

「問題ないよ、夜伽なんだし、ノンアルコールだよ。未成年でも全然オッケーだって。それに、アルコールは醤油にも少し入ってるんだぜ? ちょっとくらい飲んでも平気だよ。」


 ……私に拒否権はないのね。

 よし、わかった。私も腹をくくったから、杯についで。


 杯には菊の花が置いてあった。刺し身のパックにのっている、50%の人間がタンポポと勘違いして、99.9%が廃棄されているであろう黄色のアレ。

 菊が入った杯で飲むから菊酒なのね。

 上二つの杯には菊の花が置いてあったけど、三つめの杯にはなかった。菊を無駄にしないのがヒカル様らしい。


「かんぱーい。」

 特に苦いわけではない、意外と飲める味だ。

 甘酒のような味だけど、濁りがなくて澄んだ味。

 ちょっと甘くて、お米の香りがする。

 きっと、私のために比較的飲みやすいものを用意してくれたのだろう。


「そうだ、せっかくだから隣来てよ。」

 ヒカル様が隣をポンポンと手で叩く。私は座布団を持って移動する。

 今日はあれやらないの? 町娘ごっこ。

「酔ったときにあれやったら気持ち悪くなるって。俺も少しは配慮するさ。」

 ヒカル様の配慮はちょっとずれているけど、私への優しさがよく伝わってくる。

 酷いこといろいろされてる気もするけど、大切にされてるんだ、私。

「まあ、もうちょっと飲めよ。」

 ヒカル様がお酒を注いでくれる。もちろん、私もヒカル様の杯にお酒をつぐ。

「三回にわけて注ぐんだぞー。」

 そのネタ、しつこい。


「それにしてもさ、彩佳?」

 どうしたの? ヒカル様の目がすわっている。

「菊を育ててる人の子たちって、報われるよねー。」

 ふえ?

「だってさ、頑張って育ててさ、こうやって菊まつりで作品発表したらさ、見たみんなに評価されるじゃん?

 直接はめてもらえることがなかったとしても、誰かに褒めてもらえてることはわかってるよね?」


 確かにそうだけど、この流れ、何かいやーな予感。いつものヒカル様となにか違う。

「でもさ、俺はなにやっても、報われないんだぜ?」

 うげ、絡み酒? ヒカル様、酔っ払うと絡んでくる癖あるの?


「人の子がいう『神様』ってさ、いろいろ人の子の世界に介入してるんだよ。人の子にとっての『あの世』、すなわち俺達の世界で俺達がうまく生活できるようにな。人の子の世界だって、天変地異で農作物とれなくなったら、パニック起きるだろ?」

 昔は特にそうだよね。

「だからさ、俺達もいろいろ頑張ってるんだよ。

 人の子の世界が不安定になったら、俺達の世界が不安定になる。それは俺達にとって、あってはいけないことなんだ。

 人の子の幸せな気持ちが、俺達のエネルギー源だからな。そのために、心が正しい人の子を応援してしっかり活動できるように助けたり、また、人の子の世界で起きる、不必要な災害や損害をできるだけ抑えるよう、いろいろ根回ししたりする。」

 そういえばそういう話を以前してたっけ。

 そして、神様が頑張れるように支えるのが夜伽巫女。


「でもよお、彩佳? 俺自身を評価してくれる人の子、彩佳以外には誰もいないんだぜ?

 みんな俺をスルーするばかりか、俺が人の子の世界のためによかれと思ってやったことでさえ、恨みの対象になるんだぜ?

 都合のいい時だけ、誰でもいいから神様お願いしますとか言いながら、都合が悪くなったら手のひら返しするんだぜ?

 人の子の感謝は長続きしないけど、恨みは延々と根に持つ。」

 ヒカル様が手酌で一杯飲む。言ってくれたら注いであげるのに。


「この機会だから言わせてもらうけどさ、『神様はどうお思いですか? どうすればいいですか?』なんて聞くアホが多いけど、これは無意味というか、馬鹿げてる話なんだよな。

 俺達だって、考え方にいろいろ違いがあるので、聞く相手によって回答が変わる。

 そのへんを歩いている人に、『高校卒業後の私の進路、どうしたらいいですか?』って彩佳が聞いたとする。まあ、なんか適当な言葉が返ってくるだろうけど、彩佳はそれに従うか? そいつがどんな者で、どんな意図で返答したかもわからずに。適当に当たり障りのない事を言ったのかもしれないし、でたらめを言ったのかもしれない。あまりにもしつこい相手だと、わざと嫌がらせをするかもしれないよな。

『神様を盲目的に信じる』ってのは、それぐらい馬鹿げた話だ。その神様とやらがどのような立場で、どのような考え方の持ち主かを知っていれば、話は別だが。」

 ヒカル様は?

「それは彩佳が判断しろ。俺が真実を回答する保証はないし、価値基準なんて皆、異なる。少しは自分の頭で考える癖をつけておけ。」

 ……悪い回答じゃないと思う。むしろ、的確なことを言っていると思う。変なこと聞いちゃったんだね。

「もう一つ言っておくが、俺達の世界が一枚岩だとは思うなよ。

 彩佳の世界で、全員が同じ考え方をする、なんてことはありえるか?

 無理だよなあ。俺達の世界でもそうだ。八百万の神、って言い方が廃れないのも、本質を突いているからなんだよ。

 俺達の世界も彩佳の世界も、構造はそっくりなんだ。頼むから俺達に変な幻想をもたないでくれ。」

 神頼みで必死に神社に泣きついてる人が聞いたら、発狂しそうな話だよね。

「俺達は人の子を救うためにいるわけじゃないんだ。そんな都合のいい連中なんて、どこにもいない。冷静に考えたら当然だろ?」

 その当然なことまで頭がまわらない人間、いっぱいいるよね。

 私も、ついこの間までそうだった。


「なあ彩佳。実は俺達の世界、大変なことになってるんだよ。」

 愚痴りたいことがあるなら、愚痴らせてあげたほうがいいよね。夜伽巫女として。

「俺達のエネルギー源が人の子の俺達への信仰だって、さっき言ったよな?

 人の子の世界に例えると、人口が農地の面積、信仰が面積あたりの収穫量と考えてくれ。

 今の日本、マジやばいんだよ。

 俺達への信仰が一気に減ってさあ、要は俺達が飢え死にしそうな状況なんだよ。

 明治維新から爆発的に増えた人口に伴い、俺達の数も一気に増えたんだけど、今のこの状況は俺達にとって、天変地異みたいなもんなんだよ。

 ぶっちゃけさ、人の子がたくさん戦争で死のうが、俺達的にはあまり痛くないんだ。戦国時代も、明治維新も、日露戦争も、太平洋戦争も、俺達にとってはそこまで問題じゃなかったんだ。どの時代も、信仰心はなくならなかったからな。

 でもさ、今は俺達の生活がかかってるんだよ。史上最大のピンチなんだ。」

 神様は人間のためにいるんじゃないんだよね。

「当たり前だ。人の子にとっては、俺達の世界で何が起きても知ったこっちゃないだろ?

 人の子の生活に問題ないかぎり。

 俺達にとっても、全く同じだ。

 さて彩佳、収穫量を維持するにはどうしたらいいと思う?」

 人口を増やすか、信仰を増やす?

「わかってると思うんだけどさ、今の日本には両方、望めないんだよ。

 少なくても普通の方法では。」


 また一杯飲む。やけ酒モード?

「でもさ、今の日本には救いがあるんだよ。あれだ、異世界ファンタジーがこの上なく身近になってるだろ? 漫画とか、アニメとか、小説とか。異世界迷い込みなんてジャンルがあるくらい、異世界への強い憧れがある人の子が増えてる。

 こういった小説とかには、俺達の世界を理解するためのヒントの欠片かけらがちりばめられている。つまり、俺達を理解できそうな、頭が柔軟な若い子が一気に増えているんだよ。

 お前ら人の子にとっては、俺達の世界は、すぐ隣に実在する異世界だ。

 そう思うと、俺達の世界も、親しみをもって楽しんでくれそうだろ?

 俺達の世界の理は人の子の世界の理と異なるが、それさえも柔軟に納得してもらえるだろう。」

 杯が空になったらすぐ注ぐことにした。酒量が上がってるけど、どうせ飲むんだろうし。


「もう一つの救いがコンピューターの発達だ。

 人の子がコンピューターのハードウェアを組み立て、そしてソフトウェアでバーチャルな世界を創る。その世界に、好きなところからアクセスして、その世界で人の子がふれあうことができる。

 人の子が、どこかのコンピューターの無機的なハードウェアの中で、三次元空間を仮想的に作り出す。人の子が人の子の姿、いや、それ以外の姿も取りうるか。直接語り合い、生活の真似事をし、さらには現実にはできない冒険だってすることができる。

 これは人の子の時間で数十年前なら考えられない夢物語だったけど、今では特別な才能がなくても、ある程度の知性があれば、誰でも仮想世界に入り込めるようになった。とんでもない話だよ。

 人の子にとって、これは革命的な出来事だ。この過程で、人の子は仮想世界を創りだす方法論を手に入れ、仮想世界の構築に必要な要素を表現する語彙を手に入れ、そして仮想世界がどのようなものか、ただの物語ではなく実感で理解できるようになった。

 俺達の世界、つまり人の子にとっての異世界は、コンピューターゲームのようにアクセスして楽しめる場所。そう捉えることが可能になった。そして、このようなゲームといっしょに育った若い子は、きっかけを与えられ、そしてやり方さえ掴めば、自然と俺達の世界と触れあうことができる。」

 はいはい、もう一杯注ぎますね。夫の晩酌に付き合う妻の気分。


「ということなので近々、今まで細々とやっていた夜伽巫女、夜伽巫システムを大々的に展開する計画が浮上してるんだよ。少なくても新しいモノ好きの稲荷の世界では、ほぼ確実に実施されるだろうね。

 夜伽巫女や夜伽巫は前々からいたんだが、数はごく少数で、細々とやってただけだ。

 だけど、俺達を理解し、俺達と接触するための敷居が一気に低くなったから、これからどんどん増やしていく方針になりかけている。

 日常的に異世界ファンタジー小説に親しみ、コンピューター上の仮想世界にアクセスして楽しむことができる若い人の子は、夜伽巫女や夜伽巫として適性が高い。むしろ、そういう人の子を増やさないと、俺達は窒息死する。

 ぶっちゃけ、夜伽はやらなくてもいいわけで、たとえば固い友情で結ばれてもいいんだよ。とにかく、相手が誰かを意識した、密接な正の関係を築ければいいんだ。そうすると、俺達は一人あたりから回収できる信仰を最大限にすることができる。

 それに、俺達と人の子が協力することで、二つの世界の理をもとに、これからもっと、新しい可能性を開く誰かが現れるかもしれない。一つの夢だよなあ。」

 聞き流していたけど、今、本当は夜伽やらなくてもいい、って言ったの?


「俺はこの通りのスケベ狐だから、彩佳との夜伽が必要なんだ。誰よりも俺がいちゃつきたいんだよ。

 いいか、俺の彩佳との付き合いが、日本を救うことになるんだよ。

 少なくても、俺達は人の子との関係を深める方法を模索しないと、俺達は終わってしまう。俺と彩佳の関係が、他の連中の参考になるんだ。」

 スケールが大きすぎる話で、いまいち、ついていけない。

 むしろ、ついていく気もしません。

 酔っぱらいって何で話を大きくするんだろう?

 あ、ヒカル様がまた飲んだ。もう。


「なあ、彩佳。今の俺には彩佳という夜伽巫女がいる。

 彩佳がいるから俺は頑張ってるんだよ。

 彩佳の好意が俺を支えている。

 彩佳、俺はお前が好きだ。

 彩佳、お前がいないと俺は、俺は……」

 ヒカル様、何気に泣き上戸だったの?

 こういうオッサンをリアルで見たら、容赦なく罵声を浴びせるか、絡んできたら痴漢として通報してやる。

 でも、私はヒカル様にそんなことはできない。

 ヒカル様もたまには弱音を吐きたいんだ。愚痴を言いたいんだ。

 夜伽巫女の私が支えないと、誰がヒカル様を支えるの?


「ヒカル様、だいじょうぶ。私がついているから。

 彩佳はヒカル様の夜伽巫女だもの。

 こういうときにヒカル様を応援するのが夜伽巫女なんでしょ?

 おいで、ヒカル様。」

 優しくヒカル様を受け入れる。


「彩佳あぁぁぁ」

 ヒカル様が抱きついてくる。

 ヒカル様がこうやって甘えてくるのって、なんか新鮮。

 今まで、私が甘えてばっかりだったよね。

 ごめんね、ヒカル様。

 これからは、ちゃんと自覚して、支えるからね。

「俺はお前が好きで好きでたまらないんだよぉぉぉ。

 だから、いっぱいなでなでして? よしよしして?」


 いつもとぜんぜん違うキャラクターにびっくりしつつ、言われたままにする。

 小さい子供のいるお母さんって、こんな気持なのかな。でも、自分の子供ができたら、最初はかわいいかもしれないけど、しばらくしたら反抗期になって「うるさいババア」とか怒鳴られるんだよね。

 私、誰の子供を産むんだろ? ヒカル様は、私が安産だとか言ってたけど、もう結婚相手の心当たりあるんだろうな。私に現時点で教えてくれないだけで。


 んっ? ヒカル様の手が酒瓶に伸びる。

「だーめっ、もう飲み過ぎです!」

 と手を軽くはたきながら言おうとしたときにはもう遅い。

 ヒカル様が残ってたお酒を一気飲みしちゃった。そうだ、ヒカル様はやけにすばやい。


 急に強い力で私の唇を奪うヒカル様。お約束のように、お酒を注ぎ込まれる。

 やばいこの流れ。ヒカル様のキスはとんでもない破壊力がある。

 そう、私はヒカル様のキスの後、ヒカル様に逆らえなくなる。

 今はお酒が入っていて、さらにヤバい。


「彩佳、なんか暑くない?」

 ヒカル様が変なことを言い出している。

 やばいよ、どうしよう。身の危険を感じる。


「えいっ」


 なんで私を脱がすのそこで!

 なんで私の胸を露出させるの!

 暑いのはヒカル様のほうじゃなかったの?

 私を押し倒すヒカル様。

 そして、脱がした胸に顔をすりすりするヒカル様。


 今日は私が照れるのを見て楽しむのではなく、自分が甘えたいのね。

 もちろん、そんなヒカル様を受け入れるのが夜伽巫女の務めです。

 ヒカル様の頭をなでなで、背中をとんとんする私。


 って私、何をやっているんだろう。

 ヒカル様がおとなしくなってきたので、ちょっと仕返ししてやる。


 僅かに残る理性をかき集め、無理やり私の体を動かす。

「いいかげん目を覚ませ、この酔っぱらい!」

 強い念を込めてキスしてやった。

 もちろん、ヒカル様がいつもやってるように、舌を絡めて。

 念をこめた唾液を送り込むイメージもつけてやった。

 少しは頭冷やせ、このバカ狐が。


 ◇ ◇ ◇


 少ししたらヒカル様が元に戻った。

「どうした? 俺、何か変なことやってた?

 一緒に酒飲んでたところまで覚えてるけど……。」


 ふーん。ヒカル様のキス、こういうカラクリだったのね。

 へぇー。こうやって私の気持ちをいろいろと弄んでいたんだ。

 ふと思うと、私もヒカル様と同じ能力を発動させたのね。

 私、どうなっちゃったんだろう。


 まあいいか。とりあえずヒカル様にお説教だ。

「ヒカル様、そこで正座しなさい!

 座布団は没収です!」


 素直に正座してしょんぼりするヒカル様。

 ちょっと笑えるけど、笑っちゃだめ。


「いいですか? ヒカル様! お酒は当分の間、禁止です!」

「はーい。」


 私も時と場合によっては、ヒカル様をしつけていかないとだめかもね。

 でも、たまになら、顔を真っ赤にして甘えてくるヒカル様も悪くないかも?

 だから、気が向いたらお酒も許してあげないとね。

 すごく、たまにだけどね。


 ◇ ◇ ◇


 三三九度をしないかと言われた翌日、授業中に空想を始めてしまう私。だって、つまらない授業の、さらに無駄な解説の時間が始まっちゃったんだもん。この先生の話、長いのよね。


 私の年くらいのほとんどの女子は、「結婚」を意識していると思う。

 あと少しで必然的に起きるようなリアリティの塊のイベントではなく、かなり遠い先に起きるであろう、漠然とした楽しいイベントとして。

 現実味がないから憧れることができる。

 嫌なことは一切、見なくて済むから。


 相手の彼は自分にとって理想的な人。

 そして、逃げずにちゃんと向き合って、自分と喜んで結婚してくれる人。

 いろいろ文句いうことなく、お金に困ることなく、好きなことができる結婚。

 相手の家族との付き合いも、自分に都合がよいものとして考える。


 もちろん、現実にはそんなことはないことくらい、十分わかってる。

 現実に直面せざるを得なくなればなるほど、面白くなくなっていく。

 だからこそ、自分の理想の結婚を考えて楽しめるのは、今のうちだけだと思う。

 そして、この楽しみをパスするなんて、人生もったいなさすぎる。


 私の場合は、結婚については相手探しを含めてヒカル様がなんとかしてくれるみたいだけど、それでも、何もしなかったら、できる結婚もできなくなる。

 ヒカル様は低い可能性をむりやり実現することはできるけど、不可能を可能にすることはできないんだから。

 さて、どう頑張ろうか。


 結婚といえば、結婚式で着るウェディングドレスは、全ての女の子の憧れだよね。

 どんなドレスだと、いろいろ楽しめるだろう。

 私にぴったりなドレスを着たきれいな私を、こらえきれなくなった彼が求めてくる。


 相手がヒカル様だったら、肩が最初から露出しているデザインのドレスは絶対に嫌いだと思う。肩が覆われてて、袖が長めのほうが好きだよね。

 そして、デコルテはあのダガーペンダントが似合う形。

 つけないなんて、ありえないから。


 思い浮かぶ場所は、砂浜を見下ろせるホテルの一室。

 この部屋、高さが4階か5階くらいかな。


 視界の両端に岬というか、陸地が海の方に伸びていて、そこで砂浜が終わってる。岬の先のほうは森になってる。

 ゆるい弧を描く砂浜はベージュ色、白い波の横縞にちょっと濃い目の水色の海、そして清々しいくらい透き通る、薄い水色の空。太陽は見えないので、まぶしすぎない。そして、両側の岬には木の緑、その波打ち際にはごつごつした茶色の、大きい石というか岩がいっぱい。波が当たるので、濃い緑色の苔、じゃないや、海藻がついてるみたい。

 あ、この構図いいかも。次はこんな絵を書いてみよう。


 部屋の中はシンプル。キングサイズのベッドと、窓際にソファ、窓の外の景色は砂浜のベージュと、空の水色のカーテン。それから壁に取り付けられた大きめのテレビ。

 遠くまで見渡せる窓の向こうに青い空と海が綺麗に見えるくらいまだ明るくて、寝具と壁の白がまぶしく感じる。

 ああ、私、これからここで彼に抱かれるんだ。

 お嫁さんとして、いっぱい可愛がられちゃうんだ。


 ドレスの背中側には、首の後から腰までの長いジッパーがついている。ジッパーをあげたら、私はドレスに閉じ込められて、自分で脱ぐことはできない。これで私は彼のお嫁さん、って感じがしてドキドキする。

 まずは、ドレスを着た私を抱きしめたり、キスしたり、なでまわしたり。ヒカル様が後ろにまわって、私の後ろからお腹を抱えて、胸元から手を入れて胸を味わう。もちろん、ドレスの上からもかわいがってくれる。たぶん手は握ってくれないんだろうな。

「ブーケ離しちゃダメだよ?」

 とか言いながら、私が耐えられなくなるまでかわいがるんだと思う。私を横にしないまま、立った状態でなでなで、抱っこ。

 そうだ! 一回くらいはお姫様抱っこしてもらわないと。一回じゃなくて、向きを変えて何回かかな。


 そして、私の前に立つヒカル様は、頭のベールの内側に手を入れて、ベールを上げる……のではなく、一緒にベールの中に入って、髪をなでなでしながら頭に手を回す。もちろん唇や頬へのキスも忘れないヒカル様。ベールの中でいちゃつくと、布団というかシーツの中でいちゃついている気がして、ちょっと盛り上がる。

 ヒカル様がジッパーを下までおろして、袖でうまく腕が動かせない私を後ろから襲う。ドレスの中で後ろから胸を楽しんだり、お腹をなでたり。うなじや背中にキスしたり。ペロペロ舐められちゃったりもするのかな? 頬ずりは外さないいと思う。私をうつぶせにして、そのまま、ひたすら後ろから私の上半身をかわいがるヒカル様。

 たまには、お尻の方まで手を入れて。ショーツの中からお尻をなでたり、割れ目に指を入れてきたり。ドレスの外からと中から、どっちも違う気持ちよさだと思う。


 スカート部分は広がりすぎても、細すぎてもダメ。よく写真であるような、二等辺三角形にしかみえないドレスのデザインはアウト。あそこまで裾を広げてどうするんだ。

 後ろから私をたっぷり楽しんだ後、ヒカル様が私を仰向けに寝かせて、スカートを持ち上げ、そして裾の内側から私を堪能する。私の大切なところを、全部ヒカル様に見せてあげる。

 私はヒカル様のためにすこし足を開いて、両膝を立てる。ひんやりとスカートに入り込む空気を感じる。これから起こることへの期待で、全身の肌が粟立つ。

 全く日焼けしていないところにヒカル様の吐息を感じて、思わず「やめて!」と私がスカートを抑えようとすると、ヒカル様の頭が余計に私の太ももに押し付けられる。

 自分を無意識に守ろうとする動きで、自分でヒカル様を密着させるいやらしさ。もう、たまらない。

 ショーツはすぐ脱がせるよう、もちろん横で紐で閉じるタイプ。だって、わざわざ両足を通さないとショーツが脱がせられないなんて、つまらないじゃない。ドレス着てるのにショーツ履いてないって、かなり変態的な気分。太ももや大切なところをなでなで、ペロペロ。考えてるだけでドキドキがとまらない。

 そして、スカートの部分の布のせいで、ヒカル様が私をどうしようとしているのか、私にはわからない。どうされるかわからないまま、快感にひたすら身を任せる。もう、いやらしい。もう、いやらしすぎるよお。私の太ももやお尻、口に出せないようないろいろな場所をたっぷり楽しんだ後は、最後は私の胸に飛び込んできて頬をすりすりさせて、濃厚なキスで脳をとろけさせてくれるのかな?

 最後に、ヒカル様の濃厚なキスだけで意識を飛ばしてもらうんだ。


 もちろん、これは夜伽でやる結婚式だから、私とヒカル様の二人だけ。誰も見てないから、好きなところで好きなことをできるんだ。波の音しか聞こえない。きゃっ。


 あ、ここまでくると結婚式というより初夜かな?

 夜まで待たずに昼間からいちゃつくの。私ってここまで大胆だっけ。

 でも、お嫁さんだから当然だよね。



 お色直しその1は、うーん。

 ホルターネックの、すごく細身のドレスがいいかな。背中の真ん中あたりまでばっちり開いてて、胸元の生地はウエストでギャザーが寄せてあって、着物の合わせみたいにカシュクールになってるの。首の後ろで紐を結ぶタイプ。

 生地はすべすべのストレッチ素材で、下着は一切つけないから、体のラインがしっかり出る。乳首もわかっちゃうんだろうな。

 色は白銀のヒカル様のお嫁さん、ということでラメ入りのシルバーに決定。大人っぽくて、体にぴったりフィットしたロングドレス。

 少なくても日本では、このドレスで人前に出ることはまず無理。水着よりもいやらしいかも。歩くたびにドレスのシルエットが変わり、私の体のラインが強調される。そんな、大人っぽい、ホテルの一室でこの後、夜を伴にする男性に見せるためだけにあるドレス。かわいらしい服が似合う、お姉さんというよりは女の子っぽい私には似合わないかなと思いつつ、ヒカル様にとっては新鮮な感激があると思う。

 それで、ヒカル様が全身で私にすりすりすると、絶対に気持ちいいと思うんだよね。

 ヒカル様の抱きまくらになっちゃう私。


 ヒカル様に気持よくされるためだけに服を選ぶのって、変なことかな?

 それでも、妄想は止まらない。

 えっちすぎる。はしたない私。顔を真っ赤にして快感に耐える私を見たら、ヒカル様は大興奮すると思う。


 まずは、立ったままキス。横に見える窓の外のベージュと水色が鮮やかなんだけど、私はヒカル様と目をあわせて、抱き合いながら、いつものように濃厚なキス。

 口を犯されながら、今後どのように私が抱かれるかを想像する。

 ヒカル様は右腕で私の頭の後ろを抱く。私の右耳や近くの髪の毛をいじる。左腕は私に密着させるようにして、弧を描くように私の脇腹やお尻を優しくなでる。


 気持ちよくて眠くなりそうになったら、ヒカル様が唇を離した。

 次は私を後ろから抱えて、両手で私の両胸を下から揉みはじめる。もちろん、ドレスの上から。

 下着をつけてないので、大きく固くなった乳首がよくわかってしまう。優しく、執拗に、胸だけを徹底的に攻める。

 すべすべしたドレスの裏地が、素手で攻められるのとは違う快感を伝えてくる。

 ヒカル様の腕のせいで、私は自分の腕を下ろせない。

 しかたなく、ヒカル様の腕に自分の腕をのせる形に。

 自分で自分の胸をもんでる錯覚がする。


 そして、ヒカル様は私の左耳に顔を寄せる。

「好きだよ」、とか、「かわいいね」、とか、優しい言葉をかけながら、私の耳をペロペロなめたり、耳たぶを吸ったり。

 耳攻めで頭がふらふらする。


 下にはビーチ、上には空。

 外から見られたらどうしよう。

 こんな変態的な抱かれ方をしている私、見られたらどうしよう。


 立ってるのがつらくなっても、胸を支える手で立たされている私。

 だんだん足が震えてきて、倒れ込みそうになる。


 そしたらヒカル様が、私をお姫様抱っこでベッドに連れていく。

 彼はベッドの背もたれに寄り掛かりながら、私を後ろから抱きしめる。

 右腕を私の胸の下に置いて、私が下に落ちないように支える。ヒカル様の腕に私の胸がのっている。いやらしすぎる。

 イヤイヤと逃げられないように、ヒカル様の腕で強く抱きしめられる私。彼の両足は私の足をマットに固定して、動けない。

 興奮して敏感になっている私の胸は直接刺激せず、左腕で太ももを攻めるヒカル様。もちろん、太ももの内側もさわさわと撫でる。もちろん、全部、ドレスの上から。

 せっかくドレス着てるんだもの。ドレスでしか体験できない触覚を味わいたい。

 体にぴったり密着するドレスで体を自由に動かせない。そして、ドレスの裏地が独特の快感を脳に伝える。

 そして、さっきのように、耳や首筋を攻める。髪の毛の上から私にキスをする。

 前を見ると、真っ黒なテレビに、ヒカル様に求められている私が映っている。こんなに恥ずかしい姿にされてる私を楽しんでるのね、ヒカル様。私がテレビを見ていることに気付いたヒカル様が、私をさらに追い込むように激しく攻める。


「もうだめ、我慢できない。前から抱きしめて!」

 懇願する私が泣きそうになると、やっとベッドの上に仰向けで横になってくれるヒカル様。

 でも、ヒカル様はまだまだ意地悪で、私を彼の上にのせる。

 不安定な場所だから、横に落ちそう。

 そんなところで、私を抱くヒカル様。

 こらえきれずにヒカル様の頭を両腕で抱いて、私から激しくキスをする。

 ヒカル様は嬉しそうに、片腕で私の背中を押さえ、もう片方で私のお尻の下のほうを撫でる。

 背中はもちろんドレスの上から。素肌に触れず、ドレスの上からだけ攻めるのがヒカル様らしい。

 そしてお尻は、普段椅子に座る時に椅子に接するあたり。もうちょっとしたら両足の間に手が伸びそう。もっと手を奥に入れようとしても、ドレスの生地でそれができない。 ドレスの裏地が私の肌に密着する。手で触れられないかぎり裏地が触れない場所まで、裏地の快感が伝わってくる。

 ヒカル様は両足をすこーし開き、私が横に転がらないように気をつけてるみたいだけど、やはり不安定であることには変わりない。

 ドキドキする感じをキスにぶつける。いつものヒカル様のキスより、激しいキスをしてると思う。そして、胸をヒカル様にこすりつけて、胸でも気持よくなろうと必死になる私。

 ヒカル様の両手で撫でられたい。もまれたい。つままれたい。

 もどかしい気持ちを、胸をおしつけることで少しでも解消しようとする。

 快楽を貪ろうとする、どうみても淫乱な私。


「最後はどうする?」

 ヒカル様が私に聞く。

「キスで、気絶するくらい激しいキスをしながら抱きしめて!」

 やっぱりヒカル様の気がたっぷり込められたキスが一番だよね。


 ヒカル様が私をやっとベッドに横にしてくれる。

 ヒカル様が横から、私に覆いかぶさるように全身で抱きしめてくる。

 ドレスで両足が開かない私は、ヒカル様を腕で抱きしめ返すことはできるけど、足は固められている。

 ろくな抵抗ができない私にキスをするヒカル様。

 舌が激しく絡まる。

 唾が激しく交じる。

 強く求められたうれしさと、いままで快感が交じり合い、頭がぼーっとする。

 気持ちよさで気絶したら、すごい幸せかも。



 お色直しその2は、ドレスじゃないけどゆったりしたシルエットのワンピースかな。まだ出会ってなかった春先に、ウインドウショッピングで目についた一枚。

 母とショッピングに行って、つい目に留まっちゃったかわいいワンピース。試着したときに、頭をハンマーで横殴りされたような衝撃を受けた。残念ながら高すぎて手を出せなかったけど、すごく悔いが残ってる。無理してでも絶対に買っておけばよかった。結局買わなかったけど、試着した時の感覚はしっかり頭に残ってる。


 元気が出るオレンジ色のコットン素材。

 襟ぐりはもちろんゴムで、必要なら肩や胸の下まで押し下げることができる。そのまま脱がすこともできるけど、ヒカル様はそんな無粋なことはしないよね。

 肘よりちょっと長いくらいの袖も広がっていて、私の腕とヒカル様の腕を両方入れることができる。ヒカル様が袖に両手を入れてきて、両腕で私を抱きしめて私をかわいがれるんだ。身八つ口みたいな感じだけど、ちょっと長めの袖の中から腕を入れられるのも変な感じがして楽しそう。

 そして、本体は比較的細身、といってもちょっと余裕がある裏地と、かなり広がる表地の二重になっている。前からでも、後ろからでも。お姫様抱っこみたく、横から抱かれるのもあり。そして、ワンピースの表地の上から、表地と裏地の間から、そして裏地の中から。三通りの攻め方で、すりすり、なでなで、もみもみ。あ、太ももはペロペロやキスもあるね。このワンピース以上に、いろいろ楽しめる服なんて、そうそうないと思う。


 それに、袖とスカートの裾に3センチくらいのレースがついているのが、女の子らしさアップ。


 いろいろな方法で、いっぱいスキンシップをとる。

 裸になって抱き合うより、絶対に気持ちいいと思う。

 私の肌が、いろいろな、そして全て気持ち良すぎる感覚で、この上なく敏感になる。

 もうやめて! と思っても、暴力的な甘さで脳が犯される。

 抱かれたい。犯されたい。気持ちよくなりたい。

 私、はしたなさすぎるけど、自分の心を裏切ることはできない。

 ヒカル様はえっちな私を受け入れてくれるはず。

 大好き、ヒカル様。もっと、もっと、私をかわいがって。


 もう、考えてるだけで気持ちよくなって、何も手につかなくなりそう。

 ウェディングドレスやすべすべドレスのディテールを詰めたら、絶対に夜伽でやるんだ。

 かなり濃厚な夜伽になるから、体調が万全なときにお願いしよう。場合によっては、何日かにわたってやってもいいかも。一日で一気にやらないといけないわけじゃないし。

 ヒカル様にも私をどう可愛がるか、いっぱい考えてもらわないと。あの変態、考える時間をあげたら、私には思いもつかない攻め方を思いつくと思う。

 ヒカル様にはいっぱい私を求めて、いっぱい幸せになってほしい。


 それにしても、妄想の中の結婚相手が当たり前のようにヒカル様なのが、私の心に占めるヒカル様の大きさを象徴している。

 将来的には人間の男の子と結婚するんだろうけど、ちゃんと結婚生活が成り立つのかな。


 まあ、なんとかなるだろうけどね。

 幸せな家庭を築くことで、その幸せをヒカル様に届けないといけないから。


 人間の彼とは、どんな初夜になるんだろう。

 変態的なえっちをお願いしたら、引かれちゃうかな。

 せっかくだから、何度も気絶するくらい、いやらしいのがいい。

 人に言えないくらい、ハードなのがいい。


 それに、ヒカル様がつまらない初夜を許すとは思えないんだよね。

 人間の彼との初夜の体験が、今後の夜伽の初夜ごっこに反映されるんだから。

 初夜ごっこ、何度も何度もやる定番になるんだろうな。


 あーもう、楽しみで楽しみでたまらない。


 彼氏ができて、いっぱいえっちなことを体験したら、夜伽はもっとすごくなる。

 早く彼氏が欲しい。

 激しく気持ちいい、変態的で倒錯的な、はしたなさすぎる快感を頭に叩き込みたい。

 どんな彼氏になるかわからないけど、そのときを想像するだけで顔が真っ赤になりそう。

 絶対に楽しむんだ。彼氏といっぱい、えっちするんだ。

 すごい体験をいっぱいするんだ。

 淫乱変態ドスケベ女と思われても、自分に嘘をつくなんてことはできないもん。



 ………そういえば今は授業中だ。気をつけろ私。

 どうみても赤くなってる顔をもとに戻すんだ。

 先生やクラスの子には何事もなかったかのように振る舞わないと。

 今の私は、ヒカル様の夜伽巫女の彩佳でなくて、普通の、どこにでもいる女子高生の須藤綾音なんだから。

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