第4話 夏の海岸

「いやあ、俺にとって夏は最高の季節なんだよなあ。春もいいけど、夏のほうがいいな。」

 高校生活最後の夏休みを、エアコンの効いた自宅の自室で満喫できるって、いいなあ。


「女子らしさが最も強調されるのが夏服、次に春服だ。」

 声がするけど、私の部屋にいるのは、私一人だけ。


「いろいろ考えてみたところ、二つの比率に目をつけることにしたんだよ。」

 聞いてない、聞いてない。


「まずは、曝露ばくろ率、すなわち『外気に直接触れる肌の比率』だ。曝露率高=露出の高い服、曝露率低=露出の低い服だ。

 もう一つは被覆ひふく率、すなわち『服に直接触れる肌の比率』だ。被覆比率高=ぴったりした服、被覆率低=ゆったりした服だ。」

 相手にすると変態が移る。


「そして、この2つの比率をそれぞれ組み合わせる。

 曝露率高、被覆率高:露出が高く、ぴったりした服で、胸や尻が強調されるものだ。安っぽいバカに見えるから、彩佳に着せるのは論外だ。

 曝露率高、被覆率低:露出が高く、ゆったりした服だ。下着が簡単に見えて頭がオカシイ人にしか見えない。

 曝露率低、被覆率高:露出が低く、ぴったりした服だ。無難すぎて面白くない。

 曝露率低、被覆率低:露出が低く、ゆったりした服だ。肌の大半が服で覆われているにもかかわらず。肌が服にあまり触れないので、半裸で歩いている気分が味わえる。それも合法的に、だ。

 服がたまに肌にこすれると、俺に半裸の体を愛撫されている感じがするだろ? 風に揺れるスカートがふくらはぎをくすぐる感覚とか、気持ちいいだろ?」

 聞こえない、聞こえない。


「実は露出が高いのより最も変態的だ。実にエロい。実に萌える。

 スッと手を入れられるのも好感触なんだよな。サラっと落ちのいい生地なら、布多めでも膨らまないし。」

 変態じゃない、変態じゃない。

「おい彩佳! 少しは俺の話を聞いてくれよ! 頑張って考えたのに!」

 ヒカル様は私の服装について変態的なまでのこだわりを持っている。そして、たまにこうやって、延々と意味不明なことを力説する。わかったら常識人として負けだと思う。


「人の話聞かないなら俺の好きにさせてもらうぞ!」

 私が本当に嫌がることをしないのがヒカル様。根は優しいんだよね。


「いいんだな? 彩佳がどんな姿で、俺の空想の中で陵辱されても。」

神職しんしょくさんとか巫女さんとか、ゆったりとした露出が低い服を着てるのって、もしかしてエロい気分が味わえるから?」

 ちょっとは反応してあげるか。


「昔は貴重品だった布をたくさん使うことで、神に仕える者の社会的地位の高さを誇示していたが、今は豊かになったから布はそこまで貴重品じゃなくなったからね。昔の名残ではあるけど、やはりあの格好が好きな神は結構多いんじゃないかな? 各種制服趣味の人の子が多いように。

 まあ、俺達はまじめな神職や巫女の夢を壊したくないし、俺達の性的嗜好の話は、あまり人の子の間で話題にしないことにしてるんだよね。」


 さて、ヒカル様がノリノリなのは、数時間前に

「しあさって、みんなで海行かない? ビーチバレーやろうよ!」

 と仲良しクラスメートのエリコから連絡が回ってきたからである。

 受験勉強ばっかりもつまらないし、たまには息抜きも必要だよね。でも、水着買わないと、と思ったら、

「どうやら俺の出番だな」

 とヒカル様のテンションがガンガン上がってきた。


 ヒカル様は、夜伽だけでなく私がリアルで着る服にもうるさい。もちろん、私がヤボったい格好するのは許せないそうだ。そして、場違いなくらい上品すぎることはなく、それでも清楚でフェミニンで愛らしさが強調され、なおかつ肌が隠れるのが好きみたい。私が裸にして激しく犯したくなるような性的な魅力がある女ではなく、思わずぎゅーっと抱きしめて可愛がりたい、萌えの塊のような女の子であってほしいんだって。難しい話だ。

 この暑いのに肌を覆わないとだめなのはどうなのよって思うんだけど、理由があるらしい。

「直射日光に当たると余計暑いんだ。薄手の長袖で、なおかつ風通しのいい、あきの広い上着を着ればいい。」

 ミニスカートは、と聞いたところ、

「却下。スカートも、長くてふんわりしてる方が涼しく感じるんだ。膝上スカートやパンツは、足が冷えるから体全体が冷える、つまり病気になりやすい。たまにはいいけど、できるだけ避けたほうがいい。」

 そして、キャップもかぶりたいよ、って言おうとしたら。

「それも却下だ。つばが広めの、日焼けしないのにしておけ。できれば日傘な。」

 まんま森ガールじゃない!

 もしかして、ヒカル様の趣味?

「ま、それもあるんだがな。」

 でも、でもさ、私だってお年頃だもん、肌の出る格好だってしたいよ。特に、夏には夏らしく薄着したいの!

「俺的に最も美味しくないのは、日焼けで彩佳の肌がボロボロになることだ。職業柄しょうがない人とか、夏でも外で活動するスポーツ好きとかならともかく、無駄に日焼けするのは小学生のガキみたいで興をそがれる。」

 ヒカル様はロリコン犯罪者じゃないんだ。

「ガキの相手は好きじゃないんでね。キャミソールとか着たいなら、それはそれで別にいいけど、外を出歩くときはシースルーでいいから紫外線よけの上着を着てくれ。」

 ほんと、すごいこだわりっぷり。


「でもさ、考えたことないかい? 俺がさっき分析したとおり、薄着すればするほど、肌を露出するだろ? それって、バカっぽくて、安く見られるだけでなく、露出狂になった気がしないかい?」

 露出狂?

「露出している面積が大きければ大きいほど、露出していない部分の裸を想像しやすくなるでしょ?」

 ドクン。息を飲む。ヒカル様の夜伽巫女よとぎみこである私のあられもない姿が、不特定多数の男に想像され、心のなかで犯される。うげ、気持ち悪い。私の裸を気持ち悪い男が想像してあれこれするなんて、耐えられない。


「水着姿だと、抵抗感少なく露出狂気分がたっぷり味わえる。水着姿だと他にも露出狂仲間がいるから、恥ずかしさは少ないし、彩佳だけ裸を想像されるわけでもない。

 あと、夜にかなり肌が出る服を着て出歩く、これも悪くなさそうだ。夜なら日差しがないから日焼けを心配しなくて済むし、日中に比べて涼しくなったからこそ、よけいに開放感があって趣深い。そして、少し肌寒くなったところで、暗さに対する本能的な不安、あと服で体が守られていない心細さから、つい誰かに抱かれたくなり、俺を求めることになる。

 安心しろ、彩佳を知ってる人にばれたり、あと彩佳が他の人に襲われたり揉め事に巻き込まれることがないよう、俺が全力で配慮するからな。俺の夜伽巫女に勝手に手を出す奴は許さない。もちろん、警察に捕まることもないぞー。」

 ヒカル様、犯罪的ないやらしさです。でも、想像するだけで心がドキドキしてしまう。

 変態と数ヶ月付き合ってると、変態の相手をすることが当たり前になってしまう。


「でもさ、露出も悪くないけど、俺達だけの秘密を楽しむほうがもっといいと思うんだけどなー。」

 ヒカル様の目が光って見えた気がする。私「を」楽しむことについては、ヒカル様は全力を尽くす。私「が」楽しむ、じゃないんだよね。うん。

「ゆったりした長袖の上着に、長くてふんわりしたスカート。巫女装束に通じるものがあるよね。」

 はぁ。

「あと、下着だけ派手なのにするとか? 勝負下着的な。」

 顔が、かあっ、と真っ赤になった気がした。

「考えてみなよ。一見、清楚で上品なお嬢さんにみえる彩佳が、実は『このあとデートの終わりに彼氏に激しく抱かれます』的な下着を来ていたら、すごくいやらしく見えないかい?」

 脳がぐらぐらと揺さぶられる。

「ミニスカート履いてると、スカートの下から派手な下着が見えると困るから、勝負下着はなかなかつけられないでしょ? そういう趣味の人ならともかく。わざわざ露出の少なめの服を来て、誰にも見られないだろうという安心感があるからこそ、こういう楽しみがある。俺の夜伽巫女が、巫女装束の要素が込められた服を俺のために選んで着てくれる。彩佳が俺を喜ばせようと、俺にだけわかる秘密が込められた服装で、俺を楽しませようとしている。そして、窓や鏡で自分の姿を見るたびに、『彩佳はヒカル様の夜伽巫女』、そう思って顔をちょっと赤くする。くぅーっ、俺は心から感動するぜ。俺はそういう彩佳が好きで好きでたまらないんだ。」

 こう言われると、断れない気がする。


 ヒカル様は、切れ長の目に鼻筋の通った、だれが見ても惚れ惚れするような銀髪ウルフカットの爽やかイケメン。もちろん、お肌もすべすべ。

 私より頭半分くらい背が高くて、結構屈んでくれないと、背伸びしないと唇が届かない。

 唇が触れるときは、必ず舌を絡めるディープキス。すごいキス魔で、しょっちゅうキスしてくる。

 ヒカル様がいろんな障害から私を守ってくれてるのはわかってるし、私が本気で嫌なことは決してしないこともわかってる。

 もし人間でこんな男の子がいたら、きっとモテモテだ。その彼が、私のことを大好きだよと言ってくれる。

 私もヒカル様が大好きで、一緒にいるのが当たり前になっている。

 そんな彼からお願いされたら……。


 ……おっと、流されすぎるのはいけない。

「なあ、明日にでも勝負下着買いに行こうぜ。水着買うついでにな。」

 水着を買うのではなく、いつの間にか勝負下着を買うのが目的のヒカル様。

 変なスイッチが入ったのかな。

「彩佳がさっき人の話を聞かなかったお仕置きだ。」

 お仕置きとか言ってるけど、何らかの理由をつけて買いに行かせるんだろうな。


 ◇ ◇ ◇


 で、勝負下着の購入というけど、どこで何を買うことになるんだろう?

 まず、私のイメージを再確認するために、鏡の中の自分と目を合わせてみる。

 顔立ちは、そんなに悪くない、よね。目も大きめだし。

 美術部だからあまり日にあたる機会もなくて、色白ではあるかな。だから、主張の強い色じゃなくて、パステルカラーのほうが似合うし、顔も明るく見える。そこはヒカル様の好みと合致するから、好都合。

 夜伽巫女になったから、巫女っぽく髪も伸ばすようにした。下ろして緩く巻いたり、動きやすいようにまとめたり、おしゃれも楽しめるようになってきた。

 体型は平均的だと思う。平均的だからこそ、服のサイズは選ばなくていい。胸だけはちょっと自信があるけど、お腹周りはちょっと自信がないかな。毎日マッサージはしてるんだけどなー。ふにふに。むきー!


 情報収集するためにで、近くのショッピングモールの専門店をネットで確認。インターネットって便利だよね、昔の人は大変だったんだろうな、と無駄な心配をしてしまう私。

 おっ? 三山駅の近くに大きめのランジェリーショップがあることを確認。ここにはショッピングモールがいくつかあるけど、どこかちゃんと把握しておく。

 もちろん、ヒカル様は人払いをするだろうから、友達に見られる心配はないはず。でも、うろうろ迷って時間をムダにすることはしたくない。受験勉強の時間が取られすぎるのも嫌だ。


 せっかくだから、その店でどのような勝負下着、じゃなかった、ランジェリーがあるのかをついでに調べる。

 ……うわぁ。ヤバい。客に処女、ほとんどいないでしょ? というくらいの派手さにびっくり。通販もやってるけど、家に届くのはマジ勘弁。クレジットカード持ってなくてもコンビニ払いや銀行振込でもいけるらしいけど、無理。

 絶対無理。

 親が受け取ったら大変だ。

 まあ、洗濯については、自分でこっそりできなくもないけど、実際に店に行く必要は絶対にある。水着も一緒に欲しいし。


 そのショッピングモール、水着コーナーもあるみたいでよかった。モールのハシゴは不要、一箇所で済む。

 ヒカル様と下着と水着を選ぶのって、何か変な感じ。

 男の子とお付き合いしているクラスの女子って、どうしてるんだろう。


 ◇ ◇ ◇


「おやすみなさーい!」

 今日の夜伽は、もちろん、勝負下着のデザインの打ち合わせですよね。


 ベッドに入ったら、いつものように布団を頭までかぶり、目を閉じて空想を始める。


 最近少し疲れているせいか、今日の夜伽はちょっと手抜き。場所は私が最初にハードな夜伽をした、そしてその後何度も訪れた、神社の一室っぽい広い和室。広さは十メートル四方くらい。板張り、周りは障子扉、そして部屋の一つの角には赤い芍薬しゃくやくの一輪挿し。隣に水差しと湯のみ2つ。達筆な「純愛主義」の掛け軸が飾ってあり、その下に神主(袴は水色)と巫女の装束がたたんで置いてある。部屋の中心には二人用の布団があり、敷布団1つ、掛け布団1つ、枕が4つある。布団セットは純白。

 この白い布団セットの中で、ヒカル様の白いシャツを着てる私。このシャツは、丁度私のお尻が隠れるくらいの丈で、前のボタンは全開になっている。それに純白のブラに真っ赤なショーツ。ヒカル様は白いシャツ。白い布団と白い布の中で真っ赤なショーツが紅一点な存在感。


 ちょっと、いや、かなり恥ずかしいというか、照れくさい。

 そして、私とヒカル様の胸元には、シルバーのチェーンからぶら下がる、お揃いのダガーモチーフのシルバーペンダント。あの買い物はとてつもなくシュールだったな。


 ヒカル様の腕枕でヒカル様にぎゅっと抱えられている私。

「そういえば、この布団、模様替えしてもいいんだぜ? 彩佳の脳内で展開されている空想の世界だから、色くらいなら簡単に変えられるさ。白無垢しろむくを着た花嫁をイメージして白にしてるんだけどさ、たまには彩佳の好みで変えていいんだぜ? コンクール入選歴多数の美術部員の才能を、存分に活かしてみたら?」

 好みで変えて、ってスマホの壁紙じゃないんだから。でも似たようなものか。背景とか小道具とか、思いつけるものなら自由に設定できるんだから。

 ふーん。ということは、おもいっきりキュートでファンシーな感じに変えても、ヒカル様は文句言わないんだよね? 淡いピンクの花柄とか。

「彼女の部屋にお邪魔しちゃった彼氏の気分が味わえて、それはそれでいいな。」

 ヒカル様はやはり、ヒカル様だった。


「さて、明日狙う下着をある程度考えておきたいんだが。あと水着も。

 試着するにしても最小限にしたいし、それに店にいる時間も短くしたいでしょ?」

 配慮に優しさを感じていいのでしょうか?

「長い間人払いすると俺が疲れるって大人の事情もあるんだけどな。

 いいか彩佳。下着というものは露出が高ければ高いほどセクシーという理論は、明らかに間違っている。」

 ヒカル様がいつものように、私の服について熱く語りだす。今日、何度めだろう? こうなったら止まらないから、最後まで付き合うのが得策。

「女性をいきなり裸にして抱くというのは、俺からしてみたらこの上ない愚挙であり、美に対する冒涜である。

 いわば、とんこつラーメンを出された直後に、からし高菜と紅しょうがとニンニクをたっぷりぶち込むくらい、無粋で許しがたい行為である。まずは、出されたままスープと麺をゆっくり味わい、徐々にトッピングを入れて味の変化を楽しむのが是である。博多の店のくせにトッピングを入れる前提のスープを出しているところもあるらしいが、それは邪道だな。すっぴんだと目も当てられないような厚化粧ババアみたいなものだ。いいかい? 本当に優秀なとんこつラーメンは、そのままでも、トッピングをのせても、両方まともな味になってるものだ。」


 あのー。もしもーし。

 女性をとんこつラーメンに例えるのはデリカシーに欠けると思いますよ?


「まず彩佳を服の感触を味わいつつ、服を着せたまま愛でる。次に徐々に脱がして楽しむ。勝負下着にしてかわいがる。最後に全裸を味わう。下着が全裸に近かったら、下着姿をスキップすることになるじゃないか!」

 あーあ。ツッコミ無視された。

 ヒカル様の言っていることはわかりたくないけど、一理あるところが困る。常人では思いつかないことを変態は思いつく。だから変態は変態なのだ。このエロ狐は筋金入りの変態だ。聞いているぶんには面白いというか、別にいいけど、これを私の中の常識にしてしまったら、何か負けた気がする。


「俺が勝負下着に求める絶対条件はだな、普段の彩佳の下着より彩佳の愛らしさが強調されつつも、なおかつ、やりすぎた露出を避ける必要がある。また、素材を含めて、普段と違う手触り、肌触りが求められる。さらに、普段の下着ではできないこともしたい。

 そうだな、普段ではできないことの代表といえば、紐パンだな。これをスルーすることは重罪である。両足を通さなくてもショーツを脱がすことができる紐パンは10トントラック並の破壊力がある。

 素材といえば手触りが良いすべすべな素材もいいし、ショーツを履いていながらも透けて見える彩佳の肌を楽しむことができるレースも捨てがたい。そうだな、すべすべ下着なら、尻を覆う面積が多いほど触覚が楽しめるな。レースは肌を覆っている面積が少なすぎず多すぎずがよい。

 言い忘れていた。大人らしさやセクシーさより、過剰なくらいのかわいらしさ、愛らしさ、女の子っぽさが重要だ。勝負下着をつけるようになる年齢の下限近くだからこそ似合うデザインってものがある。彩佳。頼むから、このチャンスを逃さないで欲しい。今の時期にしか着れない、年相応のデザインというものがあるんだ」

 はぁ。


「そして次は水着だ。今年はクラスの仲良し女子と遊ぶんだろ? 男漁りはなしで。だから、派手すぎて浮くようなデザインではいけない。

 その上で、来年の夏に彼氏と一緒に水遊びするとき、彼氏に彩佳の魅力を最大限アピールできるデザインでないといけない。二つの、一見相反する要求をこなす至高の一着を探さないとな。

 彩佳は肌を魅せる水着がいいんだっけ? 値段が高すぎても買えないから、俺も考えるの大変だなあ。」

 私が半分呆れてても、空気を読まずに私を着せ替え人形にする話を延々と続ける強い意志はすごい。私も少しは見習ったほうがいいのかな?


 ……って、何? 来年の夏は彼氏と一緒、ですって?

「いけね、口がすべった。まあ、こういうこともあるかもしれないだろ? って仮定の話だ。彩佳が俺を捨てたら未来が変わるし、未来のことについてはあまり細かく話してはいけないんだ。」

 さっきまで延々とドヤってたくせに、急に焦りだしておとなしくなるヒカル様。

 絶対、なにか企んでる。でも、ここで追撃しても、徹底的にはぐらかされるのはわかってる。


「じゃ、話を戻すか。露出が多いとなると、ビキニで確定だな。露出を増やしすぎて紐が多すぎると仲良し女子で水遊びをするときには、これまた浮く。意外と難しいなあ。」

 ノリノリで考えるヒカル様。

 いや、考えているのではない。既に求めてある答えを偉そうに語ってるんだ!

「フリルやリボンといった飾りを増やし過ぎると、かわいらしくていいが、幼なすぎるように見えるとまずい。特に、彩佳は乳に恵まれてるから、ロリ路線はやばい。でも、飾りがなにもないのは味気ないから、リボンがちょっとあってもいいかな。」


 ロジカルに選択肢をガリガリ削っていき正解に辿り着こうとするヒカル様は、木や石から頭のなかに存在するイメージを何のためらいもなく削りだすエリート彫刻家みたいにかっこよく見える。そう思ってしまう私は、既に毒されすぎているのかも。

 女友達とダラダラと水着を決めるのも悪くないのだろうけど、友達に遠慮せず、満足行く水着がどういうものかを徹底的に筋道建てて考えて追求するのは、新鮮でいいかもね。


「柄ねえ。縞パンを好む男子は結構いるけど、狙いすぎるのも引かれるからな。特に、多くの人がいるところで男が縞パン水着女子を連れて歩くと確実に変質者扱いされる。ということは、必然的に横縞模様はアウトだ。きれいに決まったらいいけど、水玉柄や花柄は難しい。無地か、意外と縦横チェックもいけるかもしれないな。明日はそんな方針でいってくれ。」

 すごい。どんどん決まっていく。いや、既に決めてあったんだ。

 恐るべしヒカル様。さすが長生き……。

「おいおい、年齢の話しは無粋ぶすいだからやめてくれよ。人の子の世界をいついつ以来、たとえば百年間見てきた、という言い方はできるけど、俺達の年齢は人の子の世界における時間の経ち方では説明できない。」

 ごめん。

「まあ、因果律いんがりつ、すなわち過去と未来の区別は、俺達の世界にもあるけどな。時間はこっちでも一方向にしか流れない。だから、年齢のようなものは定義できるんだけどな。

 さて、気を取り直して話を戻すか。

 色は暖色系だな。白はあってもいいけど、白一色はありえない。元気で明るい彩佳には明るい色が似合う。

 どうだ、彩佳? 俺の見立て、悪く無いだろ?」

 どれだけ長い間、私の下着と水着のデザインを考えていたのだろう? 神様の世界の「時間」の流れは、私達、人間とは違うんだろうけど、私がいろいろな下着や水着を着ているところを何十回、何百回、へたしたら何千回も想像して吟味していたと考えると、顔がかーっと赤くなってくる。

「彩佳が喜んでくれて、俺の頑張りが報われた気がするよ。好きだよ、彩佳。」

 ヒカル様がキスをしてくる。ヒカル様の舌と唾が私の口を犯す。

 そう。ヒカル様のキスは、常にディープキス。必ず舌を入れて私の口を陵辱し、唾のような何かを流し込んでくる。


 キスで口を犯されると、なぜか私の心が落ち着き、そしてどんどん温かくなる。

 ヒカル様のキスって、ほんと、不思議なんだよね。心がとろけていく。

 明日、いい下着と水着が見つかるといいな。

 ヒカル様、おやすみなさい。


 ◇ ◇ ◇


 今日は買い物の日。

 大人なお店にいくから、少し緊張する。

 だから、ヒカル様の好きそうなコーディネートにしてみる。ヒカル様が喜んでくれると、その分、私をしっかり護ってくれそうな感じがして。


 ヒカル様は、日差しを遮って風の通る格好をした方が涼しいって言ってるけど、嘘はついていないんだよね。

 体育で半袖体操服とハーフパンツでいるより、半袖の上に軽く日差しを遮る薄いもの、くるぶしまでのゆるめのスカートの方が涼しく感じる。不思議。

 ヒカル様がいうには、その方が空気の流れを感じるんだって。ヒカル様、肉体がないくせによく知っている。


 私が選んだのはくるぶし丈の、風になびくくらい軽い素材の小豆色のロングスカート。上はノースリーブのカットソーの上に、オフホワイトで袖がフレアになった、ふんわりした七分丈のブラウス。これに、つばのひろい帽子をかぶればカンペキ! 帽子って変装に便利だし、ってそんなことないか。お忍びの芸能人ぶっても、私のことを知ってる人はほとんどいないから、空回りだよね。

 胸元には、ヒカル様と買ったペンダント。絆の象徴だから、家族とか友達の前、学校に行くときでなければだけ身に付けるようにしている。あと、

「大きめのバッグはちゃんと用意しておけよ! 下着屋の紙袋持ち歩きたくないだろ!」

 と指示があった。変態のくせに変に常識的な意見である。


 ◇ ◇ ◇


 まずは水着のお店の前までやってきて、中を覗いてみる。障壁が高い下着の前に、比較的買いやすい水着だ。

 ここで正確なサイズを測ってもらおう。自分で測った結果、間違ったサイズを使って、形がおかしくなっちゃう人もいるんだって。それは嫌だし、水着と勝負下着なら、デザインもサイズも自分にピッタリの方が魅力的。勝負下着のお店で測ってもらうよりは、ここで測ったほうがいいよね、とヒカル様の弁。偉そうなことをいいつつも、感覚共有を駆使して測ってるところを見てるんだろうな。


 アンダーとトップのサイズを測って、自分のサイズを再確認。

「お客様、結構ボリュームありますね。」

 だって。

 ふふん、ちょっとだけ自慢だもんね。サービストークかもしれないけど。お腹は……だし。あと、自転車通学だから足もちょっと太め。ちょっとだけコンプレックスなんだ。


 さて、水着を選ぼう。ビキニでかわいいのがいいよね、せっかくだもん。ビビッドな色は勘弁。どうしても私に似合うとは思えないもんね。後は、かわいいデザイン。


 ふと目に留まって釘付けになった、胸元にリボンのついた、ペールオレンジと白のチェック。下の両脇にもかわいいリボン。他のに目が行かなくなっちゃった。顔立ちにもちゃんと似合ってるし、露出しすぎず、かつ控えめ過ぎず。よし、レジに行こう。


 ◇ ◇ ◇


 次は、勝負下着のお店……と。

 なんかドキドキしてきた。

 彼がいるわけでもないのに勝負下着って……と思いもするけど、ヒカル様にも考えがあってのことなのかな。純粋に夜伽のためだけだったりして。でもヒカル様は、かなり先まで見据えてそう。


 よかった、店員よりお客さんが多い。これなら紛れられる。私より明らかに年上の人ばかりだけど。幸か不幸か、男の人はいない。

 なんか私、浮いてる? 大丈夫かな?


 まず、巫女セットは欠かせないよね、と思う時点で、今の人生に占めるヒカル様の大きさを実感する。昨日も巫女セットで夜伽だったし。色は上が純白で、下が緋色のような濃い赤の組み合わせを選ぶんだ。

 今しか着られないデザインというと、こんな感じ? 胸パッドが入ってて、ただでさえ大きめの胸がさらに大きく見えるやつ。カップにレースがたっぷり使ってあって、縁にはフリル。ヒカル様用だから、ヒカル様好みでかわいいの。レースとフリルがあるから、かわいさが一気に増す。


 勇気を出して手に取る。

 やばい、頭がくらくらしてきた。

 でも、私、頑張らないと。頑張るんだ。

 これくらいの試練、ちゃんと乗り越えてみせる!


 後は……将来の彼氏用?

 いつできるのかわからないけど。ともかく、たった今使うってわけじゃないからちょっと大人な感じにしてみよう。


 うわぁうわぁ、って目を覆いたくなるような、露出多めの下着の数々とランジェリー。それ、着てないのとどこか違うの? っていうか、ただの紐じゃないの? って思うような、これ以上ない露出度の、……下着って言えるのかな、これ? あとは、スケスケの上下セット。豹柄のとか、色のバリエーションもいろいろで、目がチカチカする。

 ……何のための勝負下着なのか、改めて納得。確かに、清楚な服の中からこんな下着が出てきたらと考えると、ギャップはあるよね。

 でも、男の人って、こういうのがいいの?


 派手な紫とか蛍光ピンクの中を進んでいって、ちょっと見回ってみたら、好きな感じのデザインのパステルカラーのセットがある。ギャザーが入って膨らみが強調されてるブラはともかくとして、下はレース素材だけで、向こうが透けて見えてるし! さらに、紐パンだし! でも、デザインが好みだもん。色は、パステルピンクが一番似合うかな。エイッとカゴにほうり込んだ。

 だけど、紐パンって、ひも解いて脱ぐんだよね? 脱がされるの? 指で引っ張られるの? それとも口で? 口でということは、ついでにいろんなところをクンカクンカされるんだよね?

 ……キャー! 顔が赤くなってるのがわかる。

 意識がさらに朦朧もうろうとする。

 でも、このまま倒れて救護室送りはいやだ。

 高度8000メートル以上だと、人間の脳って機能しなくなるんだっけ。今日の私は登山家。この山に登らないで帰ることは許されない!

「よさそうじゃないか。せっかくだから試着してみれば? 試着室に入ったら一人になれるから少し落ち着けるだろうし。

 それに、肌の色との相性もあるし、似合ってなくて興ざめされるのも嫌だろう。」

 ヒカル様の優しい声が私を正気に引き戻す。

 ヒカル様、助けてくれてありがとう。


 試着室に入ってギャザーの入ったブラを試着。右に左に腰をひねって、見え方をチェックしてみる。肌の色にもピッタリ。デコルテも綺麗に見える。多分、今の私らしい一枚なんだろうな。

「いいじゃないか、かわいくて。」

 パニックになりそうな時に冷静な声をかけてもらえるのって、こんなに落ち着くことなんだ。夜伽巫女って、こういう時いいな。

「ついでに白ブラもちゃんと試しておけ。」


 ……試したら結構似合ってる。さすが、ヒカル様。

「とにかく、ここで彩佳に倒れられたらいろいろ面倒なんだよ。無事、家まで問題なく帰ってもらわないと。巫女セットの他に一セットが確定、と。あと、もうちょっと試着していけよ。」

 ん? これでは足りないの?

「当たり前だ、巫女セット以外にその一セットじゃ寂しすぎる。これで引き返すなんてもったいないじゃないか! せっかく足を踏み入れたんだし。」

 寂しすぎる?

「俺の楽しみ……げっふんげっふん、彩佳もいずれは大人になるんだから、目を養っておけ。」

 ああ、そうだよね。私もずっと18歳なわけじゃない。


 試着室を出て、何セットか持って試着室に戻る。


 まずは、深い青の上下。フロントホックなのは、脱がせる人に優しい設計ね、きっと。サテンの上にふんだんにレースが使われてて、ゴージャス。肌触りもサラっとしてて気持ちいい。

 それにしても大人っぽいなぁ、と鏡で映してみて思う。私にはやっぱりまだ大人過ぎる。ショーツだって、フロントはレースでスケスケだし、Tバックだし、まだそんな勇気はないよ。

「ちゃんと触って感触を覚えといてねー。」


 じゃあ、今度はこっち。ワイン色の上下と、ベビードールの3点セット。ブラはシンプルなサテン。上から羽織る、前をリボンで結ぶベビードールの胸元が白いレースで、ブラと重なると動きが出ていい感じ。色も落ち着いてて、好きな色。今はまだ子供っぽいかもしれないけど、もうちょっと大人の雰囲気になってきたらこんな感じのが似合うようになるといいな。

「子供が背伸びしている姿、ってのもまた乙なもんだ。」

 うるさい! まあ、それはいいんだけど、下が……。サテンの、見た目ごく普通の、ブラとセットのショーツには間違いないんだけど……。ヒカル様、ここに穴があるのは何のため?

「わからないのか。それは、男の楽しみのためだな。」

 男の楽しみ?

「いいから、肌触りやデザインをしっかり覚えておけ。いずれわかるから。」


 最後は、サテンのキモノ風デザインのオフホワイトのローブ。インポートものみたいで、和服とは全然違う。着物でなくて外人が考えたキモノ風だから、ヒカル様が大好きなぐち、つまり脇の隙間なんて当然、ない。素肌の上から羽織ってみる。丈も、お尻が隠れそうで隠れない感じ。お尻を強調して見せるための丈だね、これ。とっても肌触りがいい、というか、滑りがいい生地。肩まではだけたら、スルッと滑り落ちちゃって足元にたまるような、心地いい重さとなめらかさ。肩からサラっと落として、シミュレーションしてみる。誘惑するってこういうことなのね。

 どれどれ、とお値段を見てびっくり! こんなお金、高校生に出せるはずないよ。残念、まだ早い、ってことね。いつかこんなのを着て、男の人を悩殺できるようなステキな大人の女性になってやるんだから。

 試着室を出て、レジに向かおうと一歩踏み出したところに目に入ったのは、クリーム色のサテンのキャミソールとタップパンツのセット。

 手に取ってみたら、さっきのローブとまでは言わないけど、肌触りが良くて、サラっとしてる。自分が着たところを想像してみる。うん、いい感じ。だって、この肌触りだもん。ヒカル様だって喜ぶに決まってるでしょ……と考えてしまって、赤面。この上から撫で回されるとか想像しちゃうと……だめだめ。今お買い物中なんだから、不審者になっちゃう。でも、お値段もお手頃な感じ。一期一会いちごいちえだ、予定外だけど買っちゃおう!


 レジ前はちょうどお客さんが切れてたから、スムーズにお会計。

 これはたまたま? それともヒカル様のおかげかな? 下着買うのにレジに並ぶのって、何だか気まずいもんね。

 巫女セットは店員さんから「同じ色のセットじゃなくていいんですか?」って聞かれたけど、両方似たようなの持ってるので、ってごまかした。レジのお姉さんも慣れた手つきで商品をどんどん袋に入れてくれて、お支払い。私と顔を合わせないようにしてくれてるのも感じがいい。せっかく袋に入れてくれたけど、そのまま持ってきた大きなバッグに入れてお持ち帰り。さすがヒカル様、女心が分かってる。


 お店から離れて、やっと心が落ち着く。登頂成功、これから下山に入ります! このまま事故に遭うと、変態下着を持ったまま病院に担ぎ込まれる。ちゃんと家に帰るまで、気を抜いてはいけない。でも、まずは疲れたからそこのお店でアイスコーヒーを飲もう。

 喫茶店に入って、ほうっと一息つく。ああ、緊張した。思い出しても顔が赤くなっちゃう。

 さて、家に帰るまでが遠足です。油断して、袋の中身が人目にさらされるようなことがあっては大変。気を抜かずに家までたどり着かないと。もう一度気合を入れて、ショッピングモールを後にする。


 ◇ ◇ ◇


「おやすみなさーい!」


 今日の夜伽は私の部屋。私の姿は、今日試着したサテンのキモノ風デザインのオフホワイトなローブの下に、今日買った水着。夜伽だと高いローブを遠慮無く着れちゃうのがうれしい。事前に感覚を把握しておかないといけないけどね。


 ヒカル様がベッドに座って、壁に背中をもたれている。ヒカル様は膝くらいまでのローブで、私と色は一緒。下に何を履いているのかはわからないけど。よく見たら、ローブのデザインが微妙に違って、男物っぽい感じがする。


「おいで?」

 部屋の中心に立っていた私は、ヒカル様の隣りに座る。

 まず、ヒカル様は私の手を握る。

 そして、徐々に指を絡めて、恋人つなぎにする。


 ある程度私の手を楽しんだ後、幸せそうな顔をして、ヒカル様は私に抱きついてキスをする。当然、いつものディープキス。

 たっぷり私の唇と口の中を楽しんだ後、ちょっと離れたヒカル様は私のローブの前をはだける。


「濡れるつもりないのに部屋で水着って変な感じだよね。」

 確かに変な感じ。ちょっと顔が赤くなる。

「でも、このまま抱きつくと彩佳の水着姿を楽しめないなー。」

 じろじろ顔と水着の上と下を交互にみるヒカル様。

 もっと顔が赤くなる。


「よし!」

 ヒカル様が私に、膝の上に横に座るよう要求する。


 私はお尻をヒカル様の太ももの上に乗せ、ヒカル様の左腕に背中を預ける。いつもの、私の大好きな座り姫だっこ。

 右腕をヒカル様の体に回して、左手でヒカル様に触ろうとする。

「このまま彩佳をこっちに向けたら赤ちゃんの授乳の体勢だよなー。」

 ちょっと白けるようなことをいうヒカル様。

「えいっ!」

 私の顔がヒカル様の胸板に押し付けられる。

 私、ヒカル様の胸を吸う趣味はないよう。

 ヒカル様の背中をぽかぽか叩く。


「すまん、すまん。」

 ヒカル様は私を少し離す。


「でも、水着の上から彩佳の胸を味わうのは新鮮だなー」

 私をしっかり抱えながら、ローブの下に右手を入れ、水着の上から胸をもみしだくヒカル様。

 水着独特の、厚手の生地が緩やかに胸を刺激する。

「ブラとは違うでしょ?」

 新鮮な感じ。

「部屋の中で水着の上から胸をかわいがられるのって、変な感じだけど嫌じゃないでしょ?」

 ヒカル様が右手で胸を交互にいじる。

 非日常的な感覚がいやらしい。

 背中の後ろにあるヒカル様の左手は、私の左耳や頬、首筋や脇腹を刺激する。

 ヒカル様の左腕が気持ちいい素材のローブを私の背中に押し付ける。


 抱かれるって、幸せ。


 私、ヒカル様の楽器になったみたい。

 ヒカル様はギターみたいに私を左腕で抱き、揺らす。

 そして、右腕で私を激しくいじる。

 どこをどう触れば、私がどんな声を出すかわかってる。

 ピクピクしながら、「やっ」とか「あっ」とか、声を出す私。

 水着の上から乳首をつままれると、大きめの声が出ちゃう。

 ヒカル様のモノになって、ヒカル様の与える刺激に心を委ねる。

 楽器だから何も考えない。

 心が落ち着く。リラックスしてる。

 私、こうやって抱かれるために生まれてきたのかな。

 私は今、すごく、うっとりした、幸せそうな表情してるよね。

 この心の温かさ、ヒカル様に伝わってるかな?


「胸だけだと、物足りないでしょ?」

 はしたなくおねだりさせるヒカル様。

「物足りないよね?」

 手を止めるヒカル様。


 あ、ついうなずいちゃった。

 私のお尻のほうに手を伸ばして、水着の感覚を味わうヒカル様。


 違う、そうじゃない!

 胸のほうが気持ちいい!


 何考えてるの!


「胸、胸をもっと。」


 今日の私、なにかおかしい!

 そんなに水着の上から胸を揉まれるのがいやらしくて気持ちいいなんて!

 泳ぐつもりもないのに家でヒカル様のために水着を着て、えっちなことをしてるのが、こんなに気持ちいいなんて!

 もう、水着を着たら胸を可愛がられるもの、って勘違いしちゃうじゃない!

 海水浴場で水着を着て歩くたびに、私は胸を意識しちゃうじゃない!


「俺の太ももに膝立ちになって、俺の頭と首に彩佳の腕を回してくれ。」

 え?

「ちょうど、犬が立ち上がって飼い主にしがみつこうとしている感じだ。

 膝はベッドにつけてくれよ?」

 こんな感じ?

「そうそう。彩佳が俺を押し倒そうとしている、積極的な感じが良いね。」

 ……要求したのはヒカル様でしょ?


「よし、っと」

 ヒカル様が頭を壁に押し付けた! 私の両腕の自由がなくなった!

 ニヤリ。ヒカル様が意地悪に笑う。

 ヒカル様は私の両側の脇と脇腹を、すべすべのローブの上から指と手のひらでなでたり、揉んだりする。

 すべすべなローブが私のお腹を包む。

 すべすべの感触と、脇と脇腹だけに対する執拗な攻めに涙がでてきそうになる。

「ひどい、ひどいよお。」

 えぐ、えぐっ、って泣いちゃいそう。

 腕が使えない、足を開いた膝立ちの不安定な体勢で、私は逃げられない。

 犯されてる。陵辱されてる。酷いことされてる。


「あれ? 胸は?」

 先ほどの攻めのせいか、胸がうずく。

「自分で押し付けて気持ちよくなってよ。」

 ヒカル様がいじわるに言う。


 脇への攻めをやめないヒカル様。

 だめ、やめて、と懇願してもヒカル様は許してくれない。

 気持ちよさを暴力的にぶつけられている。


 あ、ヒカル様、キスもしてくれないんだ。いじわる。

 くすぐったい。いじわる。きもちいい。だめ。

 感情が暴走しそうで、意識がもうろうとする。

 ぷつっと、気絶したくなる。

 半泣きで「もうだめ、もうだめ、」と繰り返す誰かがいる。


「胸も気持ちよくなりたい?」

 遠くで声がする。

 目の前がふらふらする。


 あ、目の前が揺れた。

 膝立ちできなくなっちゃった。

「よしよし、頑張ったね。」

 え? 何?

 私の体に何かがまきつく。

 私の体が動く。すべすべで体がこすれた感じがする。

 私の唇に何か入り込んでくる。

 あ、もう楽になっていいんだ。


 ◇ ◇ ◇


 今日は海水浴場でみんなで遊ぶ日。昨日は受験勉強がんばった。おとといのハードな夜伽と受験勉強で体力を消費したから、昨日の夜伽はいつものような濃厚なディープキスでおしまい。しっかり夜伽できてないけど、私の体力も大事なことは、ヒカル様もわかってる。


 それにしても、今日、雲が出てるね? ここ二週間近く、猛暑日とか真夏日ばっかりだし、日中はずっと晴れてたじゃない? 夕方は急激に発達した積乱雲のせいでゲリラ豪雨が降る時もあったけど。このままだと、今日、30度いかないかもしれないよ?

「何言ってるんだ彩佳。理想的な天気じゃないか。暑すぎると熱中症になりやすいだろ? それに、紫外線が強すぎるとお肌によくないし。」

 まさかヒカル様、なんかしでかしたの? 以前、ちょっとくらいなら天気をいじれる、とか言ってたよね? 確率操作の応用で、それなりの確率で実現可能なら、特定の方向を狙って雨雲を動かせるとか。

「い、いやだなあ、彩佳。俺もいろいろ根回しはしたんだけど、俺に最終決定権が全部あるわけじゃないからね。それに、お友達がみんな暇な日は何日かあるんだし、そのうち、最も都合がいい日を選べば、最小限のお願いで済むわけだ。」

 なんか神様が才能を無駄遣いしています。それに根回し、って何よ。何か他の神様と相談して、打ち合わせしたりしてるの?

「それが夜伽巫女を持つ、ってことなんだよ。」

 回答になっていない上、自慢してやがる。

「日焼けした彩佳なんて、彩佳じゃない!」

 そうか、私のためと言いつつ、結局は自分のためだったんだ。この欲望に忠実な変態が。


 ◇ ◇ ◇


 海水浴場で遊ぶのはお昼ごはんを食べ終わった後。私とエリコ、チサ、咲の、同じクラスのいつもの仲良し4人組で遊ぶんだ。現地集合ということなんだけど、私が一番乗りみたいね。


 こうやって4人で集まって遊ぶようになったのは、高校入学してからだった。

 私は志望校に入れなくてヤケ気味、咲は人見知りで引っ込み思案、チサはクールな感じだから周りからは話しかけづらい。そんな私たちを結び付けてくれたのは、エリコだ。誰より明るくて、ドジで、ちょっとだけ抜けてるところがあって、いつも笑いの中心にいて、クラスのムードメーカー。チサには「脳筋」なんて言われてて、実際その通りのところもあるんだけど、立直りが早い。喜怒哀楽がはっきりしてるから、よく笑うし、よく泣く。でも、辛そうな顔は絶対見せない。普段からよく補習の常連で、補習が決まるたびに外国人みたいな大袈裟なリアクションでみんなを笑わせて、ソフトクリーム3個食べることで気持ちを切り替える。実は一番気を使ってて大人なのは、エリコかもしれない。

 エリコがみんなのムードメーカーだとすれば、咲は一人一人のフォロー役。様子がおかしいな、と思う子には必ず声をかけて話を聞くし、それに聞き上手。それも好奇心から悩み事を聞くわけじゃないから、みんな警戒心なく悩み事をしゃべっちゃう。咲に話すことで心が軽くなったのか、すっきりした顔で相談を終える子が多い。そして、咲自身も、相手が元気になった様子を見て嬉しそう。咲は本当に優しい子だ。

 チサは、男前系女子。クールな、とっつきにくい感じはするけど、実は負けず嫌い。そして、冷静に周囲のことを観察し、分析している。テレビで出てくる探偵みたい。最近は持ってる雰囲気も柔らかくなって、だいぶ人とも話すようになったけど、前は声もかけづらかった。4人でつるむようになってから、変わって来たんだと思う。受験を意識する時期になってからは、男子の勉強を見てあげたりもしている。男子も、性別関係なく話せる感じになったチサには一目置いてるみたい。チサに聞けば大丈夫、そんな信頼感があるし、実際、どんな問題を聞いても答えてくれる。。相変わらず口数は少ないけど、大事なところで大事な一言を言ってくれる。ごちゃごちゃ言ってるうちに、話の大事なところがわからなくなってしまう私とは正反対かもしれない。


 さて、この海水浴場は、あと一週間くらいで行われるここ、大玉市の夏祭りで花火大会の会場になる。この夏祭りは、近くの清海きよみ神社の例祭とセットで行われる。咲からあの噂話を聞いてから、ずっと気になってた。

 もしかして、あの神社にも、ヒカル様みたいな神様がいるのかな? まさか、その強運な人って、夜伽巫女かその男版だったりする?

 考え過ぎかな。でも、可能性は否定出来ないよね。

 そういえば、ヒカル様はお稲荷さんのお使いだから、狐だって言ってた。清海神社はなんの神様かな? 水の神様? 清海神社って言うくらいだから海の神様だよね。 この辺りの海を護る神社なんだよね、きっと。


 神社の方をじいっと見てたら、咲が私に気づいて声をかけてきた。

「なに、どうしたの、綾音?」

「ねえ、あの神社、たたりの噂があるって言ってたよね?」

「それがどうかしたの?

 騒いでいる人は多いけど、騒ぎたいだけ。祟りなんて、誰かが流した噂に決まってるよ。本当だったら怖いって。

 それより泳ぎにいこうよ、あっちに和歌子わかこがいたよ。いっつも休み時間に気持ち悪いノロケ自慢をしている相手の、彼氏のタッくんもいるよ?」

「え、ホント? じゃ、行かなきゃ。どんな子か気になるもんね。」

「あっ、あそこ、エリコとチサがいたよ!」

 後ろ髪引かれながら咲と一緒に、クラスメートのところに走っていったんだけど、あの神社の方から、じっとこちらを観察するような視線を感じた。

 私にむかって、まっすぐ。

 気のせい、だよね。祟りとかじゃないよね? 私、何も悪いことしてないよ?


 ◇ ◇ ◇


 チサは、露出多めの紺色の三角ビキニ。露出はあるんだけどクールな感じがするのは、チサの持つ雰囲気だと思う。身長が高めでスレンダーだから、何を着ても大人っぽい。ちょっと子供体型入ってる私には、うらやましいスタイルだ。

 首の後ろと背中に結び目があるので、つんつんと引っ張ってみたら

「ざーんねーん! ほどけないように工夫してあるのさー」

 と自慢げに言われた。なんか悔しい。絶対何かいたずらしてやる。


 出てるとこは出てて引き締まってるエリコは、胸を寄せるタイプのビキニ。パステルのハワイアン柄がかわいくって、元気いっぱいなエリコらしい。ビーチバレーとか本気になってやっても大丈夫な、活動的なスタイル。

 エリコはチサと違う意味でスタイルがいいから、くびれがうらやましくて、思わずムニムニしてやった。服を着ているとがっしりした体型に見えるけど、実はそんなことないんだよね。

「やめてよー!」とか言いながら、おさわりし合う。男子にはできない、女子だけの醍醐味だ。


 小柄で控えめな咲は、ピンクのブラにもショーツにも広めのフリルがついてて、私たち3人よりはちょっとだけ露出控えめな感じのビキニ。隠れるべきところはしっかり隠れてて、恥ずかしがり屋なのがわかる。ショーツのフリルがワンピースっぽい。胸元にリボンがついてるけど、それも大人しめな印象を与える。咲も、咲らしいスタイルになっていて、これまた似合っている。

 あまりにもかわいいから、咲にもおさわり。脇腹を人差し指でツンツン。

「ひゃあ!」って大きな声出すから、こっちもびっくりしちゃった。


 私? もちろん、ヒカル様と選んだ水着です。そして、ヒカル様の言いつけどおり、日焼け防止のために長袖、膝丈の白い羽織りものを着ています。私の水着も好評でよかった。


 ◇ ◇ ◇


 あれが和歌子の自慢のタッくんね。あの子、なんか、軽いとしか印象がない感じ。そこまで美形だとは思えないし、髪の色も、表情も、水着のチョイスも、なんか軽薄な印象。魅力をぜんぜん感じない。かなりおとなしそうで、肉食系には全然見えない。和歌子の話では、コスプレエッチ好きの子だって言ってたけど、そんな風には見えないかな。まあ、人間には裏表があるから、一瞬見ただけでは判断できないけど

 一緒にいる和歌子は、ド派手な色の三角ビキニ。

 チサのはクールってイメージがあって好印象だったけど、和歌子のビキニはいかにも頭が軽そうに見える。まあ、毎日のようにクラスで真偽不詳のエロノロケをしている時点で、頭が軽いとしか言いようが無いんだけどね。

 ヒカル様が言ってた、安く見られるって、こういうことだったんだ。

 周りの男性の目を引いてはいるけど、なんだか和歌子を値踏みしてる感じで、コメントしようがない。

 和歌子はタッくんと腕を組んでるけど、和歌子の方が一方的に纏わり付いてる感じがする。いちゃつける人なら、誰でもいいのかな。和歌子の目に特殊なフィルターがついているのかもしれないけど。


 ◇ ◇ ◇


 荷物を水のかからないところに置いて四人で海に入る。さすがに私も上着を置く。


「うりゃあああー!」

 エリコが両腕を重ねて、体のまわりをぐるりと回して大波を作って、周囲の人にかける。

 私と咲は、手先で水をすくって、近くの人にかける。

 チサはエリコを一方的に狙う。手刀しゅとうを水面に斜めにぶつけることで狙った方向にびしゃっと水をかける。最小限の労力で最大限の効果を出している。

「どうやってやるの?」

 チサに聞いたところ、「秘密だ」と冷たく切り捨てられる。むかつく。

 しかたなく、見よう見まねで咲と一緒に練習する。

 エリコの妨害があるけど、頑張るんだ。

 私達の後ろの方に回りこんで水をかけにくるんだけど、かけられたらすぐに後ろに水をかけて対抗する。チサの攻撃の盾に私達を使ってるのかな?

 ふーん。手をちょっと内側に丸めて、スナップを効かせてピシャっといくのね。

 ある程度うまくいくようになったから、教えてくれなかった罰として、咲と組んでチサを集中的に狙う。

 その技は二方向を攻撃するときに方向の制限があるのは見切っている。両方同時に返り討ちにするのは無理でしょ? どうよ!

 秘密兵器をコピーされ、驚いた顔でたじろぐチサ。

 なんとなく咲を攻撃したくなり、不意打ちで咲を狙う。

 咲に抗議されたので、もう一撃。

 咲に仕返しされた。

 じゃあ、今度はエリコに攻撃。

 エリコだけやり方知らないんだよねー。

 水面を蹴って大波をたてようとして、失敗するエリコ。

 私はチサの後ろに入って、チサを後ろから攻撃。

 振り返るチサを追撃。顔を背けても無駄なように、両手で攻撃だ!

「あ、魚がいる!」

 くそっ。エリコにつられて下をみたらおもいっきり顔に水をかけられた。

 してやったりと、大爆笑するエリコ。後で覚えてろよ?


 戦闘機のドッグファイトってこんな感じなのかな?

 誰かに水をかける、誰かを盾にする、やられたらやり返す。

 カオスな水かけタイムを楽しむ私達。


 ◇ ◇ ◇


 水中で動いて疲れた私たちは、持ってきた飲み物を飲んでから、砂遊びに入る。

 まずは砂山崩し。場所が固定だとつまらないから、3回ごとにじゃんけんで場所交代。

 私と咲は抑え気味、エリコとチサが最初からアグレッシブに攻めるので、主に二人の勝負になっている。

 主にエリコが負けてるけど、たまにチサが負けて、エリコがガッツポーズする。


 砂山崩しって攻略法あるのかな?

 少ししか砂取らないと、負けることはないけど、追い込みにくい。

 いつまでも守っていても面白く無いから、いけそうなときは攻めるようにした。

 咲も途中からだんだん攻めるようになってきた。

 でも、攻め慣れない咲は負けが込むようになった。ギャンブルやめたほうがいい性格だな、こりゃ。


 砂山崩しに飽きたらトンネル掘り。

 スコップとか持ってきてる人はいないから、手で掘ることにする。

「アサリでてこないかなー」

 エリコが期待して言った所、

「ここいないよ。旬でもないし。」

 と咲にあっさり否定されてしまう。

 ちょっと残念そう。

 もうちょっと湿った砂を求めて少し海の方向に移動。

 大きな砂山を作り、私とチサ、エリコと咲の2チーム両側から掘り進む。

 黙々と掘り始める私達。


「みんなで何かやるっていいね。」

 エリコが言ったら、

「ああ。」

 チサが返す。

 話題があるようで、話題がない。

 とりたてて、新しいことがないからかな。

 今までと同じような、平凡な一日。

 でも、何も話さなくても、4人で過ごす空気が心地いい。

 大きな事件もなく、だらだらと日々を過ごして、たまにみんなで仲良く遊ぶ。

 今はトンネル掘りという目標があるからみんなで頑張る。


 作業が進行していくと、「そっちはどう?」と相談が始まる。

 もうちょっと右側、とか、そのままもうちょっと、とか、こっち見に来て、とか。


 トンネルは崩れること無く完成した。よかった。


「前かがみが続いて疲れたから、ビーチバレーやろうよ!」

「でも、その前に一回海入って、砂と汗を落とそう?」

「了解!」


 ビーチバレーはチーム対抗ではなく、適当にラリーを続ける平和なゲームだった。上を見上げても太陽が隠れていて、まぶしくないのは助かった。たまーに軽いスマッシュを狙う人もいたけど、落とさせるのが目的でなく、違う動きをすることで盛り上げるため。

 水を相手にかける激しいバトルもいいけど、こういう落ち着いたのもいいかもね。


 最後に、砂を落とすためにもう一度海に入って、その流れでまたみんなで水をかけあった。それからみんなでシャワーを浴びて、また触りっこ。更衣室で水着から普通の服に着替える。

「じゃあね。」と手を振る、いつもの光景。

 来年も、こうやってみんなで遊べるのかな。


 私の服装は淡い黄色のTシャツっぽいカットソーに、水色のゆったりひざ丈パンツ。カットソーはちょっとくらい濡れたり砂がついていても大丈夫だし、パンツだと砂が足についても内股が痛くならない。それに、シースルーの白い上着。足は黒いビーチサンダル。砂があるから普通の靴だと歩きにくい。


 夜伽巫女になって、ふと思うことがある。

 実は、こんな平凡で、普通の毎日を送ることも幸せなのかもしれない。

 でも、ヒカル様と過ごす毎日には替えられない。私の幸せの頂点には、ヒカル様がいるんだから。


 ◇ ◇ ◇


「おやすみなさーい!」


 今日の夜伽は昼間いた海岸。きれいな満月が南東の空の高い位置にある。夜の海岸には、人が殆どいない。そんな海岸を、ヒカル様と散歩する。

 私は昼に着ていた水着の上に、昼と違う上着を羽織っている。おへそぐらいまでの半袖Tシャツっぽいデザイン。落ち感のある白ニットで、薄手でちょっと透け感がある。だから、水着の色とチェックの模様が、明るいところだと確実に透ける。もっとも、今は月が出てるとはいえ、夜で人が殆どいないからわからないと思う。そして胸がV字に開いている。チェーンからぶらさがって胸の谷間を強調する、シルバーのダガーモチーフペンダントが月明かりをキラキラと反射する。下は、太ももがしっかり露出されている、デニムのホットパンツ。色は濃すぎるわけでも薄すぎるわけでもない青。

 落ち感のある短い上着の裾がお腹からずいぶん離れていて、私の胸の大きさとお腹のくびれを強調する。胸が服を持ち上げているのがよくわかる。

「彩佳の胸、大きいからね。」

 直接ほめられると照れる。おへそも丸だし。胸が強調されている分だけ、水着を着ている時よりもいやらしい。もうね、普段の私の格好からしてみたら、考えられないくらいの露出度が高い、えっちな服装。一人で歩いていたら、確実に犯罪に遭うか、少なくても変な人に絡まれるよね。でも、今の私は、えっちな彼にお願いされて、露出が高いえっちな服を着て、隣りにいる彼を満足させようとしている、健気な彼女。

 隣を歩くヒカル様は、上が大胆に前ボタン全開の白シャツ。下は膝くらいまでの水色の水着。

 そして、足元はおそろいの黒のビーチサンダル。


 ザザー、ザザー、と波の音。ほどよく高い位置にある、満ちた月。月明りが海に反射して、仄明るい。隣には好きな人。

 ほんと、幸せな気持ち。ヒカル様も同じくらい楽しんでいるかな。

 ヒカル様は大胆にも、私と手をつなぐのではなく、右手を私の腰にまわしている。

「手をつなぐより密着してていいよね。」

 こういう、大胆なのもいいかも。


 ヒカル様は、たまーに手で私を引き寄せて、濃厚なキスをする。他にも、左手で私の頭をなでなでしたり、手がホットパンツで包まれたお尻を揉むこともある。服の下から手を入れてきて、背中の上のほうをなでなでするのはいいけど、お尻の割れ目にそって指を置くのはやめてほしい。ホットパンツだとお尻の割れ目がしっかりわかっちゃうのが恥ずかしい。

 私はヒカル様の背中に両腕をまきつけたり、キスをおねだりするなど、ちょっと大胆なこともやっちゃう。照れくさいけど、ヒカル様が喜んでくれるから、恥ずかしがっちゃだめ。月明りだけだから、やることも大胆になる。


 ヒカル様が波打ちぎわから離れたベンチに座る。満潮まんちょうのときに海水に覆われる場所だと、やけに臭くて半分乾いた海藻にピョンピョン跳ねる虫が涌いていることがあるけど、波打ち際から離れるとそういうのはなくなる。

 ヒカル様は、私を膝の上に座らせる。

 仲良く一緒に月を見る。

 波の音に耳を澄ます。

 ヒカル様は両腕で私のお腹を包み込む。

 これで私は逃げられない。


「私の髪の毛、くすぐったくない?」

 私が気になってヒカル様に聞くと、

「大丈夫だよ」

 とヒカル様は私の髪の毛をはむはむする。

 ヒカル様が私の髪の毛をくわえて、つんつんと後ろに引っ張るのが、なんかいやらしい感じ。


「背中を人に預けるのっていいでしょ?」

 ヒカル様が唐突に言う。

「そうね、悪いもんじゃ無いわね。」

「身も心も預けて、気持ちよくなりたいでしょ?」

 頭のなかに警報が。変に答えると大変なことになる!

「どう?」

 無言。

「ど、う?」

「やっぱり、気持ちよくなりたいな。」

 あーあ、認めちゃった。

「いい子だね、彩佳。」


 ヒカル様は一瞬両手を私の両足にかけて広げ、一気に私の足の間にヒカル様の両足を入れた。

 これで私の足が開いたまま固定されちゃう!

 腰の位置が変わり、起き上がるのが大変。

「嫌! 私の足を開いたえっちな姿、他の人に見られちゃう!」

「この海岸、この時間だとほとんど人いないし、大声出さなかったら誰もこっちに気づかないよ。

 本当は、何されるかわからなくて、ドキドキしてるんでしょ?」


 首筋にふーっと、冷たい息。

 大きな声をあげたいけど、ぐっと我慢したい。

 でも、「やん」と小さい声が出ちゃう。

 ヒカル様の顔が見えないのが不安。

 何されるのかわからないのが不安。

 どんなふうに犯されちゃうのか不安。


 私の足を開いたままにするヒカル様。

 ヒカル様の片腕が私のお腹を抱いているから、私は逃げられない。

 ヒカル様の指先が、私の露出した太ももの内側をつーっと這う。甘い声が出そう。


「自転車通学で足、太くなっちゃったから、恥ずかしいよお。」

「そんなことない。ほどよく筋肉がついて、良い弾力だよ。

 このまま顔を埋めたいけど、いまは我慢だ。」


 内ももと脇腹の指先攻めで頭がふらふらしてきた。

 ヒカル様はホットパンツの裾ぎりぎりまで攻めてくる。絶対領域を攻めるみたいに、太ももを攻めてくる。

 足を開かされている状態なのが、かなりつらい。

 後ろに倒れこんでも、ヒカル様に捕まるから逃げられない。むしろ、もっと強く抱かれ、もっと激しく犯される。

 ヒカル様の片手が上着の下に入り込んできて、下乳を揉み出す。


 片手は下乳、片手は脇腹と太ももと……おへそ! おへそまで攻め始めた!

 指と手のひらで私を執拗に攻めるヒカル様。

 下乳をもむ手は、私の上半身をヒカル様におしつける。

 逃げられないよ、徹底的にかわいがっちゃうぞ、と言われている気分。


 そして、口と息で耳とうなじを攻めるヒカル様。

「だめ、だめっ!」

 違和感と戸惑いと気持ちよさで半泣きになる私。

「後ろからはもう嫌!」

 と必死で逃げようとする私。

 膝がガクガク、頭がパニックになりそう。

「こんなの、もういやだよ! だめ! だめ! やめて!」

 もう泣き出す寸前の私。


 ヒカル様が急に攻めるのをやめて、私を横抱きにする。

「頑張ったね、彩佳。」

 頭をなでなでするヒカル様。

 ほっとする私。

 でも、何か物足りない。

 ちょっと不満そうな顔でヒカル様を見る。

「どうした? 何かほしいの?」

 空いている手で私の顎をなでながら聞くヒカル様。

 そして、私の唇をなでる。


 そうだ、キスだ。

「キス。キスが、ほしいの。」

 おねだりさせられた私。


 今回は意地悪せず、素直に私の体勢を調整し、私に濃厚なキスをするヒカル様。

 唇が奪われ、舌と唾液が入ってくる、ほんの短い間の違和感。

 その後に来る安堵感で、私の張り詰めた心が溶ける。

 なんだろ? 体に元気がみなぎる、この感じ。

 あ、これが生きてる、ってことだ。

 生きてるっていいな。

 気持ちいい。

 幸せ。

 温かい。

 満たされる。

 好き。大好き。

 ヒカル様、大好きです。

 ヒカル様に抱いて頂けて、彩佳は幸せです。

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