気持ち

 宿題に花火大会、夏休みはあっとゆうまに過ぎて気付けば最終日。

 彼を呼び出した。


『公園で』


 約束前に行きたい場所があった。


 少し離れた神社で絵馬を書いてお願いをする。


【大会で勝てますように】


 お守りを買うと待ち合わせの時間までギリギリなことに気付く。


「もうこんな時間」


 急いで駅に向かった。


 今日こそはちゃんと気持ちを伝えよう。

 新学期からはただの幼馴染じゃなく、ただの隣人じゃなく、彼女として隣に立てるように。


 嬉しかった。

 ありがとう。

 ずっと大好きだったよ。


 これからも。


 ずっと。


 これから・・・。


 早く信号変わらないかな?

 この気持ちを早く彼に伝えたい。


 なんて言ってくれるかな?

 どんな顔をするのかな?


 青に変わった信号に、少しでも早く彼に会いたくて伝えたくて気持ちを込めて一歩踏み出す。




 大きな音が身体に響いて、ふわっと宙に浮く。


 まるでドラマの世界のようにスローモーション。




 小さい頃、公園でいじめられていた私を守ってくれた。

 小学校はクラスが違うのに、休み時間の度に私のクラスを覗きに来て先生に怒られてたっけ。


 中学校で告白してきた相手にどうしていいかわからず無言でいる私を、彼が手を取って連れ出してくれたっけ。あの時は「お前が変なやつに引っかかりそうだったから」って言っていたけれど、本当はどうだったのかな。


 高校はまさか一緒だとは思わなかった。

 片想いも中学で終わると思っていたのに。




 花火大会の土砂降りの中、手を握って走ってくれた。

 キラキラと輝く遊具の中、言ってくれた「好き」

 もう一度聞きたかったな・・・。


 彼の嬉しそうな笑顔を思い出す。


 ありがとう。


 大好き。




 涙なのかな、頬や頭に温い感覚。

 遠くで人の声が聞こえる。


 視界は暗く、音もどんどん小さくなってゆく。


 夢の中に居るのかな?

 早く目を覚まさなきゃ。


 急がなきゃ、待っているのに。


 急がなきゃ、伝えたいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る