第14話 つかのま2
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ぽかぽかと程よい陽気に、うとうとと心地良さげに微睡む娘を眺めていると、自然と頬が緩んでくる。
くあっと欠伸を一つしてむにむにと口を動かす。
そんな娘の些細な仕草が可愛くて仕方がない。
「今日はどうしたの?リズ」
「あぶぅ〜…」
憮然と返事をする
いつも、この時間は中々寝付いてはくれなくて困っていたのだけれど、今日は眠たくて仕方がないらしい。
寝床の用意をライラに頼み、準備が整うまでと、とろとろと微睡む娘を連れてそっと木陰に移る。
「あぶぅ」
眠り始めているとばかりに思っていたリズの声に見下ろせば、小さな青い瞳がパッチリと開いて見上げていた。
目線を辿ると木陰の一点をじっと見つめている。
「どうしたの、リズ?」
「あい!」
リズは何かを追い求めるように見つめる先に手を伸ばす。
何かあるのかしら?
リズにつられるように見上げてみるけれど、見えるのは木漏れ日の隙間に濃く影が落ちているばかり。
「奥様、お嬢様の寝床の準備が整いました」
ライラの声に小さなリズを抱き直す。
「今行くわライラ。さ、リズ、おねんねしましょう」
「だぁうぅ!」
なおもそこから目を離そうとしないリズをあやしながら部屋へと戻る。
その背中で、小鳥が一羽飛び立ったのを目にし、リズが気を取られていたものが私の目にもはっきり見えるものであった事に安堵した。
娘は時々見えない何かを追う仕草をする。
それが何なのかをライラはわかっているらしいが、教えてくれる気配はない。
ただ、「将来が楽しみですね」と時折こぼす。
部屋へと入り、窓を閉める間際にかさり、と小さく葉擦れの音がした気がした。
*
夜の帳が下り、部屋はしん、と静まりかえる。
その中で動くモノといえば、部屋の主(ぬし)たる私(リズ)と「彼ら」くらいのものだった。
筈なのに…。
私は思わず遠い目をした。
昨日は大変だったのだ。
我が家内に籠城体制を取った「何か」の態度をどう理解したのか、相手が肝心な所で勘違いに勘違いを重ねた末に出た結論に否定する元気もなく、面倒臭くなった私は相手の誤解を放置し、
「あぶ…」
と肯定とも否定とも言えない投げやりな返事でもって締めくくったのだ。
もう、ニュアンスだけで伝わればそれでいっか☆的考えは昨夜の一件でゴミ箱にポイだ。
赤子の体力と集中力のなさをナメんなよ!!
ってか、夜明け前まで付き合った私すげーな!
と、自画自賛しておく。
そうでもしないとやりきれない。
そもそも赤子が如何にも場数踏んでそうな大人と駆け引きできてると思ってる時点であの男の頭はおかしい。
それとも、この世界の赤子というのはここまでスムーズに大人と意思の疎通を図れるものなのだろうか?
ライラの「そろそろコレができる頃ですね」を私の知る赤子の常識を照らし合わせるに、「|こちら(このせかい)」も「|あちら(にほん)」も同程度のように思う。
母やライラはいつも一緒にいるから私の言わんとする事を粗方(あらかた)察してくれるが、メイドさん達に伝わるのは精々が「お腹すいた」と「おしめ」くらいだ。
色々と照らし合わせてみるに
うん。
赤子と対等に話を通そうとするあの不審者がおかしい。
自分の中で納得した答えが出たところでさっきからじっとこちらを見つめる赤い瞳を見返す。
もう勘弁して欲しい。
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