2.マスターキー

 二人が廊下の角を曲がると、ロボット警備兵たちがぐるりと頭をこちらに向けた。頭部のセンサーが赤く光り、けたたましい警戒音が鳴る。


「侵入者――発見」


 機械音声がそう告げると、ロボット兵たちは次々と銃を構える。


「やべっ!」


 刀を抜くカミオカ。鋭い一閃。ロボットたちは、一振りで粉砕された。


「ふー……」


 額の汗をぬぐうも、休む間もなく、別のロボットが向かってくるような足音がする。


「オズマ、ちょっと走るぞ」


 二人は廊下を一気に駆け抜ける。


「しっかし、ここはやけに機械どもが沢山いやがんなあ」


「ええ」


 オズマは同意した。確かに、いくら倒しても、その数は減るどころか、どんどん増えているように思える。



「さすがの俺もちょっと疲れたぜ。ちょっとあの辺の部屋に入ってしばらくやり過ごさねぇか?」


 カミオカの提案に、オズマも頷く。

 カミオカは研究所のID偽造を取り出すと、近くの部屋の入り口にかざした。

 ドアが開くやいなや、二人は転がるように部屋の中に逃げ込む。


「ここに来る時には数体しかいなかったからなんとか撒けたが……まさか感づかれたか?」


「感づかれた? 誰にです?」


 カミオカはその問いには答えず、部屋の中を上機嫌で漁りだした。

 引き出しの中を開けたり、棚の中の物を引っ張り出したりと忙しそうだ。


「ちょっとカミオカさん、泥棒じゃないんですから」


「大丈夫だって! 家探しは探索の基本だぜ!」


「まったくもう」


 あきれ返るオズマに構わず、引き出しを漁り続けるカミオカ。こればっかりは、生き残るために彼が身につけた習性なので仕方がない。


 ふとオズマは、机の上のノートに目をやった。研究員の日記だろう。その中の一文に、目が惹かれる。



 『2248.08.07

 同盟の連中からイカれた注文が舞い込んできた。死体の脳を起動歩兵に転用しろだと? ボスのタカクラとかいう男によれば、人工知能さえ使わなければ条約の穴をつけるって理屈らしいが、そんな馬鹿なこと――』





「それにしてもなんだか熱ぃなー、この部屋は。なんだか息苦しいし」


 背後からカミオカに声をかけられ、オズマは慌てて顔を上げ、ノートを閉じた。


「エアコンでもつければいいでしょう。換気扇を回すとか……」


 

 オズマは壁についているスイッチを押した。が、換気扇は動かない。



「んん? 換気扇に何か引っかかってねーか?」


 カミオカが言うよりも早く、オズマは椅子を引っ張ってきた。椅子の上で懸命に背伸びをするオズマだったが、換気扇に手は届きそうにない。


「お前じゃ小さいから無理だろ。俺が――」


「小さくありません。机の上に乗れば大丈夫です」


 少しムッとしたような表情で机を引っ張って来ようとするオズマに、カミオカは身をかがめながら言った。


「肩車してやるよ。そうすれば届くだろ」


「え? ……でも」


 狼狽えるオズマ。


「ほれ、早く」


 はじめは嫌がっていたオズマだったが、カミオカがその体制のまま頑として動こうとしないので、観念したようにカミオカに肩車された。カミオカの背中にしがみつきながら、オズマは懸命に手を伸ばした。


 羽に引っかかっていたカードキーを手に取ると、カミオカはオズマを下ろす。


「......ありがとうございます」


「良いってことよ。……それにしても、お前意外と重いな」


「……」


 いたずらっぽく言ったカミオカに、オズマは黙り込む。


「すまん、傷ついたか?」


「ち、違います」


 オズマは横目でカミオカをちらりと見ると、カードキーに視線を移した。


「これは、マスターキーですね」


「なるほど、これがあれば普通の鍵じゃ開かない場所にも入れるってわけだな?」


 カミオカがいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「どこに入るつもりです?」


「まあ、ついてきな」


 再び廊下に出ると、カミオカはマスターキーを使って廊下の一番奥の扉を開けた。扉の先には、薄暗い階段が続いている。


「非常用出口だ。正面がだめならここからずらからせてもらう」



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