農協おくりびと (102)ようこそおこしやす、京都へ

京都駅は、京都観光の玄関口だ。

2階に有る総合観光案内「京ナビ」は、すぐに見つかった。

平日だというのに案内所の中に、やたらと人があふれている。


 日本人の数もおおい。だがそれ以上に、外国から来た観光客の姿が目立つ。

何語なのか見当つかない外国の言葉が、ごったがえした「京なび」の

空間を、休みなく乱れ飛んでいく。

(日本か、ホントにここは・・・)

雑多な国籍が入り乱れる案内所の様子に、ちひろが思わず絶句する。


 戸惑ったままちひろが、たくさん並んでいるパンフレットの前へ行く。

色とりどりのパンフレットが並んでいる。

近郊の名所はもちろん、奈良や大阪の観光案内まで揃っている。

紅葉のパンフレットを手にしたちひろが、相談カウンターの様子をチラリと見る。

ベテランらしい人たちがずらりと並んで、観光客たちの相談に乗っている。

(あまりベテラン過ぎてもなぁ・・・)と見回していくと、ちひろと同じ

世代と思われる女性がヒョイと手を挙げた。

招かれるようにちひろが、手を挙げた女性の前へ寄っていく。


 「おこしやす、ようこそ京都へ」はんなりとした京なまりの響きに、

ようやくちひろの肩から力が抜ける。


 「あのう・・・見ごろの紅葉と、その近くに部屋を2つ欲しいのですが、

 いまからでも取れるでしょうか?」


 「おおきにはんどす、そうどすなぁ。聞いてみいへんことにはわかりまへん。

 けど、安心しておくれやす。ウチ、ねじ込むのは得意なんどす」

 

 「ねじこむ?。乱暴な表現ですねぇ・・・」


 「あらけない(乱暴)のは、あんたのほうや。

 紅葉のこの時期に、ええ場所に2つも部屋を取れと言う方が乱暴どす。

 けど心配はおへん。ウチがなんとか探してみせますから」


 「自信たっぷりですねぇ。ホントに見つかるのですか?。この時期に」


「なんとしても見つけ出さな、妙ちゃんにこっぴどく怒られます。

 ウチ、出身は、子午線がはしっておる京丹後市どす」


 「妙ちゃん?、京丹後市?、妙ちゃんというのは、もしかして・・・あっ!」


 「しぃ~。いかいな(大きな)声を出はんといてな。周りのみんなが驚きます。

 群馬から来たちひろはんやろ。送られてきた写真よりも、美人どすなぁ」


 「驚きました。妙子さんのお友達なのですか、あなたは・・・」


 「妙とは小さい時からの、顔見知りどす。

 さきほどその妙から、脅迫状みたいなものが、ウチのスマホに届きました。

 ちひろという写真の女が、これから行くから部屋を2つ取れ、という指示どす」


 京都は、日本を代表する観光都市だ。

2015年版の米旅行誌「トラベル+レジャー」の世界人気観光都市ランキングで、

2年連続、京都が1位に選ばれた。

京都をおとずれる観光客は、5564万人。2年連続で過去最高を更新している。


 紅葉が見ごろを迎える今の時期は、どこの旅館も満杯になる。

「しょうしょう待っておくれやす」と妙子の友人が、パソコンの画面を操作する。


 「運がええどすなぁ、お客はん。

 洛北、貴舟の旅館にたったいま、2部屋のキャンセルが出ました。

 すぐ予約してもええどすか?」


 「え・・・もう見つかったのですか、洛北に。

 どうなっているんですか?。何か特別なサイトでも活用しているのですか?」


 「ここだけの秘密どす」妙子の友人が、もうすこしこちらへと手招きする。

「キャンセルが出た旅館を、集めとるサイトがあるんどす。

観光協会は承認しておりませんが、空き部屋を探すのに便利なサイトどす。

いまの時期。ほとんど予約で満杯どすが、何やの都合でキャンセルが発生します。

空き部屋が出たら、すかさず確保しておくんどす。

そうすると、今回みたいな非常時に、たいへんに役に立つんどすなぁ。」

うふふと、妙子の友人が明るく笑って見せる。



(103)へつづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る