第8話 順調に成長中
ゴロン
ゴロン
「あう!」
よし!
私は一人、ガッツポーズをとる。
いや、実際はとれてないとは思うんだけど、心意気は大事だよね!
「あらあら、ご機嫌ね」
「最近は上手に寝返りもうてるようになりましたからね」
「あい!」
ヒアリングもバッチリです!
「そろそろ座る練習を始めても良いと思いますよ」
ライラが私を抱き上げる。
「そろそろといえば…」
母はポツリと呟き、何かを思案する表情から一気にぐっと眉間に皺が寄る。
美人はどんな表情をしても美人だ。
「あの子が騎宿舎から帰って来るのもそろそろじゃないかしら」
あの子?
きしゅくしゃって何ぞ?
「ええ、そろそろですね」
「あう?」
ベッドに再び降ろされ首を傾げれば、母は私を見つめながら「大丈夫よ」と笑う。
「あなたにはお父様がついてるもの」
「おうぶ…」
逆に不安なんですが…。
その笑顔はいつもの「大丈夫」な笑顔とはちょっと違った意味の大丈夫な笑顔だと思った。
*
周囲の情報を総合するに、どうやら腹違いの兄が帰省するらしい。
私の扱いを学ぶ上で何かと引き合いに出される
前妻である実の母が若くして
因みにこれらの情報源はお屋敷内のメイドさんの他愛ないおしゃべりから得たものだ。
小難しい言い回しとかはまだまだ解らないが、理解できる部分とニュアンスとで予想を立てればそんなところだ。
まあ、何にせよそんな急激な家庭内事情の変化に付いていけないでいた
大事な跡取り息子だもんね。
で、半年に一回くらい帰省できる期間があるらしく、それに合わせて今回帰ってくるようだ。
当然の事ながら
因みに私の目から客観的に見て、母は
私の知る限り、母はメイドさんにも私にも優しい。父以外の人間には怒ったり意地悪したりはしない。
働きに応じて労いの言葉もちゃんとかける。
ただし。
母は美人ではあるが、残念な事に親しみを持てる類の美人ではない。
むしろ、周囲に下僕以外は寄せ付けない、いわゆる「女王様」という単語が非常にしっくり来る美人だ。
その見かけに反して中身は非常に好感の持てる性格だと私は思っている。
世間で言うところの損するタイプの美人である。
それに加えて慣れない相手に対する物言いは高圧的にも聞こえるので、この半年で新しく入ったメイドさんを怯え、震え上がらせた回数は両手の指を合わせても足りない。
お陰で使用人の入れ替わり率がとんでもない事になっている。
まあ、その半分くらいは私から見れば、相手のメンタルの弱さが原因だと思う。
母と顔合わせした翌日にはいない、なんて事もあった。
今日入ったメイドさんも、母の眼力に負けて、母に抱かれた私をガン見してやり過ごしてたなぁ・・・。
ライラにはやんわりと嗜められてはいるのだが、母のソレは人見知りの裏返しの結果らしい。
ますます不憫でならない。
父曰く、そのギャップがたまらないとの事だが、それを熱く生後6ヶ月の娘に語るのはどうかと思う。
そんな周囲がピリピリした空気であったせいか、その晩、私は熱を出した。
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