第9話「泉を封印して以来、ウンディーネは、臥せりがちになった」


ウンディーネはしだいに弱ってゆく。


しかし、天蓋付きの寝台に臥すより、

中庭で雨や露に濡れることを好んだ。



「水界の通路を閉ざしているのだから、


いずれ、わたしは形をたもてなくなり、

この体は壊れて跡かたもなく消えるわ。


そうしたら、あの人は、

ベルタルダと結婚できる。


そのほうがいい。

そのほうがいい。


あの人を殺したりするより、

そうなったほうがいい」





ベルタルダは不安だった。

フルトブラントの心がつかめない。


高い身分に豊かな富を持ち、

洗練された騎士の振るまい。


身を飾る美しい衣裳も装身具も、

あふれるほど買い与えてくれる。


だが、ときおりぞっとするような

冷たさを垣間見せる。



「私は本当に愛されているのだろうか。


美しさも気品もウンディーネに劣り、

賤しい生まれでしかないこの私が…。


召使い達から嫌われているのを知ってる。

慕われているのはウンディーネのほうだ。


あの人の眼の中に私なんていない。

いつもウンディーネだけをみてる」







泉を封印して以来、ウンディーネは、

臥せりがちになった。


病の風情もまた、中々に美しく、

そそられる、


といいたいところだが、

それも我が手にあればこそだ。



この儘、儚くなるのであるまいかと、

内心、気が気ではなかった。


なれどそをウンディーネに

気取らせるわけにいかぬ。



もとよりベルタルダを

愛してなぞいなかった。



気位の高かったあれが

娼婦のような


賤しい女に堕ちていくのは

面白かったが


堕ちきってしまわれては

興ざめだ。



さっさと厄介払いしたいが、

あまりあからさまではまずい。


なので、あの女がドナウ下りを

したがるようしむけた。



河はキューレボルンの領域だ、

奴が始末してくれるだろう。


それに水界であれば、ウンディーネが

力を取り戻すやもしれぬ。


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