2章 出会いと予兆
第12話 深夜の来訪者
真っ暗な夜だった。
今夜は新月のようで視界にあるのは闇だ。
日が昇れば目を覚まし、日が沈めば眠りに就く。
かつて、生きた
私はこの暗闇が嫌いじゃない。
闇は静寂をもたらしてくれる。
そして、そんな闇の中にも「彼ら」はいる。
滲み出るように、溶け込むように、そして恐る恐る、又は好奇心を以って優しく私に接してくれる。
時々調子に乗って私を周囲から隠したりして、様子見にくるメイドさん達を驚かせたりもするが、基本みんな優しい。
慌てて部屋を出て行くメイドさんが戻って来なかったり、こっそりドアの隙間から覗く夜回りの人が、不審げに覗いたあと、諦めて夜回りを続けたりするから、「彼ら」の事は理解した上で放置しているのかもしれない。
特にここ最近は様子見にすら来ない。
まあ、何かあれば、何処からともなく誰かが現れるので問題はないのだが。
どうやって私の異変を察知しているのか不思議で仕方がない。
それは置いといて。
私は小さく息を吸う。
辺りに感じるのは静寂と闇の気配。それはとても優しくて、心地良い
筈のものだった。
そこに別の「何か」を携えた存在さえ現れなければ。
「彼ら」が静寂を捨ててザワザワと騒ぎ立てる。
私は不快感にギュッと眉を寄せる。
新たに来た「何か」が、嫌がる優しい「彼ら」を従わせようとしているからだ。
優しい彼らをイジメる「何か」は私にとっては土足で家に上がり込んでくる不調法者だ。
そんな「何か」はここにいる「彼ら」が何もしようとしない事を良いことに、嫌な空気で威圧する事はできても、私には強く出られないらしいのがわかる。
大元の「何か」があるから強く出ているだけで、威圧的に出る「何か」は大した事はない。
「成程、これでは並の者では務まらん」
それは聞き覚えのない男の声だった。
不快な「何か」を携えた存在は、喉の奥で笑い、私の顔を覗き込んだ。
それは当たり前だが、見知らぬ人間だった。
その姿は、完全とはいかないまでも、大元の「何か」によって隠されている。
その手が不意に私に伸ばされた。
私に隠れていた「彼ら」が騒ついた。
「だーうお?」
だいじょうぶよ。
彼らにそう伝えれば、しん、と静かになったが目の前の男に対する警戒は緩めていない。
目の前の男に対して危機感らしいものは感じられなかったが、物騒な存在だというのはわかった。だからと言って、顔もうっすらとしか見えない見知らぬ不審者に気安く触られるのは不快極まりない。何より礼儀がなっていない。
そして、男に纏わる「何か」が偉そうで気にくわない。
「あぶ!!」
私が不機嫌な声を上げた瞬間、男を隠すようにいた「何か」がするり、と解けて散けて散った。
腹立ち紛れに挙げた私の声にびっくりしたのか、大元の「何か」と嫌な「何か」との繋がりが解けたのだ。
やってやったぜ、ざまあみろ!と息巻いた私に、解けた「何か」たちは私の身体に纏い付きだした。
「う、わぁうぅ」
突然の事に対応できず、いやいやと身をよじるが「何か」は私に擦り寄って離れようとしない。そんな私を呆然とした表情で鋭い赤い眼差しの男が見つめていた。
「その年で、
「だぶっ!!おおぅ!!!」
ちょっ、これ何とかして!!おじさん!!!
何かをぶつぶつ言ってる男に助けを求めるも、男は一向にこちらの声に耳を傾ける様子がなく、一人何かを納得して頷いている。
「だお!!あおう!!!」
ちょっと!!おにいさん!!!
「何かな、姫」
あまりにもタイミングの良すぎる男の答えにコイツ、本当は分かってるんじゃないの?と一瞬本気で思ったが、それどころではない。
「あぶおぅぅ!!」
助けてってば!!
叫んだ瞬間、ふわり、と空気が動いた。
馴染みと心地の良い風が私を包む。
同時に彼らが私を中心に、「何か」を引き離してくれたのだと理解して、安堵の息を吐いた。
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