第16話 小さな来訪者
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一体どれだけの時間が経ったのか、日はとっぷりと暮れていた。
空腹感がない所を鑑みるに、どうやら寝ぼけながらもしっかり食事は終えているようだ。
赤子の本能すげー。
などと
昨日の不審者と同じ赤い目をした男の子が私を感情のない目で見下ろしていた。
昼間、木の隙間から見下ろしてきたのと同じ赤い色だ。
赤いお目々のうさぎさん!と一瞬喜んだのも束の間、木の上に兎などいる筈もなく、怖くないよ、おいでおいで〜と声をかけていたら、赤いお目々の男の子だったというオチ。
しかも、私に見えて、母に見えないという不思議仕様。
昨日の今日で、赤い目に関しては嫌な予感しかしない。
そこで、ふと思い出した。
まさか、昨日言ってた一人とか二人とかって、この子の事じゃないよね。
伺ってみるが、辺りに少年以外、人の気配はない。
「随分と不用心だな」
ぽつり、と呟いた少年の言葉に私は首を傾げる。
「だぶ?」
いつもこんなモノですが、何か?
「……」
二人の間に穏やかな風が流れる。
さわり
さわさわと騒ぎ出したのは昨日、不審者の元から離れた「何か」。
それが目の前の少年が不審者の関係者であることに確信を持たせる。
ならば、と私は先手を打つべく行動に出た。
「だうっ!」
少年に必死に手をのばす。
その時初めて少年の表情がこれでもかってくらい動いた。
「あぶぉ!」
キミ、昨日の不審者の関係者だよね!
「な、何だ?」
「ぶぅあう!」
言わなくたってわかるんだからね!
なんと言っても「何か」がざわめいているのだ。
まくし立てる私の言葉 (?)はどうやら少年には全く伝わってはいないらしい。
あっるぇー?
昨日の不審者の関係者だから、てっきり半分くらいはコミュニケーションが成立するものだとばかり思ってたけど、やっぱアレって経験の問題?
少年は怪訝な目で私を見下ろしてる。
よし!ここは一つ頑張ってみるか!
と私は気合いを入れる。
おそらく、まだ発達していないであろう私の口。
ヒアリングばかりで喋る事はまだ一度もした事はない。
「言葉を覚えるのはまだ早い」と母を宥めるライラの言葉を思い出す。
ライラは何かと赤子トリビアを披露してくれる。
それは子育てに関しては若葉マークな父と母に向けられたものであり、恐らく理解力が早い私の為の言葉でもある気がする。
お陰で見た目には突出する事のない、平穏な赤子ライフを送らせてもらっている。
ただ、平均的な赤子より「ちょっと」理解力があり過ぎる。
そのせいで、こんな訳のわからない状況を招いてしまったようだ。
さて、言えるか。
「て!」
言えた!
「て?」
少年が首を傾げる。
「いぇ!」
今のはまぐれだったらしい。
手を貸せと言いたいのだが、やはり口は上手く回ってはくれない。
せめてボディランゲージだけでも!
伝われ!この思い!!
そうやって少年の手を目掛けてばたばたと暴れていたら、恐る恐るといった風に少年が手を差し出してきた。
今にも引っ込めそうなその手の指を私は逃さずがしっと掴む。
つ か ま え た
私がニコリと笑うと少年が、これでもかってくらい表情を引きつらせて固まった。
さわり
「何か」が揺れたのを私は見逃さなかった。
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