其の七 【カラスと卵】

「こんばんは。相変わらず、あやしげな商売しているねえ。」


その少年は、漆黒の瞳、黒髪、全身に闇をまとって目の前に現れた。

黒が映えるために作られたような青磁気のように白い肌に、妖艶な美貌をたたえ、そこには形の良い薄く赤い唇が、見事な三日月を作っていた。


卵を売る者は、軽く舌打ちをした。

厄介なヤツに見つかっちまった。

「アンタには関係ないだろう。あたしゃ、こっち側の人とは取引はしないんだよ。さあ、帰った帰った。」

卵売りは、ハエを追い払うように手でその少年を追い払った。


「冷たいじゃないか。同じ世界に棲む者同士、仲良くしようよ。」

ふん、ちっともそんな気はサラサラないくせに、よく言う。

「何の用だい。」

何か用があって来たのだろう。さっさと用件を済ませておくれ。

「最近、阿漕な卵屋の噂を耳にしてね。何でも、願いをかなえる代わりに、かなりの対価を支払わせる卵屋がいると聞いたものでね。」

「ふん、そんなことかい。人間が欲深いから悪いんじゃないか。意識せずとも、人は生まれながらに業を背負っているものさ。」

「あまり、派手にやられると、あの世とこの世のバランスが崩れるので、うちの母上から僕が差し向けられたってわけ。」

この少年の瞳は闇よりも濃い漆黒が流れている。

地獄からの生還者。

そんな言葉が頭をよぎった。

矢田クロード。

この少年の名だ。

卵を売る者は、人伝に聞いた、この少年の生い立ちを思い出していた。

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