第8話「我に従がえ。我とともに滅べ」


あの透明な湖の岬にあった、

寂しく美しい小島のように、


城の中庭は花々が咲き乱れ、

奥に老いた柳が枝を垂らす。



ひっそりと咲く白い花のように、

落とされた白い鳥の屍のように、


草の褥(しとね)に身を横たえ、

ウンディーネはもの思いに沈む。



「姿をみたい

傍にいたい



でも、堪よう

めざわりだと

いわれたから



さがしてるかもしれない

来てくれるかもしれない


それを待っていよう」







「おい、一体どういうわけで、

城の泉を閉ざしたのだ」


「ベルタルダを水魔から守るためです。

あの泉は水界に通じております」


「ふん、そんなことだろうと。


そういえば、あの女、

こないだは自分の部屋で、

溺れ死ぬところだったな。


俺が息を吹き込んでやり

ようやく蘇生した」


ウンディーネから表情が消える。



「どうした、嫉妬したのか」


それがはっとした顔になり、

白く嫋やかな手で面を覆う。



「みないでくださいまし。


きっと、いまのわたしは

みにくい顔をしています」


俺はその手を掴んで、

無理矢理、除けさす。



涙に濡れた美しい眼が睨んでいた。

禍々しくも美しい魔物の眼だった。


いいようのない恐怖と快感が

背筋をぞわぞわと這い上がる。



「お前にとって、あの女は

いないほうがよかろう。


そうは思わなかったか」



「思いました、フルトブラント様。


あれはキューレボルンが、

したことではありません。


わたしがいたしました。

わたしのしたことです。



「夜、眠りに就けば、

わたしの中にいる、


あの白い水魔が、

目覚めるのです。



「殺してくださいませ。

いまならば、殺せます。


わたしも水魔も、

弱っております」



この清楚で可憐な魔物になら

食い殺されて本望だろう。



「人の姿をしようと、

魂を持っていようと、


所詮は、化け物だな」


俺は突き倒す。



「我に従がえ。

我とともに滅べ」


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