第4話 私に警備員?

 それから一週間後の朝、早紀は所属事務所である人物を紹介された。

 写真の件以降も何度かピンポンダッシュがあり、彼女はその都度社長に訴えていた。だが、警察に届けるほどのことでもない上、仮に警察に言ったところで、芸能人だからよくあることと一蹴されてしまうだろう。

 そこで社長の宮田の出した結論は、警備会社から身辺警護要員を派遣してもらい、付き人の振りをして、彼女の側に付かせるということだった。それで何かが変わるわけではなかったが、とりあえず早紀に安心感を与えることはできる。


 時田譲という名の警備員は、身辺警護つまり四号業務警備専門のベテランで、採用条件にふさわしく長身の筋肉質で空手の有段者ということだった。年齢は中年に達していると思われるが、彫りの深い爽やかな顔立ちが若々しく感じさせた。


 撮影所に向かう車内、早紀は珍しく無口だった。

「どうしたの、早紀ちゃん。隣に警備員さんがいるから緊張してるの?」

 長年彼女を観察している玉井は、彼女の気持ちを察するのが得意だ。

「あの、自分のことは、あまり警備員と呼ばれない方がいいかと。周りの方に気を遣わせますから」

「そうですね。じゃあ、付き人の時田さんで。わかった? 早紀ちゃん」

「はい」

 やはり緊張している様子だ。

「あの、あまり自分に気を遣わなくて結構ですから。空気みたいな存在だと思ってください」

「はい」

 時田はそう言ったが、それから玉井の運転する自動車は、撮影所に着くまで無言のままだった。


 撮影所では、玉井と時田は学園ドラマ用の教室セットの廊下にいた。どうしても話題は早紀のことになる。

「普段は人見知りをしない子なんですけど、ほらあんな感じで」

 森川を叩き続けている早紀を見て時田は、

「自分は仕事上、出来るだけ目立たないよう心がけていますので、それで近寄りがたかったんでしょう」

「目立ってもいいですから、私のサポートなんかしてくれるとありがたいんですけど」

「えっ、自分がですか?」

「付き人って設定ですから」

「はあ」

 時田は、玉井の言うことが理解できないようだ。

「とりあえず送り迎えだけでもやっていただけると、大変助かるんですけど」

「わかりました。それも警備の一環ですので」

「えっ、本当にいいんですか?」

「はい」

 彼の返事に、玉井はしめたとばかりに喜んだ。実は彼女の家は、撮影所の近くで直接帰ることができれば時間を節約できる。


 

Houshou「There are certain words in English that are usually followed by an infinitive or gerund. A gerund is a verbal that ends in ~ing and functions as a noun. An infinitive is a verbal consisting of the word to plus a verb and functioning as a noun, adjective , or adverb. Decide if the verb below is followed by a verb in the infinitive form or in the gerund form. Gerund or Infinitive? Choose the correct answer. "manage". Mr.Egawa 」

Egawa「Infinitive」

Houshou「That's correct. Now,"start". Mr.Tanaka, Gerund or inifinitive?」

Tanaka「Gerund」

Houshou「Uncorrect. The answer is both.」

北山「先生、ここは日本です。日本語で授業してください」


「はい、カット」

「言えた~」

 早紀は、思わず涙がこみ上げてきた。

「あの長い台詞。しかも全部英語」

 周囲から拍手が湧き起こった。それが嬉しくてさらに涙が流れた。それを見ていた時田は一瞬笑ったが、すぐに厳しい顔つきに戻った。

 監督も気にしていたシーンが無事終わり、彼女に「お疲れさま」と声をかけた。「これ日本語でも大変なのに、よくできたね」

「一時間かけて覚えたんだけど、日本語の意味全然わかんないから、完全丸暗記」

「僕もよくわからないけど、英文法の解説を英語でしてるみたい」


 その日の撮影は教室シーンだけだったが、数話分をまとめ撮りするうえ、他の授業も専門用語が多く、NGが続出したので、撮影時間が延びた。

「はい、玉井です。早紀ちゃん、時田さんに送ってもらいますので。えっ、まずいですか。はい。そうですね。マネージャーの私が責任を持って送り届けます」

 帰りも玉井が運転していくことになった。それが、途中で早紀の買い物につきあって、余計に遅くなったので、玉井は自宅前で降り、早紀を時田に任せた。マンションに着いたのは夜十時過ぎ。

 時田は、早紀が部屋に入るまで付き添った。

「ごめんなさい。こんなに遅くなってしまって」

 ドアの隙間越しに、彼女は頭を下げた。

「いえ、仕事ですから。それでは、また明日来ますので、何かあったら携帯で連絡してください」

「はい。お気を付けて」

 彼女が扉を閉めるのを確認すると、時田譲は腕時計で時間を確認してエレベーターに向かった。


 部屋に入った早紀は、普段と同じ気分でいるのに気付いた。また入り口のチャイムが鳴ったとしても怖がることはない。エントランスでのチェックはないが、マスターキーが無ければ部屋の中に入ることは、まず無理な造りになっている。

 警備員が付いたことによる心理的な効果は大きく、彼女は久しぶりの安心感をかみしめた。そしてその日は、何もおこらなかった。


 翌朝ドアの外で迎えに出たのは、玉井ではなく時田だった。玉井は車の中で待っているとのこと。警備員にエスコートされてマンションを出る様は、ちょっとしたお姫様気分だった。

「すいません」

 後部座席のドアまで開けてもらって、VIP扱いだ。


 昨日はほとんど会話を交わしていなかったが、車中で早紀の方から話しかけた。

「警備員さんは、この仕事長いんですか?」

「始めてから十年目ぐらいです。以前はタクシーの運転手や清掃業をしていました。後、自分を呼ぶときは時田と呼び捨てで結構ですから」

「はい、時田さんって呼びます」

 マネージャーの玉井がフォローした。

「呼び捨てしている所を他の人に見られたら、彼女の印象が悪くなりますから」

「あっ、そうですね。気がつきませんでした」

「いいのよ。気にしなくて。これまで一度も週刊誌なんかに記事が載ったことがないから」

 早紀がそう言うと、玉井が付け加えた。

「スキャンダルには無縁なんです。恋人は一応……」


 一瞬、時田の顔が興味深げになった。

「言っちゃだめ。私はいつもノースキャンダル。でもそれって、世間から注目されていないってことじゃないかな」

 自分で言ってすぐに落ち込んだ。

「そんなことないですよ。よくTVでお見かけしますし」

「え~っ。私って結構有名なんだ」

 すぐに明るくなった。

「何本もドラマ出てるから顔ぐらい知られてますよ。事務所的にはCMなんかもやって欲しいけど」

「CMなんかやらない。どうせオファー来ないけど」

「自分がもし企業の広報だったら、仁科さんに頼みます」

時田の社交辞令を早紀は喜んだ。それよりも時田と打ち解けて話せたことが嬉しかった。

 

 監督の若林は撮影の合間に、ヒロインの中井まどかと彼女のマネージャーを呼んだ。演技経験のない彼女のためにアドバイスをするのだ。念のためプロデューサーの赤松も同席した。

「この原田羊子というヒロインはごく普通の女の子なんです。なのにたまたまいた公園で聞いてはいけない話を聞いてしまったため、口封じのため襲われそうになって、相手の男性を殺してしまう。彼女はそこから逃げ去ったもう一人の顔を見たわけではないのに、殺された男性の弟とその手下からしつこくつけ狙われる。そしてついにその弟も殺してしまう。ところが、彼女には犯行時刻に学校にいたというアリバイがある。アリバイってわかるよね?」

 わかりきったことを改めて言う監督に、アイドルは素直に答えた。

「はい。犯行時に現場にいなかったということですね」

「そう。元警官の学年主任の先生が探偵役となって、彼女のアリバイを崩すんだけど、視聴者の方に犯人とばれないように、しかも学年主任が自分のことを疑って徐々にアリバイを崩していく過程を心配する様子も演じなければならないんだね」

 マネージャーもまどかも神妙な面持ちだ。

「難しそうですね」

「そう、結構大変だと思うよ。だけど、どうしてもこれはやり通さないといけないから。逆にあまりそのことを意識しない方がいいかもしれないね。これはベテランの俳優さんでも難しいことで、刑事ドラマなんかでこの人犯人だって何となくわかる時あるよね。普段は自分が犯人役だということを忘れて、アリバイが崩れていく過程で少し表情を変えるといいかもね」

「はい。少し緊張した顔なんかでいいですか?」


 珍しく黙って聞いていた赤松は、彼女の態度に感銘を受けた。

「さすがだね。いいよ、まどかちゃん。僕も駆け出しの頃を思い出すな。ほとんど雑用係だったけどね。それでも先輩達に言われたよ。千里の道もまず一歩からだって。千里ってわかる。この頃あまり使わないね。メートル法ばかりで。その千里、つまりメートル法でいうとおよそ四千キロメートルくらいだからね。これはおよそというところが重要なんだ。一里イコールおよそ四キロメートル。…四千キロも歩くのは大変だよ。マラソンだって四二・一九五キロだからね。つまりおよそ十里くらいだね。四千キロ、つまり千里というのはマラソンのおよそ百倍もあるんだね。…」


 監督との会話に割って入ってきたプロデューサーに、アイドルが突っ込んだ。

「あの、プロデュサー。その千里というのは古代中国における千里であって、日本の尺貫法とは違うんじゃないでしょうか。それに千里というのは具体的な距離ではなく、長い道のりを表現したものだと思います」

「えっ?」

 これまで話の細部を問い質されたことがない赤松は、口を開けたまま驚いた。

 すぐ側で控えていたマネージャーが慌てて謝った。

「すいません。赤松さん。まだこの子業界浅いもので。後でじっくり言い聞かせますから」


「いいんだ。いいんだ。僕の言い方が悪かった。じゃあ、こうしよう。ローマは一日にして成らず。英語で言うと、ローマワズノットビルトインアデイと言うんだけど、ローマがカルタゴに滅ぼされるまでの間、いやローマがカルタゴを滅ぼしたんだったな、千年もの長い歴史も最初の一日が大切だということだな。僕は先輩達に感謝したよ。雑用こそが、素晴らしいドラマ作りへの第一歩だって教えてくれたことを。その日から誰よりも早く出勤し、帰るのは一番最後と心に決めたんだ。そんな僕を見る周りの目は冷たいものだった。当時、唯一僕の味方と言えたのは狭いアパートで大家さんに内緒で飼っていた白猫のチャンドラグプタだけだった。僕が疲れて帰ってくると彼女は、あっオスだから彼女じゃないんだ。僕に近寄ってこう言うんだ。『元気だせよ。辛いのはお前だけじゃないだろう』僕はこう返事をしたよ。『ネコは気楽でいいよな』そしたらチャンドラグプタは、『そんな根性だから、女の子にもてないんだ。それにネコだって大変だニャー』って」


「ちょっと、いいですか。ローマは一日にして成らずというのは、偉業を達成するには長い時間がかかるという意味で、最初の一日が大切だというのは、むしろ先ほどの千里の道もまず一歩からの方が適切だと思います。それに先輩だった方は、どちらの諺を言ったんでしょうか? もしプロデューサーのお話が本当なら、そこで諺が二つも出てくるのはおかしいと思います。それに、ネコの話は明らかに創作ですね」


「こら、まどか。いい加減にしないか」マネージャーは彼女を叱った。「プロデューサーさんに謝りなさい」

 監督の若林は、その場から立ち去りたかったので、適当な用事を持ち出して、どこかへいった。

 まどかは謝るどころか、

「もう一つ付け加えさせていただきますと、英語で言うとローマワズノットとおっしゃってましたけど、あれ英語というよりむしろカタカナで言うとですね」

 と、余計なことを付け加えた。

 マネージャーは立ち上がり、思い切り頭を下げた。そして彼女の頭を掴み、プロデューサーに向かって下げさせた。

「申し訳ございません。何しろ帰国子女ではっきり物を言いますし、英語の発音には特にうるさくて」

 赤松が太っ腹なところを見せようとして、

「気にしなくていいよ。何、英語が話せるの? ところで仁科さんの発音どう?」と聞いたところ、

「放送しない方がいいです」と正直な感想を言われた。


 その仁科は、次のシーンで出てくる長い台詞を、一度は覚えたはずなのに何度も読み返していた。


「To be, or not to be: that is the question: Whether 'tis nobler in the mind to suffer. The slings and arrows of outrageous fortune, Or to take arms against a sea of troubles, And by opposing end them? To die: to sleep; No more; and by a sleep …」

北山「先生。シェークスピアなら劇場でやってください」


仁科「も~ッ。これができたら外国の舞台にも立てるじゃないの。日本語訳もやったことないのに、今の私には難しすぎ」

 近くにいた糸井は、早紀の独り言を聞いて、

「そのうちロイヤル・シェークスピア劇場から出演依頼が来たりして」

と、明らかに冗談とわかる冗談を言った。

 その冗談に、早紀の顔が俄に明るくなった。

「えっ、それ本当…のわけないか」

 

 早紀の演じる教師は担任なので、ただ授業をこなすだけでない。

 職員室。電話に出る宝生。

「警察の方? 原田羊子は確かにうちの生徒ですけど。はい、今日は出席しております。途中抜け出た? そんなことはないと思いますが…えっ、どういう事ですか? 六時間目は私ですけど。ずっといましたが。はい、わかりました」

学年主任長迫「宝生先生。警察から何か?」

「原田さんのことを訊ねてましたけど」

「まさか、二年前の事件が関係してるのでは?」

「二年前? 何があったんですか?」

「先生は去年赴任されてきたばかりですからご存じないと思いますが、二年前の夏休み直前、原田さんは先生のところのクラスの栗田君と公園で待ち合わせしてたんですね。ところが栗田君が約束の時間に遅れてしまい、その間に公園で人殺しがあったんですよ」

「人殺し?」

 青ざめる宝生。

「その時居合わせた原田さんは犯人を目撃したのではと警察の方は何度も尋ねたんですが、よほど恐ろしかったのか、彼女はそれについて、他に誰もいなかったと口を閉ざしたままなんです」

「そんなことがあったなんて」

「問題はそれだけじゃないんです。殺された方というのが、どうも堅気の方じゃないみたいで。どこかの組に属しているというわけではないみたいですが、闇金融の方に手を出していまして、その弟の方がこの当たりのホワイトマフィアと名乗る不良グループのリーダーで、それ以来原田さんに絡んでくるんです。私が警察の知り合いに聞いたところ、今回殺害されたのは、その弟の方らしいです」

「ホワイトマフィア?」

「原田さんに直接危害を加えるということはないんですが、彼女も記憶が飛んだりして、どうしても話せない事情があるみたいでして、それがかえって不良達に余計に絡まれることになったんですね」

「そんなことがあったなんて」

「あの成績優秀な栗田君が二年もダブったのも、自分が公園に遅れたことに責任を感じて、彼女が卒業するまでこの学校に残って、原田さんのことを守ろうとしているんじゃないでしょうか」

「そう、栗田君が……」

 栗田のことを見直す宝生。

 

 その日の撮影が終わり、帰りの車の中にいるとき、早紀の携帯に電話がかかってきた。相手は珍しく福島だった。

「はい、私です。え~、そうですね。その日は……玉井さん、来月八日の予定ってどうなってます? そう。空いてます。本当?」


 普段は大きな声で笑いながら話す電話も、時田が隣にいると、何故か大人しく行儀よくなってしまう。

「はい、わかりました。また、連絡してください。それではこれで」

 やりとりを聞いていた玉井は、彼女の口振りがいつもと違うので、

「早紀ちゃん、誰から?」と聞いた。

「福島さんから」

「いつもは亘さんって名前で呼んでるじゃない」

「福島亘さんから」

「内容は?」

「どうして言わなければいけないの?」

 時田がいると話しにくい。

「いつもは自分からべらべら話すじゃない。時田さんがいるから言いにくいの?」

 時田は原因が自分にあると知って、

「自分のことは気にしないでください。秘密は必ず守ります」と気遣った。

「わかりました。言います。福島さん、八日に会議で東京に来られるそうで、午後から遊園地に案内してあげようかと頼まれました」

「それってデートの誘いじゃないの」

「そうかもしれません」


 何故、時田がいるとこうも固くなってしまうのだろう。自分でも不思議だった。

「そんな大事なことは時田さんにも言わなきゃ。ボディガードから離れちゃだめでしょ?」

「えっ、警備員さんも一緒?」

「そりゃそうでしょう。いつストーカーに狙われるかしれないし」

「自分は近くで待機していますので、どうぞお気遣いなく楽しんでください」

「ほらね。遊園地なんて一番危ないから、ガードマン絶対必要よ」

「そう…そうよね。警備員さんいた方が安心できるから」

「それでどこの遊園地?」

「まだ決まってないみたいだけど世界有数の遊園地のようです」


 マンションに帰りPCメールをチェックすると、忍から一件送信されていた。

「携帯で送ればいいのに」

 メールを開くと、何新奇来日スケジュールの詳細が、写真画像や会場地図と一緒に表示された。これだけ大きなデータでは、携帯メールではスクロールしないと無理だった。


 追伸 早紀には悪いけど、私のスケジュール変更しそうなんで、行ける可能性大。行けたら現場の映像すぐに送るね。


「もうむかつく。自分だけ行けるようになったから自慢したいのかな。会場地図を私に送ってどうするつもり?」


 ぶつぶつ独り言をいいながらも、やはりストーカーのことは気になる。

 その日はベランダに出ることなく室内で過ごした。室内にいてもストーカーのことは気になる。もしかしてベランダにいたところを見られていたかもしれない。夜景の好きな彼女だったが、すぐにカーテンを閉めた。

 さらにある考えが……ここのところ何も起こらなかったのは、彼女を送り迎えする時田の姿にストーカーが気付いたからではないか? そうだとしたら、また別の手段で嫌がらせが再開されるのでは? しかもより陰湿なものが。油断は禁物だ。

 

 その日の撮影が終わり、事務所に戻って色紙にサインを書き続ける中井まどかに、マネージャーは小言を言い続けた。

「プロデューサーさん怒らせたら、役が変わってしまうかもしれないから、注意してくれないと困るんだ。せっかく連ドラのヒロインやらせてもらえるんだからな。このチャンスを自分から潰すようなことはしないでくれよ。何言ってるかわからないところもあるけど、監督始めみんな調子を合わせてやっているんだから。まどかだけわがままなことしないで、ここは我慢して大人しく頷いていればいい」


 中井は、頭を上げずにサインを書きながら言った。

「私プロデューサーが何話してるかわかりましたよ。確かに支離滅裂ですけど。言いたいことは最初のうちだけで、そこから作り話がどんどん連想されていくんです。それだけ想像力の旺盛な方だから、そのうちドラマの分野で大きな功績を上げられるかと思います」

「何偉そうなこと言ってるんだ。そんなこと言える立場じゃないってわかっているだろう」

「でもあのプロデューサー。自分のプライドでドラマの配役を変えるような人じゃないと思います。監督始め皆さんもそこをわかって意見を言えばいいのに、どうせ何言っても無駄だろうとあきらめてしまうから、これまでいろんな失敗作があったんだと思います」

「そう言われてみるとそうかもしれないけど……」

「うまくいく時とそうでない時の差が激しいのは、周りがどう動いたかで決まってくるからだと思います。あのプロデューサーの考えを周りの方たちが理解したらこのドラマも成功すると思います」

 マネージャーは返す言葉を考えていた。

「そうだなあ~」

 その間にまどかは、数百枚に及ぶ色紙にサインを書き終え、マネージャーに次の仕事に移るように急かした。

「次、写真撮影でしょ。早くいきましょう」

「え? あっ、そうだった」

「もう。私の方がスケジュール。しっかり把握してるんだから」

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