「フルサト」らしさ
兵藤晴佳
Iターン者の「定住指南」
出勤前にたまたま駅で見た朝刊を手にして、イラッときた記事があった。
なんでも、郡上市に条件付きの移住者支援をする、Iターン者も含めた民間組織があるのだという。
それ自体はまことに結構なことだと思う。移住を支援したのに、ちょっと住みづらいと思ったぐらいで出ていかれるのは労力のムダである。同じ労力を費やすのなら、せめて本人には一生を全うしてほしいというのが人情だろう。
だが、どうも引っかかる言葉があった。
なんでも、働き方や暮らし方について「郡上らしさ」というものがあるらしい。記事によれば、地域の担い手を育成する根本理念だという。
だが、この「らしさ」には違和感がある。
よく言えば、自分の結婚式の友人スピーチで、相手の関係者が何も知らないのをいいことに、ありもしない善行をでっちあげられているときのような。
悪く言えば、欠点を知り尽くしている友人に片思いしている異性が、現実とはかけ離れた幻想を抱いている時のような。
ただ、そのどちらとも違うのは、「らしさ」を口にする者のしたり顔への苛立ちである。
郡上といっても支流のそのまた支流のほとりで育った身としては、たとえば明宝村と小野と城下町は、全く別の場所である。平成の大合併でいっしょくたになってしまったが、白鳥町と大和町と美並村だった場所の土地柄が同じだとはどうしても思えない。どれほど長いこと郡上を離れても、これだけは確信が持てる。理屈抜きで身体に刷り込まれた直感は、嘘をつかないものだ。
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