第4話

─真夜中の神社。辺りはひっそりと静まり返っていて、そこにはお祭りが終わり取り残された屋台たちが寂しそうに立っている。なんだこいついきなりどうしたと言われそうだから簡単に説明すると、僕はその真夜中の神社に一人佇み、昨日彼女と出会った所に座っていた。夜のひんやりとした空気に流されかすかに茂みの奥から虫の鳴き声が聞こえる。僕は鳴き声のする方を横目で見やり、その場に仰向けに寝転がった。

「やけにリアルな夢だな……」

僕は寝ていたはずだから、ここは夢なのだろう。そう確信していてもこの夢は随分と現実味があった。暗い夜の神社の雰囲気によく見る怖い話を重ねてしまい、背中からじわじわと恐怖が這い上がってくるのがわかった。何故か僕の心はまるで水の底にいるかのような孤独感に襲われだし、呼吸がままならないくらいの恐怖に浸る。早く夜が開けて欲しい。気づけばそう祈りながら僕は何時間もそこに取り残されていた。




─ピピピピ、ピピピピ

けたましく鳴り響くアラームに起こされ、僕は のそり、と気だるげに体を布団から起き上がらせる。

「ふぁ…」

僕は基本的に休みの日も規則正しい生活を送っていて、今日は土曜日だけど7:30分に起きた。ていうか、ただ単に午後まで寝ていると時間が勿体ない感じがするからだけど。

布団に入っていたがる体を無理やり動かし、顔を洗ったあとに朝食をとる。

「ん、おにぃおはよう」

眠そうに目を擦りながら令奈がリビングのドアを開いて入ってくる。

「あぁ、おはよう令奈。昨夜は寝れた?」

「んー、爆睡」

「そ。ならいいけど」

「おにぃは寝れたの?」

「んー、なんか変な夢みた気がするけど、たぶん寝れた」

「たぶんて、変なの」

鼻で笑いながら令奈は僕が焼いておいたトーストをかじる。

「そういえば昨日、おにぃは今日もお祭り行くって言ってたけど、誰かと行くの?」

「え?…………あぁ、そうだった。うん、えーと、昨日知り合った人がいてさ、なんか話が合ったから一緒に話そうみたいな感じ」

一瞬何を言われているのか分からなかったけれど、瞬時に昨日の椎名さんとの会話を思い出す。そういえば約束したんだったな。

「へぇー、男の人?」

「いや、女の子。僕と同じ歳の女子高校生……だと思う」

「うぇ!?何その出会い方……漫画みたいじゃん」

たしかによく考えてみるとなかなかに漫画みたいな話である。「神社で偶然出会ったから一緒に行動することになりました。」ってあまり経験出来ることじゃないな。

「まぁ、楽しい時間を過ごすと良いよ」

「なんでお前が上から目線なの」

「あぅ…」

やけに上から目線で言う令奈にチョップを入れ、僕は空になった皿をキッチンに運ぶ。夜までの間に最近気になっていた本を探すことにしよう。ついでにカフェで時間を潰すのも良いかもしれない。そんなことを考えながら、僕は家をあとにした。




「あ、友也くん……!」

「こんばんは、椎名さん」

「本当に来てくれたんだね」

「さすがに約束は守ります」

「ふふ、覚えていてくれて良かった」

くす、と笑い僕は椎名さんの台詞にツッコミを入れる。

時刻は午後7時。

僕が約束通り神社にやってくると、昨日と同じく神社の中は多くのひとで賑わい、豆電球の光が煌びやか輝いていた。それと同じように、椎名さんも昨日と同じ向拝所の階段に座っていた。

辺りは賑やかな声が行き渡っているのに、この向拝所は不思議と空間が違うように静かな雰囲気を帯びている。

「ふふ、今日も人々は楽しそうですね」

彼女は、手のひらに顎をのせて、輝かしいものを見るような表情でそう呟く。

「何その神になったみたいな言い方」

思わず苦笑を漏らし僕は彼女を見る。

彼女は「神か……」と苦笑紛れに呟き、少しすると微笑みながら立ち上がった。

「友也くん、夕飯は食べた?」

「ん?食べないで来たよ、ここで食べそうだから」

「ふふ、そう、それは良かった。じゃあ食べに行きましょう?」

「うん、わかった」

そう告げて、僕と彼女は弾む足取りで光に満ちたお祭りへとまた歩み始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る