第3話 専属
「期末試験前に景気づけでカラオケ行くぞー。
マイカが落ち込んでるみたいだし、マイカを元気づけてやるぞー。」
テンション上げて友達を集めるエリコ。
エリコは女子のムードメーカーで、いつもテンションが高い。私は
「私達も行くー」
と言った。チサも
「しょうがないな」
と参加表明。
◇ ◇ ◇
うわ。最悪。マイカが失恋の歌を延々とリクエストする。
ふられて落ち込んでたのね。
マイカが4曲目を入れ終わった時点で、
「うざいから没収」
ってチサに怒られてリモコン没収された。歌い始めてしまった一曲目はともかく、もちろん残りの失恋の歌は全キャンセル。
咲は恋の歌を歌おうとしてたけど、空気を読んでキャンセルした。かわりに誰でも知ってそうな、コンビニとかの有線で流れてるような曲を選んで、マイカがいっしょに歌えるように配慮してた。咲は優しいね。
こうやって友達とカラオケに来ると、みんなの性格がよくわかる。
チサは誰がなんと言おうと、かっこいい男性ばかりのグループの曲(ビジュアル系というらしい)と、かっこいい男子が活躍するアニメの曲(もちろん男性歌手)ばかり選ぶ。男の人が好きなんだね。でも、積極的に彼氏を作るつもりはないのかな。背が高いチサが男性歌手の曲を低めの声で歌うとサマになっていてすごい。
エリコは、女の子が数人がかりで変身して巨悪に立ち向かうアニメの曲をひととおり歌う。小さい女の子向けというけど、いい年したオッサンも喜んで見るらしい。きもっ。その後はロボット格闘アニメのテーマソングを何曲か。勇ましい曲でマイカを勇気づけようとしてるのかな?
そして私は! 数十人のアイドルがみんなで歌うグループの歌!
あれは一人じゃ歌えないゴミを集めた集金組織だと言った人、ちょっとこっち来なさい。
あのね、あれは音楽ユニットじゃないの。そんな低次元なものではなく、それを遥かに超越した芸術なの。少しでも認められようと、必死に頑張るメンバーの努力。多くの仲間と、足の引っ張り合いをしながらも、心が醜い人がいるからこそ固くなる、信頼できる仲間同士と
もちろん、好きな曲のタイプは、元気が出るようなテンション高い曲。応援されてるような感じがして、うれしいんだよね。
好きだったらオーディションに参加したらって? しないよ。そこまで歌や踊りがうまくないし、見てるほうが好き。スポーツを見るのが好きだからって、必ず自分でもやるわけじゃないでしょ? それと同じ。
◇ ◇ ◇
3時間もカラオケを楽しんだ後、おとなしく帰宅した。
「何でリモコン渡してくれないのー!」
と最後までマイカが暴れてたけど、失恋アピールされても誰も嬉しくないって。あまりにもひどく暴れたから、チサにスポーンと軽く頭を叩かれてた。
家に帰って試験勉強を始める前に、動画サイトで3曲くらい見ることにした。
みんな衣装かわいいよね。やっぱりセンターは歌がうまい子がなるのかな。それとも、ダンスが上手な子?
そして、いつものパターンだと、今日の
いいかげん慣れてきた。
◇ ◇ ◇
お風呂に入って、一日の疲れを取る。今日もそうだけど、最近は、一番風呂に入ることが多い。一番風呂で身を清めておけ、ってヒカル様の陰謀なのかな? でも、
今日はいろいろ思うところがあった。
マイカが失恋したみたいだけど、私もいつか失恋することがあるのかな。その前に彼氏作る心配が先だろって? でも、告白する前に恋が実らなかったら、それも失恋だよね。
それにマイカの気は紛れたかな? ちょっとは慰められたかな? 人のフォローって大変。咲だったらすごく気を利かしそうだけど、私には難しいかも。
あと、最近、近所のワンコに吠えられる。
今日も、散歩中のワンコにやられた。前は、喜んでしっぽを振って、飛びついてきて、撫でろってお腹を見せてきたりしてたんだけど、最近は唸ったり、怒って吠えかかってきたり、飛び掛かろうとしてきたり。
申し訳なさそうにしてる飼い主のおばさんが、
「他の人にはあまり吠えないんだけどねー」
と言うんだけど、私は吠えられてますから!
私はワンコが喜んでるのか怒ってるのかくらい、表情を見ればわかると思うんだけど、私、何かしちゃったかな? 全然覚えがないんだけど。
それにしても、あのアイドルグループはすごい。
腰のキレも、足の上がり方も、手の動きも、私とは全然違うもんね。どれだけ頑張ったら、あんなふうになれるんだろう。頑張ったら、私にもなれるのかな。狭いお風呂だけど、ちょっと体を動かしてしまう。
いろいろ考え事をしながらお風呂に浸かってると、だんだん指がふやけてきた。
いけない、体を洗わなきゃ。
まずはシャンプーから。髪を濡らして、泡立てたシャンプーで念入りに洗う。
それから、トリートメント。ヒカル様が髪をなでなでしてくれるのを想像しながら。サラサラヘアのほうがいいもんね。
肌を流れるお湯が気持ちいい。
それから、ボディソープを泡立てて、首筋から鎖骨、腕、胸元……。全身を念入りに。大切なところはスポンジを使わず、手で優しく洗う。
ヒカル様、いい香りで喜んでくれるかな、と思って、お気に入りの香りのボディソープを選んでみた。
気付いたら、ヒカル様が喜んでくれるかどうかが私の価値基準の全てになってる私。
だいぶ毒されてる。やばい。
お風呂を出る前に、もう一度浴槽に入る。
「やはり
でたな! 妖怪風呂覗き!
ヒカル様のことを考えてた時点で、あのスケベ狐が出てくるのかな、とか考えていた私の予感があたってしまった。
え? 俺を呼んだのはお前だって?
これ以上、変態を伝染させないでよ。
「風呂だと俺と心が繋がりやすいからね。
布団がベストだけど、風呂でリラックスしているときがナンバー2かな。
もう気づいているかもしれないけど、他にも、黙々と歩いてる時とか、電車やバスで揺られている時、食器を洗ったり洗濯物をたたんだり。単調なことをしているときも繋がりやすいからな。あの先生のつまらない授業もそうだって?
まあ、事故には気をつけておけよ。俺も気をつけるからさ。」
先生! 無駄な解説で話をそらすのはよくないと思います!
「それにしても、自分の体をぬるぬるにしてなでなでする彩佳の手触り肌触りに首筋鎖骨胸元太ももアソコ、ハァハァハァ」
変態的なことを言い出すヒカル様。
やはり、ヒカル様はケダモノだったんですね。
「どうせ狐ですよーだ。
そうだ、ケダモノで思い出した、マロンちゃんだっけ? 彩佳に吠える失礼な駄犬。」
マロンちゃんがどうしたの?
「あれ、ずいぶんカンがいい犬だな。俺の夜伽巫女になってから、彩佳の雰囲気が徐々に変わってきてるんだよ。
人間にはわからなくても、さすがに犬にはバレてしまうみたいだ。
だから残念だろうが、今後、マロンちゃんをモフるのは諦めてくれ。
まさか、俺よりあんな駄犬のほうがいいとか、ふざけたことはいわないよな?」
マロンちゃん、ごめんね。もうかわいがれないなんて。
「それにしても、洗面器で胸を隠し、もう片方の手で股を隠す今の彩佳、初々しくて可愛いなあ。」
あれ? 気づいたらこんな格好してた。
「無意識のうちに女の子の大切なところを隠そうとする間は、全裸で夜伽はまず無理だな。少なくても、彼氏ができて、お互い全裸で性交するまではお預けかな。」
ここで罪悪感を感じたら……だめだ。勢いに流されるのはよくないことだ。うん。
「そうなると、裸の彩佳を楽しむには、夜伽の時より風呂だな。
本当は、『背中流すぞー』とか言いながら乱暴にドアを開けて風呂に入りたいところだが、残念ながら俺には肉体がない。その上、風呂で夜伽をやるのは危険だから、こうやって声だけで彩佳と話すのが精一杯だ。
あ、もちろん感覚共有は楽しませて頂いてるぜ。」
いつものように、最後に余計なことをいうヒカル様。
そういえば、私も失恋するのかな。マイカをみてるとちょっと心配。
「彩佳が俺の夜伽巫女でいる限りは、だ。彩佳の成長にどうしても必要でないかぎり、失恋はない。さすがに結婚した夫が彩佳より先に天寿を全うしたら、それは失恋になってしまうが、天寿はどうしようもないからな。」
もっと詳しく……言ってくれないよね。
「済まんな、彩佳。現時点ではここまでしか言えないんだ。未来は確実なものではないから、100%の確信をもって何かを言うことはできないんだ。それに、彩佳が努力しないかぎり、起こせることも起こせなくなる。」
無駄に失恋することはなさそう。これだけでも、十分、貴重な情報だ。
「お詫びにと言うか、そう無関係な話じゃないから、ちょっと長いが俺の話を少し聞いてくれないか。」
何?
「俺達のような
俺達がブレイクしたのは、水田を使った稲作と製鉄を日本で流行らせて、弥生時代の間に技術革新を引き起こした時だな。鉄器が
その後、仏教伝来で俺達への信仰がちょっとヤバくなったけど、しばらくして
ヒカル様の世界には、数百年前、数千年前といった、大昔のできごとの生き証人とかいるんだろうな。なんか凄い。歴史家が聞いたらびっくりするんだろうな。あ、自分に都合が悪くなったらなかったことにするのかな?
「まあ、俺達の言うことを信じるような者は、主流派になれずに潰されるよ。それくらいでちょうどいい。
ただ、日本のラスボスが誰かくらい、知っといたほうがいいんじゃない?」
「え?」
「日本のほぼ全ての神棚に入っている御札、どこの神社の札だ? そして、その神社の主祭神、誰だ? 簡単に調べられるだろ。」
はぁ。
「話を戻すぞ。
大発明や革新的な技術ってのは、俺達と人の子の強い協力、信頼関係によりもたらされることが多い。稲荷は生産の神だから、新しい技術とか、新しい考え方を積極的に取り入れているんだ。生産力を増強するには、新しいことをやらないといけないからな。俺達の世界には、変化を好まないものもいるが、稲荷は基本的に新しいモノ好きだと思ってくれ。」
伊勢神宮とかの神社を定期的に建て直させるのも、それが理由?
「すぐ代替わりする人の子の間での技術の継承、定期的な信仰の確認、公共事業の強制による景気浮揚、など理由はいくつかある。全部の神社でやるわけにはいかないけどな。
余談だが、稲荷が怒ると祟るってのも、実は失礼な言い方だ。生産ってのは、比較的短い期間で結果を求める。だから
人の子が生産、拡大、発展に関する利益を求めるとき、俺達は信仰と引き換えに手を貸すわけだ。そして、人の子の世界でも、約束を勝手に破られたらムカつくだろ? 勝手に取引を中断するとか、契約破棄する者は嫌われるだろ? それと一緒だよ。同意の上で契約内容を変えることについてはやぶさかではないが、一方的に裏切られるのは許せない。まあ、普通の人の子は俺達と接触できないから、プロに頼むしか無いんだが、プロを探すのも大変だ。無理な取引をしないのが一番なんだけどな。末代まで祀ります、なんて、子孫に迷惑をかけることは最初からしないほうがお互いのためだ。」
神様と対話できるプロを探すのって、まず無理だと思う。偽物も多いし、本物は騒がれるのが嫌で隠れるだろうし。
「で、俺達がやりたいのは、俗な言い方をすれば、人の子の世界で俺達のファンを大量生産したいわけだ。最近の人の子の世界では、音楽CDを多くの人に広く浅く売りつけるビジネスモデルが成立しなくなってきたから、少数の人に大量に金を落とさせる動きもあるんだっけ?
稲荷グループの推しメンであるヒカル様に廃課金する私、といった構図が目に浮かぶ。あれ? 逆かな? まあいいや。いっぱいお金落とすから、握手、じゃなかった、もっとディープなことまでさせてくれるのね。
「そういえば、面白い
何?
「場所によっては、人気歌手がコンサートやるにしても、コンサート会場がなかったりするわけだ。ヨーロッパの陽気な国とかだと、大きい教会の前の広場で派手にやったりするんだよな。」
あ、そんな場面、旅番組で見た!
「その歌手がさ、歌を神様に捧げるつもりで歌ってたとしたら、その気持ちが教会の
なんかわかる気がする。
「残念ながら、日本だと神社やお寺の前でアイドルコンサートのような馬鹿騒ぎはやらない。お祭りはともかく、アイドルコンサートなんて論外、ってのが日本人の常識だ。」
うんうん。
「だけどさ、彩佳は夜伽巫女になった以上、いわば、歩く神社なんだよ。俺を祀ってる神社なんだ。人に担がれないと動けない、移動式神社のお
なので、彩佳がアイドルコンサートに出掛けて、その熱気を俺に届けたい、この楽しさを俺に伝えたい、と願ったら、彩佳がどこにいたとしても、俺にその気持ちが届くわけだ。どんなイベントでも、彩佳がいれば神前イベントになるんだよ。
多くの人が楽しいと感じている気持ちを、俺に意図的に向けられているものでなかったとしても、俺は感じ取って、気分よくなることができるわけだ。他の人は誰も気づかないけどな。
せっかくだから、機会があったらやってみてよ。」
やってみたいな。近いうちにできるかな?
「でも、済まないが、受験が終わるまではアイドルコンサートに出かけることは無理っぽいな。」
ちっ。
◇ ◇ ◇
「おやすみなさーい!」
いつものように布団に入る。チェーンはちゃんと左手首に巻きつけてある。
◇ ◇ ◇
「いえーい! 今日は彩佳のリクエスト通りでーす!」
ヒカル様がいつものようにテンション高めで宣言する。
背景は、今日の午後にいたカラオケボックス。午後には女の子が5人いた。だけど、今いるのは私とヒカル様だけ。
ヒカル様はうちの高校の制服。ただしシャツのボタンはいつもどおり二番目まであけてる。ヒカル様的にボタンをあけるのは外せないのかな?
ヒカル様って、うちの高校の制服大好きだね。
「彩佳がもっともイメージしやすい、同年代の男の子の服装って、高校の制服だろ?」
ヒカル様、解説ありがとうございました。
そして、私は制服ではなく、あのアイドルグループのセンターの衣装。
プリーツたっぷりで裾が広がる、独特のチェック柄のもも丈ミニスカート。ハイソックス。白ブラウスにジャケット。ジャケットにもスカートと同じ柄のチェックが何箇所か使われている。
でも、胸にリボンがない。本当はチェック柄のリボンがあるのに。かわりに、ヒカル様からのプレゼントの、ダガーモチーフのペンダントがシルバーのチェーンでぶらさがっている。
ペンダントはヒカル様とおそろい。現実だと考えられないけど、これが実現できちゃうのが夜伽の凄いところ。
「なあ、彩佳。青春の定義が努力、友情、勝利だとすると、俺達は間違いなく青春してるよな。」
俺達ってヒカル様も? 神様だって青春するの?
「彩佳は毎日頑張って、生きている。」
努力。
「俺との強い絆で結ばれている。」
友情。
「そして、一日頑張った後の夜伽は、最高に気持いいだろ?」
勝利。あ、ほんとだ。
「俺も、彩佳が幸せに生きていけるよう、いろいろ頑張っている。
もちろん、彩佳がたまに嫌な思いをすることもあるが、それはどうでもいいことだったり、人の子として成長するために必要だったり、他の大きな災いを避けるために仕方ないものだったりする。そういうとき、俺を責めないでくれ。
その代わり、俺は彩佳に致命的な不幸がないようにいろいろ手を回している。大きな自然災害に遭って避難所暮らしにならないように何とかするし、彩佳が重病で苦労しないようにする。もちろん、人の子として死は逃れることができないが、不必要に苦しませたり、早死にはさせない。
他にも、彩佳が路頭に迷うことはさせないし、その他大きな不幸からは遠ざけるようにしている。何回か言ったと思うけど、彩佳の幸せは俺の幸せだ。」
ヒカル様すごい。努力だ。
「彩佳は俺と強い絆があるだろ?」
友情。
「そして、俺が幸せにした彩佳が、俺を求め、大好きという感情を注ぎ込んでくれるのは、最高に嬉しい。」
勝利。ヒカル様が青春してるのって、何か変な感じ。
「神が青春したっていいじゃないか。それより彩佳、俺のために一曲歌ってよ。」
ほえ? 何か照れくさい。
「ここなら、お前は完璧に歌って踊れるはずだ。何度も動画見てたんだろ?」
そうだ。夜伽だから、できるはず。
「彩佳は俺のアイドルだ。推しメンだ。頑張れ彩佳! 俺が応援してる!」
ヒカル様にここまで言われたら、やるしか無いよね。腹をくくってテンションをあげる。
「ヒカル様! 彩佳のライブに来てくれてありがとう!
それでは一曲目、いっきまーす!」
◇ ◇ ◇
結局、3曲歌っちゃった。完璧に歌えて、完璧に踊れた。
「彩佳は何回も動画見ていたからね。それに、イメージを組み立てるセンスがある。それでも、ここまでしっかり振り付けを覚えるのには、相当な才能が必要だよ?」
私はアイドル衣装のままでヒカル様の隣に座ってる。もちろん、手は恋人つなぎ。
アイドルは恋愛禁止とかよく言うけど、私はヒカル様だけのアイドルだし、問題ないよね。幸せそうに私を見て微笑みかけるヒカル様をみると、ついいたずらしたくなっちゃう。
よし、ヒカル様を押し倒しちゃえ!
「アイドル彩佳のパフォーマンス、お楽しみ頂けましたでしょうかー?
次は、彩佳の体でたっぷりお楽しみください!」
うわー。恥ずかしい。
何言ってるの私。ヒカル様の太ももの上にまたがって、ヒカル様を壁に押さえつけてる。
何やってるの私。
絶対、私、顔真っ赤だよ。恥ずかしすぎる。
顔を見られたくなくて、ヒカル様の肩にもたれかかる。
「真っ赤になってる彩佳、可愛すぎて大好きだよ。」
見上げると、ヒカル様の満面の笑顔がある。
私の太ももの絶対領域をやさしく撫でるヒカル様。
「絶対領域がある以上、触るのはここしかないでしょ!」
ヒカル様さすが、わかってる! と思ってしまう自分が少し嫌。
足、太いでしょ? 毎日自転車
「健康的で、もみ
ちょっと手に力を入れて、もみもみしてくる。撫でられるのと違った感触で、これも恥ずかしくて、顔から火が出そう。
「彩佳が俺にショーツを押し付けてくるくらい積極的になるなんて、俺は最高の気分だぜ。」
ふぇ?
よくみたら、スカートの裾が広がってる。
ということは、ショーツが直接ヒカル様の服に押し当てられてる。
恥ずかしい、恥ずかしすぎるよ。
「逃げようと思っても、逃がすと思う?
かわいい夜伽巫女は、たっぷり可愛がらないとね。今日の彩佳、すごく愛おしいな。」
そうやって、私の腰を左腕でしっかり抱えるヒカル様。
これで私は、足を開いて、ヒカル様にまたがってる状態から逃れられない。
そのまま、左足の絶対領域のなでなでを続けるヒカル様。
延々とハイソックスで覆われていない太ももだけをなでるあたり、ヒカル様の夜伽のときのこだわりは、ある意味すごい。
本当はハイソックスの手触りも楽しみたいのだろうけど、そこを我慢してまで絶対領域至上主義者な変態に徹するヒカル様。よく見たら私の胸も触ってない。人間だったら立派な変態紳士だね。延々とヲタな話で悪友と盛り上がりそう。
「そういう彩佳も、萌えのツボをしっかり抑えてくるじゃない?」
うげ。バレてる。
どうすれば萌え萌えでモテる女の子になれるのか、高校入学前にネットでこっそり調べてたことも絶対にバレてる。魅力的な女の子がどんなものかを知りたくて、ヒロインが特にかわいく描けてることで有名なファンタジー物のラノベを数冊読んだことも絶対にバレてる。
私の黒歴史なのに。
「このステージ衣装の特徴って何だと思う?」
かわいいこと?
「ボタンが全部、前についてるんだよねー。」
腰を抱く左腕の力が強まる。強く抱きしめられるのは、うれしいこと。でも、逃げられない!
右手でボタンを一つずつ外すヒカル様。
すごくうれしそう。
そういえば、私、今日はフロントホックのブラジャーをしてたんだっけ。つい、これを選ばないといけない気がしてたんだけど、ヒカル様がこうやって外すために着せたのね?
例の確率操作を使ったんだ。ヒカル様、こういうことには恐ろしくやり手だ。
「この眺め、最高だねー。」
アイドル衣装のジャケットとシャツをまだ着てるのに、ボタンが全部外されてるのは変な感じ。
胸もほどんどジャケットとシャツで隠れてるはず。乳首は絶対に見えてない。でも、胸の谷間とおへそが丸見え。
胸の谷間でペンダントがチェーンでぶらさがって揺れてる。胸の谷間が強調されてるようで、自分がえっちな子になっちゃったみたい。
「今の彩佳、今まで一番、えっちな顔をしてるな。もっと照れて、恥ずかしがってる顔してよ。」
無理! 無理だよう!
「このまま下から胸を味わったら、快楽に必死に耐えてる、もっと可愛い顔になるのかな?」
ヒカル様が胸を下から持ち上げてくる。左右に落ちたブラジャーのカップをわざわざ胸にあてて、その上から胸をもみもみするのがヒカル様らしい。
ヒカル様に顔が見えないよう両手で顔を隠し、指を一本噛んで、声が漏れないようにする。
「なんか興をそがれるな。
これでどうだ! えいっ!」
右腕で急に抱き寄せられる。私がヒカル様の方に倒れこむ。
ヒカル様、腕をちゃんとシャツの下から回してくるところがすごい。
私のペンダントとヒカル様のペンダントが重なる。
チェーンが絡まったら大変だ、なんて余計なことを考えてしまう。
ヒカル様の胸板の上に私の頭がのる。ちょっとうれしい。
「今日の彩佳はやけに積極的だな。俺のシャツのボタンも外してみる?」
え? いいの? 何か照れる。
それにしても、男の人の服を脱がせるなんて……。
「遠慮しなくていいんだよ?」
脱がしやすいように、腕の拘束を弱めるヒカル様。
私を励ますみたいに、優しく私の体をさするヒカル様。
男の人のシャツを脱がせるのなんて初めて。でも、ヒカル様は優しい目で見つめてくれて、勇気が出てくる。
両手で頑張ってシャツのボタンを外して、思いきってすべすべの胸元にちゅっとしてみた。
ヒカル様はちょっとビックリしてたけど、すごく幸せそうな笑顔になって、また急に抱きしめてきた。
肌と肌がくっついているのがうれしい。シルバーのチェーンもくっついてる。ヒカル様の胸で、私の胸がちょっとつぶれてる。
「よい、しょっと」
ヒカル様が起き上がる。上下がひっくり返り、私が今度は下になって、ヒカル様を抱きかかえる形に。
よくみたら私、カラオケボックスのテーブルの上に転がってる!
「こういうのって、誘い受けって言うんだっけ?」
チサが何かそんなことを言ってた気がする。
「彩佳、本当は俺に脳がとろけるくらい犯されたいんだろ?」
思い出した。
そうだ、本当はそうだった。
ヒカル様にめちゃくちゃにされて、ヒカル様好き! 大好き! と思いながら、温かい気持ちよさで寝落ちするのが人生の楽しみになりつつある私。
もちろん、寝落ちじゃないことも多いけど、寝落ちさせられるほうが幸せな感じ。
気絶させられるくらい気持ちいいんだよ?
ヒカル様の舌が口の中に入ってくる。
そういえば、これが今日、最初のキス。
ヒカル様のキスは頭がとろける、不思議なキス。
「胸とお腹が、温かいでしょ?」
ヒカル様に触れてる素肌が、すべて温かくて気持ちいい。
強い刺激がないのにどんどん気持ちよくなるなんて、変なの。
背中のなでなでも、ずっと続いている。体の中を犯されないなでなでだけで気持ちよさで気を失うなんて、どうみてもおかしいけど、優しく気持ち良すぎてもうだめかも。
「これだけで終わらせないよ?」
ヒカル様の手がスカートの中に入り込んでいる!
いや! やめて! 私、まだ覚悟が――――
「本当に嫌ならやめてもいいんだけど、本当にいいの?」
無理やり襲われている感が気持ちよさのスパイスになっていることに気付かされる。
カラオケボックスのテーブルの上に転がされて、片手でお腹をなでなで、もう片手でスカートの中でお尻をさわさわ。もちろん、すべすべのショーツの外からも触るし、手をつっこんで中からも触ることも。
前を全部はだけてヒカル様に抱きしめられて、スカートの中をいじられる。あ、ニーソも楽しむことにしたらしい。
あっ! 背中を撫でてた手が脇腹を触ってる! 少しお肉が気になってるのに。
えっちすぎる。
「大好きな彩佳はとことん可愛がらないとね。」
反則だよ、そんなこと言っちゃ。
「そういえば今日のえっちの間、俺はずっと、彩佳の太ももの間にいたね。」
あ、本当だ。
ヒカル様の上に乗ってから、一度も足を閉じてない。
うわぁ。私、どんなはしたない子なんだろ。
「そんな、えっちな彩佳だから、好きなんだよな。
俺のために可愛い姿を見せてくれる彩佳が大好きだよ。」
うー。
もうだめ、気持ち良すぎてだめ。
体が気持ちいいというより、心が恥ずかしさでショートしそう。
ヒカル様が私を落ち着かせようとキスをする。
深呼吸するように私は息を整える。
ヒカル様の優しさを全身で受け入れるんだ。
でも、このままだと何か物足りない。
……そうだ。私、ちゃんと抱っこされてない。
テーブルの上で押し倒されて気持ちよくなるなんて嫌。
「どうした、彩佳?」
お願い、抱いて。ちゃんと抱いて。
「よくわからないや。もっと正確に言ってよ。」
抱きしめて。お願い。
「え?」
ヒカル様の膝の上に私を置いて、正面からぎゅって抱きしめてよ。
「まだ良くわからないなあ、」
もう! ヒカル様の意地悪!
いいから、ヒカル様は椅子に座って。
そして、ヒカル様の膝というか太ももの上に、私を置きなさい!
私の体を激しく、しっかり抱きしめて!
そして、頭がおかしくなるくらい、激しくキスして!
「そこまで言われたら、そうしないとなあ。」
ヒカル様は私を抱っこして、言われた体勢に移る。
もちろん、私の両足は閉じることが無い。
背中とお尻に伸びた腕で運ばれた。
ヒカル様に抱かれてるというか、すごく安心するこの体勢。
私の唇がヒカル様の唇よりちょっと高い位置にある。
だから、私がヒカル様の唇を奪う。
……やはりキスはいい。唇を求めあうとどんどん気持ちがよくなる。
実際は唇というより舌を求め合ってるんだけど。
優しい気持ちになって、その気持ちをヒカル様に捧げないと。
気持ちいい、気持ちいいよう。
一つのことしか考えられなくなる。
ヒカル様、好き、好き、大好き……!!
くっ……あ、もうだめ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます