北風とか太陽とか

 北風が太陽に向かって、いばりながらこう言いました。

「どうだ、私の力はすごいだろう。あたり一帯に吹くだけで、いろいろな物を吹き飛ばしてしまうんだからね」


 そこへちょうど、マントをつけた男が歩いてきたので、太陽はこういいました。

「それなら、私と力くらべをしてみないか、あの男のマントを脱がしたほうが勝ちだ」


 北風はその挑戦を受け、男のマントを吹き飛ばそうと強い風を吹きつけました。

 しかし、男はブルッと震え、マントを身体に巻きつけました。

 北風がどんなに頑張っても、男のマントを脱がすことはできません。


 次は太陽の番です。

 太陽は男を照らし、少しずつ日差しを強めていきました。

 そして、最後には暑くなり、男はマントを脱いでしまったのです。

「どうだ、私の力の方がすごいだろう。あの男のマントを、自分から脱がせたんだからね」


 マントを脱ぎ捨てた男は言いました。

「急に寒くなったり、暑くなったり。自律神経がくるってしまうよ」


「……」

「……」

 北風も、太陽も、男の気持ちを全く汲み取れていなかったのです。


 そこへちょうど、自律神経がやってきて、こう言いました。

「私の力はすごいだろう。ちょっとくるうだけで、男をぶるぶるさせたり、暑がらせたりできるんだからね。ウヒヒヒヒ」


 そこへちょうど、神世界のプログラマーがやってきて、こう言いました。

「私の力の方がすごいだろう。北風も、太陽も、男もマントも、自律神経さえ、私が仮想世界上にプログラムしたんだ」


 そこへちょうど、作者がマントをなびかせながらやってきて、こう言いました。

「私の力の方がもっとすごいだろう。私が書かなければ、そもそも、北風も太陽も男もマントも自律神経も、プログラマーさえ、存在しなかったんだからね」


 自尊心を満足させた作者は、マントを翻して歩いて行きました。

「しかし、さっきから突然、風が強くなってきたなぁ。マントがなびいてしょうがないよ」


<了>

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