破門幽囚
「大教母様、このようなことをしでかしたのは、あなたが拾ってこられた娘でございますよ。
この始末いかがなされるおつもりでいらっしゃるのですか?」
緋衣の尼僧が言い募(つの)る。みせかけの信仰だけで野心の強い女だった。これにつけ込んで自分が大教母に成り変わろうと狙っていた。
ようやく彼女がそこにいることに気がついたかのように背の高い女が振り向く。白い衣に宝飾の帯をし、その端を左脇で長く垂らしていた。金糸の刺繍ある豪奢な黒の外套(マント)を肩に羽織っている。
一切の感情の窺えない無表情な眼差しを受けて女はたじろいだ。
「私は入定します。あなたが大教母におなりなさい」
周囲は愕然とする。緋の衣の女はしてやったりとほくそえんだ。
しかし、やがて狼狽することになる。代々の大教母より引き継がれる筈の知識と霊力が得られなかったからだ。
それ以降、寺院の力は衰えていった。
女児は罰から逃亡を謀るが、寺院によって連れ戻される。
慈悲の教えである寺院において、その刑は直接死を与えるものではない。粗衣と毒薬の壷、そして願いによる三つの小物を持たせ、寺院の下にある出口ない窖(あなぐら)に転位させ、そこに固く固く封印を施すことだった。これが女児ならねば、毒を煽るか飢えて死ぬしかなかったであろう。
或いは、女児を土牢に封じることにより魔王を水界に縛りつけるためであったたともいわれる。
女児を拾った尼僧は寺院長になっていた。
総本山の寺院長であるということは、その宗派の最高位であるということだ。
彼女は孤児だった。誰からも愛されることなく育った。
情を面に表すことの出来ない不器用な女で、魔物の性が養い子の身に禍を招かぬよう、ひたすら撓(たわ)めようとのみして来た。
彼女のうちには異質なものへの嫌悪、養い子への愛情、美しさへの妬み、奔放さへの危惧などがせめぎ合っていた。
女児が孤独であり愛されることに飢えていたように、彼女もまた孤独であり愛することに飢えていた。
彼女はそのすべてを女児に向けた。彼女にとっては女児がすべてだった。
彼女は優秀な女だった。
寺院の中で女児を護るだけのために他を引きずり下ろし、最高位である大教母にまでなった。
しかし、女児の寂しさを察して手を差しのべ、わずかなぬくもりを与えてやるすべすらしらなかった。
いまやその過ちを嘆きはしても、処罰から庇(かば)ってやるわけにはいかず、自らが裁きをいいわたさねばならなかった。
彼女は心中で深く絶望し、生きる気力を失っていた。
悔恨故に食を断ち、入定して木乃伊(ミイラ)となる。
最高祭司は額に第三の眼を穿(うが)ち、御神石を填め込んで徴(しるし)とする。
これは聖眼と呼ばれて歴代大教母の知識と霊力を賦与する。
寺院長は己の神石を数珠とし、それと告げずに女児へと与えた。
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