2.地下シェルター
5.中部第七シェルター
二人の目的地、中部第七シェルターは車で二、三時間走ったところにある。
「こんなところにシェルターが?」
カミオカが指さす方向を見ると、荒れた原野の真ん中に、ぽつんとコンクリート製の建物がある。一見何の変哲もない小屋なのだが、ここがシェルターの入り口なのだという。
錆びついた分厚い扉を開ける。カミオカは部屋の隅にある取っ手のついた床板を一枚持ち上げた。
床板の下には地下へと続く真っ暗な穴。二人はランプの明かりだけをたよりに、危なっかしい梯子を下りていった。ヒンヤリとした空気に乗って漂ってくる、僅かな水音と人の気配。
第三次大戦以降、人々は戦火や災害を避けて各地に点在するシェルターに分かれて暮らすようになった。そのうちの一つがここ中部第七シェルターなのである。
しばらく梯子を下りた後、薄明りの灯った広い空間にオズマとカミオカは降り立った。
「……僕と約束された方というのは、こちらに?」
「うんにゃ。こっからはこのシェルターの地下水路を通っていくからな、その前に色々と準備もしたいだろ? なに、ここの連中とは付き合いもある。悪いようにはしないはずさ」
地下とは思えないほど活気のあるシェルター内。居住スペースの他にも、飲食店に飲み屋、日用品店が軒を連ねる。
オズマが興味深げにあたりを見回していると、一人の兵士が駆け寄ってきた。
「見ない顔だな! 新入りか? あまり問題は起こさんように――」
不信そうな目でじろじろとオズマを見ていた兵士だったが、オズマの横にいたカミオカに気づくと、急に態度を変えた。
「ややっ、カミオカさんではありませんか!となるとこの子はもしや……」
「ああ。水路を通っていきたい場所があるんだが、ここに少しの間滞在してもかまわねぇか?」
「もちろんです!」
びしっと姿勢を直し敬礼をする兵士。
するとカミオカの姿を見つけたシェルターの住人達がぞろぞろと集まってきた。
「あー、カミオカさん、久しぶり! 今度飲みに行こうや!」
「カミオカのおっちゃん! 約束したブラックホールの話してくれよー!」
「カミオカさん、うちの部屋が雨漏りがひどくって、修理してくれない?」
「あー、分かった分かった! 後でな!」
カミオカは一通り顔見知りに挨拶を済ませると、逃げるようにシェルターの奥へと走って行った。
「本当に、知り合いが沢山いらっしゃるようですね……」
「まあな」
今から数年前、カミオカはこのシェルターに滞在していたことがある。その時の顔なじみが今でも彼を慕っているのだ。
やがて二人はシェルターの端のひときわ暗く人通りの少ない一角に足を踏み入れた。
オズマがカミオカの後をついていくと、ひときわ薄暗い通路の隅に店のシャッターを上げ、店を始めようとしている人影が見えた。カミオカは足を止める。
店を開けようとしているその人物は、真っ黒な外套ですっぽりと身を包み、いかにも怪しそうに見える。
「こんな夜から店を開けるんですね」
こっそりと呟くオズマ。カミオカは答えた。
「まあな、アイツは変わり者だから……」
カミオカが言うと、外套の男がカミオカの声を聴き振り返った。
「おや、誰かと思ったらカミやんじゃないか」
不気味に笑う男。その顔は外套にすっぽりと隠れていて年齢や表情はよく分からない。
「ところで隣の……お嬢ちゃんだかお坊ちゃんだか分からんが、その子は?」
「実は俺の隠し子……とか言ったらどうする?」
オズマは呆れ顔をしたが、外套の男は顔色一つ変えずにこう言い放った。
「ほう、そいつは驚きだな。あんたのオタマジャクシからこんなに可愛い生き物が製造できるとは」
「ひでぇなあ。これでも昔はモテてたんだぜ? 子供の授業参観の時なんか、女の子たちが『カミオカのお父さん、超イケメンじゃない!?』とか噂しちゃったりして――」
熱心に語るカミオカを無視し、男はオズマの顔をじっと見つめた。オズマはびくりと身を震わせる。
「十二年前の英雄、か……。間近で見たのは初めてだが、まさかこんな子供の姿だったとはな」
「……なんだ、知ってたのか」
オズマはおずおずと切り出した。
「……あの、僕は英雄なんかじゃ」
「いいや、英雄さ」
男はぴしゃりと行った。
「君は良くも悪くも、この世界を変革したんだからね」
オズマの顔色が変わる。カミオカは言った。
「おい、その話は振らないでやってくれ。今はまだその時じゃない」
「クククッ、そいつは失礼した」
男は全く悪びれた様子の無い声でそう言うと、真っすぐにオズマを見据えた。
「そうそう、自己紹介がまだだったね。私はオコノギ。このシェルターの武器整備担当だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます