第17話 連続ドラマ「バニラカフェ」 最終回「卒業」
他の生徒達が校庭ではしゃいでるのをよそ目に、卒業証書を手にした栗田は、まっすぐ校門に向かっていた。学校を出る直前、貴子が自分の方に近付いてくるのに気付いた。
「栗田君、ついに卒業。おめでとう」
「ついには余計ですよ」
「東京に行くんだ?」
「その予定です。試験はこれからですから、断言できません」
「白石さんの事はどうするの?」
「これから考えます」
「栗田君らしいね」
その時北山が栗田を見つけて、手を振りながら大声で叫んだ。
「おお~い。栗田さ~ん」
傍には原田達も一緒だ。
「元気がいいな」
北山を見て栗田は言った。「志望校受かったそうだからな。これもバニラカフェ塾のおかげだ」
「そうね。あのやり方も効果的だったかも」
貴子は口をすべらせてしまった。
「あれ、先生。何で知ってるんですか?」
北山と一緒に近付いてきた三人の女子も驚いた。
「いえ、それはあの……とにかく、みんな卒業おめでとう。試験頑張ってね」
そう言って貴子はその場を立ち去った。
貴子と入れ替わるように、アリカがやってきた。
「こんなところに成績急上昇の三人がいるじゃないの」
「それ褒めてるの? それとも嫌み?」
みちるは、アリカと馬が合わない。
「もちろん褒めてるわよ。無事に卒業できておめでとうございます。特に男性お二人」
「どういう意味だ?」
と、北山は食いついた。
「成績優秀なのに二年も留年した方と、成績がひどくて留年間違いないと言われていた方。お二人とも十代には見えません。あら、お一人はもう二十歳でしたね」
北山が、お前だって小学校卒業したばかりに見えるぞ、と言おうとした瞬間、紗英が、
「そういう言い方は無いでしょう。確かに見た目は老けてるけど」と抗議した。
北山が、今度は紗英に抗議しようとすると、女同士の熾烈な口喧嘩が始まった。
「何よ、ガキ」
アリカが見下すようにいうと、
「あんただってガキでしょう?」
「同じガキでもあんたなんか小学校も卒業してるようには見えないわよ」
「二人とも止めなさい」
みちるが止めようとした。
「何上から物言ってるのよ。あんたもこいつと同じガキじゃないの」
「あんたなんかに言われたくないわよ」
「あんたたちこのおっさんとどういう関係?」
「こんなおっさん知らないわよ」
喧嘩組が揉めているすぐ横で、原田は栗田に、
「今までありがとうございました」
と、頭を下げてお礼を言った。
「いや。いいんだ。君には色々迷惑かけたから」
栗田と原田が校門を出ていく姿を、長迫は鋭い目で見つめていた。
原田が栗田と並んで帰るのは、これまでにも滅多にないことだった。そして、これがおそらく最後の機会になることも、彼女にはわかっていた。それで歩みは遅くなりがちだった。
「向こうにはいつ?」と栗田が聞いた。
すでに合格通知が来た彼女だが、はっきりした予定まで決めていなかった。
「三月中には。栗田さんは?」
「僕は、まだ合格したわけじゃないから」
「そうでしたね」
「でも、三月で契約きれるので、少なくとも四月にはこの街にはいないよ」
民家の庭や道路脇には、別れの季節にふさわしくサクラの花が散っている。
「そう。あの……」
彼女は栗田を見上げて何か言いかけたが、彼は道の向こうに何かを見つけた。
「あ、あれ。いつの間に」
バニラカフェの入口前に、言い争っているのかふざけ合っているのかわからないが、北山と少女三人が立ち止まっている。
「抜かれたみたいだな」
栗田は、彼らの方へ向かっていく。
思わぬ邪魔が入って気落ちする原田も、後を付いていくしかなかった。
「ここのツケどうするのよ」
紗英が北山に文句を言った。
「もう俺は合格したから、勉強する必要ないし」
「あんたたち、いつもここで勉強してたの」
アリカは驚いた。
「最近、栗田さん来ないから、ツケが溜まったままで」
みちるは本当に困った様子だ。
「何か僕に用?」
自分の名前が出たので、栗田はみちるに聞いた。
「あっ、栗田さん。実はあの……」
「こんなところで立っていたって仕方がないだろう。中に入ろうか」
注文を聞くマスターはどこか暗い。
「みんなも卒業か。お得意さん減って、うちも大変になるな」
「みちると私は、地元に残るから大丈夫だけど、財布がいなくなるのは……」
「財布って?」
栗田は紗英に聞いた。
彼女はそれには答えずに、
「ところで栗田さん。株を始めるにはどうすればいいの?」 と聞く。
「卒業したらすぐにそれなの?」栗田はあきれた。「始めるだけのお金を貯めることから始めないといけないな」
「お前なんか、買った途端に大暴落だ。ハハハ」
北山が笑った。
「何よ。やってみないとわからないじゃないの」
マスターは、両腕を大きく広げないと持てないほどの大きなケーキを運んできた。
「はい。これ卒業記念スペシャルハワイアンケーキ。今までご贔屓にしてくれてありがとうございます。すいませんけど、手がふさがっておろせないのでみなさん手伝って」
「わあ、すごい」
テーブルの上のお冷ややコーヒーを脇に寄せて場所を作り、彼らはその巨大なスイーツをテーブルに乗せた。
「どこから食べよう?」
「記念に撮影しない」
ということで、一番高画質のデジカメ機能を持つアリカの携帯電話で記念撮影をした。
「制服着てなきゃ、小学校の卒業記念パーティだなあ」
「すると北山君は引率の教師か」マスターも彼らの話につきあう。「この中で高校生に見えるのひつじ子ちゃんだけだもんな。あれもう卒業したから高校生じゃないんだ。でも社会人でも大学生でもないから、何て呼べばいいのかな」
「卒業生でいいんじゃない」 とみちるが言うと、
「みちるちゃん賢いね。とても卒業生にはみえない」
「悪かったわね。せっかく商売繁盛のいいアイデアを教えてあげようと思ったのに」
「何、アイデアって?」
栗田が聞いた。
「カラオケなんてどう。カラオケ喫茶にしたほうが儲かると思うよ」
「そしたら私ここでバイトする」
紗英も賛同した。
そこにいた卒業生達は笑ったが、マスターはみちるの提案を真剣に検討し始めた。
そのころ、マッドは数人の仲間と、街を歩いていた。
「本当にあいつ、まだこの街にいるのか?」
仲間にそう訊ねられると、マッドは持論を展開した。
「原田という女がいる限りいるさ。彼女が引っ越しする前に、あいつおびき寄せないといけないな」
「誘拐でもするか?」
「馬鹿、そんなことしたら俺たちが犯罪者だろう。誘拐したことにしておけばいいのさ」
「どうやって」
「頭使えよ」
「馬鹿だからわかんねえよ」
マッドはその仲間に耳打ちした。
「さすがマッド。飛んで火にいる何とやらだな」
「くせえ台詞だな」
「でも言うんだろう?」
「言わざるを得ない状況だからな。でも俺だけじゃねえ。あいつもきっと言うぞ」
「何て?」
「女の子泣かせるくらいなら、死んだ方がましだなんて」
「そりゃ傑作だな。アッハハ。もうあいつの味方はこの街にひとりもいねえんだから、もう死んだも同然だな」
余裕のはずのマッドは、急に深刻な顔をした。
「いや。まだ一人気になる奴がいる」
「気になる奴?」
「でも、俺に考えがある。そいつをその場に行かせなきゃいいんだ」
「長迫先生、これで原田さんも卒業して、先生も事件のことを忘れられそうですね」
生徒達が帰った後の廊下。長迫は貴子の方を振り向いた。
「事件の真相が判明できず、彼女にも悪いと思っています。すっきりした状態で卒業させてやりたかった」
「先生には何の責任もないじゃないですか」
「でも、私以外に誰がこの件を追求するんですか」
「それはその、現役の警察の方にお任せすればいいと思います」
「彼らにとっては数ある事件の一つにすぎません。新たな展開が無ければ、おそらくこのまま迷宮入りでしょう」
「人が二人も亡くなったのに」
「これが一般の方が犠牲者だったら、警察もいろいろな方面からあたるでしょうが、殺されたのが闇金融と不良のリーダーではねえ。兄の方はお金の貸し借りのトラブル、弟も兄の事件の影響が原因だと、警察は見てますよ」
「原因がそうだといいんですけど。こちらには関係ないですから」
「はは。私もそうあって欲しいと切に思ってますよ。だが真実はねじ曲げるわけにはいけない」
そう言った長迫の表情には、鬼気迫るものがあった。
どうして数年間警察官をしていただけの教員が、生徒が殺害現場に居合わせただけのことで、ここまで熱くなれるのだろう。仮に原田羊子が金田久弥を殺害したとしても、それは自らの危険を感じてしたことで、正当防衛が成立するのではと、貴子は考えた。
大切な試合を翌日に控え、バスケ部主将片山は、過酷な練習で疲れた体をいたわるように、暗い夜道を帰途についていた。
スクーターの音がずっと後ろの方で聞こえるのが気になったが、自分とは関係ないと思い、振り返ることはなかった。しかし、音がすぐ近くまで迫った時、あきらかに自分を尾けていると気付いた。
振り向くと二台のスクーターに四人が乗っていた。手に鉄パイプのようなものを持って。
逃げようとした瞬間、足に痛みを感じた。どうして自分が狙われるのか、その理由が全くわからなかった。はっきりしていることは、明日の試合は無理だということだ。
「よしてくれよ。これじゃ二年前と同じだろう」
片山に誘われて対抗試合を見に行った栗田は、二年前のあの日とよく似た状況に対し、心の底から拒絶していた。土下座までされて頼まれるほどには、自分は戦力にならない。彼自身そう思っていたのだから、無理はない。
「でも他の先輩達は連絡がつきません。今ここにいらっしゃる栗田先輩だけが頼りなんです」
何者かに襲撃された片山の両親は、休日ということもあって学校に連絡するのを遅らせていた。そのため、今朝になってバスケ部は彼の欠場を知ることになった。
「そのために補欠がいるだろう。僕はもう卒業したんだから、出場資格がないはずだ」
「キャプテンだけじゃないんです。他にも二人連絡がつかない部員がいて。どうかお願いします」
栗田は首をひねった。
「何かおかしいな。同時に三人も。たしかに困るよな。でも、卒業式終わってるから、僕は無理だ」
現役を引退してから時間が経つのであまり乗り気でなかったが、二年前と違い他に約束事があるわけではなかった。
「これは両校のプライドをかけた対抗試合です。キャンセルすると相手チームにも悪いです。僕たちも今までの練習が無駄になるのが悔しくて。この通りです」
「わかったよ」
勝ってもいないのに抱き合って喜ぶ後輩達を見て、さすがの栗田も少しやる気になった。そのため試合中、携帯電話が鳴り続けていたのには気が付かなかった。
塩川は、怪訝な顔で、携帯に出ていた。
「本当だ。信用してくれ。あの原田って子がまたさらわれた」
塩川にとってエンドーは昔からの仲間だったが、この間の川辺の小屋の件で、彼に対する疑いがどうしても頭からぬぐえなかった。ただ、ニットや有田と違って、自分を裏切ったことがはっきりしているわけでない。
そこでニットと有田の電話は受けないが、エンドーだけは応答することにしていた。他のメンバー、相原からはかかってこないし、かけることもない。トクジは携帯解約したのか、連絡がつかない。
「目撃したのか?」
塩川は聞いた。
「ああ。またあの小屋の辺りだ」
塩川が警官から逃げてからも、エンドーは携帯で連絡をくれた。自分は小屋で何があったのか知らない。エンドーは、川辺を相原と二人で捜索中に、塩川がいなくなったのに驚いたと、辻褄の合うことを言っている。
「また同じ手か」
塩川は、エンドーを信用しきれない。
「何言ってるんだ。疑ってるなら小屋に入らなきゃいいじゃないか」
「そうだな。別にお前を疑ってるわけじゃないよ。ただマッド達に騙されて、利用されてないかと思ったんだ」
「マッドが何を考えているかわからないけど、今度は俺自身の目で見たから、間違いはない。まだ、この街にいるんだろ?」
「ああ。よくわかってるな」
「古い仲だからな」
「よし、すぐ行く。それまでは動くな」
「おう」
遠藤は電話を切ると、隣にいたマッドの方を見て頷いた。
「よし、裸の王様作戦最終ラウンド開始。今度は本当に素っ裸にしてやる。みんな写真撮っとけよ。ハハハ」
マッドの笑い声は、その名の通りどこか狂気じみていた。
ニットは有田とよく話し合った結果、塩川の味方をすることにしたが、相手は電話に出ない。居場所もわからないため、連絡がつかない。エンドーにも相談するが、エンドーも塩川には連絡がつかないという。小屋の件以来そんな状態が続いていた。
一方、マッド達ブラックファルコンとも縁を切ったわけではない。もともと同じ仲間だった彼らだが、元リーダー塩川に対する態度は、明らかに憎しみに満ちていた。
そんなマッドからニットの携帯へ連絡が入った。
「これから面白い見せ物出すんで、川辺の小屋の近くまで見にこない?」
「見せ物?」
「裸の王様大作戦、第二弾」
「えっ、塩川、見つかったのか?」
「あいつは必ず来る。飛んで火にいる何とかだからな。ハハハ」
ニットは、有田と相談したが、二人だけではマッド達を止めることはできない。向こうにはプロがついている。警察に通報しても、指名手配中の塩川に迷惑がかかると判断した。そこで、ニットだけでも様子を見に行って、問題が起こったら有田と携帯で相談することにした。
彼が指定の場所へ行ってみると、マッドは塩川に見つからないように隠れていろと指示した。草むらの中に身を潜めていると、遠藤と塩川がやって来た。二人は周りを見回すと何か会話を交わし、例の小屋に近付いた。二人が戸を開けて中に入ると、すぐに遠藤だけが外に出てきた。
おそらくそれが合図になっているのだろう。周りで様子を伺っていたブラックファルコンは、一斉に小屋を取り囲んだ。
「おい、エンドー。どうした?」
小屋の中からそう叫んだ塩川は、外に出ると状況を悟った。「こういうことだったのか」
「今頃気付いたのか」
マッドはあざけるようにいった。
十一人が一人を囲む光景は、いくら塩川が体力自慢でも明らかに劣勢だった。ニットは何もできずに、その十一人の中の一人として、ただ状況に流されるままだった。
「おい、マッド。俺がまんまと騙されに来たとでも思ってるのか」
塩川がそう言うので、マッドは、相手に秘策があるのではと考えたが、強気を装った。
「他に味方でも用意してるのか。いてもトクジぐらいだろう」
「トクジとは連絡がつかない。ここへは俺一人で来た」
「こりゃ、いいや。飛んで火にいる何とやらだぜ」
マッドは、言わなければいけない台詞を決めた。
「お前らなんか俺一人で充分だ」
「てめえ、あの原田とかいう女のために死ぬつもりでいるのか」
「女の子泣かせるくらいなら、死んだ方がましだぜ」
塩川も常日頃から気にかけていた台詞を決めたのだが、すぐに
「馬鹿な野郎だな。原田はここにいないよ」とマッドに言われた。
「えっ?」
塩川は驚いたが、考えてみればわかりそうなことだった。
「まずここでお前を血祭りにして、それから次は原田の番だからな」
マッドのその言葉に、そこにいる仲間達も驚いた。
「てめえ、マッド」
塩川は唇をかみしめ、怒りに顔を震わせた。
「おい、塩川。冥土の土産に教えてやる。あの原田という女、大人しそうな顔して大したタマだぜ」
「何を言おうとしてるんだ?」
マッドの次の言葉は、塩川だけでなく他の連中も驚かせた。
「あの女、あのとき久弥さん殺して金奪って、栗田って男にそれ渡して運用させている。それに気付いた辰也さんもあの女が栗田に殺させた。栗田を公園に誘ったのも、自分の無実を証明させるためだったが、栗田が遅れてしまってアリバイ工作に失敗した。
そこで自分は、事件の現場に偶然居合わせただけの被害者を装って、肝心な記憶は忘れた振りをした。あの栗田って奴もあわれだなあ。あの女にたらし込まれたか弱み握られたかして、もういいなりじゃないか。お前だってあの女にいいように利用されているだけだ」
「嘘だ~」
塩川は絶叫した。他の連中は無言になった。
「俺だって最初は信じられなかったさ。でも俺なりに調べていくうちに、そう考えるようになった。でも証拠がなかった。だけど最近アイの元担任の長迫って先公が、ついに証拠を掴んだって。かくいう俺も長迫に少しは協力したけど」
マッドの言葉はニットにとっても衝撃だった。それでスクーターに乗って、しつこく原田をつけ回していたのか。
自暴自棄になった塩川は、マッドに飛びかかっていった。
マッドは塩川の行動を予測していたようで、巧みにそれを避けると、周りの十人が塩川に襲いかかった。
そこから多勢に無勢の戦いが始まった。最初はパワーで押した塩川も、集団の力には勝てず、地面に大の字になった。
「これからとどめさすか」
マッドの言葉に仲間達も戦慄した。
ニットはこの状況はまずいと判断し、携帯で有田に連絡した。しかし、その様子をマッドに見られてしまい、彼もまた餌食になるのだった。
「おい、帽子野郎。有田と何話してたんだよ」
「違う。マッド。有田は関係ない」
腹部を押さえて地面に横たわりながらも、ニットは有田をかばうのだった。
自分の名前が出たのと、ニットがまずい状況になったのを知った有田は困惑した。相原もトクジも連絡がつかない。他に頼るところがないのでやむを得ず、以前偶然に番号を知ることになった栗田に連絡を入れた。しかし相手は出ない。仕方なく伝言メッセージを残しておいた。
このままだとまずい。しかし、警察にも連絡できない。有田は、怪我が治って間もないが、川辺に行くことにした。
でも、自分一人の力では何もできないだろう。犠牲者がまた一人増えるだけだった。
「試合に勝てたのは先輩のおかげです。あそこでロングシュート決めていただいたんで勝てたようなものです」
「あれは偶然入っただけだよ」
後輩に感謝されて、栗田は謙遜した。
「本当に恩に着ます。栗田さんの頼みなら何でも聞きますから。なあ、みんな」
「おお」
バスケの対抗試合を終え、後輩達にねぎらわれるのを照れくさく思った栗田は、とっとと帰ろうとした。控え室で着替えをしようとロッカーを開けると、携帯電話に伝言が残っているのに気付いた。
「塩川良平の友達の有田という者だけど、塩川、今、川辺の小屋の前で不良達に襲われて大変なんだ。あんたにこんなこと頼むのもおかしいけど、一人でも仲間が欲しい。悪いけど来てくれないか」
後輩達は和気あいあいと着替えようとしていたが、栗田は、
「みんな聞いてくれ。ひとつ頼まれてくれないか」と頼み込んだ。
事情を聞いたバスケ部は、無理を言って試合に出てもらった栗田の頼みをきくほかはなかった。そこで、バスケ着のまま、現場へ向かおうと体育館を出た。
「おい、みんな待ってくれ」
体育館の入り口を出るとすぐに、一人が入り口の脇を見て言った。
「ここにボート部のオールがたくさん置いてある。何かの役に立つかもしれない。持っていこうぜ」
提案は受け入れられた。
「もう勘弁してくれ」
両腕を二人に掴まれたまま、ニットはマッドに言った。「俺とお前の仲じゃないか」
二人はよく共に行動した。
「はあ? 前からてめえのことは気にくわなかったんだよ~」
ニットは口の端から血を流している。塩川は近くで仰向けのまま動かない。
そこへ有田がやってきた。決死の覚悟が表情から読みとれる。
「おい。マッド。いい加減にしろよ」
毅然としてそう言った有田を、マッドは、
「また、脚折られたいのかよ」と脅した。
「話し合おう」
「何を」
「こんなことして、何の意味があるんだ」
「意味なんかねえよ。やりてえからやってるだけだろ」
「お前、おかしいよ」
他の者達も、心の底では有田と同意見だったが、今この流れには逆らえない。
「今度は脚じゃなくて、口きけなくしてやる。おい、やれ」
二人が殴りかかった。有田は頭を抑えて倒れた。
「だらしねえ野郎達だな。誰からとどめさそうかな」
その時、マッドは集団の足音が聞こえたので振り返った。バスケ部員と思われる連中が、近くをランニングをしている。
「この辺ってバスケの練習場だった? 何か持って走ってるぞ。新種のトレーニング法かな?」
マッドの問いに誰も答えない。そのバスケ部は彼らの方に向かってくる。
その中に見たことのある顔がいる。
「おい、栗田。何のまねだ?」
マッドは先頭の男に聞いた。
「バスケの練習に来ただけだ。ここ使うからそこどいてくれ」
「何言っていやがる。この人殺しが」
「人殺し?」
栗田の目が、鋭くマッドをとらえた。
「原田に頼まれて、俺や相原のこと殺しに来たのか?」
マッドは、栗田を犯罪者扱いする。
「彼女がどうしたって」
「とぼけるなよ。その後、長迫って先公も殺すつもりだろう?」
「はあ?」
「その棒みたいなのは何だ」
「これか」
栗田は、手に持ったオールを物珍しそうに見た。
「これはな、こうして使うんだよ」
そう言ってマッドに近付くと、頭の上に振り下ろした。マッドは両手で防いだが、防いだ手も痛い。
「痛ッ、何するんだよ。おう、みんなかかれ」
不良達はバスケ部に向かっていったが、武器を持っていないため、歩合が悪い。次第に押され、川の中に追い込まれていった。
そこへ一人の男が悠然と歩いてきた。
「おい、ガキども。お遊びはこれまでだな」
「羽佐間さん」
本職の参入で、マッド達は勢いづいた。
バスケ部の一人が勇敢にも羽佐間に向かっていこうとすると、羽佐間は懐から銃を取り出した。
その場の全員が凍りついた。
「おい、川から出てここに並べ」
と言われ、従わざるを得なかった。
「俺の可愛い舎弟達に乱暴するのは君たちか」
並んで立っているバスケ部員の顔を覗き込みながら、羽佐間はからかうように言った。
「こんなところで練習してないで、学校でやれ」
すると後ろから別の声がした。
「学校でやれないからここで練習してたんだろう?」
「誰だ?」
羽佐間は振り向いた。
「トクジ。お前」
有田が叫んだ。
「よう、アリ。久しぶり」
故郷を離れ、すっかり貫禄をましたトクジの凱旋帰国だ。
「何だこいつは。お友達なのかな」
「塩川の仲間です。最近ビビって姿くらましてましたけど、今になってのこのこ現れてきやがった」
と、マッドは羽佐間に説明した。
「そのお仲間が何の用ですか?」
「あんた誰?」
羽佐間に向かって、トクジは挑発的に聞いた。
「はあ? あんた誰だって」
「銀龍会の羽佐間さんだ」
マッドが紹介した。
「だれが銀龍会だって?」
トクジの後方から聞き慣れない男の声がした。
声の方を見ると、強面の男が二人近付いてくる。一人は派手なスーツに決めて、もう一人は胴にサラシを巻き、片手に持ったドスを肩にかけ、風を切って歩いてくる。
「兄貴達、格好つけようとしないで最初から出てきてくださいよ。俺こういうの苦手なんだから」
トクジがほっとしたように言った。
「悪いなトクジ」
兄貴の一人、スーツ姿の男はトクジをなだめると、羽佐間に聞いた。
「ところでお宅、うちの組のモンだって?」
「え?」
羽佐間はバツが悪そうだ。
「しっかり演技してくれよ。ここは銀龍会の羽佐間で押し通すしかないだろ」
マッドは小声で羽佐間を叱った。
「どういうことだよ? マッド」
マッドの仲間たちも不審な顔をした。
「それはその……つまり、いわゆる、そういうことだ」
仲間たちの怒りは爆発した。
「この野郎! 騙しやがって。てめえのせいで俺たちがどんな目にあったと思ってるんだ!」
大人数となった集団は、哀れなマッドと偽ヤクザに襲いかかろうとした。 そのとき、
「おい。もうよそうぜ。俺たちは仲間だろう?」
と、息も絶え絶えの塩川が、力を振り絞って叫んだ。
「こんなとこ辰也さんに見せられるか? 俺たち一体何やってんだよ!」
塩川は反省するように言った。目から出る涙と口から出る血が混ざって、地面に滴っている。
「リーダー」
「わかったよ。リーダー」
「塩川さん」
「もう馬鹿なことはしないよ」
メンバーは、白黒の区別なく塩川に同意した。
マッドは、真顔で塩川を見つめた。
「塩川さん。いえ、リーダー。あんなことした俺を許してくれるのか?」
塩川は笑顔を浮かべてうなずき、そのまま意識を失った。そしてリーダーに代わって、副リーダーの遠藤がその場をとりまとめた。
「マッド。お前のしたことはひどい、ひどすぎる。俺たちも素直に許すことはできない。ただ、何があったとしても俺たちは仲間だと思う。もう辰也さんがいなくなった今となっては、金の力で結びつくことはできない。だから俺たちは心で結びつくんだ。もうみんな馬鹿やってる年でもないからな。これからは一生続く友達でいよう。もうみんな不良は卒業だ。大人になるんだ」
「ホワイトはどうなるんだよ?」
すでにグループから離れたトクジが心配して聞くと、遠藤はこう答えた。
「これからも俺たちはホワイトマフィアだよ。この街を離れたって幾つになったって死ぬまでずっとホワイトだよ」
「遠藤さん」
「エンドー」
他のメンバーも同じ気持ちのようだ。
栗田は、その場にいるバスケ部員達に「行こうか」と声をかけた。部員達は栗田に従った。
マッドは膝から崩れ泣き出した。他のメンバーも涙を浮かべている。スーツ姿の翔も声を上げて泣き出した。
「翔さん、みっともないから向こういきましょう」
トクジが声をかけると、
「馬鹿野郎!泣いてなんかいるか」
と、子供の様にごねたが、言われた通りにした。
救急車のサイレンが近付くと、ニットは、
「みんな、今日はもう帰ってくれ。後は俺が何とかする。見知らぬ外人達に襲われたとでも言っておくから」
といって、そこにいる仲間達を気遣った。
メンバーは、ニットに言われて、それぞれ立ち去っていった。
翌日、かつて有田が入院していた病院のベッドに並んで横たわる塩川とニットの周りを、再結成したホワイトマフィアのメンバーが囲んでいた。
「リーダー、疑って悪かった」
「許してくれ」
「マッドにすっかり騙された。あの野郎、あれから姿くらましゃがった。見つけたらただじゃおかねえ」
その言葉を聞いて、塩川は体を起こすことなく、
「あいつにだっていろいろ事情があったんだろう。もう済んだことは忘れようぜ」といった。
「リーダー」
「塩川さん」
「半分気失っててよくわからなかったけど、あの場所に栗田達来てたよな」
塩川は、川縁の様子を思い浮かべた。
「はい」
「どうやら借りができちまったな」
仲間達が自分の元に戻ってきてくれたのはありがたかったけれど、塩川はマッドの言葉が気になって、素直に喜べる精神状態ではなかった……あの女、あのとき久弥さん殺して金奪って……。
「長迫先生、私にどうしても話しておきたいことって何です?」
視聴覚室に呼び出された貴子は、長迫の様子が普段と違っていることに気付いた。スポーツの勝利の後のように、興奮冷めやらぬといった様子だ。それと、どこか浮き足だっているようにも感じられる。
「宝生先生、ようやく事件の謎が解けました」
長迫はそう言い切った。
「えっ?」
「ただ、生徒の将来に関わる重大なことなので、このことは警察に話すべきかどうか、私も迷ってるんです。そこで、学年主任にまでなって情けないですが、宝生先生のご意見も伺いたいと思って、こうしてここにお呼びした次第です」
「私を指名されたということは、やはり原田さんが……」
「悲しい話ですが、彼女の嘘を見抜いたんです」
「原田さんが嘘をついていると?」
貴子は驚いて長迫に聞いた。
「彼女は、たまたまその公園にいて事件に巻きこまれた。それに関しては誰も疑いを挟まなかった。それも彼女と被害者の間には何の関わりもなく、彼女が積極的に金田久弥を殺害する動機が無いので当然です。しかし、彼女と久弥の間に元々利害関係があり、そのことが原因でトラブルが発生したとしたらどうでしょう」
「彼女、当時まだ高一でしたよ」
貴子の疑問ももっともだ。
「先生は進学校しか経験ないから、そう考えるんです。私のように警官時代に少年犯罪を扱った者から言わせると、年齢なんか関係ありません」
「それでは、仮に最初の事件が原田さんのしたことだとしても、二度目はどう説明されますか。五時限目と六時限目の間の十分間では、公園まで往復できませんし、六時限目の始まるころ、金田の弟の方は生きている姿を見られてましたよね」
原田には完璧なアリバイがある。だが、長迫は新たな切り口を用意していた。
「確かに、彼女自身で実行することは不可能です。でも彼女以外の人間に頼んで、金田辰也を殺害することができる」
「原田さん以外?」
「例えば、六時間目の授業だけ出席した生徒。しかも公園で犯行を終えてからだから、当然遅刻することになりますが」
「まさか先生は?」
「考えてみてください。六時間目の授業だけ出るなんてこと、普通はしないでしょう。おそらく殺害した直後に授業にでていれば、少しは役に立つと考えたのでしょう。偶然公園を通りがかった第三者の悲鳴が六時限目も半ばを超えた三時過ぎに聞こえ、警察がそれを被害者が殺害されたときの悲鳴と早とちりしたものだから、少しどころかかなり役立つ結果になりましたけど」
「栗田君のことをおっしゃってるんですね。でもどうして彼が?」
栗田には犯行動機がないはずだ。
「全ては金ですよ」
「お金?」
「あの年であんなに金を持ってるというのはどう考えてもおかしいでしょう。本人は株で稼いだと言ってるけど、それを確認したことありますか?」
「原田さんから融資してもらったとおっしゃりたいんですか」
「融資というより原田本人の資金でしょう」
長迫の推理は、すぐには貴子には受け入れがたい。
「どうして、そのようにお考えになったのですか?」
彼女がそう推測する理由を聞くと、長迫は自慢げに、説明を始めた。
「よろしい。どうして私が彼女の嘘を見破ったのか、ご説明しましょう。あの公園には土管が三本積んであります。下に二本、上に一本。サイズは内径八十四センチ厚さ五センチ。簡単な幾何の問題ですよ。(2+√3)r の公式から、高さは約175センチとなります」
「一体、何をおっしゃってるんですか?」
「原田羊子は、公園で土管の裏にいた久弥の姿を見ていないと証言しました。
私も最初のうちは、原田の身長を考慮に入れると、遊具の高さが175センチなら180センチの久弥の姿が見えないのも当然と思っていました。しかし公園で、私自身が170センチの宝生先生の頭を見たことが気になり考えたんです。身長175の私の眼の位置は165程度。そこから175の障害があって、170が見えるだろうか?
答えは実に単純なからくりです。
土管は中に入り易いように、下が少し地面に埋まっていて、実際の高さは170だったんです。
宝生先生のほうも、公園にいたときヒールを履いてらっしゃったから170より高く、仮に五センチのヒールとして175。とすれば土管越しに見えても不思議はない。となると、それより五センチ高い久弥の頭が原田に見えないというのもおかしく思えたんです」
貴子は、長迫の言う意味を理解して青ざめた。
「すると彼女が嘘を……」
その時、廊下から視聴覚室のドアを開けて入ってくる人物がいた。予想外の人物の登場に、長迫と貴子は驚いた。
「栗田君!」
「栗田。どうしてここへ」
「悪いと思いましたが、さっきからお二人の会話聞かせてもらいました。まるで僕が原田に頼まれて、金田兄弟の弟を殺害して、何喰わぬ顔して六時間目の授業だけ出席したみたいなことおっしゃってましたけど」
「私はそんなこと言ってないわ。長迫先生が」
貴子は慌てて否定した。
「宝生先生。今になって逃げるおつもりですか」
長迫は貴子を非難した。
「いいですよ。僕は気にしてませんから。それより先程の長迫先生の話ですが、175センチの宝生先生が見えて180センチの久弥が見えないのはおかしいと言うのは、単純すぎます。
ヒールを履いた女性は背筋が伸び、携帯で話し、前かがみになりがちな姿勢だった久弥とは状況が違います。狭い場所ですから、体を前後に大きく曲げることは無理ですが、多少は脚を広げることくらいできます。それに170、180と言う数字は信用がおけるでしょうか?」
「どういう事だ?」
長迫は聞いた。
「男性は身長を高めに報告する傾向がありますが、逆に大柄な女性は低めに言う場合があります」
「まさか、立派な教育者である宝生先生が嘘を?」
長迫の質問に貴子は何も答えなかった。代わりに栗田が説明を続けた。
「具体的な数字は控えますが、ヒールを履いた宝生先生と靴履きの久弥は、同程度の身長と思われます。むしろその時は、久弥の方は姿勢が緩く、まっすぐ立っていた宝生先生より低いくらいでしょう。
長迫先生も宝生先生の頭の上の方が少し見えたくらいですね。それなら一五センチも視点が低い原田に久弥の姿が見えなくても当然の事です。でもそんなことは僕に言われるまでもなく、最初からわかっていたでしょうね。長迫先生?」
栗田はそういって、長迫を横目で睨むように見た。
その態度に貴子は衝撃を受けた。
「栗田君。あなたまさか、長迫先生が原田さんに罪を着せるため今の話を……はっ、ということは長迫先生が……でも先生には少なくとも、弟の事件の方にはアリバイがあるわ。犯行時刻は三時過ぎでしょう。先生三時から会議だったし…はっ!」
彼女は、自分の言ったことに驚いて、口を手で隠した。
長迫は三時から会議があるため、六時限目の授業は受け持っていなかった。さきほどの長迫の話では、犯行時刻は三時前の可能性もあるということだ。二時二〇分から三時までどうすごしていたのか……。
栗田は、容赦なく長迫を追いつめる。
「アリバイはあったということですね。長迫先生自らの手で壊してしまいましたけど。原田にどうしても罪を着せようと必死になったあまり、自分のアリバイまで壊してしまった。
しかし、どうやっても原田のアリバイは崩せず、実行犯が別にいるとの主張にすり替えた。どうしても彼女に罪を着せたかったんですね。
自分が最初の事件の犯行現場にいたことを、彼女に見られたという懸念がぬぐえなかった。あの学校のあいつさん」
長迫はせっぱ詰まったのか、緊迫した表情で栗田に、
「俺には証拠があるぞ。金田の弟と原田が会っていた証拠写真だ」
「彼女はしつこく金田辰也につけ回されてました。そんな写真はいくらでも撮れますよ」
「それじゃあ、栗田。お前には証拠があるのか」
「証拠?」
栗田は何か考えている様子だ。
「証拠の前に、何故あなたが犯人とわかったか説明しましょう。あなたはご自身でも気付かないうちに、決定的なミスを犯していた」
「ミス?」
「弟の金田辰也が殺害された当日の夕刻、警察から原田の担任の宝生先生宛に電話がかかってきました。原田がその日学校にいたかどうか確認の電話でした。その時、長迫先生はなぜか、殺害されたのが金田の弟の方だと知っていた。昔警察官だったから警察の知り合いから聞いたみたいなこと言ってごまかそうとしたらしいけど、その時点であなたがその事実を知っているのはおかしい。つい最近、宝生先生に確認した話ですけど」
「そういえば……」
その時の状況を貴子も思い浮かべた。
「栗田君に説明してた時はわからなかったけど、今思えば、あのとき二年前の事件を説明されてから、今回の被害者は弟だって……ついうっかりもらした感じもしなくも……」
長迫は横目で貴子を睨むと、、
「そこまで言うなら、二年前の事件はどう説明つける? 原田の証言によると、公園には金田久弥の他には誰もいなかったぞ」と栗田にいった。
「僕が悩んだのもその点でした。公園内には誰もいない。唯一原田の視点を逃れそうな北側の生垣には、人が乗り越えたような形跡はない。そこで僕はその時、何故久弥がそこにいたかに着目しました」
「何故いたの?」
貴子はストレートに聞いた。
「原田と同じく、あの時間に公園に行ったということは、誰かと待ち合わせをしていたはずです。遊びに行ったわけではないです」
「でもあんな狭い所に何故? しかも雨が降り出してきたのに」
「久弥は、どうしてベンチの屋根で雨を避けなかったんでしょう? 彼はそこにいた原田に遠慮するような性格ではありません。原田に話を聞かれないようにするためなら、彼女を追い出すでしょう。他に土管の裏でなければならない理由があったからです」
「理由って?」
「不良連中からもその凶暴性を恐れられた久弥です。そこで相手は久弥の暴力を避けるため、彼をそこに、自分は神社側にいるよう指定しました。生垣が物理的な接触を防ぎますが、話は交わせます。身の危険を感じたときも逃げやすい。久弥は相手の言うとおり、そこを待ち合わせ場所にする条件をのんだ。ところが約束の時間になっても相手は来ない。悪いことに雨まで降っている」
栗田はここで一息ついた。
「一体どのような相手と待ち合わせたのでしょう。久弥の仕事から考えれば、金を借りた人物である可能性が高い。その人物が遅れて来たうえ、しかも返済期限を延ばしてくれと頼んだら、久弥の性格からすると、我を忘れて怒り出しても不思議はない。おそらく携帯はその時、相手に向かって投げつけた。だが、そのくらいで久弥の怒りは収まらなかった」
長迫も貴子も、栗田の話に聴き入っている。
「ナイフを取りだし脅してみせた。しかし相手は生垣の向こう。場所をそこにしたのは正解だったと言える。その場で自分が刺されることは無かったから。ただそれがいっそう彼の怒りに火を注ぐことになってしまった。今すぐ相手につかみかかりたい。公園の入り口から回っていっても、その間に相手に逃げられる。そこで彼は、生垣を飛び越えようとした」
「無理だろう」
長迫はそういったが、どうも弱々しい。
「そのままの状態では無理です。
しかし、すぐ後ろに手頃な高さの台があった。その台の上から飛べば飛び越えられそうだ。
彼は後ろを向き、台となる土管遊具に登ろうとした。ナイフを土管の上において、遊具の横から土管に足をかけて登れば簡単ですが、そのまま登れそうな低い斜面だった。
熱くなっていた彼は、右手にナイフを握ったまま登ろうとした。そこで左手を上の土管に掛けて、右肘を土管のコンクリート補強部分につけて、片方の足を下の土管の上の補強部分にかけ、体を持ち上げた。そこからさらに体を上げるには、右手の拳を使う必要があります。それにはナイフを握った右拳を体の下に持ってくることになります。
そこから右手握り拳に体重をかけ、右肘を上に動かし体全体を上げて、さらに右肘に体重を移し、肘から先を上の土管に載せ、土管の上につけた左手と右拳で体を持ち上げ、まず片足、次に残りの脚を土管の上に載せて立ち上がればいいんですが、右肘を上げてナイフを握った右手の握り拳が腹部の辺りに来たとき、力が抜けてしまった。体力不足や、雨で滑りやすかったという他に、向かいのベンチに原田を見つけ、気が逸れたのかもしれません」
栗田は身振りを交えて説明したので、貴子にもおおよそわかった。
「説明細かすぎて、ものすごくわかりにくいけど、腕立て伏せで限界になって崩れた感じ?」
「上手いことを言いますね。彼は身を乗り出したまま体勢を崩し、遊具にのしかかり、右手のナイフは彼の腹に突き刺さった。悪いことにその時ナイフは地面に対してほぼ垂直。要するに上向きになっていました。
というのも、ナイフが邪魔にならないよう、遊具斜面に水平にするよう右手甲で体を支えるよりも、拳側面で支えた方が自然で力が出せます。夏で服装が薄手だったことも災いしました。
これが平面での出来事なら、傷も浅くてすんだでしょうが、ナイフが刺さった状態で斜面を滑り落ちたことで、傷はさらに深くなりました。呻き声を上げながら地面に落ちると、ナイフを抜いたが、もう動くことができない。そこへさっきの女子高生が様子を見に来た」
「要するに、これは殺人事件ではなくて、単なる公園遊具の事故?」
貴子はあきれた。
「いい年をした大人が情けないことをしたものです。それで彼は自分で怪我をしたと言えなかった。もちろん腹の立つ相手とのやりとりでのことですから、相手のせいにするつもりで、あいつに刺されたと嘘を吐いたのでしょう。
そして彼は、彼女が高校生であることから、あの学校の生徒ではないかと懸念した。もしそうならそれが彼女にとってどれだけ危険か悟ったんです。
そう、”あいつ”にとって”あの学校の生徒”に姿を見られることは非常にまずいと。
今自分はこうして動けない。彼女がやりとりを知ったのなら、この場で口封じのために殺されるかもしれない。馬鹿な事故を起こした恥ずかしさに加えて、彼女を巻き添えにするのを避けようと、彼は助けも求めず、彼女を土管に隠れさせた。
確かに凶暴な人物でしたが、人間的な面も持っていたんですね。でなければ不良達は付いてきません。彼のそうした善意のおかげで、あいつは土管に隠れた原田のことを知らずに、その場を逃げたのです。ねえ、長迫先生?」
長迫は何も答えず、黙ったままだ。
「弟の方はどうして殺されたの?」と貴子が聞いた。
「金田辰也は、手下の不良連中に二年前の事件の重要情報をつかんだと言いふらせました。長迫先生はそれを相原あたりから聞いて、話が大きくならないうちに口封じしようとした。待ち合わせの場所や時刻も犯行の隠蔽にふさわしくないことから、辰也に指定されたんでしょう。辰也からすれば兄の亡くなった場所という意味合いもあったのかもしれません。
辰也は西側の道路で待っていた。話し合いということで二人で公園に入った。通行人に見られるといけないので、そこですぐ辰也を刺したのでしょう。発見された時にはまだ息があったということは、死亡を確認する余裕もなく、すぐその場から立ち去ったからです。
隙を狙ったリスクの大きな行動だった。その時点では辰也の口を封じることで頭が一杯で、原田に罪をかぶせようなどという精神的余裕はなかった。それは警察から彼女について電話があってから思い付いたのでしょう」
「じゃあ、どうやって弟の辰也はその情報を知ったのか、またその情報とは具体的に何なのか教えて」
貴子は、いつの間にか探偵役になっていた栗田に聞いた。
「具体的には何もありません。彼は重要事実を知ったと吹聴することで、真犯人、おっと、この場合は事故ですけど、その時点では殺人だと思われてましたから犯人と呼びます。その犯人をおびきよせようとしたんです」
長迫も負けてない。
「どうして死んだ辰也自身でもないお前にそんなことまでわかるんだ。それに、久弥の死が公園での事故だったら、俺が彼を殺さなければならない動機は何だ?」
「直接久弥に手を下したわけではなくても、彼を怒らせ死に至らしめた原因を作ったわけです。事がはっきりしたなら、辰也やその手下達は黙っちゃいません。
長迫先生に対する攻撃は、原田にした嫌がらせの比ではないでしょう。世間的にも、教育者が闇金から多額の借金をして、それが原因で人が一人亡くなり、警察に迷惑をかけたことがわかれば、立場を失うことになります。
どうして僕がそのことを知ってるかですね。実は辰也にそうするように入れ知恵したのは、この僕ですから。
何でって? これ以上原田につきまとって欲しくなかったからですよ。彼女も受験で大変だから。結果、一月ほどは彼らは原田に近付かなくなりましたが、本人が亡くなると、前よりもっとマッドたちがしつこくなりましたけど」
容疑者長迫弘は、反論するのを止め開き直った。
「なかなかの推理だな。さすが我が校きっての秀才。本当は二年飛び級するくらいの頭脳なのに、何故か二年遅れてしまっただけのことはある。だが、そんなのは証拠にならん。はは。証拠は無いようだな。証拠がなければお前の負けだ。この勝負俺の勝ちだな。巌流島の宮本武蔵は俺の方だったな」
その時、視聴覚室のドアが開いた。
「待たせたな、栗田君」
「遅いよ、森野さん」
現役の刑事森野が入って来た。
「森野、お前」
「悪いと思いましたが、さっきから三人の会話聞かせてもらいました。長迫、証拠ならある。これだ」
長迫のかつての同僚森野は、その手に携帯電話を持っている。
「お前の家を家宅捜索させてもらったよ。もちろん令状はとってある。金田久弥の携帯、壊れて使えなくなっているが、まだとっておいたのはさすが元警官だな。久弥の指紋まで残っている。誰かに罪を着せるとき使えると思ったんだろうが、墓穴を掘ったな」
長迫は反論する。
「被害者の携帯を持っていただけで、俺が殺害したとはいいきれんだろう。真犯人が俺に罪を着せようと、俺の家に置いていったのかもしれん」
「お前は数学の教師のくせに、最新テクノロジーには弱いからな」
「何を言ってるんだ?」
「驚くなよ。今の携帯は通話が出来るだけじゃなくて、中にデータを蓄えられるんだ」
「そのくらい俺でも知ってるわ。だが携帯自体が壊れたんじゃ、どうしようもないだろう」
「ふふふ。驚くなよ。今の携帯はそのデータを取り出し可能なSDカードというものに記憶することもできるんだ。携帯が壊れても、このカードが大丈夫なら証拠は消えない」
森野は携帯からメモリーカードを取り出すと、親指と人差し指で掴んで、長迫に見せるように腕をつきだした。
「この小さなカードの中に金田久弥は、金銭貸し借りの記録をメモしていた。その中にお前の情報があった」
長迫は観念したのか、うつむいたまま何も話さない。そんな長迫に森野は迫る。
「どうして二年間交通巡査勤めただけで、しかもさぼってばかりだったお前が、あれほど事件のことにクビを突っ込むのか不思議だったけど、犯罪者は必ず現場に戻るという鉄則からすれば、当たり前のことだったんだな。それでかえって疑いが濃くなるとわかってても、そうせざるを得ない心境なんだな」
「うるさい、森野。子供が一人しかいないお前に俺の気持ちなんかわかるか」
長迫はそう言うと、貴子の後ろに回り、彼女を羽交い締めにした。
「きゃー」
「おい、森野。その何とかいうカードを俺に渡せ」
緊迫した空気が張りつめた。栗田は森野を見た。やむを得ないと言った様子だ。
「わかった。仕方がない」
そう言って、森野はSDカードを長迫に渡した。長迫はそれを口の中に入れ、かみ砕いて飲み干した。
「ははは。これで証拠は無くなった。悔しかったら解剖でもしてみるんだな」
笑いを抑える栗田に長迫は聞いた。
「何がおかしい、栗田?」
「それを飲んだところで、状況は変わりません。デジタルデータは幾らでもコピーできますからね。それに本物の証拠を相手に渡すほど、警察も間抜けではありません。今のはダミーですよ」
「えっ?」
長迫は、開いた口がふさがらなかったが、両腕は貴子から離していた。貴子はそんな長迫の方を向くと、右手に勢いをつけ、思い切り頬を平手打ちした。さらに左、右と連打を続けた。
栗田と森野は目を覆った。そのタイミングで制服の警官が視聴覚室に入ってきて、長迫弘に手錠をかけた。
手錠姿の学年主任は、栗田の方を見た。
「おい、栗田。俺は本当は、あのとき久弥に何が起こったか知らなかったんだ。あいつが土管に登ろうと手をかけたとき、俺は怖くなってその場から走り去った。それで、久弥を殺したのは原田だと思っていた。
弟の辰也を殺したのは確かに俺だ。それも原田が久弥を殺したせいだと思い、彼女に罪を着せようとした。でも考えてみれば、借りた金を返さずにすんだから逆恨みだよな。
弟を殺したのも世間の目を気にしたんじゃなく、久弥に借りたままの金をあいつらに利子付きで迫られるのが怖かったからだ。久弥が死ぬ原因を作ったんだ。どんな言いがかりされるかわかったもんじゃない。それもこれもローンがいけないんだ。毎月の支払いがきつくて、相原から話を聞いたことのある久弥に少し借りたんだ。最初のうちは感じがよかったが、すぐに本性を出してきた
……愚痴を言っても仕方ないか。家なんか建てるんじゃなかった。それに加え子供が三人。今じゃ上の子二人が私大、一番下が受験生。お前がうらやましいよ」
そう言い残し、犯罪者は連行されていった。
「栗田君。疑ってごめん」
貴子は、一瞬とはいえ自分の生徒を疑ったことを恥じた。
「いいんですよ。先生」
「それより、栗田君」
「何です?」
「今日は国立の試験日だったわね」
栗田は、驚いた表情を浮かべた。
「あっ、いけねえ」
「もうあなたは卒業したんだから、私には関係ありませんから」
そう言って彼女は部屋を出ていった。残った栗田は鼻で笑っていた。
病室で目を覚ました塩川は、ベッドの脇の小テーブルに花束が置いてあるのに気付いた。
「誰なんだろう。花なんか置いていきやがって」
彼は、痛めた体を動かしてそれを手にとった。
差出人不明の花束には、達筆でメッセージが添えられていた。
──ようやく事件が解決しました。今まで私のことかばってくれてありがとうございます。これからもお体大切にしてください── 。
「おい、ニット。これ見てくれ。これきっとあの子だ。あの子が俺に感謝の言葉を」
彼は、喜びを伝えようと隣のベッドの上の仲間を呼んだ。
ニットはいびきをかいて寝ている振りをした。そうでもしなければ面白くて吹き出してしまうので、彼も大変だった。
塩川が小屋で出会ったあの太った女に、有田や遠藤が、
「本当は塩川は騙されてあそこにやってきた。君もその騙したほうの仲間なんだ。それなのに彼は君をかばって、自分が悪いと反省している。どうか許してやって欲しい」と説得した。
さきほど二人に連れられて彼女は見舞いに来たが、眠ったままの塩川を起こすのは悪いと、照れながら花束とメッセージを置いて帰っていった。これはきっとお似合いの二人になる。もう原田という子はいなくなるんだ。塩川が原田から卒業するのにいい機会だ。
「は~い。みなさん。合格おめでとう」
マスターは、卒業記念スペシャルに劣らない、豪華なバニラケーキをテーブルまで運んだ。
「うわあ、すごい」
みちるは驚いた。「また記念写真撮らなきゃ。でも栗田さん来てないの残念ね」
原田達は、何度も彼の携帯に電話をかけたのだが、電源が入っておらず音信不通になっている。
「きっと彼も、引っ越しやらなんかで忙しいんだよ。その点、俺ら地元居残り組は楽だけど。お二人とも仲良くしようぜ。また同じ学校だからな」
北山はみちると紗英に言った。
「どうして今年からあの短大、男子も採るようになったの。またこのおっさんと一緒なんてうんざり」
少子化の影響でどこの学校法人も経営が大変で、紗英の不満に合わせていられない。
「ところでひつじ子は住むところ決まった?」
「まだだけど」
「いいなあ。一人暮らしか」
「そんなことないよ。この街離れるの寂しいし」
「そうよね。向こうに知り合いとかいないから」
みちるは羊子の気持ちを理解した。きっと栗田と離れるのが寂しいんだ。
「せっかくの合格祝いだ。そんな落ち込む話やめて、ぱあっと盛り上がろうぜ」
北山が叫ぶと、マスターは待ちかまえていたかのように、リモコンを持って近付いてきた。
「えっ、何? まさか」
紗英のまさかは当たった。
「そう、そのまさかだよ」
入り口の左側の隅に置いてあった大画面TVの電源が入り、それに接続してある最新鋭通信カラオケデッキが起動した。
「今日業者がセッティングしたばかり。みなさんが第一号のお客さんだ」
マスターはまず、提案者であるみちるにマイクを渡した。
「えっ、どうしよう」
彼女は提案した割に慣れていない。
「あの曲にしたら?」
紗英がリクエストした。
「あの曲?」
「あの超人気学園ミステリードラマの主題曲」
みちるは、番組主題歌を高音で歌い出した。
「次、ひつじ子」
と、歌い終わるとみちるが指名した。
「えっ、私? 何歌っていいかわからない」
「あの大人気アイドルのあの歌なんかどう」
彼女は薦められた曲を歌った。歌いながら番組のシーンが浮かんでくる。何故だかわからないが今の彼女と重なってくる。
「どうしたの、ひつじ子。涙なんか流して」
「何でもないの」
三月最後の日、午前十時。原田羊子はN駅のホームでみちる達に見送られていた。あれから栗田とは連絡がつかないが、この日のこの時間、西に向かって旅立つことはメッセージに残しておいた。しかし、彼の姿はない。
「栗田さん、来ないね」
みちるも辺りを見回した。
「彼も忙しいんだよ。俺たち地元居残り組と違って」と北山はいった。
「またそれを言う。あんたと一緒にしないでよ」
出発まで間もない。原田は改札口を見ているが、入ってくる人は彼とは別人ばかりだ。
「S駅からは新幹線指定席にした?」
北山が聞いた。
「ええ」
原田は言葉少なげだ。
「落ち着いたら連絡よこしてね。みちると一緒に遊びにいくから」
紗英が言った。
「うん」
「どうしたの、元気だしてよ。私たちだって寂しいのに」
「あっ、あれ」
みちるは、駅に接する道路を指した。原田もそちらを見た。
スクーターに乗った巨漢の男がこちらを見ている。頭の包帯が痛々しい。彼は彼女と目があうと会釈した。彼女も彼の方に頭を下げた。
「あの人まで来ているのに、栗田さんどうして来ないの」
みちるは道路を遠くの方まで眺めたが、栗田の姿はない。
「メールも入れたし、伝言も入ってるはずよね?」
紗英にそう確認されて、原田は頷いた。
「電車来たよ」
北山も、本当は来て欲しくないという感じだ。
「もうお別れね」
みちるが寂しそうに言った。
列車はホームに到着した。
「ひつじ子、さよなら」
紗英が手を振ると、原田も手を振った。
原田は、重い荷物を抱えて乗り込んだ。驚いたことに北山も乗ってきて、彼女の荷物を抱えると棚に載せて、大急ぎで列車から降りた。
そして列車は動き出した。みちると紗英が手を振って、列車の方向に歩いてくる。
「ひつじ子、元気でね」
「またこっちに遊びに来てね」
「バニラカフェで待ってるからな~」
北山が大声で叫んだ。
彼らの姿が見えなくなり駅が遠ざかっていく。彼女は涙を拭うと、車窓から街を眺めた。学校、友達と歩いた通学路、いやな記憶のある公園でさえ、今は懐かしく思えた。そして、メイン通りの交差点のすぐ近くにあるバニラカフェの看板が一瞬見えた時、彼女は立ち上がった。そしてそのまま後ろに去っていく街の姿を眺めていた。……もうこの街と彼から卒業したんだ。これからは一人で生きていくんだ……帰らざる日々は記憶の彼方に過ぎ去っていく……。
四月初旬、入学して最初の授業。高校と違い席が決まっていないキャンパスの教室で、彼女は普通は避けたがる前列の席に座った。講師が来るまでの手持ちぶさたの時間、新品のノートに落書きをしては消していた。彼女の隣に他の学生が座った。しかも男子だ。他に席はたくさん空いているのに、不審に思って相手の顔を見た。
その学生は言った。
「やあ、奇遇だね。同じ大学だったとは。確率で言うなら、全国の大学入学者数とこの大学の新入生の数とを……」
偶然のはずはなかった。そういえば彼女が試験を終えて彼にその内容を説明したとき、何故か四問目が簡単だってこと知っていた。同じ試験を受けていたんだ。
栗田は照れ隠しに確率の説明をしていたが、彼女はその内容を聞いてはいなかった。満面の笑顔を浮かべて彼の顔を見つめていた。
すると栗田も説明をやめ、無理をしてクールに決めた。
「いつの間にか君を守ることが自分の使命みたいに思えていてね。悪いけど、これからも邪魔にならない程度に付き添わせてもらうよ」
卒業式は無事に終わり、事件も解決したのだが、彼はまだ彼女から卒業できていないようだ。
THE END
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