彼の部屋
夏休みも後半に入った。
日が暮れて涼しくなった頃、コンビニへ行こうと外へ出るとちょうど部活から帰った彼と出くわした。彼は「一緒に行く」と鞄だけ置くとついてきた。カゴにお菓子やジュースばかり入れる私にブツブツと文句を言ったけれど、店を出る時には何も言わず袋を持ってくれた。
「あんま食うと太るぞ」
「うるさいなぁ・・・いいの、勉強するから糖分いるの」
「宿題?」
「うん」
私の言葉に「意外」と失礼なことを言うと、「一緒にやろっか」とご飯を食べてから彼の部屋に集まることになった。
帰宅後、夕ご飯を早々と済ませると勉強道具と買ってきた袋を持って家を出た。母は「一人だと遊ぶから心強い」なんて言いながら、彼の親にメールを送っていた。
チャイムを鳴らすと、彼の母が迎えてくれた。すでに私の母からのメールを見たようで、「ごめんね、部屋で待ってて」と私を家へあげてくれた。彼の部屋に来たのは久しぶりだった。男の子の部屋らしく色味が無く物も少ない。探索しようかと思ったけれど、あまりの物の無さにすぐ飽きて座って待つ。
暇を持て余して持ってきたお菓子の封を切った時。
「ごめん」
風呂上りだろうか、彼はタオルで髪を拭きながら入ってきた。
「飯食ったんじゃないの?」
そう言って彼は私の隣に座ると、まだ私も手をつけていないお菓子へ手を伸ばす。
「別腹」
少しして彼が教科書を開くから、私も嫌々準備をする。けれど、なんだか集中できない。久しぶりの彼の部屋だからだろうか、お風呂上がりの彼のせいだろうか。そんな様子の私に気付いて彼は「どうした?」と聞いてくる。上手いごまかし方がわからない。
「懐かしいにおいがする」
「はぁ?」
「なんだろ?でも嫌じゃないよ」
「においとかやめろよ。何?体臭?」
そう言って自分の服を嗅ぐと「なんもしねぇよ、ほら」と冗談交じりに近寄る彼に「ちょっと」と笑いながら後ずさりする。それでもまだ「ほら、ほら」と笑いながら近寄る彼に「ほんと、やめっ」と言ったところでバランスを崩す。
「きゃっ」
「あっぶね」
目を開けると彼の顔がすごく近い。
目が合って二人で固まる。
「・・・怪我無い?」
「う、うん」
彼に支えてもらって身体を起こすと、そのまま腕を引かれる。
視界が暗くなって懐かしい彼のかおり。一瞬何が起こったのかわからなくなって身体が強張る。
「いやっ」
驚いて彼を突き放すと部屋を出た。
私はどんな顔をしていたのだろう。
残された彼はどんな顔をしていたのだろう。
慌てて部屋に入ると、電気も点けずにベッドへ飛び込んだ。
彼に握られた腕が熱い、心臓はドクドクと動きは早くなるばかり、息が苦しい。
こんなはずじゃなかったのに。
『好きな人』居るんじゃないの?
なんで。
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