夜光宮
暗い水の中で
あたしは汗まみれで跳ね起きた。貼りつく髪をむしり自分の顔を引っ掻く。
「ルシィーリア、おちつくがよい、おちつくのじゃ」
ほっそりとした白い
あたしはそれに
「らるるる~~っ!!」
獣みたく喉から
「よしよし、大丈夫じゃ。
また、悪い夢をみたのか」
それでもその腕はあたしを抱きしめてる。
血が甘い。甘酸っぱい果実みたいだ。
貴腐した葡萄みたいな香気がする。
あたしは陶然としてそれを
「大丈夫じゃ、大丈夫じゃ。
妾がここにおるぞ。
妾がついておるぞ」
子供を抱きあやすみたいに繰り返される。
安心して口をはなすと、やさしい手が髪を撫でる。
もう片手が空に癒やしの
ふんわりとやわらかな光があたしを包んだ。
「あ~、えう~っ?」
我にかえる。うちはいまなにしとったんや?
畏れおおうてしょんべんちびれそなりながら後ろ振り向いた。
せやけど、ここは
うちに尻尾あったらぴったし股に挟んで
あ、うち
流れ落ちる金の髪だけ身に纏うた
まだ
顔のそばかすと瞳の色は昔のうちのもんと似とる。せやけどうちやったんとはくらべもんならん
ここは王都カスタリス、夜光宮と呼ばれる宮殿の一室。
けど、寝室には暗い闇が
うち一ぺん、死んだらしい。王様から
浮かばれんで幽霊なるとこ、姫様が可哀相おもうてな。錬金術やらゆうんで作ったやらゆー、ご自身そっくりな体に入れてくらはったんや。
「どれ、傷は残っておらぬか。うむ、かわいい。同じ姿でも中身がちがえばこうもちがうものかのう。妾は、ふてぶてしそうで憎たらしげにみえてどうもいかぬ」
空色の瞳は仄かな
うちの顔がその瞳に映っとる。姫様とおんなし姿の顔や。
「姫様、なにしとんのや! うちより先に自分なおしなはれ!」
ふと目落としたら血がだらだら片腕から垂れとるんに気づいた。
肉が獣に喰われたあとみとうに
「ん? これか、大事ないぞ」
透けるよな肌した腕もたげて、ちらりとみやらはった。
「そないなわけあらへんやろ」
うちんことはめっちゃだいじにしとるんやけど、ご自身ことはどうでもよさげなとこある。
「これしきなら、
かぷっと傷んとこ
笑ろう唇が
「姫様、うちは人間やなかったかもしれへん。
きっと魔物や。うちを
両手で掴まえ治癒の力そそいどったんやけど、まともにみれんようなって項垂れてもうた。
「うむ、そうじゃのう。
それがどうかしたか」
きょんとしていわはる。
「どないしたかやない。うちは信用ならんわ。
姫様を
顔あげて睨みつけた。
「そなたになら殺されてもよいぞ。
生きながら喰らわれてもかまわぬ。
妾はそなたとひとつになるのじゃ。
ついでにそなたのうんこになるのじゃ」
はあはあと姫様の息が荒ろうなり、くねくねもじもじと身を
膝の間がぬらぬらしたぬめるもんで濡れ、惚けた表情で口の端から涎が垂れとる。
あかんがな、やんごとなき御身が魔物のうんこなんぞんなったらあかんわ。
この
そいで、しょんべんやうんちが好きやねん。
うちが
唇吸うくらいんはええよ。舌入れんといて。やめいゆーとんのや、揉むよな乳ないやろ。
広げて
せやけど、こない残念なとこみせてくれるんはうちだけやさかい、うちはこの残念しごくなひいさん嫌えへんのや。
「いや、やはりいかぬな。そなたの自我はまだ弱い。
そなたが妾の体を喰らえば、そなたの魂は妾に呑まれてしまう」
ようやっと、正気もどったようや。
せやけど、それちゃいますやろ。
「これはいかぬのう。はてさて、どうしたものか?」
頭掻きむしらはるんで、金糸みたいな髪が乱れるわ。
きれやな。ほんま
「おお、そうじゃ! よいことを思いついた」
放した指と髪の隙間から、魔物みとうに光る眼覗かせる。
「そなたが殺められぬくらいの化け物に、妾のほうがなってしまえばよいのじゃ。
そなたを守るにも好都合じゃし、我ながら素晴らしき妙案じゃ」
――なんでやねん! どないしたらそないなるんや?
「いましばらく、休むがよい。
もう、悪い夢は妾がみさせぬ」
甘くやさしゅう紡がれる眠りの呪文。
「じき、夜が明ける。
明けぬ夜はない。
――じゃが、夜明け前が
一番暗い。暗いのう」
そないな、呟きと吐息ききながら、
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