遠くにありて思う「ふるさと」

 「それほどいうなら、どこがどう違うか特徴を述べよ」と言われても困る。そもそもが身体で感じているものなのだから、言葉にすると舌足らずなものになって揚げ足取りの醜態をさらすことになってしまう。

 それを覚悟で口にすると、こういうことになるだろうか。

 中学生の頃、悪童仲間と自転車に乗って、長良川沿いの国道156号線を白鳥へ向かって走ったことがある。雨が降りそうな天気を気にしながら白山系の山脈を左手に見上げて走ると、濃い灰色の雲が凄まじい勢いで、川の流れとは逆方向に駆けていったものだ。

 川沿いの崖に段々の田んぼが連なる山と山との間に、おんおんとおめく何者かの声が響き渡るような気がする、そんな風景の中にも何故かぽっかりと空気に穴の開いたような雰囲気のあるのが、大和町(もともとは大和村だった)辺りだ。

 実際、どこに何があったのかさっぱり覚えていない。

 白鳥町まで行くと、その声がひっそりと止む。街道端に見えるのは、およそ賑やかさとは縁のない静かな街だ。別に時代から取り残されているとかいうのではなく、自ら「ほっといてくれ」と言っているかのように見える。

 あのときは、土産物屋が曇り空の下で明かりもつけずに引き戸だけ開けているのを見て中に入ったが、薄暗い奥の座敷にいた婆さんが迷惑そうにこっちを見たので、こそこそと逃げ出した覚えがある。何を買うつもりもなかったのだから仕方がない。

 

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