其の十三 【佳代子の繭】
主様がいなくなってもう七日も経った。
主様の気配が完全にこの世界から消えた。佳代子は悲しくて毎日泣いた。
佳代子は主様がいたからこそ、生きて行けた。主様にお仕えすることこそが生きがいであったというのに。
主様がいなくては、ごはんを食べても意味がない。
食べて産んで、また食べて産んで。そうすることで、主様が喜んでくれれば幸せだった。
今日も世の中には穢れがあふれているというのに、全く食欲がない。
穢れを食べて、主様に卵を捧げる。
主様は、卵を産むたびに、上等なのを産んだねと褒めてくれる。
幼い佳代子の体は、食べることをやめてしまったので、どんどんやせ衰えて骨と皮のようになってしまった。
そして、毎日泣き暮らして、とうとう床に臥せてしまった。
ある夜、佳代子はとても気分が悪くなり、気持ちが悪くなって、吐いてしまった。胃の中は空っぽだから何も出るはずもないにも関わらず吐き続けた。それは、玉虫色の糸だった。佳代子は糸を吐き続けて、三日三晩糸は吐き出された。そして、その糸は、美しい玉虫色の繭になった。
「きれい」
佳代子は糸を吐き続けて、弱った体を横たえてもなお、その美しさにうっとりした。
そして、繭は七日後に、変化した。中からまばゆい光を放ち、その繭はあやしく玉虫色に光ったかと思うと、上の方からするすると、解けていった。その美しい玉虫色の繭からは、佳代子が待ち続けた人の姿が現れた。
「主様!」
「ただいま、佳代子。お前が強く望んでくれたから、私は、また狭間の世界に紡がれたんだよ。ありがとうね、佳代子。」
佳代子は優しく頭を撫でられた。
佳代子はワンワン泣いた。
「次元の狭間人と名乗る小娘に、解かれてしまったんだよ。矢田の一族の娘さ。ヤタガラスの末裔の刺客さ。黄泉の国への案内人だから、私と似たようなことをしているくせにね。」
佳代子はまだ幼いから、難しいことはよくわからないが、主様さえ帰ってくればそれでよかった。
佳代子は、これからも、永遠に、主様の僕。
主様のために、穢れを食べ続ける蟲として生きるのだ。
そして、主様のために、たくさんの夜の卵を産む。
佳代子にはそれがすべてなのだから。
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