予兆と予感
第40話 抱負と決意
こんにちは。
今日もこの時間がやってまいりました。
ごめんなさい。言ってみたかっただけです。
私こと、リザレットも無事、2歳を迎えました。
周囲から沸き起こる(主に父の)歓声と、(主にクロフォード君の)拍手に私は満面の笑みで応えて差し上げました。
お二人共、某ビジュアル系バンドファンもびっくりなレベルの見事な卒倒っぷりを披露してくれました。
子供相手にサービス精神が旺盛なのは喜ばしいことです。
おそらく兄の時にヒーローごっこの悪役とかやったクチですね。
ええ、わかります。
父もクロフォード君も、一瞬、本当に気絶したかと本気でビビりましたもの。
これが演技でなく、本気の卒倒だったなら、間違いなしにドン引きです。ええ、ドン引きです。兄が引き気味だったのは気のせいでしょう。
大事な事なので2度言いました。
この2年、色々ありました。
父に土下座させたり(させたのは母ですが)、病気で死にかけたり、美女のお胸で圧死しかけたり、不審者に遭遇したり、不審者に遭遇したり、森の中で置き去りにされて命の危機にさらされたり、子虎ちゃんと戯れたり。
そうそう、子虎ちゃんは2年間がんばって生き延びた私へのご褒美でした。あの尻尾の感触と歯ごたえは忘れません。あそこに置き去りにしてくれた兄には心から感謝します。
時折大人げなく、子虎ちゃんを愛でられず、フラストレーションが溜まり、ストライキを起こした事もありました。
「イヤイヤ期」として処理されたのは良い思い出です。
あ、いかん、子虎ちゃんを思い出してよだれが…。
とにかくご馳走様でした。
さてさて、わたくしリザレットが、何故このような丁寧な言葉遣いかと言うと、
「リズ〜、リズは何歳になったのかな?」
やにさがったイケメン父、気持ち悪い。
おっと、いけないいけない。
私は上目遣いで父と目を合わせ、ワンピースの裾をもじり、と握り、右手を左手で握り、人差し指と中指を立てて見せる。
「にしゃい…」
瞬間、父卒倒。
「流石です!!お嬢様!!!」
突然背後から現れるクロフォード君に全身が心臓になったくらいびびった。
いつになく、超ハイテンションのクロフォード君。先程倒れた時に顔でも打ったのか、その鼻にはティッシュが詰め込まれている。
クロフォード君、イケメン台無し。
それをにこやかに見守る母とライラ、そして、胸元を掴んで明後日の方向を向いている、ツンデレならぬ、ツンツンな兄。
耳が赤く、肩が震えてる所を見ると、きっと笑いを堪えてるに違いない。
2歳相手のゴッコ遊びは大事なんだぞ!!お前だって一度は通った道なんだからな!!
そしてさっきから置物のようにニコニコ笑顔で微動だにしないクロードさん。
「流石よ、リズ。母様の教えは完璧ね」
ほほほほ…と、柔らかな笑いをあげる母。
「あい!!かやゃま!!」
「リズ、『か・あ・さ・ま』」
「かやゃま?」
どうも、発音を焦ってしまい、上手く喋れません。
2歳なんで、許して下さい。
こんな環境で大丈夫か?とご心配の皆様、このハイテンションは今日だけなので、許してあげて下さい。
冒頭でも述べましたが、ワタクシ、リザレットは2歳になりました。
ええ、本日私の誕生日です。
*
日本でいう「お誕生日」と言うものは書いて字の如く、生まれた日を祝う、一つ歳を取り、成長を祝うイメージですが、こちらの「お誕生日」はちょっと意味合いが違います。
こちらのお誕生日はどちらかというと、「生きてておめでとう」の意味合いが強い。
というのも、ほんのちょっと前までは赤子の死亡率が非常に高かったらしい。
原因はありがちな迷信やら知識不足の間違った育児方法。
そんな折も折、それが間違った認識なんだぞ!と正した遠いところから来た物知りさんがいたとか。
しかし、どれだけ物知りさんでも、突然現れて「あんたら育児方法間違ってるよ!」と言ったところで当時はまともに取り合ってもらえませんでした。
結局はこの国に住み着き、長年の草の根運動が功を奏し、最近では、その「正しい育て方」が随分浸透しているとかなんとか。
物知りさん、ありがとう!!
その改善された育児環境で無事2歳まで生きる事ができました。
育児環境とは関係ない処で生命の危機に何度か瀕した気はしますが、まあ、結果オーライです。
そして話は戻ります。
只今言葉の勉強中でありまして、父も母も最近やっと喋り出した私に大変興味津々なのです。
そして出る言葉、出る言葉に一つ一つに一喜一憂し、間違った言葉は丁寧に矯正かけて来るもので、脳内言葉もなるべく丁寧めに直している次第でございます。
ほら、子供って、思った事は何でも口に出しちゃう生き物ですから。
たまにうっかり日本語が出ちゃったりしますが、舌がもつれたフリで誤魔化してます。発音が全く違っててもてへぺろ一つで万事解決なのは誤魔化してる側からしても多少心配になりますが。
既に父や母の下で馬と鹿が暴れ回る環境で、前世の一般常識に照らし合わせてもおかしいレベルで甘やかされていたり、ちょっと将来が心配になるくらい、クロフォード君の下に馬と鹿が群れを為していたり、さすがにそれはマズイのではかろうか、と「大人」な私は思った次第ですが、
私は父さまと母さまの娘のリザレットとして生きたい。
父さまと母さまが笑っていてくれれば良い。
だから私は年相応…は努力しますが、普通の娘として生きようと思います。
それが第2の人生を歩み出した私の抱負と決意でした。
しかし、人生、そう上手くはいかない事を2歳の誕生日を迎えたばかりのこの時の私は知らない。
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