第5話 連続ドラマ「バニラカフェ」放送直前スペシャル 初回と二話をダイジェストでお届け

ナレーション

「最近のドラマはマンネリで刺激がないと、お嘆きのあなた。テレビを廃棄するのは、秋まで待ってください。この夏、JBCテレビがお届けする、学園ミステリー『バニラカフェ』を見れば、あまりの恐ろしさに全身の毛穴から冷や汗ドバドバ。テレビ捨てないで、エアコン捨ててください。


 エヘン! これからまじめに番組宣伝させていただきます。


 視聴率なんか関係ね~、のJBC放送ドラマ班が、滝に打たれ、鞭に打たれ、上司に怒鳴りつけられ、視聴者のクレーム電話に出続け、早朝から深夜まで編成局に土下座し、日がな一日スポンサー詣でを繰り返して十年、ついに念願のあの名作をドラマ化しました。正確にいうと、すいません。オリジナルでした。


 思い起こせばこの十年、当社にはろくなことがありませんでした。

度重なる捏造報道で、報道部は事実上の解体。バラエティ番組におけるワイプの使いまわし。無茶なドッキリ企画で芸人死亡。ドラマ『残業しない刑事』での制作費不払い。ドーナツダイエットではやせるどころか逆効果。どれも大きな社会問題になり、制作会社からそっぽを向かれ、スポンサーもつかず、なんとか女子アナのコンパニオン派遣などの副業で食いつないできました。


 この惨状を打開すべく、『目指せ、視聴率50%』を合言葉に、画期的な番組を立ち上げようと、社員一同、言葉には尽くせぬ苦労を重ねてきたのです。最初に成果を挙げたのはバラエティ班でした。素人参加型クイズ番組という、新ジャンルを業界に先駆けて、立ち上げることに成功しました。

 我がドラマ班も負けじと、知恵を絞りました。のべ一万時間に及ぶ会議の結果、学園ドラマとミステリーという、異色の組み合わせをまだどこもやっていないことに気づきました。そうです。学園ミステリーという新ジャンルの誕生です。


 企画は決まりましたが、壁はまだあります。他局のように制作会社いじめもできず、すずめの涙のような低予算。そこで我がドラマ班は、ギャラの安いタレントを使うことで、対応することにしました。スタッフの数は最小限。脚本、演出一人ずつ。音楽にも金をかけられず、中国からの留学生。それでも、まだ制作費が足りません。仕方なく、第一話と二話を、ダイジェスト部分だけ撮影することで、予算を切り詰めました。


 というのは、もちろん、冗談です。

 最初からそんなことでは視聴者の皆様に失礼です。全十一話ちゃんと放送します。ただし、視聴率が一桁にならないことが前提です。もし、この番組をご覧の方、あるいはお知り合いでも結構ですけど、視聴率モニター様がいらっしゃったら、どうか、バニラカフェの時間だけ、チャンネルを合わせていただくことはできないでしょうか。

 もちろん、ドラマを観る必要はございません。インターネットを始め、ゲーム、凧揚げ、すごろく、羽根突き、ラジオ体操など、今やテレビより楽しいことはごまんとございますから。数字さえとれれば、うちのほうは万々歳ですので。


 私たちJBCテレビは、視聴率モニター様のお情けにおすがりするしかないのです。


 視聴率モニター様は神様です。


 出来れば、お休みの日など、当社のほうにお寄りいただければ、社員一同と有名芸能人の方々で心からのおもてなしをさせていただきます。うちの女子アナたちは、派遣先でコンパニオン修行を積み、銀座のホステスさん並みの接客力がございます。もちろん、わざわざご足労いただいて、手ぶらでお帰りいただくわけにはいきません。心ばかりのお土産も用意しております。


 あ、そうそう。肝心の番組のほうですが、ミステリーなのに、結末をどうするか思案中だそうです。犯人役と探偵はもう決まってますが、なにぶん、脚本化にとって初挑戦なもので、トリックとか推理をどうするか、何も思いつかないとのことです。最悪、探偵がいきなり、おまえが犯人だといって、事件の説明なしで、犯人がつかまるというケースもあります。その場合は、申し訳ないので、派手なアクションで教室セットごと破壊するそうです。 


 ちなみに、ナレーターを務めるわたくしニールセン彰も出演しちゃってます…………………………………あ~恥ずかしい。自分の名前出しちゃった。もう、だめだ。いくら仕事でもこんなあほな原稿読んでられない。ドラマのほう降板してもいいから、この仕事変わってくれ。なんで、俺なの? 

 俺、ほんのちょい役だよ。主役の糸井さんか、林さんとかが読むのが順当じゃん。うちの事務所が小さいからっていって、いやな役目ばかり、押し付けないでよ。ギャラだってまともに払ってくれるかどうかわからないし、もういいよ、俺、番組降りる。

 え? 止めないの? 出たくないなら、出なくても結構って。すいません。僕が間違ってました。ぜひ、使ってください」


 

登場人物 ( )内は役者名


栗田京平(糸井純):主人公、城西高校三年D組だが年齢は二十歳

原田羊子(中井まどか):三年D組生徒、最初の事件の重要証人

宝生貴子(仁科早紀):三年D組担任教師、担当英語

長迫弘(小林透):学年主任、担当数学、元警官

白井みちる(酒井美鈴):三年D組生徒

伴紗英(下平紀美):同

北山正隆(森川義則):同、常に授業に対し真摯な態度で臨む

平アリカ(丸山ミサ):三年C組生徒、みちるや紗英と不仲

白石夢乃(藤間さくら):栗田の元同級生     

金田久弥(MC一号):闇金融業者、最初の事件の被害者

金田辰也(MC二号):久弥の弟、ホワイトマフィアリーダー

塩川良平(林守):ホワイトマフィアメンバー、体重120キロ

マッド(ニールセン彰):同メンバー、ロシア人とのハーフ

遠藤(馬淵茂):同メンバー、塩川と幼なじみ

ニット(柴田龍太):同メンバー、実家はクリーニング店

相原(EBU):同メンバー、栗田と城西高校の同期だが中退

徳島次郎(細田ひかる):同メンバー、元暴走族

有田貴文(岩井悟):同メンバー

森野隆児(西園寺暁彦):刑事、長迫の知人

脚本 久津川革靴 演出 若林ぴょん太 制作 赤松民雄

 

         第一話「密室の公園」のあらすじ

 

 地方の進学校城西高校三年の栗田京平は、一年の原田羊子から夕方六時に錦城公園に来るよう頼まれた。学校一の秀才の彼は、受験生なのにあまり勉強もしておらず、軽い気持ちで引き受けた。

 学校から徒歩十分の場所にある錦城公園にちょうど六時頃に着くように放課後もぶらぶらしていると、所属するバスケ部の後輩から、主力選手が負傷したので彼に参加して欲しいと切に頼まれる。断り切れなくなった彼は、原田との約束を後回しにして試合に参加する。


 約束の時間に来ない栗田を公園でただ一人待っている原田だったが、陽は沈んでいく。小雨まで降り出した。七時少し前に人影が公園に現れると土管遊具の陰に隠れたので、栗田がふざけているものと思った彼女は近付いた。しかし、別人の声がする。そのとき男の顔や頭などは見ていない。彼女は土管から離れ、また栗田を待ち続けた。雨は強くなっていく。男の声は喧嘩をしているようだ。


 土管の上に見知らぬ男の顔が現れた。目は見開かれ助けを求めているようだ。するとすぐに男の顔が消え、続いて呻き声が聞こえた。彼女が土管の裏を見に行くと、Tシャツの前を血に染めた男が、仰向けに倒れている。そこから記憶を失い、気が付くと彼女は土管の中にいた。彼女はその間被害者以外の人物を見ていない。


 そうした彼女の証言を、警察は全面的に信じたわけではない。というのも彼女のいたベンチから死角になる土管遊具の裏で事件が起きた場合、犯人は北側の池垣を越える他はないが、その池垣には人が乗り越えたような形跡はなかったからだ。


 試合を終えた栗田が公園に行くと人だかりができていた。殺人事件が起きて、彼女も巻きこまれていた。栗田は原田に対し責任を感じるのだった。

 

 第二話「兄と弟」のあらすじ

 

 事件の被害者となったのは、金田久弥という名の三十三歳の闇金融業者だった。警察は金銭トラブルが事件の原因と見て彼から金を借りていた債務者をあたるが、記録が無く捜査は難航する。

 久弥の五歳年下の弟の辰也は、事件の真相を知るべく、彼がリーダーを務める地元不良グループ「ホワイトマフィア」を率いて、目撃者である原田につきまとうようになる。


 そして事件から二年、原田は三年生になっていた。栗田も何故か三年のままだった。彼は事件後、親元を離れ原田の家の近くにマンションを借りて生活していた。原田の通学時にも不良達が彼女に近付かないようにできるだけ近くにいるようにするためだ。


 そんな状況も辰也が事件の重要情報をつかんだことで一変する。不良達は原田に近付かなくなり、平穏な日々が訪れたかに見えた。

 だが、辰也が兄と同じ公園で殺害されたことで、事態は以前より悪化する。悲鳴を聞いた近所の人の通報で警察が駆けつけたときには、辰也は腹と背中を刺されすでに虫の息だった。

 手当てのかいもなく彼は病院で息を引き取った。通報時刻から事件発生を午後三時頃とした警察は兄久弥の事件との関連を重視し、久弥事件の参考人を当たるが、いずれもアリバイは完全だった。混迷を続ける警察の捜査に見切りを付け、リーダーを亡くし暴走するホワイトマフィアは、その牙を原田にむけるのだった。


                    制作著作 JBC⑧

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