第13話 深夜の来訪者 2
「
何かを一人でぶつぶつ言っていた男がこちらに赤い眼差しを向ける。
「姫よ、突然の無礼と無作法は詫びよう」
うん?
突然の謝罪に私は首を傾げた。
ここに侵入したっていう事は何か人には言えない目的があったからだろうけど、唐突に謝られるとは思ってもみなかった。
そもそも、この人、何しにここに来たの?
例えば、誘拐とか誘拐とか誘拐なんだろうけど。
何というか、この男が私を攫うという構図が頭に浮かばない。
そもそも、多分だが、そういう類の人間ではない気がするのだ。
「姫よ」
「あう?」
男は私の周囲をぐるぐる回る「何か」を指した。
「あう?」
それがどうかしたの?
そんな私の疑問もスルーして、男は淡々とした口調で私に告げた。
「謝罪を受け入れてくれたなら、それらを返してくれまいか?奪われた処で生きる上で支障はないが、それらは代々
「うあう」
返せと言われても困るんですが…。
「戻るように命じれば良い」
「あおう〜?」
命令したら戻ってくれるの?
「これらを私から解き放ったのは姫だ。命じてくれれば良い」
そうは言うが、元持ち主よりも、初対面の赤ん坊の言葉(?)を優先するものだろうか?
半信半疑ながら、まずはおいでおいで〜、と念じてみると、ぐるぐる回る「何か」の勢いが増した。
何か、別の「何か」も寄って来て、質量を増した気がするが、そこは気にしない事にする。
粗方集まったのを確認する。
「お〜い、あぶ」
あのおじさん、困ってるみたいだし、戻ってあげなよ。
と声をかけると、「何か」は一つところに集まり、さわさわと話し合いを始めた。
そのあとしん、と大人しくなる。
心なしかこちらの様子を窺っている気がする。
ややあって、しびれを切らしたらしい不審者がそちらに向かっって手を伸ばした瞬間、彼らは一目散に逃げ出した。
ぽかーん、と呆気に取られていると、今度は別方向から視線を感じ、見上げれば、もの言いたげな赤い目があった。
私は何も悪くはないのだが、なんとなくその視線に耐え切れず、へらりと曖昧に笑ってみる。
「……」
「……」
両者の間に沈黙が落ちた。
こうかはないようだ
とりあえず、もう一度呼んでみると、先程より警戒した様子で「何か」がやってきた。
戻るの嫌なの?と聞いてみれば、そうでもないらしい。
ただ、ここがどうやら気に入ったようで、先程の態度は何処へやら、ウチの
そちらの話し合いにも決着が着いたようで、今度は私の側まで寄ってくる。
どやらここに置いて欲しいらしい。
まあ、ここ、私の部屋だからね。
しかし困った。
ただの余所者だったなら、「彼ら」に全ての判断をお任せしてしまうのだが、いかんせん、それに対して渋い表情こそ出ていないが、雰囲気的にそれっぽいものを醸し出す大人が一人いる。
「あぶ、う?」
誰か戻ってあげたらどうかな?
すると、今度はまた一つところに集まったかと思うと、ぽんぽんといくつかがはじき出され、それらが戻り、今度は別のいくつかがはじき出されを繰り返しだした。
見ていて面白いが、冷静に判断すると、「お前行けよ」「いや、お前が行け」といったところだろうか。
そして最後には見かねた「彼ら」が「お前ら全部帰れ!」と言わんばかりに数にモノを言わせて持ち主のところへ押し出した。
コントか。
思わすツッコミそうになったが心の中だけに留め置く。
押し出された黒い「彼ら」は男の伸ばした腕から逃れるように再び方々に散った。
「彼ら」が居心地悪そうにもぞもぞしているのは、そのあたりに散った「何か」が居るのだろう。
どうにも戻る意思はないようである。
なんだか彼らを見ていると、仕事に疲れ果て、頑なに癒しを求めるサラリーマンを思連想してならない。
仕方がないので、じっと持久戦の構えに入る男に目を向けた。
「あー、お〜う」
今は戻りたくないそうですよ?
逆に言えば、気が済んだら男の元に帰るという事だ。
ならば、少しの間くらい居候させてあげても構わないだろう。
「随分と、気に入ったようだな」
「おう」
全くです。
不審者はしばらく「何か」が居る方々を的確に見渡したあと、静かにため息を吐いた。
「仕方がない」
「あう?」
どうするの?
「遊び相手一人と交換でどうだろうか」
……はい?
不審者の唐突な申し出に私の思考は停止した。
「今のままではどれも未熟故、程よく育った者の中で適した者を責任を持って寄越そう」
「えう……」
ナニソレイラナイ……。
そもそも、この家の人事権は
「それまでソレらは預けておく。その代わり、
相手の言わんとする事を理解した私は即行で吠えた。
「あおう!」
そんな物騒なものはいりません!
「不満か?」
「あい!」
当たり前です!
顎に手をあてがい、ふむ、と男が思案する。
「仕方がない」
分かってくれたか!
「ではもう一人つけよう」
「おぶぅ……」
なんでそうなった……。
「ではどうすれば良い?」
それは是非とも私が聞きたい。
この日ほど切実に相手に伝える言葉が欲しいと思った事はなかった。
そんなこんなで私の夜は更けていった。
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