10.黒き刀身

「大丈夫か!?」


「ええ、大丈夫です。行きましょう」


 その冷静なオズマの瞳を見て、カミオカは安心したように微笑んだ。


「何か策があるって顔だな」


「ええ。相手の攻撃の分析はできました」


 オズマは目の前に手をかざす。緑色の電流が走ったかと思うと、目の前に、透明なシールドが展開される。


「光偏向シールドです。これで相手の雷撃は防ぐことができます」


この機能により、ロボットにとって大敵となる電気攻撃と音波攻撃を防ぐことができるのだ。


「そのシールドはいつまでもつ?」


「ぼくの体力次第でしょうか。……ただ、かなりエネルギーを消費するので」


 カミオカは頷いた。


「分かった。じゃあ一気にケリをつけさせてもらう」


「何か技を?」


「ああ。ちょいと刀と腕には負担がかかるがな」


 カミオカは自分の刀に目をやり舌打ちした。

 オズマもカミオカの刀に目をやる。その舌打ちの意味はすぐに理解出来た。どうも先ほどから刀の具合がおかしい。振動剣の振動が鈍くなってきているのだ。




 ハイドラによる電気攻撃。緑色に光りつつ旋回し展開されるシールドはそれを跳ね返し、シールド上を滑るように雷光が走る。水面に反射する光が黴臭い壁に鮮やかに影を映し出す。

 カミオカは、目の前にいる巨大ロボットへ間合いを詰めると、義手についている何かのスイッチを入れた。

 カミオカの義手から蒸気が上がる。ほとばしる青白い光。バチバチと音を立て稲妻のように走る電流。


「それじゃあ――これで終わりにさせてもらうぜ!」


 

 三日月の如き斬道が走る。それは実に冷静で、剣術の手本として使えそうなほど綺麗な動きだった。清廉な刀音とともに、ダゴンの体が半身ずれる。


「とどめです!」


 そこへオズマが銃を構える。放たれる弾丸に、ダゴンの半身は砕け散った。やがて崩れ落ちるように切り刻まれたダゴンの体は爆発しながら川底へ沈んでいった。


「ふー……さて、残るはもう一匹だな」


 カミオカは残る一体、ハイドラのほうへ向き直った。するとハイドラの様子がおかしい。


「……ん?」


「カミオカさん、こちらへ――!」


 オズマはカミオカの腕を引っ張った。とっさに地面に伏せる二人。

 その瞬間――ハイドラは大きな火柱を上げ爆発した。

 

「うわあああ!!」


 爆発音が、水路内にこだまする。

 パラパラと天井から降ってくるハイドラの破片を払いながら、カミオカは立ち上がった。


「ひえー、自爆とは。恐れ入ったね」


 どうやら一体が倒されるともう一体が自爆するうようにプログラムされていたらしい。するとオズマが目を見開いた。


「カミオカさん、刀が」


「あん?」


 カミオカが自分の刀に目をやると、パキリと刃が割れ、破片が音を立てて足元に転がった。





 パチパチパチ……


 水路の中に、拍手の音がこだました。


「誰です!?」

「誰だ!!」


 二人が振り返ると、そこにいたのは黒い外套の男――オコノギだった。


「……なんだ、オコノギか」


 カミオカはほっと息を吐きだした。


「なんでこんなとこまで? 俺の顔でも見たくなったのか?」


 ククク、とオコノギは笑う。


「……まあ、そんなところさ。それよりカミやん、また随分と腕を上げたようだね。今のきみになら、使いこなせるかもしれない」


「何をだ?」


 不思議がるカミオカに、オコノギは背中に背負っていた大きな黒い布でくるまれたものをカミオカに渡した。


「試作の武器だよ。折角だから差し上げよう」


 カミオカが包みを開くと、黒光りする巨大な刀が姿を現した。


「おいおい……いいのか? こんな立派なもん」


 あっけにとられた顔のカミオカを、オコノギは笑った。


「いいさ。動作試験のついでだ。仮に爆発しても、お前さんなら死なないだろう」


「えっ」


 刀をまじまじと見るカミオカとオズマ。黒い刀身が水路のわずかな明かりを受け、鈍く光る。それはオズマですら見たこともない素材だった。カミオカがわずかに身震いする。


 冷や汗をかきながら、カミオカは刀を腰に差した。


 「まあいいや。爆発でもなんでもしやがれ! 今の俺にはそれぐらいがお似合いさ!」



 

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