槐の花散る
それは地味でぱっとしない娘だった。容姿に難があるというわけではないが特徴もない。
眼鏡とか三つ編みのお下げとか、そういった付属品くらいしか、語るところがなかった。
なのに何故、これほどまでに惹かれ、俺は狂気に駆られたのだろう。
通学の往き帰りの姿をみかけることがあり、いつしか目で追っていることに気づいた。
彼女は姿勢が美しい。背筋を無理に伸ばしたり屈んだりしていない。さりげなくすれ違ったとき、ふり返ると甘く清い花の香りがした。
――ああ、
俺は彼女の後をつけるようになり、いつも通っている小さな公園から遠くない古い造りの家に老夫婦といっしょに住んでいると知った。
友達は少なく付き合っている男もいないようだ。かなり潔癖で動物を抱いたりするのを好まないらしい。
彼女の名前は、あの白い花と同じだった。
いつものらしくないそわそわした様子で、彼女が公園のトイレに入っていくのをみた。
中を
閉める音を立てたくなかったからドアはそのままにする。
足下の便器はしゃがんでする仕様だ。めったに掃除されていないため臭くて汚いし、水の出がわるい上に詰まりやすかった。
彼女のする音を聞きながら、這いつくばって仕切りの隙間を覗く。まず靴の踵とソックスが目に入り、剥き出された尻が一瞬だけちらりとみえた。
「もう、なんでよ」 苛立ちと戸惑の混じったような声。音無しげでもの静かな彼女から聞く、初めての声は鈴の音のように可愛らしくアニメの声優に似ており、もっと低くてアルトにちかいかと思っていたので意外だった。無口なのは声にコンプレックスをもっているせいかもしれない。
どうやら水が流れないらしく、やがて諦めたような吐息が洩れた。
それが彼女の出したものだと思うと
日中、部屋のカーテンを閉め切って、隠し撮りした彼女の写真を眺める。
紺のセーラー服がいかにも地味っぽく、膝が隠れるか隠れないかくらいのスカートは校則通りだろう。なにげに足の形がきれいで
一枚だけだが、書店で本を読んでいる隙にスカートの中を逆さ撮りにしたやつがある。あのときは、店員がちらりとみた気がして捕まらないかと焦った。
ふと彼女が眼鏡をはずし、巴旦杏のような美しい眼をしているのがわかった。見詰められているのに気づいたのか、眉を
あの嫌悪と蔑みの視線で見下され、いくぶん酷薄そうにみえなくもない唇で罵られ、足蹴にされ踏みつけられることを想像すると、昂ぶってしまいどうしようもなくなる。
彼女の着替えや自慰をしている姿、電車の中で痴漢に堪えている様子を妄想して手淫にふけった。
俺はこの年になるまで女を知らない。一度きり、眠っている妹の体にいたづらをしただけだ。
臆病な癖に理想ばかりが高かった。付き合って幻滅させられるのが嫌だった。
彼女はなにものにも染まらない。一切の穢れを拒む白く清楚な花のようだった。
そんなものは幻想だとわかっていても騙されたかった。だが、それがありえないこともわかっていた。
花は生殖のためにあるのだ。槐の花が凋れて落ちていくように、いずれ彼女は汚れていくだろう。
冬の頃、ふと彼女が溜息を吐く。
それがどこかしらなまめかしい。彼女の唇はあんなに赤かったろうか。
俺の知らないような男のことでも、考えているのではないかと勘ぐらされる。
彼女は病的なくらい潔癖症のところがある。だから、付き合ってたりしてはいないと思いたいが、好きな同級生か憧れの先輩くらいはいるかもしれない。あるいは若い教師か、それとも妻子持ちのやつか。
そいつにいい寄られれば彼女だって、堕ちてしまわないとはいい切れない。一体、どんな顔をみせどんな風にして、彼女はそいつに抱かれるのだろうか。
所詮、彼女もただの女だし排泄もする。どこかのだれかの前で股を開く淫らな売女にすぎないのだ。
ならば、俺以外の奴ものになる前に汚し、それを壊してしてしまえばいい。だれの手にも渡らなくすればいい。
彼女を殺そう、そう思った。
時間をかけて準備し、計画を練った。そのつもりだった。
ネットで大型のサバイバルナイフを入手する。脅して後ろ手に縛り猿ぐつわを噛ませる。
ロープはかさばるからワイヤーにする。それから衣服をずたずたにする。
全身をワイヤーで
首を絞めながら犯すと、あそこも締まっていいらしい。彼女はどんなだろう。
絞殺した場合は、やはり失禁するだろうか。じわじわ絞めながら観察するとしよう。
脱糞なんてしたら相当臭いか。顔も酷いことになるだろう。
想像すると愉しくて堪らず、一人含み笑いした。
いそがずに機会を狙っていたが、彼女の帰りの遅い日があった。
辺りは夕闇に包まれ、公園に人気はなくなっている。俺はなるべく足音を立てないようにして後を付けた。
気づかれたのか、彼女が足早になっていく。駆けだしたので追いかけた。
後ろから腕を掴んでひっぱる。彼女はふり向きながら足を
地面に側頭部を打ちつけ動かなくなる。黒い染みのようなものが、じんわりと広がっていった。
俺はそれを呆然としてながめ、染みのようなものが血だと、呑み込むまでにしばらくかかった。
半開きになった唇に手を近づけてみたが息をしていない。瞳孔は開いているようだ。
人はこんなにたやすく死ぬものなのか。
たしかに、殺すつもりだった。
だが、もっとそれを愉しんでから、彼女の体を堪能しながら殺すはずだった。
彼女の両足を脇に抱えて見えにくい場所へと曳き擦る。スカートが捲れ落ちて太腿がなまめかしかった。
汗を掻いていたか失禁なのか、下着の股のところが黒っぽく透けてみえる。片足だけ脱がしてみるべきものをみた。
夕闇が濃くなっているため、スマホの点灯では心もとなさがあったが、黒ずんでみえる襞を広げて彼女の穴を写真に撮った。
白い夏服を腹から胸上まで捲っていく。形のいい臍で腰が細い。あらためてみると本当に均整のとれたいいスタイルをしている。
乳房は指の長い俺の手にちょうど収まるくらいの大きさだった。胸当をずらしそれをわしづかみにしてのしかかる。
それでも好きな女の体だ。溢れるほど彼女の中に注ぎ込んだ。胸も腋下も、尻の穴も犯した。
直腸の中へぶち込んだ後の締りのなくなっている穴から、白と黄褐色の半ば液状と半ば固形の混じり合ったものが流れ出る。
なかば開いたままの唇を割って、彼女自身の排泄物にまみれたやつを喉の奥にまで突っ込み、両手で掴んだ頭を前後させた。
その度に、彼女のお下げが
はっ、
まだ、
何かが燃え切らないまま、ずっとくすぶっていた。
彼女の体をそっくり持ち帰りたいが、人にみられずには無理そうだし、安アパートには置いて置けまい。
彼女のすんなりした太腿の付け根にある、女として具わった部分をまずは
被災時用の懐中電灯の光をあてながら、彼女の下腹部を裂いて子宮を切り取ろうとしたが、うっかりと膀胱を破ってしまった。
家に帰ってからするつもりで我慢していたのか、泉が湧くようにかなりの量の黄色い小便がこぼれた。
用意していた保存袋に臓器をパックし、買い物にみせるためレジ袋に入れてアパートに戻る。
真っ暗な部屋で片隅に
あれから小学生や彼女と同じ学校の生徒を何人か殺した。そのうちの一人は彼女の同級生だった。
逮捕されようがどうしようがどうでもよかった。なのに、まだ捕まってない。
彼女のときはお粗末だったが、だいぶ手際がよくなって来たらしい。
だが、心は冷めていて満足が得られない。それはそうだ、彼女じゃないんだからな。
何かの夢から目ざめて身を起こす。窓の下をみると夜の庭で槐の花が散っている。
部屋の中に眼を戻すと、闇の中でも仄白い肌に黒髪を纏った彼女が、妖艶な笑みを俺に向けて座っていた。
その腹は円く孕んでいて、蛙のように大きくふくらみ、出臍になっていたが気にならなかった。
「――
俺が待ちこがれていたように手をさしのばしすと、彼女の髪が黒い蝶になって舞い立った。
その鱗粉に触れると手や顔が炎に焼かれたように爛れていく。体の肉や骨が腐食され、ぐずぐずと溶けくずれていく。
それなのに、まだ死なない、まだ死ねない。
はやく終われ、終わってくれ。
たのむから、もう死なせ……。
俺の絶叫は声にならなかった。
それでも心の中で叫び続ける。
糸を手繰り、あいつの魂をひきよせる。
そして、私の
さあ、おまえは醜く嫌われた小鬼になるといい。
ゴブリンの
本当に楽しみだわ。坊や、はやく生まれて。
ねえ、あなたをどうしてあげようかしら。
> 闇魔法、「魔胎」「胎動」「冥加」――。
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