さまよう蜘蛛

 

「あなたを安全に生める場所をさがさなきゃね」


 当然だけれど私に出産の経験はないし、この体だとどうなのかもわからない。

 弱体化し無防備な状態に落ち入るかもしれないのだから、魔物や人間の脅威は出来るかぎり排除しておきたい。

 散策するように人の娘の姿で歩きながら、魔力の糸を蜘蛛の巣のように拡げていく。


 地理地形、魔物の分布と探っていく。

 人の住む村があって、そのむこうには町。


 > 闇魔法「千里眼」を修得しました。

 > 闇魔法「地獄耳」を修得しました。


「ギルド? ああ、冒険者のあれなわけ」

 冒険者の動向には気をつけよう。私自身が魔物なんだからして。


 下半身が大蜘蛛になっているのに気づいた。絡新婦アラクネか。

 いろいろと取り込んじゃったから、形態の制御がうまくいかないな。

「そういえば、蜘蛛の雌って交尾した配偶者を食べるんだけ。あなたとはいっぱい交尾したものね」



「ねえ、あそこがいいんじゃないかしら」

 虫の魔物の巣窟な迷宮をみつけた。最深部にいる迷宮の主ダンジョンマスターは蛾のような羽根を持つ邪妖精だ。


 > 「吸血」「捕食」「融合」が統合されます。

 > 闇魔法である「吸収」になりました。

 > 迷宮核ダンジョンコアを吸収しますか。



 主だった邪妖精は糸に絡められて、おしっこを漏らしながら、泣き喚いて命乞いしている。人形のような白い肌で、黒と紫の羽根とバレエの衣裳チュチュのような体毛をしていて、とても綺麗で可愛い娘だ。

 彼女と側近の虫達は美味しくいただこう。生き餌になってくれる他の虫がたくさんいるから保存食とかはいらない。



「ゴブリンは醜い姿をした小鬼でね。人の子供くらいの大きさで、額から小さな骨が突き出てる。皮膚は疣蛙みたいで、体付きは痩せた猿。知能は低いし、群れてるだけで弱い。爪や牙があるけど、たいしたことない。スライムと同じに雑魚として扱われるわ。

けど、本当は最も危険で恐ろしい魔物よ。スライムって変異して強力なものになることがあるでしょ、ゴブリンもそうなの。

 豚頭オークなんかといっしょで他の種の雌を孕ませて繁殖するんだけど、ゴブリンは繁殖力や食欲が異常に旺盛で、しかも変異しやすくて複数の種と混じり合ったものが生まれる。多様に適応したものがさらに殖えていき、いずれ爆発的に増殖するわ。そのうちから知能のある統率個体が出れば、いなごみたいにすべてを食い尽し犯し尽くす、混沌の軍隊になるわけよ」

 前世まえからすると私はお喋りになった。やっぱり一人ぼっちで寂しかったのだろうか。



「だからね、あなたに混沌の魔法をかけてあげる」

 私は自分の胎内おなかに囁きかける。


 > 「吸収」「変異」「増殖」が統合されます。

 > 本当に、闇魔法『混沌』を発動させますか。

 


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