第9話
「何食べようかなぁ」
さっきのよく分からない質問から一転し、椎名さんはうきうきと僕の前を歩く。
坂道を下り来た道を戻っていると、徐々にあの幻想的な空間から現実に戻ってきたんだなぁ、なんていう落胆のような感情がつい溜息として外に出てしまった。
やっぱりまだ秋といえども、夜は昼よりも気温が下がり、肌に涼しい空気を掠めた。辺りが閑散としていて、全く人気がないから、余計にそう感じてしまうのだろうか。
「椎名さんすごいね……、唐揚げもお好み焼きも食べたのにまだ食べれるんだ」
僕のイメージだと女の子はお好み焼き1つ食べれば当分は食べないで済むのかと思っていた。いや、流石に少ないのだろうか…。
「ふふ、たくさん食べる人は嫌いかな?」
こちらを振り返り彼女は微笑む。
「いや……別に。いいと、思う」
僕はつい目を近くに建っているマンションにそらし、またちら、と椎名さんを見る。
「友也くんこそ、しっかり食べないと死んじゃうよ?」
「この程度で死んじゃったら断食の習慣があるインド人とかはみんな死んでるよ」
僕が丁寧に突っ込んであげると、彼女はくすくす、と笑い前に向き直り、歩きつづけた。
人が入り交じる大通りに出ても僕は自然と視界に入る彼女を見ていた。
よく食べるらしい椎名さんの体は細いままだ。
よく学校でダイエットとか、昼ご飯を抜くとか、お菓子は太るから食べないと女子達が言っていたけれど、彼女も隠れてしているのだろうかと思い、つい疑問を問いかける。
「椎名さんダイエットとかしてるの?体、結構細くて良い感じだけど」
「なーに、友也くんそんなに私を見てたの?セクハラで訴えちゃうよ」
「視界に入ってくるんだから不可抗力だよ」
「じゃあ目をくり抜かないといけないね」
彼女は面白そうにまたくすくすと微笑む。
どうやら彼女の微笑みは他人にも伝染るみたいで、僕も釣られて笑ってしまった。
─笑い合う男女2人。他の人から見たらなんと微笑ましい光景だろうか。
感情は顔に出るって言うけど、案外その通りなんだなとこの時の僕は思った。
僕らを見て微笑む家族連れ。
楽しそうにそのまま通り過ぎる人達。
僕らの事なんて見えていないような人達。
奇妙な人を見たような表情をしている人もいたけれど、この時の僕にはそんなことどうでもよかった。ただ、楽しく今を椎名さんと過ごせている。それだけで満足だった。
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