第8話

……一体どうしたのだろうか。

中学生の椎名さんについて聞いて以来、彼女は俯いてしまい、時折仰ぐように星空を見上げる。


やってしまった……。中学校の頃の事は聞かれたくなかったのかもしれない。


確かに今の彼女を見ていると、中学生の頃もお淑やかだったんだろうなぁ、というイメージであるけれど、決してつまらないわけじゃないし、友達もたくさん作れていそうな感じがする。

…まぁ、影は薄そうだなぁ。

屋台で何かを買う時、彼女が店主に声をかけても気づかれないことが何度かあったレベルだし。


灯篭の仄かな光に照らされている彼女の横顔を見ながら、僕は何を話しかければいいかを考える。


「……友也くん。」


「ん……なに?」

星空を見上げたまま、ぽつりと彼女は僕の名前を呼んだ。


「友也くんの目には、私のことどう映ってる?」

椎名さんは唐突に、そして率直に、僕に問うた。

「…え?……何言ってるのかわからないけど、普通の女子高校生に見えるよ」

一体他に何に見えるというのだろう。化け物にでも見えると言わせたいのだろうか。

僕は彼女の訳の分からない質問に困惑してしまう。

「うん、そっか。」

「な、なに?どしたの、何か変だよ椎名さん」

「ふふ、変かぁ。まぁ、あながち間違ってないなぁ」

くす、と微笑を浮かべ立ち上がる彼女。

…………。

秘密を隠されていることに対する不安感なのか、苛立ちなのか。言い表せないような気持ちのまま僕も彼女の隣で立ち上がる。



「……そろそろ戻ろっか、ふふ…お腹空いちゃった」

苦笑気味に笑う彼女の表情はなんだか辛そうで、とてもじゃないけど見ていられなかった。

「…うん。」

けれど、その原因が何なのか、僕は聞かないことにする。

椎名さんが言いたくないのなら聞かない方が良いだろう。

僕はそう考える。……だから、聞かない。





────────────────────

夢はいつか醒める。

そんなことは分かっているんだ。

夢が醒めたら、私は友也君の中から消えてしまうかもしれない。


そんな砂のお城みたいな時間でも、私は最期まで友也くんの中にありたい。だから、もう少し。もう少しだけ……。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る