第5話

「そういえば友也くん、部活は入ってるの?」

神社の敷地内にある屋台を軽く見渡し、看板が凝っていて一際目立っていた唐揚げ屋で唐揚げを買い、隣にあったお好み焼き屋で広島風お好み焼きを購入する。僕らはそのまま、向拝所の階段で座って食べることにしていた。

「入ってたけどもう引退したよ。もう高校3年の夏だからね」

そういえば僕が高校3年生であることを椎名さんに言うのは初めてだった。椎名さんはどうなのだろう。見た感じ高校生っぽいし茶道とかをしていたのなら納得できる。

「椎名さんは?ていうか、椎名さん高校生…だよね?」

「あぁ………うん。まぁ、そんな感じだよ。えっと、ちなみに友也くん何部だったの?」

気になって聞いたは良いが、椎名さんは曖昧に答え、ズレかけた話の路線を元に戻そうとする。まぁ、何も無理やり聞くようなことでは無いし、僕としてもそこはスルーしておこう。

「写真研究部。まぁ、大した事はしてないけどね」

僕の入っていた部活の話に戻ると、彼女は写真研究部という言葉に首をかしげ説明を求めるように僕を見つめてきた。そんな顔されると弱いんだが…。

仕方がなく、僕は活動内容を大雑把に話す。

僕の入っていた部活では、人を感動させるような写真の撮り方を学んだり、歴史的、またはポピュラーな場所に足を運び、視界に入る美しい写真を撮る。そしてカメラに収めた写真をコンクールに応募する。といったようなことをしていた。

「ふぅん、人を感動させる写真か…。なんだか素敵ね。じゃあ、撮るの上手なんだろうなぁ」

「ま、まぁ……それなりには…」

ふふ、と微笑みを浮かべた優しい瞳で椎名さんは僕を見つめてくるので、僕は耐えきれず目をそらし、しどろもどろに答えてしまう。そういう表情を向けられるとどうも落ち着かない。

少しだけ沈黙が訪れ、ふと思い出したように口を開いたのは僕だった。

「あぁそうだ。じゃあ取ってあげようか、写真」

それは 微笑を浮かべている椎名さんを写真の中に収めておきたいという気持ちと、照れ隠しのようなものだ。同時に僕の積み重ねてきた技術がようやく本来の、僕のために使うことができるチャンスでもあった。

彼女の目が開き、嬉しそうに口角が上がる。

今日はカメラを持って来ていないから明日また来た時に撮れば良いか。そんなことを考え彼女の言葉を待っていると、少しの間を空けたのちに彼女は少し俯き、僕に向かって微笑む。彼女の口から発された言葉は僕の想像とは違った。

「んー、やっぱりだめ。今日は止めとくね」

「今度、一緒に撮ろう。お祭りの、最後の日に」

それはとても小さい声だったけれど、しっかりと相手に伝えようという彼女の勇気が聞こえてくるような声だった。





────────────────────


そっか、写真部か…。

隣で黙ったままの友也くんを他所に、私は頬杖をついてしみじみと、締め付けられるような気分に浸る。

友也くんは見た目的にサッカーをしていそうだったから何も考えずに聞いてしまったけれど、写真部だったとは考えもしていなかった。

写真。それは今の私にとってあまり好ましいものではない。以前は写真に映るのが好きで、友達同士で集まったらよく撮りあったり、SNSに載せたりしていた。けれどそれは今となっては思い出の話。

胸の中でざわめく何かを抑え込み、私は微笑む。


─友也くんの思い出に、私は残れるのだろうか。

そんなことを、考える。

────────────────────

「あれー、三尋木くん?」

座っていた僕らの近くを通りかかった2人組の女の子の1人が、ふと気付いたように声をかけてくる。

「高坂さん、奇遇だね」

僕が高坂と呼ぶその人物は、小走り気味にこちらへやってきた。

「うん、三尋木くんもお祭かぁ。1人?」

「いや、この人と一緒に来てる」

「わ、ほんとだ。気付かなかったぁ。どうも、高坂奏こうさかかなででーす」

高坂奏はチャームポイントであるらしい肩まで下ろした茶髪を揺らし、明るくピースしながら自己紹介する。 彼女は学校でもこんなふわふわした感じで、その性格故に誰からでも話しかけやすく、いつもクラスの中心的存在でいた。

それに対して椎名さんは、言葉が身に染み込んでくるような淑やかな口調で自己紹介をする。

「へぇ、椎名さんっていうんだ。三尋木くん、こんな綺麗な彼女持ってたなんて知らなかったよー。これは面白くなりそうだね!」

「ま、待って。僕と椎名さんはそういう関係じゃないから…」

「あはは、冗談冗談。ちょっとからかってみただけ」

そう言うと高坂はくすくすと笑う。この人は相変わらず冗談と本音の区別がつきづらい。学校のクラスにいる時は誰かをからかって遊んでいて、僕も以前からかわれた経験があった。僕は彼女とよく話すわけでもないし、最近は特に話していなかったから、からかわれることに対する耐性が落ちていたのだろうと勝手に仮定することにした。


高坂は持ち前のコミュニケーション能力で、クラスのなんとか君にさっき会ったとか、花火は彼氏じゃなくてこの子と一緒に行くとか、お祭りであった出来事やたわいもない話を僕らに語りかけてきた。どうやら隣にいる子とは部活の繋がりらしく、2人ともテニスラケットを持ったままだった。

それから何分たっただろう。高坂の口が止まることはなく、僕と椎名さんの表情からだんだんと笑みが消えだした頃、隣で居づらそうにしていたもう片方の子にかなちゃん、と呼ばれる。

「あぁ、しゃべりすぎたー。三尋木くん、じゃね!また会おう!」

そう言うと高坂は僕らに手を振り、背を向け歩いていく。

「元気な友達だね」

「あはは、ごめん。ああいう人なんだ」

苦笑気味に笑う椎名さんにつられて僕は苦笑を浮かべる。

「でも、学校も楽しそうでなによりだよ」

「まぁね。そこそこ楽しいよ。椎名さんは学校楽しい?」

「うん?んー、まぁ楽しい…かな」

そういうと椎名さんは微笑みを浮かべ僕を見る。

「なにそれ、微妙だね」

「うん、微妙」

僕達はくすくすと微笑み合ったまま、目の前で賑やかに、煌びやかに輝いている屋台を、まるで今思い出したかのように見渡す。

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